昭和から、平成、さらに令和の時代。時間の流れとともに変わってきたもの。母と娘、女性ふたりの選択は……。《週刊READING LIFE Vol.313》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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2025/7/3/公開
記事:藤原 宏輝(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「いったい、いつになったら結婚するの?」
というのが、母の口癖だった。昭和を生きてきた女性ならでは。だと、私はいつも密かに反感を持っていた。
‘結婚’は時代とともに、変化してきた。さらに、まだまだ変化していくだろうし、様々な観点からも‘結婚’とは‘無限の可能性’だと、私は思う。
22歳、私は母の言うがままに、あまり乗り気でない人を選んで結婚した。それでも当時は、それなりに夫婦仲良くしていた? と思う。大好きなディズニーリゾートで働いて、主婦をしながら専門学校にも通っていた。
24歳、念願が叶い、アパレル会社に就職した。その頃は、とても幸せだったような、遠い記憶。その後、事件勃発!
25歳、結婚式からわずか? 2年半で別居し離婚した。
そんな私に対して両親は「すぐに、実家に戻ってきなさい」と言ってくれた。
母にとっては、全く想像もしていなかった娘の離婚は、相当ショックだったと思う。
母は両親に結婚を猛反対されても、父と結婚したらしく、祖父(母の父)に厳しく、
「嫁に行ったんだから、何があっても帰ってくるな」と言われたらしく、その後どんなにツラい事があっても、離婚することなく父とケンカしながらも、仲良く過ごした。
まさしく、昭和の女性そのもののような……。
でも、私はまったく違った。世の中に‘バツイチ’という言葉が出始めてきたし、自分で決めた事だから! とさっさと実家に戻った。
「良かった、あんな人と別れて。20代まだまだこれからだ、後半のあと5年を楽しく過ごすぞ」
と周りの心配を気にも留めず、何事もなかったかのように仕事に熱中した。
そして、また……。
「いったい、いつになったら結婚するの」と母は性懲りもなく、私に言い続けた。
昭和の女性だからだろうか? ‘女性にとって、結婚と子どもが幸せの象徴’みたいな事を、よく言っていた。
私は「また、始まった」と思い、母に対して冗談混じりに、
「結婚じゃなくて、再婚だけどね。再婚なんて、しないしない。今は仕事が楽しいし、とってもやりがいがあるし。結婚なんて、考えてないよ」といつも、笑い飛ばしていた。
その後、31歳の時に父の強い勧めと様々なご縁やタイミングで起業することとなり、ブライダル・プロデュース業を始めた。そして、ウェディング・プランナーやブライダル・プロデューサーとして、20年以上現場に入り、これまで2000組ほどのカップルを見送ってきた。
出会いから結婚を決めるまでを、とても嬉しそうに照れながら話してくださる御新郎様や、ご新婦様の溢れる笑顔や緊張した瞳、お母様の涙ぐむ横顔、お父様の寂しそうな遠いまなざし、プロポーズされていないと拗ねる花嫁さん、たくさんのご友人に囲まれて幸せそうなお2人、ご家族だけで、お友達だけで、ペットと一緒に……。など
結婚にはいつも「たくさんの物語」がある。そして、無限かと思うほどの「選択」がある続く。
ある日、私は一つの問いにぶつかった。
「そもそも、結婚って本当に“するべき”ものなのだろうか?」
きっかけは周りのお友達が、結婚していなかったり、バツイチがだんだん増えていったり……。
何よりもこれまで以上に、強烈に、しかもしつこく
「お客様の幸せを送り出すばかりで、あなたはいったい、いつになったら結婚するの」
と会うたび、電話のたびに、発せられる母の言葉に対する違和感だった。
「結婚しない選択」にも意味がある
30代後半になった私は、バツイチ独身のままで彼氏はいた。でも、入籍も結婚もする予定はなかった。結婚したくなかったわけではないが、こだわりはなかった。
しかし仕事柄「どうして、結婚しないの?」と聞かれることが多かったので、22歳の頃の経験をフルに仕事には活かしていたし、聞かれるのが面倒だったので、左手の薬指に結婚指輪のような指輪をするようになった。
正直、心の中では「人それぞれ、いろんなカタチがあるし」と思っていた。
ある夜、実家で両親と夕食を囲んでいた時、ふとこんな話になった。
「あんたは、まだ結婚しないの? このままひとりでいるつもり?」
と母の突き刺さるような、このことば。母は、昔ながらのタイプの昭和の女性。
父と大恋愛の末に20歳で結婚し、22歳で私を産んだ。
「うーん、今のままでいいかな。彼とは一緒にいて楽しいし、仕事もお互いに忙しいし、会社では社員も育ってきたし、会社が私の子どもで、社員さんが私の家族みたいな感じだし」
と反論すると、すかさず
「でも、やっぱり“籍を入れてこそ”じゃないの?」
母の言葉に、私は少しだけ心が波立った。
「じゃあママは、結婚してよかった。と思ってる?」
と思わず聞いてしまった。返ってきたのは、少しの沈黙と
「正直ね、ずっと幸せだったって言い切れる自信はないのよね。パパはいつも仕事も他の事にも忙しそうだし。ねえ」
と父の顔を見て母は笑いながら、湯呑みを手に取った。さらに、
「昔は、結婚するのが“当たり前”だったしね。結婚すると親が安心するし、近所の目もあるし。好きとか嫌いとか、そういうことより、“嫁に行く”ってことが大事だったのよ」
と続けた。
「でも、パパのことは好きだったんでしょ?」と聞くと、なぜか父が横から
「当たり前だろ」と照れくさそうに話に加わった。
「うん、好きだったかな。おじいちゃまもおばあちゃまも、とてもよくしてくれたし。でも、我慢してきた事も、ちょっとはあったのかもしれないなあ」
と母が答えた。その言葉に、私は胸が詰まった。
でも、様々なお客様や現実の母の人生には、そうしたドラマのような最終的な幸せが、そこにはあったのだと、信じたい。
昔は「家と家を結ぶ儀式」だった結婚式も、今は「ふたりらしさを表現する場」へと変わっていった。
来賓祝辞など、会社の上司からの形式ばった挨拶などが減り、御新郎様と御新婦様がお手紙を読み合うような、演出が好まれるようになった。
さらに、いわゆる昭和の時代の母の頃は、親から「ちゃんと嫁いでくれて、ありがとう」と言われていたらしいが、この言葉は令和の今では、ほぼ聞いた事がない。
花嫁さんが御新郎家に嫁ぎ、嫁として家族になる。
という仕組みよりも、御新郎・御新婦様が一緒に新居でお2人の生活を始めることが主流となってきた。
そして、結婚したら当然のように入籍していたが、ここ数年は入籍せずにパートナーとして暮らすカップル、同性婚を希望するカップル、子どもを持たない選択をするカップルなど、様々だ。
彼らに共通しているのは、“形式”よりも“気持ち”を大事にしていること。それこそ“信頼”なのかもしれない。
時代の流れとともに、結婚に対する考え方やあり方は、どんどん変化している。
昭和の時代にあって、令和の今にないもの……。
もちろんカタチを変えて残っているものもあるが、今では、ほぼない。ものもある。
その中でもお仲人さん。この言葉すら知らない人もいるかと思うが、以前は御新郎様と御新婦様のお隣には必ず、お仲人ご夫婦がいた。
さらに、御結納や嫁入り道具のトラックや、屋根が開く花嫁タクシーなど。
令和の今では、遠い昔の話のように感じる。
さらに、コロナ禍‘巣ごもり’という、言葉が出てきた。
極力人と会わない、誰かと会う時は絶対にマスクをして、人と言葉を交わすときには、つい立を立てたり、大きな声で言葉を発しないなど、これまで誰もが経験した事のない世の中になった。
「会社関係のお友達は招きたいのですが、上司には結婚報告だけして、結婚式には呼びません」
というお客様がかなり増えた。しかも、コロナが明けてもこの傾向は続いている。
ご来賓のご挨拶や乾杯のご発生は「なしで」とか「友達に頼んでみます」など、これまでの昭和や平成の時代のご披露宴では、想像もつかない展開になった。
SDGsやサスティナブルといった、世の中の流れでもある、環境保護や自然環境の維持などの観点から、結婚式の招待状はWEBに少しずつ移行している。
コロナ禍においては、それまでの結婚式のカタチが一変した。
さらに‘新たな令和の時代の結婚式の始まり’とも言えるようなことが増え、まだまだ変化していくだろう。
2024年の入籍(法律婚)の件数は、約48万件で、‘結婚式を実施した、または予定しているカップルは、約60%と言われている。コロナ前の2019年までは、約80%程度だったので、コロナ以降に落ち込み、現在は回復傾向もあるものの、以前の水準には戻っていない。
お2人だけで挙式のみとか、フォトウェディング、少人数制挙式も、かなり増加傾向にある。
フォトウェディングや少人数食事会、挙式のみのミニマル型が多く、「フォト会食」は結婚式をする約60%のうち40%にまで達していて、とても人気だ。
さらに、入籍のみの「ナシ婚(結婚式を挙げない)」カップルは、約50%ともいわれていて、結婚式はしないけど、簡易な形では祝うというスタイルを選ぶ人が増えている。
「ママ、知ってる? 今は事実婚も多いんだよ」
と話した時、母は目をパチクリさせて
「なに、それ! 今の時代は不思議ね。籍をきちんと入れていると、責任もついてくるからかしらね」
と言った。
社会的には‘事実婚という選択肢がある’と気づいている20〜30代も多く、周囲にそのような事実婚カップルがいる。という人たちも少なくない。
「私ね、長い間このお仕事してきたけど“結婚式をしない選択”でも、きちんとお祝いしたいって思ってるよ」と続けた。
「ふーん、時代かしらね。でも結婚式をしないのにお客様って、どういうこと?」と聞かれ
「誰かと一緒に生きるって、いろんな形があっていいと思う。名字を変えることも、籍を入れることも、絶対じゃない。大事なのは、“自分がどう生きたいか”ってことだと思うから、お客様の気持ちに寄り添って、未来を創り出して、さらに繋げていく! 思いをカタチにするというこの仕事をずっとしたい! って、思ってるから」と私は言い切った。
結婚式とは、カタチを持たせるための儀式だ。時代とともにどんどん変化している中で、かつての
「花嫁になる日」は、「ひとりの女性が、自分で決めた未来に歩き出す日」だと感じる。
昭和の時代にはなかった選択肢を、今の女性たちは持っている。もちろん、男性も同じだ。
そして、私のお客様も、それぞれの事情を抱えながら、「自分らしい人生」を選ぼうとしている。
昭和の女性である母が選んだ道も、平成に結婚した私の選ぶ道も、令和のこれからの人たちが選ぶ道も……。どちらも正解で、すべてが尊いと思う。
先日、結婚式を挙げたお2人は
「“結婚します”より、“これからも一緒に、パートナーと生きていきます”の方が、来てくれた人と自分。そして、自分と自分との約束だと思うので、そう言いたいです」
と、人前結婚式で宣言した。
私はその言葉に、深くうなずいた。それが、今の時代の結婚なのかもしれない。
そして、人それぞれカタチは違っても、カタチにする事は、とても大事な事だと思う。
カタチにするから、日頃上手く伝えられない感謝を、周りや相手に伝えられる。
カタチにするから、覚悟ができる。
カタチにするから、記憶に残せるし心に刻める。
カタチにするから、未来につながる。
これから結婚を考えているなら、ぜひ! パートナーとしっかりと向き合い、とことん模索し話して、お互いのことをもっとよく知り、カタチにしていき、さらに未来への糧にしてもらいたい。
自分が、どうしたいのか? 自分たちが、本当はどうしたいか?
が一番大事だからこそ、私は皆さまの幸せを心から願っているし、次世代に幸せのバトンを繋いで欲しいと思う。
□ライターズプロフィール
藤原宏輝(ふじわら こうき) 『READING LIFE 編集部 ライターズ俱楽部』
愛知県名古屋市在住、岐阜県出身。ブライダル・プロデュース業に25年携わり、2200組以上の花婿花嫁さんの人生のスタートに関わりました。さらに、大好きな旅行を業務として20年。思い立ったら、世界中どこまでも行く。切り替えが早くて、知らない事はどんどん知りたい。 と、即行動をする。
とことんお客様に寄り添い、想いをカタチにしていく。さらに、これまでのブライダル業務の経験を活かして、次の世代に何を繋げていけるのか? をいつも模索し、2024年より天狼院で学び、日々の出来事から書く事に真摯に向き合い、楽しみながら精進しております。
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