よろしければ、あなたの性癖教えてください《週刊READING LIFE Vol.313》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2025/7/3/公開
記事:パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
どうやら大変な思い違いをしていたようだ。
「性癖」という言葉は、夜の営み等について、人には言えない趣味嗜好を指すのだと思っていた。しかし、手軽に物事を教えくれるWikipedia先生によるとこんな風に記してあった。
『性癖(せいへき)とは、人間の心理・行動上に現出する癖や偏り、傾向、性格、性向のことである』と。その人のパーソナリティに根ざし、生活スタイルを方向づけるような行動傾向を指して用いられるのが本来の用法であるらしい。
なぜ「性癖」という言葉の意味を、今更ながら調べようと思ったのには理由がある。
ある日、4つ離れた姉と、それぞれ好きな「推し」の話をしていて気づいたことがあった。私が好きになる異性のタイプには、どうやら偏ったひとつの理想像がある、ということを。
それは「姉に虐げられながら育ってきた弟」という存在だ。
突然何を言っているかわからないと言われそうだが、これも一つの性癖なのだろうと理解している。話を聞くうちに、当てはまるタイプだとわかるとそりゃあもう胸が高鳴って仕方ないのである。
М‐1グランプリで準優勝してからというもの売れっ子になったオードリーの若林も、私が唯一ファンクラブに入っているロックバンドのボーカルも、小説ではなくエッセイを読んでどハマりしてしまった小説家の朝井リョウも……みんな強気な姉にやんや言われながらも大人になった、いったという過去を持つ。
推しバンドのボーカルが学生時代に念願のギターを手に入れて部屋で熱心に練習していたところ、姉がいきなり扉をバンっと開けて「うるせぇ!!」と怒鳴られたというエピソードなんかを聞くと心が(萌え~っ!)と震えるのである。
実際、彼は過去にテレビのインタビューで「姉が脅威だった」と告白している。姉の結婚式のために書き下ろした曲を披露したところ「歌ったら一番リアクション薄かったのが姉貴だったっていうね……」と哀しい顔で笑ってみせた。
強気な姉をお持ちの弟のみなさんは、何かお願いごと(というか命令?)をされることがあったとしても、それに対する報酬や大袈裟なお礼の気持ちなどはあまり期待できないのである。
なぜこんなにも姉に虐げられた弟という存在にキュンとするのか考えてみたら、ひとつの答えに辿り着いた。それは、仕事面ではどちらかというとリーダーシップを取ってメンバーを引っ張ったり、少しSっ気のある発言で場を締めたりしている立場の人間が、裏では強気な姉に言い返すこともなく、か弱い生き物として生存しているというギャップが好きなのかもしれない、ということだ。
推しバンドのボーカルもまさにその通りで、ライブに行けば、彼はいつもセンターに立ってスポットライトを浴び、バンドを引っ張るリーダー的存在なのである。トークも軽快でメンバーにツッコんだりしながら会場のファンを笑いの渦に巻き込んだりしているのをみると(こんなにかっこいい彼が裏では姉に虐げられて……)と謎の興奮が襲ってくる。
弟であればいいのかというと、それは少し違っていて、男兄弟の弟の場合は、やはり同じ「オトコ」という生物として戦わなければならない時が幾度もあり(いや単なる兄弟ゲンカであるが)切磋琢磨しながら磨きあげていくというストーリーが垣間見える。
しかし、強気な姉に虐げられた弟というのは、生物学的立場から、手を出すことも許されず、ただ一方的に口がうまい姉の思い通りにさせられるという面が強いのである。
勝手な妄想だが、強気な姉をお持ちの男性のみなさんは、いい意味で諦めがつくようで女性に対して崇高な理想など抱いていない気がするのだ。それを示すかのように、オードリー若林は結婚後「やっぱり奥さんに怒られたりするじゃないですか」と当たり前のように言っており、尚且つそんな自分がまんざらでもないように見えて私の確信は深まった。
しかし、これを公に人に言えるかというとなかなかできない。批判が怖いからだ。
「虐げられている男性が好きだ」と聞いて、特に男性はいい気はしないだろう。いくらそこが魅力的に感じるといっても失礼な内容だと自覚はあるのだ。
しかし、そんなところがまた「性癖」らしいとも思う。
そう、自分の「性癖」の内容を宣言するのは非常に勇気のいることなのである。
一方で、自身の性癖を公にするという大胆な行動が思いがけず人に刺さるという場合がある。これが性癖を公表して得られる最大のメリットかもしれない。
私がこの性癖に気付いたとき、姉は嬉々として自分がどんな男性がタイプであるかを語った。ちなみに以前まではウブな感じの好青年が好きだったのに、最近では余裕と少しの色気を感じさせる大人の男が好きという風に変わっていて笑った。好みは長年変わらない場合もあるし、短期間でコロコロ変わる場合もあるのかもしれない。
みんな、待っているのだ。
変態じみた告白を。
思い切って性癖を公にすることは、布団の圧縮袋に似ている。
そこになんとなく漂っていた空気をなかったものにするかのごとく一気に距離を縮める。少しの親和性があれば変態仲間としてのメンバーシップが出来上がり、多くの言葉を重ねなくとも昔からの友達のような懐かしい気持ちにすらさせる。
それが性癖の公表がもつ偉大さなのである。
エッセイのなかで母親の面白エピソードで一章語っていた朝井リョウが、それに気づいた姉から「私のこと書いたら殺すからね」と脅された時も、異常にワクワクしてしまった自分が怖くなった。やはり人には言うべきことじゃないのかもしれない……。
そういえば、私の夫も姉がいる弟である。
しかし、穏やかで常識人のお姉さんから強く虐げられた過去が無いということが少し残念だということは絶対に本人には言えない秘密だ。
□ライターズプロフィール
パナ子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
鬼瓦のような顔で男児二人を育て、てんやわんやの日々を送る主婦。ライティングゼミ生時代にメディアグランプリ総合優勝3回。テーマを与えられてもなお、筆力をあげられるよう精進していきます!押忍!
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