夢物語を夢で片づけるのはさみしすぎる《週刊READING LIFE Vol.342「夢物語」》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
2026/02/05 公開
記事:西村友成(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
あなたの夢は何ですか
これまでの人生で何度聞かれたことでしょう。問われるたびに色んな夢を思い描いては、はかなく消えてゆく。年を重ねるにつれ、現実に向き合うだけで精一杯。夢など子どもに尋ねることはあれど、自分が思い描くなんてとんとなくなった……。なんて方、割とおられるんじゃないかと察します。
小っちゃな子の場合、「お巡りさん」とか「保育園の先生」のようにごく身近な存在がほとんどで、小学校からは「スポーツ選手」や「Youtuber」のようにメディアで活躍している人に憧れ出す。中学高校と進学するにつれ「IT技術者」「研究職」なんて専門性の高い職業が出て来て、「お、日本の未来を考えてるな」と唸らされ、大学生になると一気に現実味を帯び「公務員」「大手企業」を希望する。というのが、平均的な日本人の夢変遷ではないでしょうか。
えらそうに語っておりますが、私もその口の一人であります。強烈に覚えているのは小学校の卒業文集で「ノーベル文学賞を獲る作家になる」と書いたこと。当時はまったくそんな思いなどなく、他の子とはちがうぞアピールしたかっただけです。まあ何とも恥ずかしい話ですが、大人になって書くことに目覚めたのだから、思いの種はあったのかも知れません。
夢の取り扱い
かつては「夢は皆もつもの」「夢は大きく描くもの」といった論調が主流でしたが、近年、多様性の波は夢業界にも押し寄せ、様々な意見で賑わいをみせています。
「夢はいくつあってもいいんだ。オレは全て叶えてきた」と、以前にも増して夢の重要性を語る人がいれば、「夢などなくても幸せならいい」と将来のための我慢や努力よりも、今この瞬間を重要視する人もいます。また、一刀両断「夢は叶わない」と切り捨て、厳しい現実だけを直視するよう訴える輩も現れました。
私くらいの大人なら「わかるわかる、そうゆう考え方。確かに一理ある」と鵜吞みせず解釈できるのですが、問題は子どもです。迷います。一体、どれを採用してよいものか……。子どもに一番影響を与えるのは両親。次に担任の先生でしょう。身近な大人がどの夢派閥に属するかで、その子の進路選択は大きく左右されます。今後21世紀、若き人材が夢問題をどう扱うべきか。これは日本国民ならびに世界人類が直面する切実な課題といえます。ここからは夢を重要視する立場とそうでない立場の見解を比較してみましょう。
夢は叶う立場の人たち
いまや世界を代表するスーパースター、大谷翔平選手。もはや説明の必要はありませんが、彼は野球選手をずっと夢見て、そして事細かに人生設計・計画を立て実行し、着実に成果を残してきました。同じくサッカーの本田圭佑選手も「セリエAで活躍する」と小学校の卒業文集に書き、夢を現実にしました。私の知人に笑福亭鶴瓶さんから「夢は叶うよ」とメッセージを貰い、あきらめかけていたラジオのDJに挑戦し叶えた人がいます。大きい影響力を持つ人に「夢は叶う。叶えるものだ」と言われると、それが真実だと思いますし、正しいことのように感じます。
そして夢を叶えた人たちは例外なく「努力を重ねている」。夢の達成のために、時間と労力そしてお金を投資し、人生をかけている。「遊びたい」「サボりたい」「今日くらい別にやんなくていっか」「たまには一日寝て過ごそう」などなど目の前の誘惑に流されず、自分に課したタスクを必ず遂行する強靭な精神力を持ち合わせている。
彼らの一心不乱、猪突猛進、全身全霊、遮二無二がんばる姿に心打たれます。美しい生き方だと敬服します。見習わねば、と反省します。私のような単純な人間は「これぞ人の生きる道。人として正しい在り方。よし、私も明日からがんばるぞ」とドキュメント映像やエピソードに触れるたび感化されてきました。
しかし、やる気の伝導力は熱せられるのが瞬間的なら、冷めるのも急降下。小さな誘惑たちに襲われると、抗えなくなるのは時間の問題。気づけば楽な道を選択しているのが私という存在であります……。情けない。
松井秀喜選手でしたか、「努力し続けられることが才能」とおっしゃっていたのは。天性の運動神経もさることながら、日々精進し続ける姿勢こそが一流の証。だからこそ正々堂々「夢は叶う」と説得力をもって語れるのだと思うのです。
夢は叶わない人たち
競争相手が多ければ多いほど、圧倒的大多数が夢散っていきます。高校野球が一番わかりやすい。「甲子園出場校」の影で泣いている敗戦校の数々。優勝校の影で砂を集める球児たち。彼らも必死で努力していた。おそらく、優勝校の選手より練習に打ちこんだ球児だっているはずです。
私事で恐縮ですが、高校時代に打ちこんだベースギター。「プロ」を夢見て寸暇を惜しみ練習しました。かなり上手くなったつもりでしたが、大学にいくと上には上がいた。軽音部の見学に行ったとき直感的に「勝てない」と思い、熱が冷めました。努力でカバーしきれないものを感じたんです。華があるというか、色っぽいというか。あきらめた人間としては何を言っても言い訳にすぎないですが、大した夢じゃなかったのかも知れないし、案外本気じゃなかったのかも知れません。いずれにせよ、あきらめる人間は「夢は叶う」なんて語りません。
話が脇にそれてしまいました。私とはちがい、あきらめず徹底的に努力してがんばったけど夢叶わなかった人たちをクローズアップしたかったのです。プロ棋士を目指しても年齢制限であきらめざるを得ない人がいる。アイドルデビューしたくてもオーディションに落ち続ける人がいる。はたまたケガや病気で強制終了させられた人もいる。自分の努力だけでは如何ともし難いのが現実の厳しいところ。彼らが「夢は叶わない」と語るのもまた真だと思います。
夢などなくていい人たち
父兄参観日や卒業文集、進路相談など「夢」を尋ねられた際、その場しのぎで適当なこと言って切り抜けてきた方。少なからずいらっしゃると思います。
「スポーツ選手や芸能人なんて脳天気なこと言いたくないし、知ってる仕事で興味があるものは特にない。サラリーマンや公務員が夢っていうのもちょっと違う気がするし……」と、自分の実力と現実が見えてる子ほど夢を問われるとことばに窮する。
こんなおませさんに限らず、誰しも大人になればなるほど自分の届きそうな範囲は見えてきて「夢」を追うより、実現可能な幸せをつかむことを優先させるようになります。高い理想を目指して毎日もがいたとしても実現するかはわからない。小さな幸せでもコツコツ積み重ねてゆけば、振り返った時「人生幸せだったな」と思え、賢い生き方だと言えるでしょう。
若いうちから地に足のついた考え方ができる人。偏見ですがこうゆう人たちは20代前半までに結婚して早々に子どもをもうけ、30になる前に家を買い、40代で子が家を出てゆき、50代で孫ができ、「じぃじ、ばぁば」と呼ばれる姿を他人に見せて「ええー! もう孫がいるの? 若すぎ。全然見えなーい」とビックリされて、テヘヘと照れるのが嬉しくて仕方ない……。
という人生を送ってらっしゃる気がします。40代、今だ独身の私には尊敬の一言しかありません。
「夢」にとらわれるのではなく、「富や名声など得なくとも、人に勝とうと思わなくても幸せになれる」とゆうのが主張の根幹にあり、やはりこれもまた人生の真理だと思います。
夢のかたち
ここまで「夢=一握りの人が叶えるもの」という前提で話を進めてきました。しかし、冒頭でふれたように幼少期の夢は誰しもが「お巡りさん」をはじめとする身近な存在でありました。そして、その夢を実現させた方は数多くいらっしゃいます。ただ、このような方々の中に「夢は叶うものだ」と主張する人を見たことがありません。おそらくきちんと勉強してスキルを身につけ、要件を満たせば多くの方がなれる職業だから、という理由でしょう。ある程度の年齢になると「夢」というより「目標」、あるいは「なりたい職業の1つ」と捉えるようになるのだと思います。
一方、「結婚して子どもを2人もうけて、郊外に一軒家を買って週末は家族でドライブ」みたいな平均的日本人の幸せ像があります。20代の頃の私は、「あまりに普通過ぎる」と一笑に付していたのですが、昨今「結婚」「子ども」「持ち家」「自家用車」に対するハードルは上がる一方で、年々「夢」に近づいているのが現状です。
スーパースターに憧れるのも夢ならば、家族団らんを願うのも夢。大きさや実現の可能性も人によりそれぞれ。それを十把ひとからげに「夢はもつべきか」などと論じること自体、意味がない様な気がしてきました。うん、テーマが壮大過ぎた。
ここまで読んで下さった方、ありがとう。意味がないので終わります。さようなら、ごきげんよう。怒らないでね。
……と、終わるような薄情者ではありません。意味があろうがなかろうが、私は「夢はもつべき」立場をとります。ですのでもう少々お付き合いください。
夢があるからがんばれる
スポーツ選手やアーティストなど夢を叶えた人たちは、「夢叶いました。ゴール! 人生あがりっ」とはならず、一流の人ほどその分野で長く活躍されます。そして次の夢、目標をきかれたとき、「子どもに夢を与える」「被災地の皆さんに元気を」「日本をもっと明るい社会に」など他者の幸福を願われる。活躍し続けるだけで大変だろうに、視点が自分のことだけでなく周りの人へと移ってゆきます。
私ごときが言うに及ばずといった感じですが、自分のためだけにがんばるのって限界早いですもんね。しんどくなるとすぐあきらめちゃう。「家族のため」とか「応援してくれる人のため」って思うから、踏ん張れる。力がでる。特にスポーツ選手は格好つけて言ってないこと、願います。
一定のお金とか地位とか名誉を手に入れたら、自分の欲は満たされて、仲間や後輩、次世代へ幸せをつなげていこうと使命感が芽生えだす。そしてまたさらに高いパフォーマンスを発揮する。好循環を生み出すルートができてるんでしょう。
「夢は叶わない。夢など見るな」という人たちは、叶わない可能性を高く見て、「早くちがう道で幸せになれ」と願っているのだと思います。その人たちの扱う夢は、ほんの一握りしか成功者がいない道でしょう。ただ幸せかどうかは本人しかわからないので「気が済むまで挑戦したい」とか「最低限食えたらそれでいい」人には有難迷惑なことばです。
またまた私ごとで恐縮ですが、私の夢は「自分の著作物で皆んなを楽しませたい」です。40を過ぎて始めた執筆がものになるかどうか。「叶う」「叶わない」だけで夢について考えると「始めるのが遅すぎる」「表現が稚拙」「大したアイデアや書きたいことがあるわけでない」と、ネガティブなことばかり思い浮かび、早々に挫折しそうになります。
「叶ったらすごく嬉しいが、叶わなくても挑戦してる自分が好き。書いている時間が楽しい」と夢に対してニュートラルな姿勢で向き合うと、非常に人生が豊かになる。私はベースギターをあきらめてこのかた夢がなかったのですが、25年という時を経て夢に出会い、人生に張り合いができました。かつて寸暇を惜しんでベースギターを練習してたように、いまでは日頃の些細なできごとから疑問までありとあらゆることが書くことのネタになり、どう文章に落とし込むかしょっちゅう考えてます。そして書いてる間は無我夢中。時間が経つのが早くて仕方ない。やはり「夢を持つ」ってことは、それだけで素敵なことなんじゃないかな、と思う次第です。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
お問い合わせ
■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム
■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。
■天狼院カフェSHIBUYA
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6丁目20番10号
MIYASHITA PARK South 3階 30000
TEL:03-6450-6261/FAX:03-6450-6262
営業時間:11:00〜21:00
■天狼院書店「京都天狼院」
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00
■天狼院書店「名古屋天狼院」
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-5-14先
Hisaya-odori Park ZONE1
TEL:052-211-9791
営業時間:10:00〜20:00
■天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00





