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週刊READING LIFE Vol.39

僕の大切な“緑色の君”がもたらしたもの《週刊READING LIFE Vol.39「IN MY ROOM〜私の部屋の必需品〜」》


記事:樋水聖治(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)
 
 

「自然の力で集中力を倍にする」
 
あることで悩んでいた、ある日の、ある書店で、メンタリストDaiGoさんの著作『超効率勉強法』(学研プラス)の目次に書かれているある項目に強く関心が引かれた。
 
半信半疑な気持ちで僕は自分の部屋の机の上に観葉植物を置くことを決めた。そうして観葉植物と僕との共生が始まった。春を感じる季節の頃だった。

 

 

 

僕は自分の部屋で学習とか作業をするのが苦手だ。6畳ほどの部屋に物はそれほど多く置いていないが、机の後ろに広がる程よいスペースは、不意にゴロンとなれる丁度良いスペースになる。気づけば横になって、携帯でYouTubeなどを見てしまっている自分に嫌気がさす、と言う経験も数えきれない。
 
加えて、片付けも苦手だ。いざ学習や作業をしようと机に向かうも、「まずは片付けからだな」という大義名分を掲げて短くない時間を過ごすこともままある。整理整頓は意識しているつもりだが、なかなかうまくはいかない。
 
未だに、親の目がないと勉強も片付けもできない子供なのかもしれない。
 
だから、僕はよく図書館やカフェに行く。誰かの監視の目を求めて。綺麗な作業机を求めて。
 
ただ、そんなことも言っていられないと腹を括る必要があった。というのも、個人的に定めた「2019年度に達成したい目標」のうちのある2つを達成するためには、「自宅の自分の机に向かって学習できるようになる」ということが必要不可欠だと考えていたからだ。
 
その2つの目標とは、どちらも語学力の認定試験のことで、英語とフランス語の試験だった。語学力を「形あるものとして示したい」と思い立ち定めた目標だった。
 
語学学習を行う際に、「声に出して学習する」と言うのは学習効果が高いと言われている。例えば、耳に聞こえてくる音声を聞こえてきたままに言葉にしてみるいわゆる「シャドーイング」や、テキストを実際に声に出して、感情を込めて読んでみる「演劇風音読」など。
 
ただ、そういった学習方法はさすがにカフェや図書館では行えない。やろうものなら、即退去になりかねない。それ以前に人前でやるのは恥ずかしい。だから、自宅でやるしかない。でも、自宅では集中力が続かない。
 
そうやって頭を悩ませていた事柄に対しての回答が「観葉植物を置いてみる」だった。

 

 

 

「まるで小さな森みたい」
 
その観葉植物の第一印象だった。
 
小さな受け皿の上に、直径10センチほどのいわゆる苔玉があり、そしてその苔玉から生えている、パキラ、オリヅルラン、プテリス アルボリネアータという3種の植物からなる観葉植物。
 
数種類の植物が共生しているものの、僕にはそれが“ひとつの命”のように思えた。
 
いざ机の上に置いてみると、作業スペースを狭めるものでもないし、視界に入り込んでくるでもないし、まさに絶妙なサイズ感だった。
 
ただ、一番重要なことは、その観葉植物を取り入れたことで、「集中力が増して、自宅でも学習できるようになったか」である。
 
“彼”が机の上にやってきてから1ヶ月ほど経過した。
 
結論から言うと、僕は購入目的に沿った効果を実感するには至っていなかった。そんなに簡単に、短期間で、今までの長い月日の中で形成された習慣は打ち破れなかった。
 
「他人任せではなかなか難しいよね」
 
と、ため息混じりに、今までの彼との日々を振り返りながら語りかけた。
 
でも、変化もあった。
 
「そういえば、君が来てからは案外机の上や部屋は綺麗にしていたよね」
 
なぜだろうか。
 
それは、彼が来てから、机を意識することが多くなったからだと思う。
 
なぜだろうか。
 
それは、たぶん、“命”がそこにあるからだと思う。
 
彼の上には雨雲がかからない。当然、雨も降らない。だから、僕が降らしてあげないといけない。そうしてあげないと、彼の着ている服の緑と白の綺麗なコントラストは、泥がついてシミとなって広がっていくように汚れていってしまう。
 
そうやって世話をしてあげる。そうしているうちに、彼の周り、つまり机全体も気になりだす。彼がいる机が散らかっている状況をみると、僕はバツが悪くなる。彼が息苦しそうに見えるから。そうやって、意識を向ける先は徐々に広がっていく。
 
「まるで『星の王子さま』の小さな王子様にでもなったみたいだな」
 
そう思った。
 
フランス人作家、サン=テグジュペリの代表作『星の王子さま』に描かれる小さな星の、小さな王子様。
 
その王子様の住む小さな、小さな星に、ある日一輪の真紅色のバラが咲いた。その“真紅色の彼女”はちょっと気難しい性格で、王子様に自分の世話を焼くようにと言ってくる。王子様はそんな彼女の世話をしてあげる。水をあげ、寒くならないように“ついたて”を建ててあげ……。
 
そんなふうに僕もまた、彼の世話をしてあげる。彼はそんなに気難しくないけれど。たぶん……。
 
小さな星の、小さな王子様は地球を訪れて、そこできつねに出会う。やがて、王子様にとってその一匹のきつねは“特別な存在”になった。それは、本の中での言葉を借りれば、王子様がきつねを“飼いならした”からだ。時間をかけて、少しずつ、少しずつ、お互いのことを知り、“特別な存在”になったのだ。
 
僕にとっての彼もまた、“特別な存在”になりつつあった。“飼っている”という表現が正しいかどうかはわからないけれど。
 
そして、そんな彼は、毎日成長していた。すぐには気づけない変化だったけれど、着実に葉の長さは長くなり、茎は太くなり、苔はモサモサ感が強くなっていた。苔の大地からは、新しい命の芽吹きがいくつか見られた。
 
当たり前の変化に、思いがけない感動を感じる日も多くなった。そんな彼を見ていて、思うようになったことがある。
 
「僕も、毎日少しずつでも成長しないと」
 
物言わぬ彼から教わったこと。
 
だから、僕は今日も机に向かう。
 
彼の聞こえるはずもないけれど聴こえてくる声援を正面から受けながら。やるべきこと、やり遂げたいことを成すために。
 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
樋水聖治(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

東京生まれ東京育ち
首都大学東京 歴史考古学分野(西洋史)卒業
在学中にフランスに留学するも、卒論のテーマは『中世イタリアのユダヤ人金貸しとキリスト教徒の関係について』
囲碁が好きでネット碁が趣味。(棋力はアマ5段ほど)
好きな漫画はもちろん『ヒカルの碁』
2019年GWの10日間で行われた、天狼院書店ライティング・ゼミで書くことの楽しさ、辛さ、必要性を知り、ライターズ倶楽部でさらなる修行を積んでいる途中。

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2019-07-01 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.39

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