週刊READING LIFE Vol.41

自分をどこまで信じることができるか。《 週刊READING LIFE Vol.41「変わりたい、変わりたくない」》


記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「お父さんは何の仕事をしているの!?」
小学生の僕は、お父さんに何気なく聞いた。
 
お父さんは、困惑した表情をしながら、嬉しそうに言った。
 
「お父さんの仕事は、レーザーを売ることだよ」
 
僕は、初めて聞いてはいけないモノを聞いてしまったと思った……。
 
「なんで聞いてしまったのだ、レーザーを売っているという事は、戦争映画に出てくるピストルに付いているセンサーでしょ!? お父さんは武器を売っている」と心の中で呟いていた。
 
実物すら見た事がなかったので、気づいたら、頭の中は、映画の世界に浸ってしまっていた。
 
「おいおい、大丈夫か!?」父親の声で我に返った。
 
「せっかくだから、家にあるレーザーを見せてあげるよ、あまり見せると良く無いから、内緒だぞ」 と少年時代に戻ったような顔の父親が言った。
 
「今から準備するから、部屋の扉を閉めて、暗くしろ、明るいと良く見えないから」と父親が言う。
 
急いで、僕は部屋の扉を閉めて、電気を消した。
 
その瞬間だった……。
 
部屋の扉が開き、母親が部屋に入って来て、
「子供には、危ないから、大きくなるまで、見せるのは、やめなさい!」と強い口調で父親に言った。
 
「やっぱり、レーザーって武器なの!? 危ないモノなんだ」と心の中で、呟いていた。
父親がレーザーを出そうと細長い段ボール箱から出そうとしていたのを閉まってしまった……。
 
見たいような見たく無いような、何とも言えない気持ちになった。
 
ちょっと父親は残念そうな顔していたので、
僕は見たい気持ちになっていた。
 
少しの間、父親の机の横に置いてある細長い段ボール箱が気になっていた。
 
ただ、父親がアメリカに出張だと言って、約1週間近く、家に帰って来なかった為、父親の部屋に入らなかったので、いつの間にか忘れてしまっていた……。
 
ある日、しし座流星群が見えるという事で、父親が天体望遠鏡を買って来て、星を見ようと言い出したのである。
 
父親親曰く、「昔から星を見るのが好きだったんだよ!」とワクワクしながら、天体望遠鏡をセッテングしていた。
 
「ほら、見てみろよ」と父親が天体望遠鏡ののぞき窓に手を当てて、僕を呼んだ。
 
僕は言われるがまま、のぞき窓を眺めた。
 
「え、星って、こんなに大きく丸くみえるの!?」と天体望遠鏡を覗きながら、呟いていた。
 
「それが、星であるわけないだろ、月だよ」って父親に軽くバカにされた。
 
心の中で、「月かなって、思ってしましたよ、何で月だって言ってくれないんだ、大人って、後出しジャンケンばかりで、ずるいよな」と呟いていた。
 
その後、父親は何度も天体望遠鏡をセッテングし直していたが……。
 
「雲が多くて、星が見えないなや、残念だな、せっかく綺麗な流星群が見えると思ったのに、まぁしょうがない」と父親は元気なく言った。
 
父親が天体望遠鏡を片付けている時に、あの細長い段ボール箱を開け始めた。
 
「星は見えなかったけど、代わりに前に見せてあげられなかった、レーザーを見せあげるよ」と父親が言った。
 
僕は星が見る事ができなかった事より、レーザーが見る事ができる事に、むしろ、ワクワクしていた。
 
細長い段ボール箱から、レーザーが取り出された……。
黒い円柱の形をした筒状の物体が目の前に現れた。
 
「これが、レーザーなの!?」と自然と言葉が出ていた。
「そうだよ、これはもう発売していないレーザーだよ、見たことなかっただろ!?」と得意げに父親は僕に渡して来た。
 
僕が恐る恐る手にとって眺めていると……。
 
「絶対に先端は見るなよ、失明するぞ」と強い口調で父親が言った。
言われた瞬間に、父親にレーザーを返していた。
 
「よし、じゃ今から実際に電源を入れて、光を出すから、見てなよ」と父親が言った。
 
黒い円柱の筒状の物体から、今まで見たことがない強い赤い光が一直線に伸びていた。
まさに、形は違うが、ピストルについているレーザーと一緒だった……。でも、綺麗だった……。
 
強い赤い線は、窓を突き抜けて、道路を越えて、向かいの建物に届いていた。
 
「凄いだろ!? キレイだろ!? これを実験に使ってもらっているんだよ、赤色は一番弱い光だからあまり光の強さとしては、強くないけど、緑や青になっていくと、もっと強い光になって、今まで見えていなかったものが見えるよいになったりするんだ」と目を輝かせて父親は話していた。
 
別の日になんとなく僕は気になって、母親に「お父さんは、なんで今の仕事に就いたの!?」と唐突に聞いた。
 
「お父さんは、アメリカにバイオ燃料の勉強に行って、日本に帰って来たんだけど、バイオ燃料って、日本では普及していなかったの、そこで、ゴム関連の会社に入って頑張っていたの……」 と母親が言った。
 
僕は全然知らなかった……。
 
母親は話を続けた。
 
「ある日、駅のホームで目的地の場所への行き方がわからずに困っている外国人が居たんだって、英語で話しかけて、道案内をしてあげたらしいの、それも、あの人らしいんだけど、心配で最後の最後まで、目的に到着するまで、道案内をしてあげたんですって、そしたら、お礼の代わりになんですが、私はヘッドハンティングをしているモノですって、自己紹介されて、あなたに仕事を紹介しますと連絡先を交換して、後日、本当に連絡が来て、今の仕事を紹介してくれたの」
 
「え、そうなの!? そんなドラマみたいな話しあるの!?」と僕は半笑いで言った。
 
「すべて事実よ、お父さんが家に帰ってきたら、聞いてみなさい、昔から現実は小説より奇なりって言うのよ」
 
母親は笑顔で話していた……。そして、続きの話を始めた。
 
「お父さんが、今、勤めている会社は、アメリカ系の会社だったから、アメリカでお世話になった先生や友人に、ヘットハンティングの方に教えてもらった会社について聞いたらしいの、そしたら誰もその会社について知らなかったらしいの……」とお母さんは淡々と話していた。
 
「どうやって、その会社に行く事に決めたの!? 何も情報がなかったんでしょ!?」と聞いていた。
 
「お父さんは、そのヘットハンティングの方の人柄が好きだったみたい、後は、
初めて、輸入レーザーが日本に進出するタイミングだったらしいの、お父さんは自分に何かできる事があるのかもしれないと思ったみたい、後は、レーザーを全く知らなかったから、子供みたいに、興味が湧いてきたんじゃないかしたら、詳しい事はあなたが、お父さんに聞きなさい」と穏やかな顔をして、母親の話は終わった。

 

 

 

 

 

時が経ち、僕も社会人になった。
僕も友人から教えてもらった会社に縁あって入社する事になった。
父親とは違う業界の営業マンになった。
 
ある日、たまたま父親と一緒の時間に家を出て仕事に行くタイミングがあった。
 
「お父さん、仕事は楽しい?」って聞いてみた。
 
「この仕事は好きだよ、この仕事のおかげで家族を養う事も出来た、申し訳ないが前の仕事のままだったら、子供を大学に行かせてあげる事もできなかったかもしれないね、それに、レーザーに興味を持って誰よりも勉強していたら、技術営業の中では、自分しか扱う事ができないレーザーがあったんだ。そのレーザーについて、教えて欲しいという要望が世界中からあって、色々な国にも行く事が出来た、本当にこの会社に感謝しているよ」と遠くを見ながら言った。
 
「お前が大学時代に使っていた研究室の顕微鏡の中にもレーザーが入っていて、肉眼では見えない世界を見る事ができるようになったんだ、レーザーは今や色々な技術に応用されているんだ、技術の進化は早い、今後どうなっていくか、とても楽しみだよ」父親は誇らしげに話をしていた。
 
「どうだ、仕事は楽しいか?」と父親に今度は逆に質問された。
 
「正直、まだわからないかな、業界も厳しくなっているし」と答えた。
 
すると父親から、「仕事には、良い時も悪い時もある、その時その時に自分のやれる事をやれば良いんだ、仕事をさせてもらえる内が花って言う言葉もあるんだ、お父さんもやれる所まで今の仕事を頑張る、お前も身体を壊さない所まで今の仕事を頑張ってみたら良いよ、身体壊したら意味ないけどな」
と言った後、嬉しそうな寂しいな顔で、僕とは違う電車に乗って行った……。
 
父親のこの言葉は、僕の心に刺さっていた。
 
「僕も出会う事が出来た仕事で、自分のやれるベストを尽くすと心に決めた」
 
仕事と人との出会いは同じかもしれない。
決して偶然では無く、出会いは必然。
 
自分のベストを尽くして、大切に接する事ができた時、気がついたら、その先に新しい見たことも無い世界が待っている。その時、自分がその世界へ行く為には、自分を信じる事ができるかどうかで決まる。行った後の新しい世界が、今度は、自分の知らない自分に合わせてくれる。気づいた時には、自分はすでに変わっているかもしれない。

 
 
 
 
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2019-07-15 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.41

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