fbpx
週刊READING LIFE Vol.42

大きな夢をもてなくても天職に出会う方法《 週刊READING LIFE Vol.42「大人のための仕事図鑑」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「ぶっちゃけ、家から近かったからさ……」
 
現在女優の仕事をしているマヤさん。40歳を超えてからのブレイクだから、遅咲きだ。10代、下手したら子役から活動を始めることも多い芸能界では、30歳を過ぎてから俳優を志し、40歳をすぎてからブレイクなんて、遅咲きもいいところだ。マヤさんは人気ドラマのナレーターをしており、そのゆるい感じの話し方が大好評で、いまではあちこちの局からひっぱりだこだ。
 
マヤさんは女優になる前、介護の仕事をしていた。
実家で両親と、難病指定されている妹さんとで暮らしていて、介護や看護があるからと、なるべく家から徒歩でいける範囲でできる仕事をということで、見つかったのが介護サービスの仕事だ。家から目と鼻の先にあり、勤務時間も融通がきく。そしてなんといっても、シニア層のお世話をすることになんの抵抗もないどころか、むしろ自分が知らない昔の話をたくさんきくことができる環境で、とても楽しかった。バイト料は高くはなかったが、誰かの役にたっているという実感だったり、とてもうれしそうに笑ってくれる笑顔だったり、そういう人の気持ちに触れることができる仕事に、やりがいと喜びを感じていた。
 
「どうして、そこから、女優になろうと思ったんです?」
 
不思議で仕方ない。
 
「女優になろうとか、演技がすきとか、実は思ったことなかったんです」
 
マヤさんは、はにかみながら答えてくれた。
ますますわからない。
 
普通芸能人とか、俳優とか、役者とか、なりたくてもなれない花形の仕事である。芸能界に憧れてオーディションを受けて落ち続けている友人もいるし、女優に憧れてナレーションの仕事についたものの、結婚式の司会をもう20年以上続けている友人もいる。女優なんてなりたくてもなれないもの、よっぽど見た目もよくて、コネがないと無理、そんなふうに私は思っていた。
 
だけどマヤさんは言う。
 
「たまたま、息子の学校の朗読会で、絵本を朗読することになったんですよ。保護者のなかで朗読をしてくれる人を募集していたんですが、誰も手を揚げなかったので、じゃあ私がやろうかなって。
 
当日、大好きな絵本を選んで、教室で朗読してたんです。
だけど、ただ読むだけでは面白くないじゃないですか。
だから、とにかく小学生たちを馬鹿笑いさせてやろうと思って工夫をして読んだら、もう子どもたちがどっかんどっかんと大笑いして喜ぶわけですよ。
 
それをきいていた隣の教室の先生も、授業を中断して覗きに来たりして。
 
そんなふうにして、どういうわけか私の朗読が学校で話題になって。
それで私も気を良くして、こういうのって仕事になるのかな、と思ったから、劇団に入りました」
 
劇団にはいったからといって、すぐに仕事になるわけではもちろんない。
だいたい小さな劇団なんて、公演をしてもチケット販売のノルマがあったり、持ち出しばかりでぜんぜんお金にはならない。若い子たちも多く、彼らの多くはカフェとかカラオケ屋でいくつもバイトを掛け持ちして、大変な思いをして演劇を続けていく。しかし体力やお金が続かなくて、結局は夢を諦めたり、他の仕事についてまったく違う人生を歩み始める人があとと絶たない。
 
好きなことを仕事にするには、燃えるような熱い想いがないといけない、なんてよく言われるけど、実はそんな想いが実を結ぶことなんてあまりないのかもしれない。むしろ熱い想いあればあるほど、自分の限界に直面したり、現実とのギャップに苦しんだりして、夢を諦めてしまうのではなかろうか。
 
子どものころ、ロックスターになりたい夢を描いたバンド少年は、その殆どが夢を叶えられない。幸せなお嫁さんになるという夢を描いた少女は、50歳になっても独身を貫き、バリバリのキャリアウーマンになっている。
 
夢はかなわない、だから夢をもつのは馬鹿らしい。
夢なんて描けば描くほど、手に入らないから苦しいだけ。
だから将来に夢を描けない子どもたちが増えているのとすら思う。
 
だけど、マヤさんは言う。
「その時、自分が楽しいと思うことに素直になって、それで誰かが喜んでくれたらいいな、と思うと、それがどうやら自分の夢につながっていくのだと思います」
 
天職を見つけるのって、まるで金魚すくいみたいだ。
一生懸命狙いを定めて追いかけると、あっというまに破れてしまう。
だけどココロを無にして、楽しもうとさえすれば、ボウルは金魚でいっぱいになっていく。
 
やりたい仕事なんて、見つけられなくていい。
ほんとうに好きな仕事なんて、探そうと思っても絶対に見つからない。
正社員とか、大企業とか、起業とか、副業とか、働き方や職種が重要なのでもなく、大切なのは、いかに目の前の仕事を一生懸命愚直にやって、その向こう側にいる人達の役に立つかだ。人の役にたち、人を幸せにすることができる人は、どんな仕事にだってつけるし、どんな業界であろうとそこでトップになることができる。
 
仕事の本質は、お金を稼ぐことじゃない。
いただくお金の量は、いただく感謝の量に比例している。
たくさんの人に感謝してもらうことができたら、それが収入にもつながるし、もっと大切なものを与えてくれる。
 
大きな夢は描かなくてもいい。
 
マヤさんの語り口は、なんだか人を安心させてくれるのだ。

 
 
 
 

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜《6/30までの早期特典あり!》

 


2019-07-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.42

関連記事