知らないうちに、画家になっていた《 週刊READING LIFE Vol.42「大人のための仕事図鑑」》
記事:田中晶太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「今日で勤めていた会社を辞めました」
次の仕事も決まっていないのに、契約期間が満了した。精神的なツラさ、体の不調から開放されるのはメリットだが、生活するお金のことを考えると、「判断を誤ったかな」との思いもある。年齢的にも、すぐに再就職するのは、難しいだろう。
さて、「明日から何をしようか」と思うが、急に暇になり、することがない。一番まずいパターンにハマりそうだ。まずいパターンといえば、マイナス思考に陥り、よからぬ事を想像して、気分が落ち込んでいく。また、精神的苦痛から逃れようとして、「ギャンブル、お酒など」に手を出し、心身共に調子が悪くなってしまう。依存症で、なかなか抜け出せなくなる。
実際に、家にいると、「テレビを観る、本を読む」などしても、集中力が続かず。タバコも半端ないぐらい、スパスパと吸ってしまう。そして、昼間にも関わらず、コンビニに行って、ビールを買って飲む。正直なところ、最終的には酔っ払って、気分が悪くなるのはわかっているが、一時的な現実逃避に走ってしまう。こんなことをしていたら、本当に社会復帰できなくなるぞ。何とかならないか。
こんな時は、時間があって暇なので「好きな事をすれば」と言われるが、「好きな事をやって生活できるのか」とマイナスに考えがちである。だが、他にする事がないので、お金の事は忘れて、やってみる価値はありそう。
「何が好きなのだろう」と考えると、「絵を描く、読書」などが思い浮かんだ。じゃあ、この2つをやるだけやってみよう。職種は、自分の中だけであるが「画家」ってことか。いいじゃないか。少し明るくなったような気がする。
不安にならないように、「プラス思考で、前向き」に考えられる本を読んでおこう。「何をやってよいのかわからないが、継続できるかどうか」が大事なので、少しでも気持ちで負けないようにしておこう。とはいえ、「画家の仕事」って何だ。イメージとしては、絵を描いて売っている職業なのか。全くわからないが、「とにかく描いて人に伝えなければならない」事だけは、ボンヤリと浮かんできた。描かないと始まらない。時間ある限り描いてみよう。
描ける技法は、パステルアート(硬いクレパスを粉状にして、布や手につけて描く。ボカした感じのグラデーションが出やすく綺麗)。フリーハンドで描く自由な絵と、型を使って規則的な模様が綺麗な、マンダラアートの2つを描く。
商品にするとかは考えず、今まで通りに描いてみよう。
描いてみると、以外と綺麗に描ける。ただ商品にするには、物足りない。丁寧に完璧に、そして「オリジナリティが必要だな」と感じる。経験を積み上げるしかない。日々描き、修正して、お客様が納得のいく作品を作るしかないな。これからだ。
1日中、絵の事を考え、15時間くらいの仕事量だが、以前の仕事と比べて、疲れない。
スマホの面白いゲームにハマっていた時のようだ。「レベルをあげるには」「攻略するにはどうしたらよいか」と、年がら年中考えていた。ゲームに時間を費やしてレベルを上げなければならないし、課金して強い武器を買い、攻略法を研究するのに時間を忘れて夢中になっていた。
描いただけでは外向けには伝わらない。アプトプットするには、どうしたらよいのだろう。まずは「インターネットを使って誰かに伝えたい」と思った。だが、パソコンは詳しくない。使っているのは「FACEBOOKのみ」と言ってもよいくらい。とにかく、「投稿してみよう」と思い、知っている人だけでも、どのような反応があるのか、確認してみることにした。すると、「新しい事始めたんですか」「絵がうまいですね」などの反応があった。半信半疑な気持ちだったが、「意外と伝わるかも」と前向きになったが、ほとんどの方はアマチュアだと思っているので、「商品という目で見た場合、どうなのかな」と感じた。良くも悪くも、このサイクルでやってみることに。
すると、黙々と描くだけから、色々と繋がりが出始める。いつも見て頂いている方のコメントで、
「メルカリで売ったらどうですか」「イベント出店は」「FACEBOOKページを作って、もっとたくさんの方にみてもらいましょう」と、思いもしなかった提案、アドバイスを受ける。実現方法はピンと来ていないが、「へぇー。集客も色々方法があるのだな」と感心した。何より、「タダで教えてもらえて得した」と同時に「私のことを見てくれているのだ」と、うれしく思った。
FACEBOOKのイベントを見ていると、個人で似たような事をしている方が、体験イベントをやっていたので、「他の人はどのように考えているのだろう」と知りたくなり、イベントに参加する事に。
何個か行ってみると、ほとんどの方が、「絵を描く事とは別に絵の描き方を教えている」ことに気づく。なるほどね。「絵の先生って方法もあるなぁー」と考えが広がった。
体験での、教え方にも特徴がある。「丁寧に教えてくれる講座」や、「描き方の手順だけ伝えて、それでおしまい」という雑な講座もあった。「絵の講座は、手順だけ伝えて終わりが多いですよ」と聞いたことがあるが、体験して、
「あまりに不親切だ。もう2度と参加するか」
と怒りの感情が湧いてきた。だが逆に考えると、もし自分が教える時があれば、
「丁寧に指導すれば、お客様も喜び、また来てくれるのではないか」
と素直に思い、講座に関しては「結構スキがあるなぁー」と割って入る余地が有りそうな手応えを感じた。
今後を考えると、絵のレベル、PCのソフトの使い方、お客様対応、集客など、本当に1からの積み上げが必要だが、全てをこなすと、ビジネスとして、ひょっとするかも。残りの資金との兼ね合いもあるが、途中で終わっても、複業レベルで空いた時間に続きを積み上げることもできる。
好きな事を仕事にすると、15時間労働しても、苦にならない。楽しすぎる。周りの方のサポートも複数あり、1人じゃないことも味わえるし、自然と感謝できる。退職したことは、決して不幸だけではなかった。
退職して以降、ずっと無職と思っていたが、夢中で日々を過ごしていると、気づかないうちに、「フリーの画家」になっていた。自覚の問題ではあるが、不思議だ。
本当は、「こんな未来を想像していたのかな」とも感じます。
それにしても、画家とは。人生何があるかわからない。できることからコツコツと積み上げていきましょう。
◻︎ライタープロフィール
田中晶太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
1976年生まれ。広島県呉市在住。2018年12月から天狼院ライティングゼミを4ヶ月間受講し、書く楽しさに目覚める。厳しい入試を1回で突破し、ライターズ倶楽部も続けて受講。今後、どこまで成長できるか。
http://tenro-in.com/zemi/86808