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週刊READING LIFE vol.43

「どん底」が、挑戦の背中を押してくれた《 週刊READING LIFE Vol.43「「どん底」があるから、強くなれる」》


記事:しゅん(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

あなたは「どん底」という言葉にどんなイメージを持つだろうか?
 
「どん底」にいる最中には「なんで自分がこんな目に会うんだ!」と絶望感で一杯かもしれないし、「どん底」を味わった直後には「もう二度と味わいたくない」という思いで一杯かもしれない。
 
でも、しばらく経って振り返ると「あのどん底のおかげで方向転換できたんだ」って思える日が来るんじゃないか、最近はそんな風に考えている。
 
できれば味わいたくない「どん底」。でも、「どん底」は「これまでの道があなたに合ってないよ」という人生からの大切なお知らせなのかもしれない。

 

 

 

 

「どうだい? そろそろ昇格試験を受けてみないか?」
 
職場で上司に声を掛けられた。2,3年前から声を掛けてもらっていたが「いや、管理職に興味ないです」と断っていた。私は技術職で、人や予算の管理よりも技術職を現場でやり続けたい、そう思っていたからだ。あとは、管理職の人は土日も会社で仕事をしているし、休みも取らない。そこまでして働きたくないし家族との時間や自分の時間も欲しい、という理由もあった。
 
ただ、その時には少し違う感情が湧いた。
 
ここ最近の商品の開発スケジュールが、あまりにも無謀なことが多く、腹が立っていたからだ。極端にスケジュールが短かったり、同時並行で複数商品を開発スケジュールが続いていた。「無理だ!」現場がいくら声を上げても、すでに決まったスケジュールが覆ることはなかった。だったら、この状況を変えるには自分も管理職になってスケジュール策定に関わるしかないんじゃないか? そう思った。
 
奥さんにも相談した。
 
「土日に会社行くことが多くなると思うけど、昇格試験受けてみてもいいかな?」
「やりたいと思ったんだったら、やってごらんよ」
 
決めた。「受けます」上司に伝えた。
 
そこから数ヶ月に渡る昇格試験に向けての準備が始まった。大量の課題、資料の作成。ダメ出しされ、修正し、翌日に再度チェックしてもらう日々が始まった。もちろん通常の業務はこなしながらだ。そのため家に帰った後の夜中や、土日、もしくは家に帰る時間も惜しくなり会社に泊まり込んだ。

 

 

 

 

一方、その時に進めていた仕事も文字通り火を吹いていた。スケジュールの開始条件が揃わずに大幅に遅延しているにも関わらず、こちらのスケジュールは一向に変わらないのだ。
 
例えるならば、家を建てる土台ができてから、その上に家を建てる予定だったのにいくら待っても土台が出来上がらないのだ。その状態で、お客さんが住む日は決まってるからなんとかしろ、と言われているような状態だったのだ。そして私は言わば、そこの現場監督だった。しかも私にとって初めての現場監督だったのだ。
 
私自身もわからないことだらけだったし、スケジュールが遅れてることもあって、周りからも「どうします?」「いついつまでにこれができてないと困るんですけど」と言われたり、上司からも「どうするつもり?」「どう考えてるの?」と言われることが多く、段々疲弊していった。
 
「もう、そんなの自分で考えてくれよ! いちいち俺に聞くなよ!」と喉元まで出掛けたが言えず「どうするか考えて、また連絡します」と言っては、自分のTODOリストに追加した。この頃のTODOリストはすでに見返すことができない量になっていた。
 
会議の量も増え、自分の作業ができるのは夜になってからだった。
 
そして、私は勝手に孤立していった。「私ひとりがこんなにバタバタしてるのに、どうしてみんな手伝ってくれないんだ」とイライラして、腹を立て、拗ねていた。今思えば、当然だ。会議ばかりで席に座っていないし、周りからしたら私が何をやってて何に困っているのかもわからなかったはずだ。さらに私から周りに「手伝って、これやって」と言えずに一人で抱え込んでいたんだから、伝わるはずがない。周りは周りで自分の仕事をしていたし、実は結構サポートもしてくれていた。でも、その時の私はそんなことに気づく余裕はなかった。

 

 

 

 

その頃、管理職の集まる会議に参加させてもらうことが多かった。その時の部署のトップは周りから恐れられていた。その人に意見した何人もの人が、別の部署に飛ばされていた。そのためトップの出席する会議ではみんなピリピリして、ビクビクしていた。トップに対して誰も反対意見を言わない、ひたすらトップが自分の意見を述べ、失敗した人を徹底的に攻め立てる、そんな場だった。
 
そんな状況だからか、トップが居ない会議でも、みんな責任を取るのを恐れて、失敗した人に対して「どうするつもりだ!?」「どう責任を取るんだ!」と攻め立てているように見えた。
 
会議に参加するたびに、私は本当にこんなものを望んでいるのだろうか? と自問自答していた。

 

 

 

 

仕事では、ちょうど手が空いた同期に無理を言って、こっちの仕事に合流してもらった。私の苦手なところを中心にサポートをお願いした。
 
とはいえ、相変わらず土台が出来上がってこない。
 
どうする? どうする? このままじゃ予定通りには完成しません。日程をずらすべきです、と上司に説明しても受け入れられない。緊張感は高まったままだ。
 
そんな中、私は同期がサポートしてくれるのに甘えてしまった。昇格試験の資料作成が忙しいのを言い訳に徐々に打ち合わせにでなくなっていった。この頃には、もう周りの人に「どうします?」って聞かれると、動悸がして冷や汗がでるようになっていた。だいぶ精神的に参っていた。

 

 

 
 

昇格試験に向けて、面談対策が始まった。しかし、私のする回答がことごとく「違うんじゃない?」「そうかなぁ?」と受け入れられなかった。視点を高くする、という目的があったと思うが、否定され続けたためか質問に対する回答ができなくなってしまった。口から言葉でないのだ。言葉にする前に頭の中で「どうせ、これじゃないよね?」って否定してしまうので、それを口から出せくなってしまったのだ。「なんか答えなさいよ」と言われても、出ない。そんな時期が続いた。
 
それでも、なんとか数ヶ月に渡る昇格試験は終わった。
 
終わった瞬間には、正直なところ燃え尽きかけていたが、仕事のほうが火の車だった。そちらへ戻らなければならない。燃え尽きる寸前の気力に無理やり火をくべて、最近フェードアウト気味だった仕事に戻った。

 

 

 

 

そこから結果発表までは数ヶ月あった。

この間にも、管理職の会議に参加し、罵倒される人々を見ていた。そのうちに「本当に、このメンバーの一員になりたいのか? なって大丈夫なのか?」という思いが湧き上がり続けていた。それまでは「どうせ昇格試験を受けたのだから、受かったらいいな」と思っていたのが「受からないで欲しい。落ちてたらいいな。いや、むしろ落ちないと大変なことになる……」と思っている自分に気がついた。
 
そして、結果発表があった。
 
「残念ながら……」という結果を受けて、ほっとしている自分がいた。良かった。受からなかった。

 

 

 

 

しばらくして、やっと仕事の一区切りがついた。なんとかかんとかやりきった。燃え尽きそうな気力に無理やり薪をくべ続けてきたが、これで完全に燃え尽きてしまった。朝起きると会社に行きたくない、何をする気力も湧き上がってこない、会社に夕方までいると動悸と頭痛がしてつらくなった。
 
そんな生活が1,2年続いた。

 

 

 

 

その間に、自分が本当にやりたいことはなんだろう? 自分探しを始めた。それまで以上にビジネス書を読み漁った。この苦しい状態を抜け出すにはどうしたらいいんだろう? 働くってなんだろう? 仕事って? 天職とは? そんな本をたくさん読んだ。
 
読んだ本の中に「自分のやりたいことは子供の頃に自分が興味を持っていたこと、好きだったこと、やりたかったけどやれなかったことの中に眠ってる」という話があった。それで、ギター、お絵かき、スケボー、書道、ペン字、万年筆集めなど色々チャレンジした。
 
そんな中、高校生時代も生きづらさに悩んでいたこと、心理学の本を読んでいたのを思い出した。当時は加藤諦三先生の本をよく読んでいた。そして気がついてなかったが今でも一緒だった。落ち込みやすい性格、人間関係に悩んで、心理学の本をよく読んでいた。ちょうどその頃に読んでいた本の作者プロフィールを見るとその方の通っていた心理学スクールの情報が載っていた。しばらく悩んだが、えいっと思い切って通いだし、卒業した。
 
そして今は、当時の私のように悩んで苦しんでる人に、少しでも心が楽になってもらえる文章が書きたくて天狼院のライターズ倶楽部に通っている。
 
昇格試験を受けていた頃には、まったく想像もしていなかった。あのまま昇格試験に合格していたらおそらく心理学にも天狼院にも出会わなかったのだろう。あの辛かった日々があったからこそ今があるんだ、そう思える。
 
どん底を味わったからこそ、違う道に踏み出せる。これまで挑戦できなかったことに思い切って挑戦できる。「どん底」にはそんな力があるんじゃないだろうか。

 

 

 

 

その後、ありがたいことに上司からまた声を掛けていただいた。
 
「もう一回、昇格試験受けてみないか?」
「ありがとうございます。でも、受けません」
 
笑顔で答えた。
 
「どうして?」
「みなさんを見ていたら、管理職とは自分の人生より会社を優先することだと思ったんです。土日も会社のことをやり、休みも取れない。私にはそこまでできません」
 
もちろん、そういう人が居てくれるからこそ、会社は維持されていて進んでいけるのだと思う。ただ、私の目指したい生き方ではなかったと気がついただけだ。
 
これから先、自分がどうなっていくのかは自分でもわからない。
でも、笑顔でワクワクしながら、同じように笑顔の人たちと一緒に人生を歩んで行きたい、今はそう思っている。
 
今なら言える。「どん底の日々、ありがとう」

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
しゅん(READINGLIFE編集部 ライターズ倶楽部)

ソフト開発のお仕事をする会社員
2018年10月から天狼院ライティング・ゼミの受講を経て、
現在ライターズ倶楽部に在籍中
セキュリティと心理学に興味があります。
日本メンタルヘルス協会 公認心理カウンセラー

 
 
 
 

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2019-07-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.43

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