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週刊READING LIFE vol.47

『君の名は。』、『天気の子』だけじゃない! 絶品の感傷へと、あなたを導きたい《 週刊READING LIFE Vol.47「映画・ドラマ・アニメFANATIC!」》


記事:平野謙治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「ずっと好きだった。
突然ごめんね、それだけ言いたかったの」
 
「え!?」
 
驚きのあまり、情けない高い声が出た。
自分の顔が、熱くなっているのを感じた。
 
人生の中でいくつかある、忘れられない恋愛。
そのひとつは、まだ中学生だった頃のこと。
 
「返事は、いらないから」
 
突然のことだった。突然電話してきて、一方的に切られた。
 
だけどそんな風に、まっすぐに告白されるのは初めてだった。
わずかな時間ではあったけれど、僕の脈拍を速めるには十分すぎた。
 
でもどうして、急に告白してきたのだろう。
 
告白してきた女の子である宇佐美とは、小学生の頃同じクラスだった。
だけど中学に入ってからはバラバラで、もう半年くらいは話した記憶すらなかった。
 
だから今日電話が来た時も、なんの用事なのかまったく予想がつかなかった。
それがまさか、告白だったなんて。少しも、気づかなかった。
 
明日廊下ですれ違ったら、どうしよう。
恥ずかしくて、顔見れないかもしれない。
 
そもそも返事はいらないって言われたけど、僕はこれからどうするんだ? 宇佐美と付き合うのか?
あれ、そもそも付き合うってなんだ。付き合ったら何をすればいいんだ?
 
脳がぐるぐるし続けて、ショート寸前だった。
この日は、なかなか寝付けなかったのを覚えている。
 
だけどこの日あれこれと悩んだことはすべて、杞憂に終わることになる。

 

 

 

 

翌日。
学校に、宇佐美は来ていなかった。
 
なんと、転校してしまったらしい。昨日の電話以上に、あまりにも突然のことだった。
 
放課後。部活を終えた僕は、家と反対方向に走り出した。
どうすればいいのかわからなかった。でも、このままじゃダメだとも思った。
 
会わないと。会って何か、言わないと。
何を言うかも決めず、衝動的に宇佐美の家の方まで走った。
小学校から下校する途中にあったから、大体の場所はわかった。あった。この家だ。
すぐに、インターホンを押す。
 
「…………」
 
返事はなかった。念のため、もう一回押す。
 
やっぱり、返事はない。
 
「はあ、クソ……」
 
息も絶え絶えに、天を仰ぐ。
オレをこんな気持ちにさせておいて、突然煙のようにいなくなってしまうだなんて。
 
「言い逃げなんて、ズルイよ……」

 

 

 

 

一度も会わないまま、10年が経過した昨年のこと。
突然、宇佐美からFacebookの友達申請が来た。
 
完全に過去の思い出になっていたはずなのに、少しドキッとさせられた自分がそこにはいた。
はやる気持ちで、プロフィール欄をクリックする。
 
「……ああ。そうなのか」
 
開いて、すぐにわかった。
彼女はすでに、結婚していた。
ウエディングドレスを着て、旦那さんと笑顔で写っているその姿は、あまりに幸せそうだった。
 
瞬間、放心。
だけど、すぐに、思い直す。
 
そりゃ、そういうことも、あるよな。だってあれから、10年も経った。お互い大人に、なったんだ。
僕だってあれから、付き合って別れることを何回か繰り返してきた。
時にはフラれ、時には別れを告げてきた。
 
多分宇佐美も、そうなのだろう。
その過程で、素敵な人を見つけて結ばれたのだろう。幸せでいてほしいなと、強く思う。
 
だけどそれと同じくらいの強さで、喪失感が僕の心を支配していた。
この虚しさは、なんだ? どうしてこんな気持ちになるの?
 
負け惜しみじゃなく、べつに宇佐美のことをずっと好きだったわけではなかった。
その証拠に、Facebookの申請が来るまでは、宇佐美のことなんて完全に忘れていた。
いや、正確に言えば、「過去の思い出」として、頭の片隅に置いていた。
割り切っていた、はずだった。
 
だけど多くの男はバカなもので、一度付き合った人や、好きだと言ってくれた人のことを、いつまでも自分のものだと勘違いする傾向にある。そうすることで、思い出を美化させている。
僕だって、そうだ。10年も経って、昔のままでいられはずなんかないのにな。ずっと自分のこと、好きなわけないのにな。頭では、そうわかっているのに。
 
自分から別れを告げた相手であっても、知らないうちにどこかの男と付き合っていると良い気はしないもんだ。たとえその時に、自分に好きな人や、彼女がいたとしても。
なんだか少しだけ、傷ついたりもする。
 
僕の経験でしかないのだけれど、この話は男性には共感されやすい。
一方で、女性からは「身勝手な話」と思われることが多いと思う。
 
まあ、確かにその通りだ。自分勝手だなとも、申し訳ないなとも、思う。
でも、そう思ってしまう自分が、確かにここにいる。
あくまで傾向の話だけど、やっぱり男女で捉え方が違うように思える。
 
使い古された喩えだが、恋愛の保存方法が異なっているのだ。
女は「恋愛を上書き保存」し、男は恋愛に「名前をつけて保存」するというのは、本当に正しいと思う。
 
失恋した時のダメージは、どちらも等しく大きいように感じる。
多くの女の子は泣くだろうし、男もそれに匹敵するくらいヘコんでると思う。
 
違うのは、そこから。
女の子は、次の好きな人さえ見つけられれば、かなり上手に切り替えるイメージがある。
それこそ上書きしたかのように、過去の失恋なんて忘れて、目の前の恋愛にときめくことができる。
 
他でもない今の幸せに、エネルギーを注げる強い存在だと感じさせられる。
 
一方で男は、女の子よりは切り替えるのに時間がかかる傾向がある。過去を、引きずりがちだ。
新しく好きな人や、彼女ができたとしても、昔の人への気持ちは、それはそれで別の場所に残っていたりする。
まさに、「名前をつけて」別のファイルとして存在している感覚だ。

 

 

 

 

そんな男女の違いを、残酷なほど克明に描いた映画がある。
それは、『秒速5センチメートル』という作品だ。
 
何を隠そうこの映画は、大ヒットが記憶に新しい『君の名は。』や、現在上映中の『天気の子』でも監督を務めている、新海誠監督の作品だ。
 
ただその2作品とは、趣は異なっている。
この作品の主題は、「男女のすれ違い」にある。
 
主人公の男の頭の中にある、「名前をつけて保存」した、過去の恋愛のファイル。
そのファイルは恐ろしいことに、時間経過と共にどんどん美化されていく。
「二度と戻ることはできない」という事実が、思い出を輝かせていく。
 
過去にとらわれ続けるその姿を見て、強い共感を覚える。ああ、わかるよ。その気持ち。
そうだ。男は多分、浸りたい生き物なんだ。
 
美しい思い出と、初めての経験。
あの日見た景色と、一緒に聴いた音楽。
切ないすれ違いと、思わぬ別れ。
もう取り戻せない過去と、決して満たされることはない今。
 
それらすべての構成要素が、新海誠監督による美しいアニメーションによって、描かれている。
それはもう、これ以上ないくらいの感傷的で、美しい世界。そんな世界に、これでもかというくらいに浸らせてくれる。
とにかく、絶品だ。恐ろしさすら感じる。
大袈裟でなく、下手すれば帰ってこれなくなるほど。そのくらいの、パワーがある。
 
僕が初めて観たのは、高校生の時。
そのエンディングはあまりにショッキングで、僕は大ダメージを受けた。なんと次の日、学校を休むほどに。
 
バカな高校生だったなって、今になって思うけど、24時間も戦闘不能にさせられた映画は、後にも先にも『秒速5センチメートル』だけ。
危うく、本当に帰ってこれなくなるところだった。
 
2007年の作品だけど、今見ても全然古く感じない。
むしろ、その映像美に引き込まれるくらいだ。
 
僕みたいに「感傷に浸りたい時もあるよな」って人はもちろん、
「俺は過去を振り返らねえぜ」主義なお兄さんも、
「男ってバカね」って思う淑女の皆さんも、
一度でいいから、観てみてほしい。
 
新海誠監督が描く美麗アニメーションと、
山崎まさよし氏の素晴らしい歌が、
あなたを「絶品の感傷」へと、きっと導いてくれると、約束するから。《終わり》

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
平野謙治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ24歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに。
若手スタートアップコミュニティ「CAVE」運営幹部。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
その内5月15日に掲載された作品、『苦しんでいるあなたは、ひとりじゃない。』がメディアグランプリにて1位を獲得する。
6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。

 
 
 
 

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2019-08-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.47

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