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週刊READING LIFE vol.50

書くことの意味《 週刊READING LIFE Vol.50「「書く」という仕事」》


記事:千葉 なお美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「もの書き」をしている人に、私は何度救われただろう。
 
昔から本を読むのが好きだった。本好きに拍車がかかったのは、中学に入ってからだ。純粋に物語の世界が好きという理由もあったが、それ以上に現実逃避ができるからという理由のほうが強かった。本を読んでいる間だけは、現実の辛いことから目を背けることができた。毎晩涙で枕を濡らす理由が、現実世界のものから架空世界のものにとってかわることで、心の処理の方法として「本を読む」という術があることを学んだ。
 
ライティング・ゼミに参加してからは、一緒に参加している人たちの記事にも救われた。私と同じ悩みを抱えている人がいたり、私よりももっと辛い経験をしている人がいたり、皆の記事を読んで「私だけじゃない」という事実に気付かされた。また、書いている自分自身に、救われることもあった。
 
本名で記事を書くようになる前、まだペンネームで投稿していた頃、母親との確執を赤裸々に綴ったことがあった。誰にも話したことのない、自分の中で一番の心の傷となった出来事をありのままに書いた。今まで蓋をして固く閉ざしていた出来事を、鮮明に思い返しては文字にした。おそらく、はじめから私はこのことが書きたかったのだろう。最初は「ネタがないから」という理由で過去のトラウマを引っ張り出してきたつもりだったが、書くことでその出来事と向き合い、自分自身を見つめ直すきっかけとなった。「書く」ことには、浄化作用があることを知った。私は誰かのためではなく、完全に自分のために書いていた。
 
ところが、掲載された記事を読んでくれた同じライティング・ゼミの参加者から、思いも寄らぬ感想をいただいた。
 
「あなたの人間性に胸を打たれました」
「私も似た経験をしていて、記事を読んで救われました」
 
自分の人間性が評価されるとは思わなかった。ましてや、自分のために書いた文章が誰かを救うとは思ってもいなかった。それまで負の遺産でしかなかった私の過去が、文字にすることでプラスの意味を持って存在し始めた。
 
ライティング・ゼミ終了後、その上級クラスであるライターズ倶楽部に参加した私は、今度は誰かにとっての負の遺産を記事にしてみようと思った。本人にとっては消し去りたい過去でも、側から聞いている私にとって、その出来事はとても尊いものに感じられた。
 
しかし、記事にするのは思いのほか難しかった。自分が心を動かされたことであるから、文章にすること自体はそれほど苦労しなかったのだが、自分以外の誰かを主人公にするということに恐ろしさを覚えた。誰かの過去を綴ることで、その人の人間性が評価される。それは本当に些細なことでプラスにもマイナスにも転じる。文章の組み立て方、言葉の選び方、事実の切り取り方など、ちょっとしたことで印象が180度変わる。記事を書いているのは私でも、評価されるのは私だけではない。「書く」ことは、誰かの人生を背負うことでもあるのだと知った。
 
友人を主人公にした記事はどれも掲載され、モデルとなった友人らにお礼を言うと「初めてその経験が活かされた」と皆喜んでくれた。過去は消えないが、その出来事が友人にとって別の意味を持つものになったようで、私もとても嬉しかった。ずっと自分のためだけに書いていたものが、少しずつ変わり始めたように思えた。「誰かのために書こう」とか、そんな大それたことではないのだが、書くことで結果的に誰かにプラスの影響を与えることができるのなら、こんな嬉しいことはないと思った。ふと、それこそが「書く」という仕事の根幹であるような気がした。報酬をもらうことに限らず、自分以外の誰かに「価値」を与えることが、「書く」という仕事の意味ではないかと思った。
 
私がライターズ倶楽部に参加したとき、正直「書く」ことを仕事にしようとは思っていなかった。プロを目指すクラスで、プロになる覚悟が全くなかった。こんな生半可な気持ちで参加していいものかと、罪悪感を感じながら講義を受けていた。自分が「もの書き」になれると思っていなかったのかもしれない。しかし書き続けるうちに、少しずつ自分の考え方が変わっていった。記事を読んだ人から感想をいただき、友人が前向きになっていく様子を見て、もっと書き続けたいと思った。
 
同時に、書き続けることの難しさも学んだ。与えられた課題は毎回四苦八苦しながら考えに考え抜いて提出した。どうやったらもっと面白くなるか、友人のエピソードを引き立てるためにはどう書けばいいのか。プロになる覚悟がないなりの自分なりの覚悟として、中途半端な記事は提出しないと決めていた。それでも思うように書けず、悔しい思いをすることも多々あった。もっと訓練が必要だと思った。書きたいことを書きたいように書くためには、誰かに価値を与える記事を書くためには、もっと「書く」ことについて学ぶ必要があると思った。
 
だから私は、書き続けようと思う。
おそらく私は、未来にも書きたいことがたくさんあるだろう。これからたくさんの人に出会い、様々な経験をして、今よりももっと書きたいことが増えるに違いない。
私が文章によって救われたように、私の書いた記事が、必要な人に届いてなんらかの価値を与えられればいいなと思う。それが「書く」という仕事の意味であるなら、私は「もの書き」として、もっと精進し続けようと思う。
 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
千葉 なお美(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

青森県出身。都内でOLとして働く傍ら、天狼院書店のライティング・ゼミを経て、2019年6月よりライターズ倶楽部に参加。趣味は人間観察と舞台鑑賞。
「女性が本屋で『ちょっとエッチな本』を買うときのコツ」でメディアグランプリ3位獲得。
万人受けしなくとも一部の読者に「面白い」と思ってもらえる記事を書くことが目標。

 
 
 
 

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2019-09-17 | Posted in 週刊READING LIFE vol.50

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