所有物のレギュラーを張るアイテム《 週刊READING LIFE Vol.52「生産性アップ大作戦!」》
記事:千葉とうしろう(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
スーパーでの買い物の生産性を上げる、とっておきのアイテムを紹介しよう。私はミニマリストなので、「できるだけ所有物を減らして生きたい」と思っている人間であるが、そんな私にとっても、このアイテムはなくては「なくてはならないもの」となっている。洋服も本も、必要だと思ったもの以外はすぐに捨てる私は、所有物に「持つに値するかどうか」を厳しい目で見ている。一ヶ月使わないものはことごとく捨てている。この基準をパスしたものだけを、私は所有物として持っている。このアイテムは基準をパスし、数少ない私の所有物の一翼を担っている。高校野球のレギュラー陣のようなものである。大勢の中から選ばれて、活躍する場を与えられているのだ。今回紹介するのは、そんなアイテムである。
買い物を面倒だと思っている人は多いだろう。特にスーパーでの買い物。食べ物だったり、日用品だったりは、買わなければ生きてはいけない。けれど、いざ買おうとすると、どうしても面倒に感じてしまう。ただでさえん現代人は忙しいのだ。日用品や食料品などの買い物に割く時間は、できるだけ減らしておきたい。短時間でぱぱっと終わらせるのが、日用品や食料品の買い物の生産性を上げるということなのだ。
そこで紹介するのが、このアイテム。「レジバッグ」などと呼ばれているバッグだ。
おそらく日本全国にあるスーパーの買い物かごは統一されている。北海道も沖縄も行ったことはないが、東京の都会でも東北の田舎でも、どこでも同じサイズの買い物かごを使っているのだ。日本全国で統一されていると思っても問題ないだろう。で、日本全国で買い物カゴのサイズが統一されていることに目をつけ、その買い物カゴに被せるのにぴったりの際なのが、このレジバッグと呼ばれるバッグなのだ。買い物バッグやエコバッグなど呼び方はいくつかあるが、今回は、レジバッグとして呼び方を一つにしよう。このレジバッグを、何故わざわざ買い物カゴに被せるのかというと、買い物カゴから買い物袋に商品を詰め替える手間を省くためなのである。
とはいえ、元々はスーパーで渡されるビニール製の買い物袋を減らそうという試みの中で生まれたものである。諸説あるが、地球は年々温度が上昇しており、その原因が二酸化炭素だといわれている。地球全体の二酸化炭素を減らすため、ゴミの焼却量を減らさなければならない。使った後にすぐに捨ててしまうビニール製の買い物袋は、真っ先に削減対象のゴミとして上がったわけだ。それにビニール製の買い物袋は、プラスチックからできている。プラスチックは地球温暖化のほかに、海洋汚染としても最近、聞くようになった。それはプラスチックが簡単には分解されず、何百年もの間残り続けるからだ。捨てられたプラスチックが最終的に海に流れつき、細かくマイクロプラスチックとなって海洋を漂う。海に生きる海洋生物にとっても、その海洋生物を生きる糧とする人間にとっても悪影響なのだ。
というわけで、地球の環境を守るために始まったのが、プラスチックの削減であり、ゴミの削減であり、そのためのビニール製の買い物袋の削減なのだ。で、初めはみんな、いろいろな大きさのバッグを使っていた。いわゆるマイバッグである。規格もサイズもバラバラだ。けど、どこかの誰かが気づいたのだ。「マイバッグって、買い物カゴのサイズに合わせたらよくね?」である。
というのも、日本ではスーパー店何に入ると、決まって買い物カゴが出入り口近くに用意されている。この買い物カゴを、買い物カゴ(A)とする。スーパー店内を歩く中で、欲しい商品をこの買い物カゴ(A)に入れて、まとめてレジに持っていくのが日本の一般的な買い物の流れである。けれどこの流れだと、ある重大な問題が一つ発生してしまう。それは、買った商品を買い物カゴ(A)からの移動である。
スーパー店内を歩き、欲しい商品を買い物カゴ(A)に入れた後は、レジで商品の清算をする。その際に商品一つ一つのバーコードをスキャンしなければならないのだが、レジ打ちの店員さんは、もう一つ買い物かごを取り出し、スキャンした商品を、新しく出した買い物カゴに入れていくのだ。このレジ打ちの店員さんが取り出す買い物カゴを、買い物カゴ(B)とする。買い物カゴ(B)に店員さんは、商品一つ一つの重さや形や耐久度を考えながら、詰めていく。というのも、買い物カゴ(B)の一番下の方に、卵などの割れやすいものや食パンなどの潰れやすい商品を置いては、クレームの元になるからだろう。客の機嫌を損ねないように、レジ打ちの店員さんは、ゲームのテトリスのように、様々な形や重さの商品を、うまく買い物カゴ(A)から買い物カゴ(B)へ、バーコードをスキャンしては移し変えていくのだ。バーコードを全てスキャンし終わった買い物カゴ(B)には、下の方には比較的、重くて硬い商品、上の方に軽くて柔らかい商品が乗っけられていることになる。
で、問題はこの後である。今度はお客自身が商品を、今度は買い物カゴ(B)からマイバッグへ移し変えなくてはならないのだ。さっき、レジ打ちの店員さんがやってくれたようなことをまた、やらねばならないのだ。お客さん自身による商品の移動の際はバーコードをスキャンしてくてもいいとはいえ、「入れ物から入れ物へ商品を移し替える」という行為を二回もしなければならないのだ。
しかも、さっきは店員さんがバーコードをスキャンした後に、うまく詰めてくれたため、買い物カゴ(B)の上の方には比較的、軽くて柔らかい商品が入れられており、下の方には比較的、重くて固い商品が入れられている。マイバッグに入れ直す際には、これをまたやり直さなければならないのだ。買い物かご(B)の上の方の、一番初めに取り出すものを一回、台の脇に置いておいて、買い物カゴ(B)の下の方から重くて固い商品を取り出して、マイバッグの下の方に詰めていく。その後で、傍に置いておいた軽くて柔らかい商品を、硬くて重い商品の上に置いて行く。買い物カゴ(B)からマイバッグに商品を移して行く際、手早く移動しようと思えば、マイバッグの中では商品の詰め方がテキトーになるが、商品の耐久性を考えるとテキトーにもやってられない。卵や食パンの上に重くて固い商品を置くのは、はばかられる。だから、買い物カゴ(B)からマイバッグに商品を移す際には、手間暇をかけて、うまく並べ直さなければならないのだ。
この無駄に思える手間暇を省くのが、レジバッグである。レジバッグは、店員さんが買い物カゴ(A)から買い物カゴ(B)に商品を移し替える際に、つまり店員さんが買い物カゴ(B)を取り出した際に、買い物カゴ(B)に被せるバッグである。幸いなことに、日本全国の買い物カゴのサイズは同じである。だから、「レジバッグを用意したのはいいけれど、ヨーカ堂では使えるけど東武ストアでは使えない」だとか、「イオンでは使えるけど、ベイシアでは使えない」などという、「店舗によって使えるところと使えないところが分かれる」事態にはならない。どこの店舗、どのスーパーに行っても、レジバッグは使えるのである。
買い物カゴ(B)にレジバッグを被せると、レジ打ちの店員さんも生き生きとしてくる。というのも、買い物カゴ(A)から買い物カゴ(B)に商品を移し替える際の、店員さんの技術が無駄にならないからである。たとえ、店員さんが買い物カゴ(B)の下の方にうまく重くて固い商品を集めて、上の方に軽くて柔らかい商品を集めたとしても、その少し後に客が、せっかくのバランスを崩してマイバッグに詰め直すのでは、せっかくレジ打ちの店員さんが工夫してくれたものが、意味のないものになってしまう。せっかくうまく工夫して買い物カゴ(B)に詰めてくれたのに、絶妙なバランスで成り立っている買い物カゴ(B)の商品がすぐに崩されてしまう。それでは店員さんも、買い物カゴ(B)への商品の移動に、心が入らないだろう。
レジバッグが買い物カゴ(B)に被されてあれば清算した直後に、詰められた商品ごとレジバッグを買い物カゴ(B)から外し、そのまま家に帰ることができる。客が家に帰るまで、レジ打ちの店員さんの工夫が活きることになる。工夫して積まれたそのバランスは、客が家で商品を冷蔵庫に詰めるまで活きることになる。なぜなら、買い物カゴ(B)からマイバッグに詰め直す工程がないからである。
このレジバッグの一番の売りは、時間の短縮である。買い物のわずらわしさを軽減してくれる。私はレジバッグを、スーパーに行く際はいつも持ち歩いてるが、その都度「これほど便利なものはない」と思うのだ。時間が短縮するからだ。周りを見ていると、ほとんどの人はまだ持っていないのではないか。多くの人に「こんないいアイテムもあるんですよ」という意味も込めて、文章を書いている。
買い物カゴ(B)からマイバッグに詰め替える時間が一気になくなるのだ。この快感は、実際にレジバッグを持っている人でなければ分かるまい。突然、なくなるのだ。レジで商品を精算した後に、マイバッグに詰め替えるという工程が丸ごと消えてしまうのだ。レジで商品を精算すれば、そこで終了なのだ。大量の商品が入ったレジバッグを、買い物カゴ(B)から外して、そのまま持ち帰ることができる。わずらわしく思っていた買い物が、急に短くなった気持ちよさ。時間にしておよそ5分。たかが5分、されど5分である。
普段、当たり前にやっているスーパーでの買い物を、わざわざ分解して細かく説明してみた。レジバッグの使いやすさを表現したかったからである。ミニマリストの私ですら、レジバッグは「あってもいい」と考えている。生活の中の必需品となっているのだ。買い物を5分短くしてくれる、所有物のレギュラーを張れるアイテム。レジバッグ。ぜひ試してみてほしい。
◻︎ライタープロフィール
千葉とうしろう(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
宮城県生まれ。警察に就職するも、建前優先の官僚主義に嫌気がさし、10数年勤めた後に組織から離れてフリーランスへ。子どもの非行問題やコミュニケーションギャップ解消法について、独自の視点から発信。何気なく受けた天狼院書店スピードライティングゼミで、書くことの解放感に目覚める。
http://tenro-in.com/zemi/97290