生産性アップ無縁人間《 週刊READING LIFE Vol.52「生産性アップ大作戦!」》
記事:不破 肇(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
神様は意地悪だ。
せっかく入ったライターズ倶楽部、しょっぱなから忙しすぎで提出が出来なかった。
1回目の課題は「大人のための「夜ふかし」カタログ」だった。そんなこと言われても夜もずっと仕事してるし、夜更かししてるし、とか思いながら、結局書かなかった。
いや、これは本当のことで、寝る間がなかったぐらい忙しかった。
そうしたら次の課題が出た。
「生産性アップ」……もう無理だ。
生産性アップなんて俺が一番苦手なやつ。
だいたい、小学生の頃から計画を立てて物事を進めることが大の苦手。
夏休みの宿題だって、いつもギリギリ。読書感想文なんかでも、ちゃんと終わった試しがなく、最後まで読んでいないのに、途中でやめてあとがきを見てだいたいこんな感じだろうと勝手に推測して文章を書いていた。兎に角勉強が大嫌い。もうずっと釣りをしているか、ザリガニ採りをやっているか、虫を捕まえているかしていたい。「何で勉強なんてせなあかんねん」といつも思っていた。それに、人に言われるともう一気にやる気がなくなる。
「肇、宿題は?」と母に言われるのが大嫌い。それを言われるのが本当に嫌だった。
いっつもやろうと思っているところに言われる。
「これからやろうと思ってたとこやのに」
となって、ふてくされてやめてしまう。
そんな人間なのだ。
だから、人様に「こうやったら効率が上がりますよ」なんてことを偉そうに言えた柄ではないのだ。なのに今回の課題は生産性アップ大作戦的なもの。神様は意地悪だと思ってします。
いや、神様すみません。神様のせいにしてしまいました。全部私が悪いのです。
現に、今回の課題だって9月28日(土)提出で、やっと今書き始めたばかり。あっ、今というのは9月28日の朝の4時30分。昨日の夜やらなきゃと思っていたけれど、家族で食事に行くことになった。息子とは最近は週に1回程度しか一緒に夕食を食べられない。彼は大学生になり、友達付き合いやバイトなどでいつも家で夕食を食べるということがなくなり、私は仕事で決まった時間に家に帰ることが出来ないからだ。だから、一緒に食べる機会があれば、それは優先したい。そして、折角一緒に食べるなら美味しいものが食べたいし、お酒も呑みたいのだ。
私の場合は、お酒を呑むと途中で引き返すのは出来ない。しっかり呑んでしまう。つまり、酔っ払うのだ。だから、生産性を上げようと思ったら、お酒を止めればいい。そんなことは生まれる前から分かっているし、いつも思っていることだ。でも、お酒を呑みながら食事をする家族との時間を無くしてまで、生産性を上げるつもりは毛頭無いのである。
もう、課題のことなどすっかり忘れて家族との夕食をガッツリと楽しんだ。
だから、大人になっても子供の時に、宿題をやらずにザリガニ採りばかりやっていた自分と何ら変わっていなくて、楽しいこと優先のだめ人間なのだ。ライターズ倶楽部の人たちは優秀で頭が良いと関心してしまう。「あ〜俺なんて到底無理」と思ってしまう。
あと、変なところにこだわりがあって何かをやろうと思うと「場」が気になってしまう。例えば、勉強をする時に「いざ!」と思って机に座ってみると机の上が散らかっている。時間が無いのに、これでは勉強が出来ないと思ってしまって、何を始めるかというと机の上を整理し始める。掃除にハマってるしまうのである。
そんな昔からの癖が先週大きく出てしまった。
実は、ライターズ倶楽部初の課題、「夜更かしのススメ」を書こうと思って時間を取っていた。
その前にNetflixの「こんまりメソッド」がすごい! と誰かに教えてもらったことを思い出して、ちょっとだけ見てみようとテレビをつけてしまった。そうしたら、めちゃめちゃ面白くて何話も見てしまい、それだけで時間が過ぎてしまった。しかも、何かを聞いたり、覚えたりするとすぐにやってみたくなる性格で、「こんまりメソッド、やりたい!」となってしまったのである。
「こんまり」とは、近藤麻理恵を略したもので彼女がアメリカの部屋を綺麗にしたいけれど出来ない家に訪れて、その家を綺麗にしていくというシンプルな内容のハウツードキュメンタリーだ。「どうせ掃除のノウハウでしょ」と私は少し軽く考えていた。しかし、実際に見てみると、どうしてどうして、家を綺麗にするということが、イコール心のあり方やライフスタイルにまで及んでしまう。だから、奥が深い。
例えば、彼女はその家に行って掃除を始める前に家に挨拶をする。まずは挨拶をする場所を決めてから、正座をする。そして、目を瞑って何かを家に語りかけているように「うん、うん」と首を上下に揺らす。そして、両手を膝の横に持ってきて、指先を後ろに向けてくいって返して、床に手のひらをつけて深く頭を下げる。そして、直って「はい、終わりました」と言って目を開けて、家主さんを見て「はい、それでは始めましょう」となる。
上手いなぁと思う。
本当に家に挨拶をしているのだと思うけれど、正座をして目を瞑るという行為はアメリカではあまり無い。そして、めちゃめちゃ日本的であり、神聖な空気感を作り出すことが出来るのだ。だから、依頼主の家の方はそれだけで「こんまり」にやられてしまう。人によっては、その挨拶の儀式だけで感動して涙を流す人もいるくらいだ。
「こんまり」の真骨頂は洋服の片付けにある。まずは、「家にある服をベッドの上に全部出してください。」から始まる。大抵の家では、ベッドの上が山のようになる。そして、「捨てるか、捨てないかはときめくかときめかないかで決めてください。」基準は「キューン」です。家主さんたちも「キューン」とか言いながら服をいるもの要らないものに選別していく。でも、人によってはなかなかそれが出来ない人がいる。「この服はこんな時がきたら着るかもしれない」「これはあの人にもらった大切なものだから、着無いけれど捨てられない」と言い出す。そして、人によっては「ダメ。捨てられないの。」と涙を流すのである。これが、家を倉庫化している根本的な原因なのだが、「こんまり」は強制することなく、自然な流れの中で家主さんたちの心を絆し、時間をかけて導いていく。「今日はこのぐらい」という加減が人によって違う。このあたりも番組の魅力に繋がっていて、各回毎に人間模様が浮き彫りになって共感を生んでいるのである。だから、「こんまり」は面白い。
私の場合は、時間が無いのに「こんまり」を見てしまった。そして、そこで終わっておけばいいものを今度は自分も「こんまりメソッド」を初めてしまう有様。
これは大ごとになった。
クローゼットからタンスに、押入れにまで入っている自分の服を全部引っ張り出した。そして、「ときめき」を基準にやり始めてしまった。番組の中で泣いていた人がいたけれど、他人事として見ていたが、いざ自分が捨てる身になって自分の服と向き合った時、過去の自分が服の中にいて、語りかけてくるのだ。これには参ってしまった。
特にキツかったのは二つ。
一つは、親父の形見的なコートが出てきたこと。カシミアで作られたものだったが、形が古く、かつ私が大きくなってしまって(太った)、着れないというもの。
もう一つは、息子と一緒に活動をした野球チーム時代のジャージや応援用のTシャツなど。
二つともに共通点があるのは、大切な想い出であるということなのだ。
だから、今までも絶対に着ないのに置いていたのだ。
この代表的な形見、想い出の服という厄介な洋服がまあタンスやクローゼットの大半を占めていたのである。
結局捨てた服の数は、大きなゴミ袋8個に及んだ。
大騒ぎとなった私の「こんまりメソッド」はかれこれ5時間を要してしまい、後の予定がめちゃくちゃになってしまった。
さっき、忙しくて書けなかったと言うのは嘘です。本当に書けなかった原因はこれです。
ライターズ倶楽部初投稿をしなければならない大事な日にこの有様で結果、未提出に終わったのだ。つまり、私は非効率を絵に書いたような人間なので人に生産性アップのためにはこうしたら良いですよなんてことは絶対に言えないのである。
しかし、実は「こんまり」メソッドを実行した後、私はかなり生産性が上がっている。
それは、まずは洋服選びに迷いが無くなった。そして、ときめく服を着ているのでテンションが上がる。自分自身を今までより少し好きになる。だから、仕事にも精がでる。自分がときめく服を着ているので、人と会うのも今まで以上に楽しくなった。会話も弾む。ポジティブシンキングになるので、仕事も良い方向に向かっていく。という好循環が訪れた。
そうか、こんまりメソッドは生産性アップに繋がったのだと気がついたのだ。
だから、生産性を上げるためにまず身の回りを自分がカンファタブルだと感じる環境にするということが大切だ。そのためには、自分の持ち物を取捨選択する。そうすると、実は行動も取捨選択出来るようになる。この行動はときめくかときめかないか。自分に本当に必要なのかを問いかけてみると良いと思う。
もう少し言うと人付き合いもそうかもしれない。あの人はときめくかときめかないか。
そんな風に余計なものを思い切って捨てていく。
そうすると、だんだんと思考や行動が研ぎ澄まされてくるので、生産性も上がっていくと思うのである。
そして、改めて自分を振り返ってみると、小学生時代を含む学生時代、宿題はいつも直前ギリギリ。この癖は社会人になっても同じ。企画書もやっぱりギリギリが多い。
しかし、宿題を提出しなかったことは無かった。
社会人に入って、仕事に穴を開けたことも無い。
今、朝の6時45分。今日はこれから天狼院書店の青山ゼミ(写真)が10時からあるし、この後、今日入稿の仕事の原稿を9時までに仕上げなければならない。だから、この原稿に掛けられる時間は後15分。
それで気がついたのである。
ひょっとすると私の生産性をアップさせる一番のメソッドは、自分をギリギリにまで追い込むということなのかもしれない……
でも、しかしである。
いつもギリギリの人生はしんどい。
だから、これからは少し余裕を持って生きたいなぁなどと思う今日この頃である。
◻︎ライタープロフィール
不破 肇(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
日大芸術学部写真学科卒業
学生時代カメラマンを志すも、サラリーマンになる。
現在は広告会社を経営しているが、
50歳となった今頃、昔の志の燻った火が灯り初め生き方を
改めて模索している。
http://tenro-in.com/zemi/97290