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週刊READING LIFE vol.53

それ、一度やめてみたら?《 週刊READING LIFE Vol.53「MY MORNING ROUTINE」》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

「朝習慣で人生が変わる!」
とよく言われることがある。これは本当なのだろうか。
 
私は10年以上、毎朝ヨガをする生活をしていた。
 
朝5時半に家を出て、6時にスタジオにつき、練習を始める。先生がときおりアジャストと呼ばれる手助けをしてくれながら、1時間半ほどのシークエンスを練習する。
この練習方法はマイソールスタイルと言われるもので、南インドにあるマイソールと言う街で、パッタビ・ジョイス氏によって考案されたものだ。
 
「毎朝、6時から、1時間半毎日練習する」
 
ときくと、大抵の人は驚いてのけぞる。
そんな時間よくあるよね、とか、そこまでヨガにはまって大丈夫、とか、これからはもう夜飲みに誘わないね、とか。毎朝練習をしているというだけで、とにかくストイックな人に見られてしまうようだ。
 
しかし、朝マイソールの練習をする人たちは、決してストイックではない。どちらというと、ゆるい感じ。なぜならヨガをするような人種だから、丁寧に暮らをしたいとか環境を大切にしたいとか殺生はいやだとか、一般社会の中においてはかなりスローなライフスタイルを好む平和な人たちだ。誰も激しく競争したり、敵を蹴落としたりなどとは考えない、ヒッピーな生き方を好む人種だ。しかし日本では、毎朝練習するとか、お肉食べないとか、コンビニ弁当食べないとか、環境に対して優しい生活をしているというと、それだけでストイックというラベルをはられてしまう。
 
朝6時に始めた練習は7時半には終わり、8時前にはスタジオを出ることができる。そこからめいめい自分の職場に向い、それぞれの仕事をしている。普通の、会社勤めをしている人たちばかりだ。私も彼らに混じって、朝練習をしてから仕事に向かい、夕方5時頃まで働く生活をしていたのが12年前のことだった。
 
ほどなく引っ越しが決まった。イギリスのロンドンで暮らすことになった。しかしヨガの習慣は変わらない。同じくマイソールスタイルで練習できるスタジオを探し出し、そこに通う生活が始まった。必ず街のどこかでマイソールの練習ができるスタジオが一つ二つは存在するのはありがたい。自宅でも練習はできそうなものだが、やはり集中できる環境があるのと、先生が見ていてくれているのとでは練習の濃度が全然違う。
 
そもそもなぜ、朝にヨガをする羽目になったのか。
「健康的な生活をしよう」とか「ヨガを取り入れたロハスなライフスタイルにしよう」と一念発起したわけでは、全くない。気がついたらこうなっていた。
 
お正月で帰省した京都で、たまたま時間が有り余っていたために参加したヨガクラスがとっても気持ちよく、そこから定期的に練習するようになった。仕事をしていたので通えるのは平日の夜か週末だけ、最初は週に1,2回で十分だった。
 
ほどなく、父の病気が発覚したことで仕事をお休みすることになった。
すると自由になる時間が増え、また父の病気とそれを支える家族に重苦しい空気が流れはじめて、気が晴れない日が続いた。そのときヨガがちょうどよかった。
 
カラダを動かし、心を無にして集中する。汗をかき、呼吸をする。
ヨガは動く瞑想とも言われているように、不幸や不安で凝り固まった心を整えるのにぴったりだった。こうして週1だったヨガは週2になり、週3になり、気づいたらほぼ毎日通っているような状態になった。
 
そんなときとある先生が、マイソールクラスのことを教えてくれた。
毎朝6時からプラクティスができる環境があるときき、最初は耳を疑った。
そんな早朝から集まってヨガをしている集団なんて、なんだか気持ち悪いとすら思ったし、まさかそんな、自分がストイックに早朝に起き出して、朝練に通うようになるとは思ってもみなかった。
 
それでも、素直に参加してみた。素直さが私の取り柄である。勧められたものはひとまず「ハイ」で答えるようにしている。
朝6時からの練習に一度参加してみたら、その違いに圧倒されて、それから毎朝欠かさず通うようになった。
 
昼や夜のプラクティスと、朝のプラクティスは全然違う。
ヨガは朝に行うものだ。精神を研ぎ澄ませ、カラダを動かしてエネルギーを循環させ、一日の活力を充電させるものだから、夜にヨガをすると眠れなくなる。
 
朝充電したエネルギーは丸一日の活動を根底から支えてくれる。
早起きしているはずなのに、誰よりも一日元気いっぱいで過ごせるのだ。
これはもう、最高の武器を手に入れたと言ってもいい。
 
こうして、10年間、毎日欠かさず練習してきた。
妊娠出産で少しお休みする時期はあったものの、生まれる当日まで練習し、また生まれてからは2ヶ月で復帰した。練習をしないことがむしろ気持ち悪いし、とにかくやりたくてしかたがないのである。ヨガはまるで、歯磨きのようなのだ。歯磨きは必ず毎日行い、やらなかったら気持ち悪いばかりか、虫歯になったり口臭がひどくなったりする。
そしてヨガも毎日やらないと気持ち悪いし、変なコリが溜まって疲れやすくなったり病気しやすくなるだけでなく、ネガティブな感情を溜め込みやすくなったり、人の言葉に傷つきやすくなったりする。それほどまでにこの、朝のルーティンは、私にとって欠かせないものになった。
 
2年前までは。
 
2年半ほどまえ、突然肩に痛みが走るようになった。
「少し休んだら、治るかな」の希望とはうらはらに、いつまでたっても治らない。1ヶ月、2ヶ月たっても全く回復する様子を見せることがなく、毎日変わらず痛みがある。かばいながら練習を続けていたものの、さすがに痛みがピークになり、ある時点からヨガをすることをやめてしまった。それがちょうど2年前だった。
 
突然朝のルーティンを断念しなければならなくなり、そのことは私のカラダよりも、ココロに堪えた。大切なものを手放さなければならなくなったこと、また肩の痛みが尋常じゃなく、病院に行っても何も解決策がないことで私は落ち込み、それは私の生活をがらりと変えてしまった。
 
ヨガのルーティンがなくなり、なにか拠り所にしているものが無くなってしまった。朝早く起きる必要もなくなった。時間も生まれた。だから私はその時間と有り余るエネルギーを別のことに費やした。
 
それが立ち上げつつあった自分の仕事だったり、育ちゆく子どもの子育てだった。
ヨガで培った精神力や忍耐力、そして集中力といったものが、この一番しんどいときに自分をどれだけ支えてくれたかと思うと、10年続けていて本当によかったと思う。
 
2年間がむしゃらに働いた。そのおかげで子どもはしっかりと育ち、また私の仕事もうまくまわるようになった。肩の痛みもようやくなくなり、また積極的にカラダを動かしてもいいなと思えるようになった。
 
この大切なルーティンを手放さなくてはならなかったときは、ぶっちゃけものすごく残念だったし、挫折感を味わったし、そして何より不安で、自分を肯定できないぐらいまで落ち込んだ。しかしそれを一旦手放してみたら、想像を超えるようなものや感情を手に入れることができている。
 
朝のいいルーティンはたしかに自分の人生を豊かにしてくれる。
しかしそれを一度手放してみら、もっと大きなものが得られること気づいた人はまだ多くないだろう。
 
あなたのその、朝のルーティン、一度手放してみてはいかがだろう。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

 
 
 
 

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2019-10-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.53

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