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週刊READING LIFE vol.54

人生の「底」から這いあがれた訳《 週刊READING LIFE Vol.54「10年前の自分へ」》


記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ああ、なんで私ばっかりこんな目に遭うんだろう……」
 
あの頃、私は肩を落とし、時には涙もこらえることができず、大阪のとある地下のショッピングモールを歩いていた日々だった。
 
当時の私は、結婚して15年以上が過ぎていたが、その関係はとうに破綻していた。
恋愛結婚で結ばれた当初、パートナーに対しては、もちろん愛情がたっぷりあった。
好きで結婚したのだから、当然と言えば当然だった。
 
ところが、結婚生活を共に過ごすにつれて、様々な問題が起こってきた。
夫は外へ外へと気持ちも行動も向かっていったのだ。
なんとか引き留めようと私なりには努力をしたが、そんなことでは解決できるようなものではなくなってしまった。
 
世間的には、きっと結構な夫婦に見えただろう。
形ばかりの夫婦というのは、とても心が寂しいものだった。
娘が一人いるので、子どもの親であるという同士という関係に変わり、相手に対しての情はあるが、愛は抜け落ちてしまった。
 
そんな中、サラリーマンだった夫は、一言の相談もなく会社を辞め、独立すると言い出したのは、今から14年前のことだ。
4歳年上の女房。
同じ会社で仕事をしていたので、私がどれくらいの働きができるかは相手には計算済みだったのだろう。
否応もなく、手伝うことになったのだ。
会社を創ることなど知らなかった私は、司法書士や会計士の先生に相談しながら、銀行口座の開設や定款の作成など、やるべきことを一つずつやって、何とか株式会社のカタチを作り上げた。
それだけではなく、日々の業務、経理、雑用、なんでもやらなければならなかった。
 
やがて会社は軌道に乗っていき、従業員を雇うこともできるようになった。
そうなると、営業業務は任せることができ、経理と雑用だけになったが、それ以外の問題も起こってきた。
何しろ、ワンマンで人の言うことを聞かない社長である夫と、従業員との板挟みになったのだ。
つまり、私が中間点にいて、お互いの言い分を伝言するような役目だ。
これが、なかなか辛いものだった。
 
身体ともに疲弊していくのだが、冷め切った夫婦である、夫からの労いの言葉は皆無だった。
それどころか、会社の成功は自分の力と豪語し、周りへの感謝のかけらも見られなくなっていったのだ。
調子に乗っている人間の哀れな姿を見ているようで、とても悲しい気持ちでいっぱいだった。
目の前にいる人間なのに、誰よりも遠くの人間のようにしか感じることが出来ず、将来に対しての絶望感が募っていったのだ。
 
愛は早々に抜け落ち、情だけでぶら下がっていた夫婦。
その情も消えてしまったのだ。
 
それでも、仕事をしなくてはならなかったあの頃。
私は、通勤で通る地下のショッピングモールを歩きながら、涙をこらえることができなかった。
 
「今が人生の『底』なのかな」
 
そんな思いがするほど、疲れ果てていた。
 
それでも、当時の私は、「離婚」を決めることができなかった。
お父さんを大好きな娘がいる。
経済的に不安がある。
実家の母に心配をかける。
世間的にどう思われるだろうか。
離婚が出来ない理由ばかりが頭を埋め、気持ちは行ったり来たり。
人生最大の問題をどうしても決断することができなかったのだ。
 
そんな時、私が取り組んだのが断捨離だった。
物心ついた頃から、整理・収納が得意だった。
親や周りの友だちからも、いつも家が綺麗だと褒められてきた。
ところが、そんな家にいることが実は好きではなかったのだ。
外側から褒められる自分と内側では家が好きでなかった自分がいた。
そのギャップを埋めてくれたのが断捨離だった。
 
整理・収納が得意ということは、なんでもかんでも詰め込んでいたのだ。
つまり、そのモノを使うのか使わないのかを決めることを、先送りしていたのだ。
紙切れ一枚、要るか要らないかを決められない私が、人生最大の問題を決められるわけがなかったのだ。
 
断捨離で、目の前のモノ一つひとつを手に取り、「これ、要る、要らない?」と自分に問いかけ、取捨選択をどれだけやっただろうか。
やがては、「今の私が何をしたいのか」という自分の思いがはっきりとしてきたのだ。
今の気持ちがはっきりとわかると、未来の自分にも自信が持てるようになった。
未来は、今の自分が作るのだから、きっと大丈夫だと思えたのだ。
それよりも、今、イヤだと思うことを取り除くことが大切だとわかったのだ。
 
「離婚」が成立して7年。
「離婚」という思いが頭をかすめるようになってから、12年目に行動に移せたのだが、心配していたことは何一つ起こってはいない。
 
やっぱり、その問題が大きければ大きいほど、決めるということは怖いことである。
それでも、今、目の前にある問題を解決することでしか、幸せな未来へは向かえないのだ。
 
ひと月ほど前のことだ。
あの、肩を落とし涙をこらえられずに歩いていた、ショッピングモールに行く機会があった。
何年ぶりだっただろうか。
久しぶりということもあったが、そこはとても変わっているように思えたのだ。
あの頃は、なんだか暗くて、寂しい印象だったのだが、お店の交代を抜きにしても違う印象だったのだ。
 
ああ、それもそのはずだね。
だって、今の私は、どんな場所も笑顔で歩けるから。
見え方も違っているんだね。
 
人生の「底」を感じることは誰にでもあるはずだ。
そんな時こそ、「今の自分はどうしたいのか?」
自分に問いかけ、行動をおこしてゆくことで、いくらでも這い上がれるものだ。
 
10年前の私へ。
「自信をもって、今の自分がやりたいことを決めていいんだよ」
そんなふうに声をかけてあげたい。
いや、あの時、どこかでそんな声も聞こえていたのかな。
今の私があるのは、あの時に人生の「底」を味わったからこそ、かもしれない。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

 
 
 
 

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2019-10-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.54

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