週刊READING LIFE vol.54

後悔しないために2点だけ言わせてくれ《 週刊READING LIFE Vol.54「10年前の自分へ」》


記事:千葉とうしろう(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

10年前の自分に伝えたいことがある。2点だけ言わせてくれ。広い視野を持つこと、それと自分の本音を諦めないこと。この2点だ。私は今、あの時よりも時間が経ち、こうしてスタバで文章を打っている。今こうしてスタバで文章を打っている自分になるまで、数々の出来事があった。分かれ道もいくつか経験してきた。後悔したこともたくさんある。確かに後悔しない人生なんてないのかもしれないが、それでももっと後悔しない人生があっても良かったんじゃないのか、と思うのだ。その為にはどうすれば良かったのか。人生を今よりも後悔しないものにするために、昔の自分はどうすれば良かったのか。君に言わせてくれ。この2つだろう。広い視野を持つことと、自分の本音を諦めないことだ。
 
自分の本音を諦めないとは、「自分がやりたいことをやれ」ということだ。何も難しいことじゃない。なのに、どうして君は自分の本音とは離れたところにある選択肢を、いつもいつも選択してしまうんだ。本当はそっちじゃないだろう。中学校の時は、高専高校に行きたかったはずだ。高校生の時はバスケ部に入りたかったはずだ。大学ではスキー業界に就職したいと思っていたはずだ。なのにどうして、何もせずに諦めてしまたのだろう。自分の本音は分かっていたはずだ。「本当はこうしたい」「自分はこんなことがしたい」っていうことを親や友達に話してきたはずだ。なのに、なぜそれとは別の道を歩んでしまっているのか。
 
中学の時に高専高校に行きたいと思ったのは、ロボットコンテストに出場したいと思ったからだ。ロボットコンテストとは、高専高校の生徒たちが10人弱(だと思われる)でチームを作り、「制限時間内にいくつのボールを枠内に入れられるか」などの簡単なルールで、自作のロボットで競い合うコンテストだ。テレビでそのロボットコンテストの様子を見て「自分も出場したい」と、ロボットを操っている高専高校の生徒を見て「自分もこうなりたい」と、高専高校の生徒たちが操っているロボットを見て「自分もこんなのを作れたら人生が楽しいんじゃないか」と思ったはずだ。
 
が、結局は普通科の高校を選択してしまった。親には言ったはずだ。「高専高校に自分は行きたい」と。けれど否定されたのだ。「お前は数学ができないのに、数学の専門に行ってどうするんだ」「自分だけが数学ができない。そんな環境に耐えられるのか」と言われて、諦めてしまったのだ。親が悪いとは言わない。悪いのは自分なのだ。高専高校に行く道を諦めたことがいつまでも忘れられないのは、本心から遠く離れた選択をした自分が許せないからだ。
 
本心から離れた選択をした結果はどうだ。普通科の高校に行って、意味もない授業を受けて、部活をするわけでもなく、仲のいい友達ができたわけでもなく、充実感も味わえず、無駄に三年間を過ごしてしまったではないか。高校が終わってから家に帰るときの、「自分は何をしているんだろう」感。そんなものを味わってしまったではないか。
 
やはり充実した人生を過ごすには、自分が信じる道でなくてはダメなのだ。たとえ親であっても、自分ではない他人に、自分の心の形は分からない。何を持ってくれば、自分の心の隙間が埋まるのか。そんなものは自分にしか分からない。
 
高校に入ってからも、どうしてバスケ部に入らなかったのか。中学のとき、部活でバスケをしていて、あんなに楽しかったじゃないか。コートの上を、汗だくになって仲間とボールを追いかけて、あんなに充実感を感じていたじゃないか。夏休みの暑い日、水を喉から手が出るほど欲しがって、そんな中でもゴールに向かってボールを放っていたじゃないか。広い体育館に響くボールが弾む音が楽しくて、気分をウキウキさせて、しょうがなかったじゃないか。なのにどうして高校でバスケ部に入らなかったんだ。
 
本心では分かっていたはずだ。自分がバスケ部に入りたいことを。中学のとき、バスケ部の仲間と話し合ったじゃないか。「お前は高校でもバスケすんの?」そんな話題をしていたじゃないか。本心ではバスケをやりたかったと分かっていたはずだ。それでも結局は、「何もしない」「部活をしない」という選択を選んだんだ。新しい環境に飛び込む勇気がなかったんだ。新入生のとき、バスケ部の練習を覗きに行ったじゃないか。体育館の入り口まで行ったのに、なぜあの時に勇気を持って入らなかったんだ。自分の「やりたい」という本心のないところに、充実した人生はありえない。自分の本音に従うこと、そのために他の雑念を捨てること。それをしなかったが故に、充実感のない三年間を過ごしてしまった。
 
それと、広い視野を持つことだ。広い視野は、本を読むことで得られる。自分の世界が全てだと思っていただろう。あの時、自分は本を読むことを知らなかった。自分が本を読むことを始めたのは、ここ4〜5年の話だ。だから、本を開いた向こう側にこんなにも色とりどりの世界があることを知らなかった。本を読むことで、こんなにも世界が広がることを知らなかった。「本には自分が知らないことが書いてある」という当たり前のことを自分ごととして考えることができなかった。だから自分の人生を、少ない選択肢の中から選ばざるを得なかったのだ。
 
自分はそれまで通りの人生を歩むつもりだった。自分が育てられた通りの人生を送ることが、自分がすることだと思っていた。地元に住んで、家を買って、過去を大事にして。でも、そんなことにこだわっていては、人生は開けない。本を読むようになって知ったことだ。
 
人口が激減している。世界では日本よりも裕福な国がたくさん出てきている。世界情勢は変わる。そんな中で、これまで通りの価値観でいたって、うまく人生は渡れない。それまでの価値観を譲らずに大事にするのではなくて、激変する社会の中で柔軟に生きる。自分を変えて、過去を変えて、前を向いて生きる。そうすれば充実した人生を生きられる。そんなことを本を読むようになって学んだのだが、それを知らなかったが故に、自分は過去にこだわってしまった。過去なんか関係なく、過去を変えても全然構わないことが、頭に入っていなかったのだ。
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大学のあの時、スキー業界で働きたいと思っていたじゃないか。スキーというスポーツが楽しくて、自分は下手だけど、スキー業界というピラミッドの一部になって仕事がしたいと思っていたじゃないか。なのに君は諦めたんだ。「スキー業界には、スキーが上手くないと入れないだろうし、スキー業界は斜陽産業だから入っても充実した人生は得られないよ」という考えに行き着いてしまったのだ。あの時は、本を読んでいなかったからそれを真に受けてしまった。人生は歩むことで切り開かれることを分かっていなかったのだ。
 
本屋には自己啓発系のコーナーがあって、そこに並んでいる本を開けば、チャレンジこそが、リスクこそが、一途に進むことこそが、道を切り開くための方法だと言っている。諸説あるだろうし、万人が色々な意見を持っているだろうが、自分はそれが正しいと思っている。好きであれば続けられるし、続けることで、継続することで、数を何回もこなすことで、人生を切り開くことができると今では頭で分かっている。それは、そんな風にして人生を切り開いてきた人間がたくさんいて、それをなおも今実行中の人間がたくさんいることを、本を通して学んだからだ。
 
大学のあの時、自分はあまりにも視野が狭かった。本の向こう側の世界を知らず、直接に見聞きした事しか頭になかったから、選択肢があまりにも少なかったのだ。
 
10年前の自分に言いたい。「それは本音なのか」と。どうしてワザワザ自分の本音とは違うことばかりを選択してしまうんだ。本当にやりたいことにこそスポットライトを当てるべきだし、そのためには視野が広くないといけないだろう。自分に自信を持って、やりたいことを諦めず、前に進むこと。自分のやりたいことをするには、数ある中から方法を選ばなければならなくて、そのためには選択肢の多さが必要。本を読むことで世界が広がって、視野が広がる。人生の選択肢が広がるのだ。自分の本音の道を歩むための方法が増えることになる。自分の夢に行き着くまでの道を、選べるようになる。
 
だから、本音を諦めないでほしい。視野を広く持ってアンテナを高く張ってほしい。後悔しない人生を歩むためには、充実した人生を歩むためには、その2つが必要なのだ。
 
そして、今この文書を打っている自分にも言えることだ。こうして10年前の自分に言おうとして届かなかった思い。これは、10年後の自分から今の自分に届いた声なのだ。この文章を書いている今の自分はどうだ? 本音でもって生きているか? 視野が狭くなっていないか? 少ない選択肢の中から無理に選ぼうとしていないか? 10年後に後悔しないために、10年前にできなかったことを今するんだ。本音を諦めないで生きてほしいし、本を読んで視野を広くもってほしい。10年前にできなくて今後悔しているけれど、10年後に後悔しないために、今はこの2つを大事にするんだ。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
千葉とうしろう(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

宮城県生まれ。警察に就職するも、建前優先の官僚主義に嫌気がさし、10数年勤めた後に組織から離れてフリーランスへ。子どもの非行問題やコミュニケーションギャップ解消法について、独自の視点から発信。何気なく受けた天狼院書店スピードライティングゼミで、書くことの解放感に目覚める。

http://tenro-in.com/zemi/102023

 


2019-10-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol.54

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