週刊READING LIFE vol.57

孤独は、シェアすることで怖いものではなくなる《週刊READING LIFE Vol.57 「孤独」》


記事:坂田幸太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「は〜〜い、どうも、●●です〜〜」
それは突然はじまった。
これは私が都内某所のファストフード店で物書きにふけていた時に遭遇したまさに時代を象徴するような話だ。
私はカウンターテーブルで物書きをしていた。
カウンターテーブルなので当然、左右どちらか、もしくは左右両方に知らない人が座る。
その時も、私が席に座った数分後に女性の方が隣に座った。
歳は恐らく20代前半だろうか。
顔はしっかり見ていないが、横目から入る情報から推測すると20代前半、もしくは19、18、そんなところであろう。
特段気にすることもなく、私が作業に熱中していたその時、
突然「は〜〜い、どうも、●●です〜〜」
と、隣から囁き声が聞こえたのだ。
独り言?と思ったが、独り言というよりかは第3者に向けた挨拶のように聞こえた。
しかし、彼女にお連れの方はいない。1人だ。
でも、あきらかに第3者がいる。
と、いうことは今流行りのYouTuberだろうか。
YouTuberであれば、1人で挨拶をしている現象も納得がいく。
私は、彼女に気づかれないように隣を確認した。
すると、思った通り彼女はスマホのインカメレンズに向かって挨拶をしていた。
あの挨拶は視聴者に向けたものだった。
一連の疑問が解決してスッキリしたところで、私は作業に集中しようとしたその時、
また彼女の囁き声が聞こえた。
撮影を行なっているのだから囁いでいても特に気にすることはない。
だが今度の囁き声は、たんなる囁きではない。
言うなれば呪文だ。
まるで、呪文を呟いているようだった。
ブツブツブツブツ。
意味の分からぬ呪文を唱えているように聞こえたのだ。
怖い、怖い、怖い、怖い。
東京は様々な人がいる。魔術的な能力を持ち合わせている人がいても不思議ではない。
そんなことを思いながら、私は恐る恐る隣の方へ耳を傾けた。
すると、呪文に聞こえた彼女の呟き声から、しっかりとした日本語が聞こえた。
「○○ちゃん、こんにちは!」や「××さん、はじめまして!」など、呪文に聞こえたブツブツから、誰かに向けた挨拶が聞こえたのだ。
なぜ、挨拶が呪文のように聞こえたかというと、「○○ちゃん、こんにちは!」や「××さん、はじめまして!」などの挨拶を普通の喋り言葉の1.5倍速度の速さで喋っていたからだ。
しかもファストフード店なので大声は出せないのでブツブツ呪文のように呟くより他がなかった。
それがわかったのと同時に彼女がYouTuberでないことも分かった。
YouTuberは、視聴者1人1人に挨拶はしない。
撮影する時点で誰が見るかなんてわからないからだ。
すると、彼女はなにものなのだろう。
答えは1つ。彼女はライブ配信者だ。
ライブ配信者とは、その名の通り生放送をする人だ。
リアルタイムで配信するため、誰が視聴しているかが分かるので視聴者に一人一人に挨拶ができるというわけだ。
視聴者が増えると当然挨拶をしなくてはいけない回数が増える。
その挨拶を通常スピードで行うと挨拶だけでライブが終わるので配信者はどうしても早口になってしまうのだ。
ライブ配信は、配信者サイドが一方的に情報を提供するだけではない。
視聴者からはリアルタイムでコメントが届くため、視聴者と意思疎通ができる。
そのコメントや、視聴者の反応を見て配信者は配信の内容を変えたり、コメントに反応したりと、臨機応変な対応能力が求められる。
もしかしたらYouTuberよりも大変かもしれない。
コメントを無視したり、挨拶をしなかったら早口にならずに自分のスピード感で話せるだろうが、それはライブ配信者としてはあまり好まれないらしい。
ライブ配信を見ている人というのは、配信者の独演会を聞きに来たというよりかは、配信者とコメントを通して会話したい人が多いとのこと。
だから、配信者は、一人一人と挨拶を交わし、コメントにも真摯に応じるのだ。
いあば、多くの人と会話している状況なのだ。
そうかんがえたら、配信者が早口なのも説明がいく。
視聴者が1人であれば普通のスピードでも会話が成立するが、複数の人と会話するのであれば普段のスピードの会話では成立できない。
なるほど、早口になるわけだ。
と、納得し、彼女の方をチラ見した。
するとなぜか彼女は配信をしながら勉強をしていた。
たまにコメントがきたら、それに返すだけで基本は勉強をしていた。
面白いトークをするでもなく黙々と勉強をしていた。
しかし、視聴者はその彼女の勉強姿を視聴しているようだった。
なんでも、彼女は8時間ほど生配信をしているとか。
何かイベントがあったわけでもなくただ淡々とした生活を垂れ流しているようだった。
普通の女の子の生活をただ視聴する。
その光景は一見奇妙である。
しかし、ただのお喋り相手、と考えたらどうだろうか。
学生時代、とくに遊ぶことや喋ることがないのに友達の家に行き、マンガを読んだりゲームをした経験があるのではないだろうか。
喋ることがないなら自分の家でやればいいじゃん、と側から見れば思ってしまうが喋らなくても友達と同じ空間にいるのが安心したりするものだ。
その現象が、ネットを通じて行われているとしたら納得できる。
面白いことはやらないが孤独は寂しいからつい配信を見てしまう。
視聴者は面白いコンテンツだから視聴しているのではなく、孤独から開放されたいから視聴するのだ。
Youtubeではなかなか孤独感から開放することは難しい。
撮影が主流のyoutubeではやはり温度差があるからだ。
その代わりYoutubeは撮影し、編集することで面白いコンテンツを提供できる。
逆にライブ配信は編集などができないので面白コンテンツを作ることが難しい。
しかし、生の温度差を届けられるのでまるで一緒に空間にいるかのような演出ができるのだ。
配信者は夜中が忙しいという。
やはり、夜中になると孤独を感じる人が多く、人肌を感じられる配信者のもとへ集まるらしい。
集まって会話をしたり、ゲームをしたりするということだ。
一緒にしゃべってくれる人がそこにいる。
そばにいてくれる人がいる。
何もしなくても、そばに人がいる
それだけで乗り越えられる夜もあるのかもしれない。
孤独はシェアすることで、怖いものではなくなる。
 
学校や、会社と現実社会は益々孤独を感じやすくなっている気がする。
いろんな人がいる社会ですべてを理解し合える人と出会うことは、難しいかもしれない。ついつい孤独を感じやすくなってしまう。
だからこそ、SNSや配信で同じ孤独を抱えている人と出会い孤独をシェアし合うことがこれから必要なのかもしれない。
孤独を感じる夜、そんな夜は気が合う仲間と出会うチャンスかもしれない。
 
孤独のシェア。あなたはもう一人ではない。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
坂田幸太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京生まれ東京育ち
10代の頃は小説家を目指し、公募に数多くの作品を出すも夢半ば挫折し、現在IT会社に勤務。
それでも書くことに、携わりたいと思いライティングゼミを受講する

http://tenro-in.com/zemi/102023

 


2019-11-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.57

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