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週刊READING LIFE vol.80

思い切った禁煙表明とその先に見えた仄かな光明《週刊READING LIFE Vol.80 2020年の「かっこいい大人」論》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「流石(さすが)に、流石に今回は禁煙しようと思います」
本格的に外出衣自粛要請が出される直前の3月30日、私が行ったFacebookの書き込みだ。普段から、私の書き込み等には、殆ど反応が無いものだが、今回ばかりは、100を超える“イイね!”と同数に近いコメントが書き込まれた。
一応、私としては、或る程度意を決した宣言ではあったが、そこまでの反響を予期してはいなかったので、驚きを隠せなかった。しかし、そのコメントの多くは、旧友等からの冷やかし半分のものだった。何故なら、彼等は私の意気地無し振りを熟知しているからだった。中には、
「どうせ、三日と続くまい」
とか、
「何度目の禁煙だ?」
といった具合だった。
実際私は、数十年に亘(わた)って日に2箱(40本)は喫煙していたのだから、無理も無いことだった。禁煙も、数十回、いや、100回近く挑戦している。その全てで、敗れ去って来たのだから。
 
今回、私が無理を承知で禁煙宣言したのは、タレントで芸人の志村けんさんが、新型コロナウイルスに感染し、それを発端として肺炎を併発したことによる。
誠に残念なことだが、志村けんさんは、数日の闘病後帰らぬ人となった。騒動の最中なので、新型コロナウイルスによる逝去と思われていたが、志村さんは入院直前まで仕事をこなしていて、その上、朝迄呑み歩いていたそうだ。近年は禁煙していたものの、それまでは日に100本を超える喫煙をしていたらしい。
入院中だった志村さんに対し、仲間の芸人さん達は、
「退院したら、呑まない様に見張らないと」
とか、
「禁煙だって怪しいから、注意しましょう」
と、言っていたものだった。
しかし、現実に志村けんさんが亡くなると、一様に寂しさを募(つの)らせるコメントが続いた。
私は正直なところ、ウイルスに感染して入院したり、もしもの事が有ったりしたら、迷惑を掛けることが有ると痛感したのだった。
 
これまでの私は、
「禁煙したって、長生きする保証はない」
「空気が最悪だった時代の東京下町で育ったんだから、タバコの煙なんて大したことはない」
とかうそぶいていた。時には、
「下戸の私は、たばこ税位支払わないと税の公平分担の原則が歪(ゆが)む」
といった、屁理屈を言っていた。遂には、嫌煙の風潮に対抗して、
「禁煙する奴は、周りに圧力に屈したからだ。俺は、意志が強いから禁煙しない」
等と、訳の分からないことまで言い出す始末だった。
実際、天狼院に出会いライティングを習ったことで、一丁前にタイピングをする時間が増えた。そうなると、文豪にでもなったかの様な気分となり、咥(くわ)えタバコで執筆する様になった。
禁煙等、する気にもならなかった。
 
しかし、今回禁煙してみると、意外な発見があった。
先ず、コンビニに行くことが無くなり、無駄遣いが減った。これまでは、二日と空けずコンビニに寄ってはタバコと諸々と買い物をしていた訳だ。必要な物が有る時は別だが、殆どが無用な買い物だった訳だ。現在一月半程だが、出費は確実に減っている。しかも、在宅することが奨励されている現在では、タバコを口実とする無駄な外出も減った。
その反面、口寂しく為ったり、手持ち無沙汰に陥ったりしている。我慢すれば済むことなのだが、長年の愛煙家だった私には、それ相応の苦労もある。言い換えれば、今私が経験している苦労と同等かその数倍の苦痛を、これまで周りにしていたのだから仕方が無い。
 
或る映画で、こんな会話が有った。中年の男が、友人から喫煙を、
「いつまでタバコなんて吸っているんだ! 身体に悪いぞ」
と、咎(とが)められた。すると、男は、
「吸ってはいない。蒸かしているだけだ」
と、答える。それなら、余計に無駄だとの指摘には、
「だって、タバコを咥えているとハンサムに見えるだろ? ボギー(ハンフリー・ボガート)みたいに」
と、答えた。
この映画は、ウディ・アレン監督・主演の『マンハッタン』という映画だった。1980年公開映画なので、当時学生だった私は、既に毎日、相当の税率を負担していたのだった。授業をサボってでも励んだアルバイト、その貴重な賃金がお上に吸い上げられていたのだった。そんな時に『マンハッタン』のセリフは、どこか勇気付けられた記憶が有る。
そんなセリフを聞き、長年の喫煙者である私は、何かと理由を付けてタバコを止めてしまう連中を、“かっこう悪い大人”の代表と思っていた。周りの風潮に流され、自分を曲げているように感じたからだ。
特に、結婚して奥さんにされた指摘を理由にしたり、子供が生まれた時等に、禁煙をする友人を、どこか裏切り者と感じていた。
 
私が禁煙宣言をした後、4月に入り本格的に外出自粛要請が出された直ぐ後、NKHのBS放送で『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』というドラマが始まった。原作は有名な漫画らしいこのドラマを、私は何の気なしに観始めた。
65歳で延長した定年退職の日を迎え最後の帰宅をした老人(小日向文世・演)が、4歳年上の妻(竹下景子・演)に妊娠したことを告げられる。二人の間には、結婚して40年近く経つが子供はおらず、妻は出産時に70歳を迎える設定だ。
現実的がどうかは別として(フィクションなので)、私はほぼ同世代に起こった事態として注視してしまった。
世間体を気にする親戚等は、産むことを反対する。当然かもしれない。男は、困惑する。しかし、検診した医師は妊娠を確認すると、
「おめでとう御座います。2か月目に入っています」
と、若者同士のカップルと同じく祝福する。竹下景子が、年齢は重ねているものの、初めての祝福(妊娠に対しての)に思わず涙して喜ぶ。その表情が、実に可愛らしい。妻の喜ぶ姿を見て、夫は自分の年齢と体調不安から、長年の喫煙を止める決心をする。
同じマンションに住む、喫煙所でいつも顔を合わせていた20代の男性にも禁煙を宣言すると、
「最後に一本、どうですか?」
と、タバコを勧められる。老人の新米父親予備軍は、
「いや、止めときます。その一本分も長生きしなきゃいけなくなったので」
と、きっぱり断る。その姿が、実に凛々しくかっこうよかった。人生の大きな責任を、老年になってから負う覚悟を決めた男の表情だったから感じたのだろう。
ドラマは現在続いているが、その老夫婦は無事子供に恵まれ、周りの理解や協力もあって、孫の年齢よりも幼い実子を愛おしそうに育て行く。素敵なホームコメディに仕上がると思われる。
 
私は、当時としては一般的だったが、二十代半ばで結婚した。既に婚歴は35年に為る。子供はいない。正確に言うと、欲しいとは考えなかった。妻も同意しているので問題はない。
もう少しかみ砕いていうと、人間を育てていく自信が無かった。そんな大きな責任を、私の様な者が負えるとは思えなかったのだ。
それ以上に、周りを見渡して子供を育てることによって、軋轢が生じている家庭は見掛けたが、幸せそうには見える家族はいなかった。子供を叱っているばかりで、楽しそうには見えなかった。
むしろ、ウディ・アレンの映画に見るカップルは、子供を育てておらず、その方がトレンドでかっこうよく見えていたのも事実だ。

ところが、今回禁煙してみて、これまで感じていなかった感情が湧いてきた。多分、禁煙していなければ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』も気になら無かったろうし、毎週観ることも無かったろう。
そうだとすれば、『この一本分も長生きしたい』感覚は理解出来なかったろうし、かっこうよくも感じ無かったろう。
 
2020年に変わって、人類の歴史上、滅多にない事態となった現在。
それを切っ掛けに始めた私の禁煙は、奇跡的に続いている。封を開けたタバコの箱を、目に付く所に置いてあるが、全く気になっていない。今のところだが。
ただ、禁煙により、私は新しい感覚を手に入れることが出来た。
もしかしたら、それは、新たに発見した“かっこうよさ”かもしれない。
 
それが決まるのは、もう少し先のこととなるだろう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山田THX将 Shoji Thx Yamada(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

天狼院ライターズ倶楽部所属 READING LIFE公認ライター
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が創設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり務め続けている 自称、淀川最後の直弟子 『映画感想芸人』を名乗る
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり
現在、Web READING LIFEで、前回の東京オリンピックを伝えて好評を頂いている『2020に伝えたい1964』を連載中
加えて同Webに、本業である麺と小麦に関する薀蓄(うんちく)を落語仕立てにした『こな落語』を連載する

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2020-05-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.80

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