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週刊READING LIFE vol.82

より良い人生のための「選択」のコツ《週刊READING LIFE Vol.82 人生のシナリオ》


記事:菅恒弘(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「敵と戦うか、逃げるか」
 
「宝箱を開けるか、やめておくか」
 
そんな選択を迫られる。
 
意を決して戦いを挑んだもののあっさりとやられて落ち込んだり、宝箱でお宝アイテムをゲットして喜んだり。
そんな風に一喜一憂しながら夢中になったのが「ドラクエ」こと第一作目「ドラゴンクエスト」だ。
 
初代ファミコンを購入し、スポーツゲームを中心に遊んでいたものの、暇つぶしの遊びの1つといった感じだった。
それが「ドラクエ」の登場で一変した。
 
「ドラクエ」の世界観や物語、魅力的なモンスター、強力な武器や魔法。どれもが初めての体験で魅力に溢れていた、テレビも食事もそこそこに、プレイに熱中した。
ロールプレイングゲームという言葉も「ドラクエ」で初めて知り、時間をかけてキャラクターを成長させるということも初めての体験。ザコキャラと戦って、地道にも経験値やお金を貯めるということも楽しかった。最初は倒せなかったモンスターも、経験値を積み、貯めたお金で買った強力な武器で倒した時には、それまで経験したことのない達成感を味わうことができた。
まるで自分がゲームの中の主人公になったような気分だった。
 
そんな「ドラクエ」の魅力の1つが、ゲームの中で様々な選択ができること。
キャラクター操作では様々なコマンドを選ぶことができる。例えば「話す」や「調べる」や「とる」といったふうに。こういったコマンドは、物語の展開に重要な意味を持つこともあれば、何の意味もないことも。
ただそこには、こちらの意思とは関係なく一方的に物語が展開するのではなく、自分の意思による選択が物語に大きな影響を与える、そんなワクワク感があった。
 
そう、この選択できることが「ドラクエ」の大きな魅力の1つだった。
 
すっかり「ドラクエ」ファンのように語っているが、実はクリアしたのはこの第1作目だけ。ⅡもⅢもプレイをしたものの、どちらも途中で挫折している。理由はクリアするまでに時間がかかり過ぎるから。飽きっぽい性格の私には第1作目が限界だった。この挫折をきっかけにゲームからすっかり足を洗うことになった。
 
ちょうどその頃から、徐々に現実社会での選択が増えていった。
誰と遊ぶか、おやつは何を買うかといった小さな選択ではなく、進学のように将来に影響を及ぼすような選択が現れ始めたのだ。
そんな選択の中で、自分にとっての最初の大きな選択は大学進学の選択だった。
 
大学入試センター試験に大失敗した私は、第一希望だった大学は早々に諦める必要があった。第一希望以外の大学を考えていなかった私は、とりあえずセンター試験の点数でもいけそうな大学を受験することに。その大学はそれまで名前も聞いたことがない大学。
受験はしたものの、その大学に全然行く気がなく、浪人生活に向けて淡々と準備を進めていたある日、思いもよらない知らせが届いた。それは、その大学のそれも第2希望の学部で合格してしまったのだ。行く気もなかった大学の行きたくもない学部での合格。正直、行きたくなかったものの、両親の喜ぶ姿に見るとどうしても言い出せず、しぶしぶで入学することを選択した。
この選択は、人生に大きく影響を及ぼす選択を、自分自身でした初めての経験になった。
 
その後も現実社会では次々に選択が必要な場面が訪れる。
フィールドを歩いていると次々にモンスターがやってきて、この敵と戦うかどうか、体力がないので逃げるべきか、そんな選択を迫られるように、現実社会でも様々な選択をしなくてはいけない。
 
大学進学後も次々に選択に迫られる。
先生の進める業界への就職を目指すか、自分の進みたい業界を目指すか。
この会社で働きき続けるのか、それともこの会社を辞めて転職するべきか。
転勤の話を受けるべきか、断るべきか。
今の恋人と結婚すべきか、いややめるべきか。
結婚生活を続けるべきか、もう諦めるべきか。
そんな将来に大きな影響を与えそうな選択の合間にも、日々の小さな選択に追われるといった具合だ。
 
もちろん、自分の意思で選択できること自体は幸せなことだ。
選択の場面がないということは、自分の意思を反映させる場面がないからだ。
ただ、そんな喜ぶべき選択も、現実社会では選択の数が膨大で、さらにその選択が正しかったかどうかがすぐに分からないという難しさがある。
 
ある選択をした時、目の前では良かったと思えた選択も、数年後には「あの選択は間違っていた」と思うことも。さらに数年後には「やっぱり間違っていた…」となることも。
「ドラクエ」なら、選択した瞬間やその後の展開で、その選択が正しかったどうかをすぐに判断できる。それは決まったシナリオがあり、「闇の覇者竜王を倒す」というゴールが決まっているから。
一方で、現実的社会では、人生のシナリオは非常に長く、その全てを見通すことはできない。この選択が、その後の人生にとって正しかったかどうかの判断はすぐにはできないことがほとんどだ。その1つの選択で人生のシナリオが大きく変わっていたとしても、すぐに気づくことができないことさえある。
 
では、先の読めない人生のシナリオの中で、どうやってより良い選択をしていけばいいのか。
そこにはちょっとしたコツがあると考えている。
それは選択する際に「軸」を持つこと、そして人生のシナリオをより良いものにしていくための選択を増やすことだ。
 
まず、選択する際の「軸」を持つこと。
この軸を持つことで、自分の思い描く人生のシナリオにより近づけることができる。軸とは長期的な目標や夢、将来イメージといったもの。
大谷翔平選手や本田圭佑選手、イチローなどの一流のスポーツ選手は、それぞれのやり方で子どものころから長期的な目標や将来のイメージをしっかりと持っている。
大谷翔平選手は高校1年生の時、「マンダラチャート」と呼ばれる目標達成シートを作成した。「マンダラチャート」は、9×9のマスメの中心に自分の成し遂げたいことを書き込み、その周囲の8マスに、成し遂げるための要素を書き込む。さらにその8つの要素を、周囲にある8つの3×3のマスの中心に書き込んで、その要素を得るための行動目標を、要素の周りにある8つのマスに書き込むというもの。
大谷選手は、成し遂げたい目標として、中心に「8球団からドラフト1位指名」と書き込み、その目標を達成するための要素として、「球速160km/h」「体力づくり」「メンタル」といった8つ要素を書き込んだ。そして、その要素ごとに8つの行動目標を書き込んでいる。例えば、「球速160km/h」であれば、「体幹強化」「体重児増加」といった行動目標だ。
本田選手やイチローは、「夢ノート」将来の夢を具体的に書いたノートのこと。夢を紙に書き出すことで、自分の潜在意識にそれを刻み込むことができるようになるというもの。
本田圭佑選手は、「W杯で有名になって、ぼくは外国から呼ばれてヨーロッパのセリエAに入団します」「レギュラーになって10番で活躍します」といったことを夢ノートに書き込み、その夢を実現させている。
こんな風に自分の夢や目標、そのための行動を明確化することで、選択のための軸ができ、迷いもブレもなくすことができる。
 
とはいえ、実際に「マンダラチャート」や「夢ノート」を作ったり、それをちゃんと活用してくというのも難しそう。実際、私も「夢ノート」を作ったことはあるが、そのノートは本棚のどこかに眠ってしまっている。
 
そこで、今では簡単な「軸」を持つようにしている。
その軸は、「どちらがワクワクするか?」というシンプルなもの。
その選択のどちらがメリットが大きいか、選択することでどう見られるか、そんな損得勘定や外面を気にするのではなく、単純にどちらが楽しそうかという軸で選択する。
損得勘定や他人の目を気にして選択してしまうと、その選択が見込み通りにならなかった時、その選択を後悔したり、誰かのせいにしたくなってしまう。
自分が楽しいと思えるかどうかという、自分の感情を大切にすることで、迷いが生じるような選択もしやすくなり、何より選択したことにポジティブに取り組むことがで流ようになる。
もちろん、この軸で選択したことが全て正しいとは言い切れないが、少なくとも選択することを楽しみながら、そしてブレることのない軸を作ることができるのでお勧めだ。
 
もう一つは、人生のシナリオをより良いものにしていく選択を増やすこと。
いくら楽しみながら選択しようと思っても、そもそもワクワクするような選択肢がなければできない。もちろん、全ての選択が前向きなものばかりではないが、少しでも前向きに楽しんで選択できるような選択肢を増やすことはできないか。
 
そこで参考にした理論が「計画された偶発性理論」。
スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が20世紀末に提案したキャリア理論。
その要点は、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」「その偶発的なことを計画的に導くことでキャリアアップをしていくべき」というもの。
予期しない出来事をただ待つだけでなく、自ら創り出せるように積極的に行動したり、周囲の出来事にアンテナを高くしたりして、偶然を意図的・計画的にステップアップの機会へと変えていくべきだとされている。
その偶然を意図的・計画的にステップアップの機会に変えていくために必要なのが、次の5つの行動指針・考え方。
(1)「好奇心」 ―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること
(2)「持続性」 ―― 失敗に屈せず、努力し続けること
(3)「楽観性」 ―― ポジティブに考えること
(4)「柔軟性」 ―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
(5)「冒険心」 ―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと
この5つの行動指針・考え方で、自ら偶然を作り出していき、その偶然をキャリアアップに生かしていこうというものだ。
 
もともとキャリアに関する理論ではあるものの、この理論は人生全般にも当てはまると考えている。
キャリアに限らず、自分の趣味や興味を持っているもの、これから勉強してみたいことなど、そんなことに5つの行動指針・考え方で望むことで、予期しない出来事や人と出会いが生まれ、より深く楽しむことができたり、学びの意欲が湧いたり、人脈が広がったりと、そんな効果が期待できる。
そういった予期しない出来事や人との出会いは、また新しい選択を生み出す。それも人生を豊かにするようなポジティブな選択だ。まさに人生のシナリオをより良いものにしていく選択と言える。
 
ただ選択の場面を待つのではなく、自ら選択の場面を生み出していく。もちろんそれはより良い人生のシナリオへと繋がる選択だ。
 
「計画された偶発性理論」というと難しく考えてしまいがちだけど、まずは自分の趣味や興味のあるものに対してアンテナ高く、フットワーク軽く、そして今までよりちょっとだけポジティブにといった感じで考え・行動することで、より良い人生のシナリオのための選択を増やすことができるはずだ。
 
人生のシナリオは非常に長く、その全体を見通すことはできない。
人生は選択の連続で、その1つの選択で人生のシナリオは大きく変わってしまうこともある。
そんな重大な選択だったとしても、その選択は正しかったかどうかはすぐに判断できないことも。
だけど、選択をする時、自分の「軸」を持ち、さらにより良い選択の場面を増やすことで、きっと人生のシナリオを素敵なものにしていくことができるはず。
そう考えると、選択することをこれまでよりもポジティブに捉えることができそうだ。
 
そして今日も選択を迫られる。
 
目の前のモンスターと戦う?それとも逃げる?
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
菅恒弘(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県北九州市出身。
地方自治体の職員とNPOや社会起業家を応援する社会人集団の代表という2足のわらじを履く。ライティングに出会い、その奥深さを実感し、3足目のわらじを目指して悪戦苦闘中。そんなわらじ好きを許してくれる妻に感謝しながら日々を送る。
趣味はマラソンとトレイルランニング。

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2020-06-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.82

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