週刊READING LIFE vol.83

魔女による封印《週刊READING LIFE Vol.83 「文章の魔力」》


記事:星永俊太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
※本記事は一部フィクションです。
 
 
あるところに悪い魔女が居ました。
その魔女は、ある男の子の文章の力を恐れていました。
 
「今はまだ恐るるに足らない。あいつ自身、自分の力に気づいておらんしな。だが、あいつが成長した暁には、必ず我らにとって邪魔者となる。それだけの魔力を秘めている。今のうちにその力を封印しておかねば」
 
その男の子は日記を書いていました。そして、友達とけんかをしたある日も、男の子は日記を書き始めました。
 
男の子の力を封印するチャンスを狙っていた魔女は、男の子の心を高ぶらせ悪い心を引き出す魔法をかけました。
 
「あいつ、なんであんなことしたんだろう? いつもはあんな奴じゃないのに……」
 
男の子は、書いてるうちにどんどん気持ちが高ぶってきてしまいました。
 
「あいつ、馬鹿野郎。あんなことしやがって! あんな奴居なくなればいいのに! あんな奴XXXXXX!」
 
自分の中からどす黒い感情が溢れ出してきて爆発しそうになるのを感じて、男の子はすっかり怖くなってしまいました。
 
「ただ、悲しかっただけで、そんなこと全然考えてなかったのに……どうして? もしかして、日記? 日記を書くことで、自分の黒くて悪い思いが強くなっっちゃうの? 怖い……」
 
男の子は、自分の中で「書く」という思いに蓋をしてしまいました。それを感じ取った魔女は、男の子の蓋をされた思いに、何重にも鎖を巻いて固く固く鍵を掛けました。
 
「ひっひっひ、これであの子の書く力はもう使えないよ。これで安心だ」
 
それ以来、男の子は日記を書くことはしませんでした。絵を書いたり、本を読むことはしても、文章を書くことはありませんでした。

 

 

 

それでも男の子の心には「書きたい」という思いが時々浮かんできました。
 
高校生になった男の子は、入学した高校に貼ってあった「文芸部」のポスターに興奮し、家に帰るとお母さんに「高校に文芸部ってのがあって、絵も文も書ける部活ってすごくない?」話しました。
 
男の子は文芸部に入部し、マニアックで不思議で素敵な先輩方に囲まれて楽しい日々を過ごしていました。
 
でも、文芸部に入った男の子は、結局文章を書くことができませんでした。先輩方が書いている小説を目にし、自分も書きたい、書くぞ、と強く思うものの、何をどう書いたらいいのかわからず、何も言葉が浮かんできませんでした。
 
時々様子を見に来ていた魔女は、文芸部に入ったものの文章を書こうとしない男の子を見て安心しましたが、念の為、男の子の周りの友達に魔法を掛けました。
 
「おまえ、文芸部なんだって〜? なんだよそれ、なにすんだよ」
「や〜い、文芸部〜」
 
からかわれた男の子はすっかり文章を書くことが恥ずかしいことだと感じるようになってしまいました。
 
「文章を書く部活ってのは、バカにされてからかわれる対象なんだ。よし、大学生になったら、もっと明るく楽しい生活を送るんだ」
 
そう考えた男の子は、大学生になり、文章だけでなく漫画やアニメからも離れた生活を送り青春を謳歌するようになりました。いわゆる、友だちと遊び、騒ぎ、飲みに行き、コンパをする生活でした。その頃には大好きだった本もほとんど読まなくなってしまってました。

 

 

 

時は流れ、男の子はすっかり大人になりました。結婚もし、子供も生まれ、おっさんと言われる年代になっていました。
 
そこまでの間には、ブログブームやSNSブームがありました。男の子もそれらに手を出してみたものの、どうにものめり込むことが出来ず、続きませんでした。
 
男の子が感情を込めて文章を書こうとすると、どうしても幼い日に日記を書いたどす黒い感情と恐怖が蘇ってきました。
 
とはいえ、男の子が感情を込めずに淡々と書いた文章に「文章いいね」「ほっこりするね」なんて声を書ける人も現れました。「僕の書いた文章なんて全然たいしたことないよ」「全然だよ」なんて素直に受け取れない男の子。
 
それでも「書きたい」という思いは日に日に強くなっていきます。

 

 

 

そんなある日、男の子はFacebookで天狼院書店の「人生を変えるライティング教室」の広告と出会いました。「でも、書けないし」「もう、いい歳だし」行かない言い訳が男の子の心のなかで泡のように湧いてきました。「興味はあるけど4ヶ月のコースなんでしょ? 自分に合うかどうかもわからないのに、そんな長いコースに申し込みなんて、ねえ」
 
そんな男の子の前に、なんと、お試しで1日で受講できる1DAY講座の広告が現れました。
 
「いや、でもレビューっていうか参加者の声とかないし、実際どんなのかわかんないじゃん?」
 
そんな男の子の前に、なんと、実際に参加している人が現れました。「毎週2000字の課題提出大変なんだ」って言いながらもとっても楽しそうに見えました。さすがの男の子も、とうとう参加することに決めました。
 
結局、その1DAY講座の受講から、そのまま4ヶ月コースに進み、さらにその後には上級コースのライターズ倶楽部に参加し続けている男の子(注、実際はもうおっさんですよ)。
 
慌てたのは、すっかり安心しきっていた魔女でした。おっさんになってきたし、さすがにもう大丈夫だろうと安心しきっていた矢先に、「なに? 人生を変えるライティング教室だと? しゃらくさい。じゃましてやるわ!」と息巻く魔女。
 
男の子が課題に取り組みだすと邪魔を始めます。
 
「お前の書く文章なんか、しょうもないんだし、誰も読みたくないんだから、書くのなんかやめなよ」と耳元でささやきます。
 
何を書こうか悩んでいる男の子は、自信をなくしてしまいます。「うーん、こんなことを書いて、果たして読んでもらえるのかなあ? こんなの書いたらなんか恥ずかしいよね……」
 
「ひっひっひ。そうだそうだ、書くのをやめてしまえ!」
 
それでも、男の子は書くのをあきらめませんでした。「これまでずっと書きたいって思ってきたんだろ? ここであきらめたらまた元に戻っちゃうよ? それでもいいの?」自問自答しています。
 
「くっそー、これまでうまく抑え込んできたのに、今回はしぶといな!」と魔女は悔しそうです。それでもあきらめきれない魔女は男の子が文章を書こうとするたびに耳元でささやき続けます。「なんかそれ、違うんじゃない?」「他の人の文章見てご覧よ、それに比べてお前のはどうだ? 見劣りするだろ? やめてしまえよ」
 
男の子は揺らぎます。「そうだよな、他の人のすごい文章見てたら全然あんなふうに書ける気しないもんな」「いつまで続ける気?」「あきらめが悪いんじゃない?」自分の中でも疑いの気持ちがどんどん大きくなってきました。
 
「ひっひっひ、もう少しだ!」魔女はさらに追い打ちをかけます。「どうせ、書いてWebに掲載されたって、人に読まれてないんだろ? 人気ないんだろ? 全然週間ランキングの上位に入らないじゃないか。もうやめたら?」
 
出した課題が一定の基準を超えていれば、Webサイトに掲載してもらえて、その一週間に読まれた回数で順位を競う仕組みでした。
 
男の子は迷いました。それでもある時、気が付きました。
 
「俺が悩んでることって全部、人にどう思われるか? 人と比べてどうか? ってことだったよね。でも、これまでずっと『書きたい』って思ってきたのは、人によく思われたかったからなの? 違うでしょ? ただただ自分の思いを、文章にして表現したかっただけなんでしょ? だったら人にどう思われるとか関係なくないか? どうやったら自分の思いを素直に表現するかってことが今の俺には大事なんじゃないか? だったら、うじうじ考えずにまずはそこに集中しろよ!」
 
パシーーンと、男の子、いや、大人の男性の心の中で、鎖が音を立てて切れた音がしました。
 
「うわっ! やばい、切れた! ここまで抑え込んでたのに」顔を真っ青にした魔女が慌てて逃げていきます。「こうなったら一刻も早く遠くに逃げるしかない」と。

 

 

 

ここから、男の子、改め、大人の男性が取り戻した「書く力」を使った冒険が始まりますが、それはまた別の話。
 
さて、男の子は魔女の存在に気づいていたのでしょうか?
 
いや、きっと魔女の存在には気がついていませんでした。ただ魔女のささやき声には気がついていた事でしょう。「書く力」の封印を解かれた今、自分と同じように力を封印されている仲間を解放するために、その力を使っていくことでしょう。
 
魔女による封印を解除し、魔女のささやきに対抗する力を仲間に与えるために「書く力」を使っていくことでしょう。男の子の書く文章にはそれを成し遂げるだけの魔力が含まれているのですから。
 
そして、それが魔女が一番恐れていたことだったのですから。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
星永俊太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

ソフト開発のお仕事をする会社員
2018年10月から天狼院ライティング・ゼミの受講を経て、
現在ライターズ倶楽部に在籍中
心理学と創作に興味があります。
「勇気、不安、喜び」溢れた物語を書いていきます。

この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いてます。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2020-06-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.83

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