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週刊READING LIFE vol.84

アルバイト時給1100円の私が一ヶ月で167万円集めた話《週刊READING LIFE Vol.84 楽しい仕事》


記事:金澤 鮎香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「金澤さん、クラウドファンディングやってくれへん?」
そういきなり社長に言われたのが2020年2月4日のこと。忘れもしない、終業後の暗くなった食堂で唐突に降りかかった指令。
「クラウドファンディングですか? いつからの予定で、何円くらい集めたいんですか?」
「来月3月末終了で100万円集めたいねん」
「いやそれは無理ですよ!」
なにを考えているんだ、この人は。社長だけど、いや社長だからこそ本気でそう思った。
 
私は1年前からフェアトレードのセレクトショップでアルバイトをしている。所謂ショップ店員というやつだ。フェアトレードといえばチョコレートやコーヒーなどが有名かもしれない。簡単に言うと発展途上国などで作られた商品を大量に安く買いたたくのではなく、適正な価格で取引しようという仕組みのことだ。最近はSDGs(2015年9月の国連サミットで採択された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと)やオーガニックやエシカルという単語がよく聞かれるようになったのでご存知の方も多いかもしれない。
 
元々学生時代は海外ボランティアをした経験から国際協力に興味があったものの、就職活動で敢えてその業界を志すことはなく、何となく採用された機械工具メーカーに就職した。その会社は最初は良かった。中小企業ながらもお給料やボーナスはきちんともらえたし、若手ながらも海外研修にいかせてもらったりと色々経験させていただいた。充実はしていたと思う。
 
だが問題が1つあった。
 
人間関係が最悪だったのである。
私の配属された部署は営業企画。名前だけ聞くとかっこいいが、いわゆる広報業務や営業に関わる雑務を一手に担っていた部署だった。カタログ作成に展示会出展のデザイン、WEBサイト・ECサイトの管理に商品の品番登録まで。会社の顔となる広報やカタログ、デザインに携われる仕事内容は正直楽しかったしやりがいもあった。
  
だが上司が曲者だった。部下が長く続かないことで悪評高い部署だったのだ。上司、先輩、私の3人の部署だったのだが、まず上司と先輩の仲が悪い。業務上、本当にどうしても必要な最低限なやり取りしかしない。そして新卒の右も左も分からない私をどうにか自分サイドに引き込もうとするのだ。業務上仕事を教えてもらうのは先輩だったため、必然的に先輩とのやり取りが多くなる。上司的に気持ちのいいものではなかったのだろう。一度私が仕事でミスをし迷惑をかけたことで、(勿論それは私も悪いのだが)そこから上司には徹底的に嫌われてしまった。その件を謝っても無視される。軽く話しかけても一瞥されるだけで返事はない。仕事の相談をしても必要最低限しか教えてくれない。こちらも相談し辛くなり、結局ミスをしてボロカスに叱られる。何度か「ご飯に行きませんか?」等こちらからコミュニケーションを試みたのだがなしのつぶてだった。
 
そうこうしていると2年目で先輩が産休に入り、先輩の仕事が全て私に降りかかってきた。なぜか同じ部署なのに先輩の仕事は上司に振られることは一切なく全て私に引き継がれた。
「絶対に先輩は、嫌いな上司に仕事を引き継ぎたくないからだ……」
良いように使われる下っ端社員の私。正直思ったものの言われるまま必死に仕事をやるしかなかった。言っても新卒2年目。分からないことだらけである。初めてやることだらけ、分からない、教えてほしい。でも仕事を分かっているのは私のことが嫌いな上司だけ。正直話しかけたくない。でも教えてもらえないと分からない。そんな調子だから、上司とやり取りする度に衝突し会社のトイレで悔しくておいおい泣くのが日課になっていた。
でも私にも意地があった。
 
「産休の先輩が帰ってくるまで、仕事をやり遂げてやる! 帰ってきたら心おきなく辞めてやる!」
 
仕事は楽しいのに楽しくない。最早クソ上司に負けたくないがための意地で仕事に取り組む。上司にケチをつけられない為に頑張って仕事をする。やりがいはあっても楽しくはなかった。
「仕事は嫌なことがあるのが当たり前。お給料分やるべきことをやろう」
新卒の私には「仕事とはお給料分やるべきことをやること。楽しいとか楽しくないとか関係ない」という認識が強烈にインプットされてしまった。
 
無事に産休を終えた先輩も帰ってきたため、心おきなくその会社は3年3ヶ月で辞めた。
 
「しばらくの間、のんびりやりたいことやろう」
正直もう一回正社員として働く気力が無くなっていた。1年ほど貯金を切り崩し、海外に行ったり色々遊んだ。
「お金も無くなったし、とりあえずバイトでもするか」
どうせ働くなら、今度はのんびり興味のある分野で働きたい。
前述した通り学生時代の海外ボランティア参加経験から、国際協力やフェアトレード業界に興味があったこと。元々かわいい雑貨やお洋服、お洒落が大好きだったこと。
海外ボランティアの知り合いがフェアトレードのセレクトショップの店長をしており、そのお店で丁度アルバイトを募集していたこと。色々タイミングが重なりそのお店に働くこととなった。
1年間ショップ店員として可愛いフェアトレードの雑貨やアクセサリー、お洋服に囲まれながら楽しく働いた。販売のお仕事なので勿論売上は気にしないといけない。販売も初めての経験だったので不安はあった。だがそのお店は人間関係が最高だったのだ。店長も元々の知り合いだし、働いている他の店員さんもいい人ばかり。困ったことがあってもすぐフォローしてくれる。前の職場の経験があったのもあり、私にとっては天国のような職場だった。
ただ「所詮アルバイト」という認識があったのは確かだった。私の時給は1100円。時給1100円の仕事をすればいいんだと思っていた。最低限の売上は上げるように努力はするけど、必死にはならない。ある程度、そこそこ、自分がしんどくない程度で働こう。だって所詮時給1100円のアルバイトだし。
そんな風にのらりくらりとゆるーく楽しく働いていた。
 
そんな折、冒頭の突然の社長の指令だった。
「金澤さん、クラウドファンディングやってくれへん?」
 
ご存知の方も多いと思うが、クラウドファンディングとはインターネット上で不特定多数から支援を集める仕組みのことだ。大きな会社から一個人までだれでもプロジェクトを立てることができ、資金を集めることができる。
過去、私も個人でクラウドファンディングに挑戦したことがあり、社長がどこからかそれを聞きつけてきたらしい。うちのお店としては初めてのクラウドファンディング挑戦だった。知見のあるメンバーが1人もいないため、ならば経験のある金澤さんに。ということに社長の中でなったらしい。
それ自体はいい。仕事を依頼してもらえるのは有難いことだった。
 
ただ内容が問題だった。
決算の都合上、何とかクラウドファンディングを今年度中、3月中に終了させたい。そして100万円集めたい。
話を振られたのは2月4日だった。そして3月中に始めたい。ではなく「3月中に終了させたい」である。そもそもクラウドファンディングはかなり手間がかかる。プロジェクトにもよるが、企画・準備に約2ヶ月、プロジェクト開始から終了まで約1ヶ月半~2ヶ月が一般的なスケジュールである。3月末まで2ヶ月も無かった。しかも過去クラウドファンディングの経験があるのは私だけ。経験があるといっても個人で軽くやっただけのプロジェクトだ。会社の名前を背負ってやった訳でもなんでもない。
そして調達金額も問題だった。大きい会社ならまだしも小さなフェアトレードのお店が100万円は簡単なようで実は難しい。いやいや無理でしょ。無理ゲーでしょ。正直思った。そして社長にも言った。
 
「難しいのは分かった。でもやってほしいねん。私も一緒にやるからやろう」
社長は譲らなかった。
大変だ、と思った。断ろうかな、とも思った。だけど正直この1年ゆるーく楽しく働いてきて「このままでいいのかな、私」という迷いがあったのも事実だった。
ある程度、そこそこ頑張って楽しく生きる。間違ってないし、良いと思う。でも少し物足りなさを感じている自分もいた。
「分かりました。どうなるか分からないけど出来る限り頑張ってみます」
自然とそう答えていた。
 
そこからが大変だった。
プロジェクト内容は、カンボジアのストリートチルドレンを生まない世界に向けて活動しているNGO団体が作るタイヤチューブを使用したバックパック改良プロジェクト。プロジェクト自体は動き出しているが、よりよい改良のためにも資金を調達したいとのことだった。
まず私はその改良プロジェクトに全く携わってもいなければ、カンボジアのその団体に会ったことも無かった。
社長から「クラウドファンディンのプロジェクト作成に使えれば……」と上がってきた素材を確認するものの、まずそれが正しいかどうかも分からない。知識がそもそもない。
時間が十分にあるならいい。だけど3月末にプロジェクトを終了させるということは少なくとも1ヶ月前にはクラウドファンディングをスタートさせなければいけない。
3月1日スタートを目指すには、2週間前にはプロジェクト内容を完成させ、2月半ばにはプロジェクト申請をしなければいけない。プロジェクトの承認にある程度時間を要するからだ。実質2週間程度で内容を完成させなければいけなかった。
その日から死に物狂いだった。実際に現地カンボジアに行ったスタッフにインタビューし、少しでも現地のイメージを掴む。夜中までプロジェクト内容をああでもないこうでもないと考える。私より経験のあるクラウドファンディングの経験者に泣きついて相談する。やれるだけのことはやった。受験勉強のような必死さでかけずり回った。
正直時間の限界もあり100点満点の完成度とはいかなかったものの、やれるだけのことはやったと満足いく程度でプロジェクトは完成し、申請することが出来た。
何とか3月1日開始に間に合った。
そこで終わりでは勿論ない。100万円調達しなければいけないのだ。プロジェクトを成功させなければ意味が無い。広報戦略も本当にやれるだけのことはやった。
プロジェクト開始までのカウントダウン投稿。プロジェクト開始後は毎日FACEBOOKとインスタのストーリー投稿。社長の知人の著名人に応援コメントをもらう。現地から写真や動画を貰って編集しアップする。個別でお願いメール。これも考え付く限りの施策はやれるだけやった。「これで上手くいかなかったらしょうがない」そう思える程度にはやった。
 
結果は100万円目標をはるかに上回る、167万円資金調達で終了した。
 
本当に嬉しかった。終了した時は涙がでた。頑張った甲斐があったなと心から思えた。
社長も、店長も他のスタッフもすごく喜んでくれた。
「ああ、頑張って良かったな」喜びが心の底から湧き出た。もう時給1100円に見合った仕事をしようといった考えは消えていた。必死に何かのために誰かのために頑張って仕事をすることがこんなに楽しいことだなんて。お金は関係なかった。それに気付けただけでも嬉しかった。
 
今、私はショップ店員ではなく、本社勤務になりオンラインショップ担当になっている。これまでうちの会社はオンラインショップに力をそこまで入れていなかったこともあり、問題は山積みだ。社長からは「月100万円売上目指そう!」と言われている。去年比にして約5倍。正直無理ゲーだ。でも私はこの仕事をすごく楽しんでいる。
 
必死に何かのために脳みそに汗をかいて取り組む仕事の楽しさを知ってしまったからだ。
今月も中々厳しい数字だけど残り2週間必死に駆けずり廻って目標達成のために頑張りたい。しんどいことももちろんあるけど、楽しんで!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
金澤 鮎香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2020-06-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.84

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