週刊READING LIFE vol.87

上手なコミュニケーションに欠かせないモノ《週刊READING LIFE Vol,87「メタファーって、面白い!」》


記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「お前って、いつも自分で話して、自分で笑ってるよな」と友人から何気なく、
言われた。
 
学生時代、放課後や急に自習の時間があった時に、周りの友人達と輪になって、お笑い芸人じゃないけど、面白い話をしようぜ、みたいなことをやったことは無いだろうか。
 
その輪に入るのが僕は嫌だった。
 
理由は簡単、面白い話をするのが苦手だった、いや、出来なかったから。
自分では面白いと思っている話でも、友人達は笑ってくれなかった。
 
「それで、何が面白いの? 普通じゃん」って言われるのが、いつものオチ。
 
「面白い!?」の意味がわからなかった。
僕にとっては、面白いと思っている話をみんなにしているのに、笑ってもらえない。
 
一方で、面白いと言われている友人の話を聞いて、周りは笑っていても、僕はあまり笑えない。内容は面白いんだろうけど、何が面白いのか、僕にはわからなかった。
 
人によって、笑いの沸点がちがうからしょうがないんだろうと当時の僕は思いながらも、
一生懸命、周りに合わせるような話し方をしていた。
 
そんな僕も時々、笑われる時があった。
逆に自分の意見を真面目に言った時である。
 
もう、笑われているのではなく、呆れられているに近い感覚なのかもしれない。
それでも、友人が笑ってくれるなら、それでも良いかと思った。
 
決して僕の性格は根暗でもなかったし、むしろ、明るい方だと思う。
ただ、コミュニケーション能力が低くて、自分が考えていることを上手く相手に伝えられてないだけなんだとずっと思って生きてきた。
 
メールの返事も「わかった、ありがとう、よろしく」ぐらいしか、当時、打った記憶がない。
 
このコミュニケーション能力の低さは、社会人になった、今も大きくは変わっていないと思う。正確にいうと、変われていない。周りに笑ってもらえていないのだから。
 
そんな僕が選んだ職業は、営業職だった。ある意味、自分への挑戦だったと思う。
 
どうだろう? 営業職はコミュニケーション能力が高い人が生き残っていける世界だと思っていないだろうか?
 
大正解だ。間違いない。
優秀な営業マンで、コミュニケーション能力が低い人をみたことが一度もない。
 
間違いなく、コミュニケーション能力が低いと相手にどんなに素晴らしい話をしていたとしても、何も伝わらない。
 
もちろん、売れるはずもない。だから、新人の頃は、どのようにお客さんとコミュニケーションを取ったら良いのか、ごく基本的なことが本当にわからなった。
 
営業職としては、かなりの致命的な欠陥だと思う。
それでも、何とか今まで約9年近く、営業の第一線で仕事をさせてもらえている。
 
なぜだろうか。
僕なりに、考えてみると、本による影響が大きいと思っている。
 
コミュニケーション能力が本当に低い僕がどうやったら、営業マンとして生きていけるのか、悩みに悩み、はじめは違う職に就いた方が幸せなんじゃないだろうか、と考えたが、辞めれる勇気もなく、真剣に考えた結果、それは、営業に関する知識が少ないからだ、もっと本を読むことで、知識を増やせばコミュニケーション能力も上がるに違いないという結論にいたった。
 
多くの本を読んだが、書かれていることの多くは、信頼される営業マンになれ、顧客の期待を上回れといったことが書かれていた。
 
その頃に、営業マンであれば誰も聞いたことがあるであろう話を僕は上司から聞いた。
 
「鍋の蓋だけを持たされて、誰にでも良いからこの鍋の蓋を売ってこい」という話だった。
 
衝撃が強すぎて、僕にはできないと思った。ただ、優秀な営業マンはどんなモノでも売ってくることができるという。
 
それもまた、間違いない事実なんだと思う。
 
僕には、到底できないと思いながら、いくつかの営業に関する本を読んだ。
多くの本がコミュニケーション能力が前提で書かれていた。
 
本に書かれている内容で真似できることから、はじめることにした。
 
相手に自己開示を嫌味にならない程度に入れていくと良いと書かれていたので、
早速、お客さんの所に行って、本に書いてある通りに自分について、少し話をさせてもらった。
 
相手の反応は、「へえ~、そうなんだ」で終わった。
 
それもそうだ、僕に興味が無い人間からしたら、そんなリアクションになるだろう。
僕だって、興味がない人間から自分の話をされたって、「それで、それで」と訊くことはないと思う。時間の無駄にもなってしまうから。
 
次に、目をつけた本が質問力関連の本だった。
 
コミュニケーションが低い僕にとって、これこそが間違いなく僕に足りないモノだと心の中で思った。
 
本棚にも質問力や交渉力関連の本が一杯置いてあった。
どの本が良いのか、わからなかったので、売れていそうな本を手に取って、読んでみた。
 
なるほど、質問力が高いとここまで聞き出すことができるんだって、関心することばかりが書いてあった。
 
もちろん、いくつかは真似できることがあるのだが、書かれていることの多くは営業の本に書かれていることと多くは変わらなかった。
 
ただ、本を読むことに無駄なことはなく、大きな学びを一つ得ることができた。
そのお陰で、今まで営業職を辞めずにくることが出来たんだと思う。
 
それは、わからない事はわからないと相手に素直に伝え、教えてもらうことである。
 
相手にわからない事を素直に、どんなにくだらないと思っていても、「わからないので、教えてください」と訊くだけで、自分の中の疑問が解消されていく感覚があり、相手のことを知ることができるようになって行き、いつの間にか、自然と話しができるようになった。
 
もちろん、中にはせっかくお話を聞いても、営業として自分にはどうすることができない時は、真摯な姿勢で謝った。
 
だた、これを繰り返し日々の営業で繰り返しているだけで、自然と売れるようになっているから、営業は面白いし、今もわからないことだらけである。
 
ただ、これだけでは、学生時代に毛が生えたくらいの違いしか、コミュニケーション能力に磨きがかかっていない。本当の売れる営業マンにはなれていない。
 
9年以上も営業職をしていると、僕なりに気が付いたことがある。
売れる営業マンが普通の営業マンと何が違うのか。
 
きっと、多くの人は才能が違うとか、努力の量が違うなど、自分に無いモノと比べてしまうと思う。僕もいつも無いモノねだりで、他人と比較してしまっているので、良くわかる。
 
そんな僕が気が付いた売れる営業マンがしている事、それこそが、メタファーだった。
 
売れる営業マンはお客さんのニーズに答えるのが上手いと良く言われるが、それは、ニーズを捉えるのが上手いからでもある。
 
そのニーズを捉えるのに、使っているのがメタファーである。
 
「こんな感じでしょうか」、「こんなイメージでしょうか」、「こうなったら良いということでしょうか」などの相手も気が付いていなかったようなニーズをイメージさせることができるのである。
 
その能力が普通の営業マンと比べてとても高いのである。これは、生まれながらに持っている能力なのだろうか。
 
それは間違っていて、きっと、誰しもが訓練するだけで、身につけることができる能力であると思う。
 
それを身につける方法は多くの本を読むことである。
 
優秀な営業マンや管理職の人達ほど、いつ読んでいるんだろうと思うほど、多くの本を読んでいる人達が多かった。
 
だから、表現力が豊かになって、相手がイメージしやすい伝え方ができるのだと思う。
 
僕も学生時代よりも、多くの本を読むことで、コミュニケーション能力は少しずつ上がって来ていると実感している。その理由は、もう笑いを求めるような合わせる会話をすることを辞めたからである。
 
ずっと、笑いが出るコミュニケーションが正解だと思っていたが、それは大きな間違いだった。相手と同じイメージを持ちながら会話をすることで、自然と笑いなどの感情が生まれてきて、コミュニケーションが楽しくなっていくのである。
 
そのイメージを共有する為に、必要な力がメタファーには隠されている。
 
もし、あなたがコミュニケーション能力で僕と同じように悩まれているとしたら、是非、多くの本を読んで、色々な表現を学ぶことをオススメしたい。
 
間違いなく、自然と笑いが出るようなコミュニケーションができた時、そこにはメタファーを上手く使いこなせているあなたがいるに違いないから。
 
メタファーで溢れる言葉の世界を一緒に楽しみましょう。より人生を豊かにする為に。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の4人暮らし、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事。書くことの楽しみを知り、今に至る。

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2020-07-13 | Posted in 週刊READING LIFE vol.87

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