やると決めたことはやったほうがいい?《週刊READING LIFE vol,102 大人のための「勉強論」》
記事:記事:星永俊太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
「ほら、お父さんだって勉強してるんだから、お前もがんばりな」
中学3年生、受験生の娘に私が7月頃に言った言葉だ。
そのとき私は「情報処理安全確保支援士試験」という資格試験を受験しようとしていた。やたら漢字が多い名前だが、要は「サイバーセキュリティに関する知識・技能があり、安全な情報システムの構築を支援し、対策に必要な指導・助言ができる」ことを認定する試験だ。
なかなか勉強をしない娘に対して、大人になっても勉強はするんだし、お父さんも頑張ってるんだから、お前も頑張れよと励ました言葉だった。
8月、夏休み。試験は10月だから、勉強時間の取れる夏休みに少しでも勉強を進めておく必要がある。だが、どうにも勉強する気になれない。本を読んだり、文章を書いたりとやりたいことは他にいっぱいあった。それらを置いてまで勉強する必要があるだろうか?
よし。決めた。「嫌なことはしない」そう決めた。
嫌々勉強すること、本当はやりたくないけどやったほうがいいと思われることは、これまでも散々やってきた。
学生時代の勉強だってそうだし、社会人になってからだって本当は興味がないけど、読んでおいたほうがいいんだろうなと思う本もいっぱい読んで勉強してきた。例えばなんだろう? 私にとっては「リーダーシップの本」とか「組織マネジメントの本」とか「仕事を効率よくやる」とか「お金の増やし方の本」とか。必要なのかもしれないけど、私にとっては楽しいもの、ワクワクするものではなかった。
そしてこの「情報処理安全確保支援士試験」の試験も。関連する仕事をしているから合格したらしたでいいだろうし、合格した人がセキュリティについて語ると信憑性があっていいよね、といった下心で受験しようと思ったものの、自分から受けたい! 合格したい! と思ったかというとそうでもなかった。資格をとったところで、本格的にセキュリティを仕事にしている人にはとても敵わない、そう諦めてるところもあったかもしれない。
まあ、やりたくない言い訳をごちゃごちゃ考えてるだけかもしれないけど、「よし、試験受けるのやめよう」。そう決めた。
受験料は払ってしまってるから、試験が近づくと受験票が届いた。
娘に、お父さんも試験を受けると行っていたこと、覚えているだろうか? と届いた受験票をこっそりと目の届かないところに置いておいた。言ってしまった手前、受けないと決めて勉強をやめたことにちょっと罪悪感がある。
そして、受験前日。受けないと決めたため受験票の封筒を開けても居なかったが、やはり気になり開封した。試験会場、試験時間が書いてある。場所もそんなに遠くない。
もやもやした気持ちがどんどん膨らんでいく。
せっかくお金払ってるのに受験しないのはもったいないんじゃないか? 受験しなければ合格する可能性は0%だけど、受験したらもしかしたら10%か20%くらいは合格する可能性がなくはないんじゃないか? 本当に受けなくていいのか?
そんな迷いに心臓の鼓動が早くなった。
いやいや、待てと。一旦受験しないって決めただろ? そう思っても一旦迷い出すと頭の中をぐるぐると迷いが駆け巡り続ける。
そこで、おもむろに紙を広げ迷っていることを書き出してみた。縦軸に「受ける」「受けない」、横軸に「メリット」「デメリット」。
「受けないデメリット」は「受験料がもったいないこと」。まあ、たしかにもったいないけど、もったいないからって受験に行く丸一日と交通費を考えたら、それはそれでもったいなくない? 完全に”サンクコスト”じゃん。サンクコストってすでに使っちゃって回収できない費用ってことね。パチンコで3万円使っちゃったからやめるにやめれなくて、追加で3万円使っちゃうみたいな。
逆に「受けないメリット」は「家でゆっくりできる。追加で投資(丸一日、交通費)しなくてすむ」。うーん、これは大きいね。
でも「受けるメリット」がこれよりも大きくなれば、受けたらいいんだよね。
うーん、「受けるメリット」としては「10-20%くらいは受かるかもしれない? そして受かったらちょっと箔がつくかも?」。うーん、弱いな。”合格者の教えるセキュリティ対策”みたいな話は一体何回くらい使う? って思うと、非常にメリットが弱い気がしてきた。
よい。「受けないメリット」に大きく丸をつけ、隣に「受けない!」太字で書いた。ふー、すっきり。
子供の頃の勉強と、大人になってからの勉強の違いはなんだろう?
子供の頃の勉強はあらゆることの基礎であり、そもそも考える力をつけるためのものだから、正直それほどおもしろいものではないかもしれない。
多くの子供や、かつて子供だった人たちも、目の前にあってやらないといけないからやっていたんじゃないだろうか。
受験もある意味、集中力や忍耐力、継続する力を一定の年齢で鍛え、試されるって意味があるんじゃないかな。
でも、大人の勉強は違ってて、基本的には自分がやりたい勉強を、自分の意志で選ぶことができる。仕事で受けさせられる資格試験の勉強ってのもあるだろうけど、これも仕事を自分で選んだという意味では自分で選んだ勉強と言えなくもない。
こともの勉強は義務であり、大人の勉強は権利なんじゃないか。
権利だから、勉強するしないも自由だし、何を勉強するのかも自由だ。そして、受験や試験のような壁も自分で設定できる。そして、その設定した壁が違うと思えば、違う壁を設定し直したっていい。
私が資格試験を受験しなかったことを正当化しているわけではなく、大人の勉強は興味の赴くままに様々なことに手を出してみて、違うと思えばやめたらいいし、これだと思えばどこまでも突っ走ればいいんだと思う。
周りの人からは「飽きっぽい」「堪え性がない」と言われるかもしれないが、放っておいたらいい。色々試していたらいつかは見つかるはずだから。自分が興味を持てること、全力をぶつけられることが。それを見つけるために様々なことに手を出してみたらいい。
結局、娘さんには私が試験を受けなかったことは言っていない。
すでに忘れてるかもしれないけど、もし伝えたらなんていうだろう?
「お父さんだけずるい」
って言うかな?
まあそう言われたら笑って答えようか。
「大人は好きな勉強を楽しくしたらいいんだよ。楽しくないって思ったら変えたっていい。悔しかったら、受験なんか乗り越えて早く大人になってみな」
□ライターズプロフィール
星永俊太郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
ソフト開発のお仕事をする会社員
2018年10月から天狼院ライティング・ゼミの受講を経て、
現在ライターズ倶楽部に在籍中
心理学と創作に興味があります。
「勇気、不安、喜び」溢れた物語を書いていきます。
この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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