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週刊READING LIFE vol,110

転職を悩んでいるあなたへ、僕はあえて転職することを勧めたい。《週刊READING LIFE vol.110「転職」》


2021/01/11/公開
記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
転職は「してはいけない」ではなく、「した方がいい」と今の僕は思う。
転職する前に悩んでいた自分に伝えたい「大丈夫だ、自分を信じて、自分が信じる道を進め」と。
 
僕は約1年前に転職をした。同じ業界の中で、同じ職種で他社への転職だった。
 
その時の僕は、身体が悲鳴をあげていた。悲鳴をあげていることも知らないまま、自分を自分で苦しめていた。
 
「もっと、自分はできる、もっと、今の会社で上を目指せる」と来る日も来る日も自分に言い聞かせて、家を出て、職場に向かった。
 
自分で自分にかけていた暗示もどうやら効かなることがあるようだ。
僕は営業職をしていて、会議を終えて、得意先に向かう為に、車を運転していると、突然、何かに襲われたように、涙が溢れてきた。
 
それも、簡単には止まってくれなかった……。
なんとか、得意先に着くまでに、涙を止めて、涙で腫れた目をどうやって誤魔化したら良いか考えながら、得意先に着いて、誰からも何も言われずに、仕事を終えて安心して家に着いた。
 
家に着いて、妻の顔を見るなり、今まで自然と積み重ねてきた責任といういくつもの重荷が、崩れて落ちてしまい、涙が溢れてしまった。
 
そんなだらしない僕を見ていた妻に僕は謝った。
「本当に申し訳ない、今の会社を辞めさせてもらいたい」。
 
妻は優しく了承してくれた。
「今までよく頑張ったよ」と。
 
その時に、どこか安堵した気持ちと悔しい気持ちが入り混じった感情が心の中にあるのを僕は感じだ。
もう後には引けない、自分の中で決心が着いた。これ以上、身体が壊れる前に、今の会社をやめると。
 
それから、新人から約8年間、勤めた会社を辞めて、違う会社に転職した。
なぜ、今の会社を転職先に選んだのか、理由はいくつかある。
 
前の会社よりも規模が小さいから自分がやれることがあるだろという根拠の無い自信と同じ業界とはいえ、分野も違うので、新しい経験がつめる、少しは楽ができるのではないかと思ったからである。
 
転職を決めて、会社に辞めることを伝えた後に、お世話になった先輩と話をさせてもらう機会があった。その時、言われた言葉を僕は今も忘れることができない。
 
「俺は、会社員を続けている以上、あまり変わらないと思う」
 
このシンプルな言葉が僕の中に、ずっと残って離れることは無い。
そして、今、転職をしてから、約1年を越えて、感じることはまさにこのことである。
 
例えて、会社を変えたとしても、会社員である以上、会社が決めた指示に従わなくてはならない。さらに、同じ業界で転職した場合は、そこまで仕事内容が大きく変わることはない。
 
これは、転職してわかった僕なりの一つの答えでもある。
 
もしかしたら、違う業界で違う職種についていたら、全く異なった経験ができ、自分が持っている価値観を揺るがすような変化が訪れるかもしれない……。
 
でも、その環境に身を置くことは非常にリスクであると、当時の僕は感じていた。
もちろん、やってみたい職種があった。ただ、その職種は経験やスキルがいると、相談した人には言われたし、それを聞く度に、まだ準備が足りないと思って、結果的に同じ職種で違う会社を選ぶことにした。
 
違う会社でも、前の会社で培ってきたノウハウやスキルを活かして、再現性を担保し、結果を出すことができるのはないかと、自分を試してみたい気持ちがあったのも事実である。
 
よく社会人になって言われることは、仕事ができる人はどんな環境でも仕事ができる。
 
これは、まさに格言だと僕は思っている。
 
会社を変えようが、本当に仕事ができる人はどんな環境でも仕事ができるし、仕事が向こうからやってくるようになるまで、自ら取りに行く姿勢を持ち続けている人だと思う。
 
「仕事は相手の期待を越えなくてはならない」
これは、多くのビジネス本にも書かれていることだが、実際にやり遂げることは難しい。
 
僕も相手の期待を越えたいと思って今も仕事をしている。
ただ、期待を越えたかどうかは、すべて相手次第の感覚であって、自分ではわからない。
 
どこかで、自分が相手の期待を越えていると思った瞬間に、もう越えることは出来ていない。さらに、同じレベルで仕事をし続けてしまったら、相手の期待を越えることにはもう繋がらない。
 
自分もそうなのだが、はじめは自分に対して、期待を越える仕事をしてくれた時に、驚かされ、また一緒に仕事がしたいと思う。
 
もちろん、何事にも第一印象が大事というように、はじめて一緒に仕事をして、レベルが高いと思ってもらえるほど、相手の期待値を越えることができた時、また一緒に仕事をしようとなる。
 
僕は今回の転職で、前の会社よりも規模が小さい会社に勤めることにした為、自然と前の会社のレベル感で足りないモノを自分なりに補いながら初めの頃は仕事をしていた。
 
すると、はじめてのうちは、相手の想像を越えている仕事ができるに違いない。
でも、それは長続きしない。
 
なぜか、一定の成果をあげると相手は、「君はこれぐらいの成果を上げられる人」という印象を持ち、見るレベルを上げて来るため、自然と求めるレベルが上がってくる。何より、レベルを下げた仕事をすると、直ぐに手を抜いていると思われてしまう。
 
一定のレベルを常に越え続けなくてはならない、転職してはじめの頃は、僕も前の会社では当たり前にできていた仕事のレベルまで直ぐに高めたいと想い、楽をするつもりだったのに、がむしゃらに働いた。
 
気がついたら、時間があったという間に過ぎて行っていった。
まだまだ足りないが、前の会社で出していたパーフォーマンスレベルの仕事は少しずつ出来ていると思うようになった。
 
その時だった、身体の調子が少しおかしくなって、なぜか、急に仕事に対してブレーキをかけられている感覚になった。
 
そこで、気がついた。
 
転職して、例え違う会社に勤めても、僕自身という本来持っているスペックが大きく変わることはないのだと、前の会社ではあたり前に出来ていたことが出来ないことに対する違和感が強くて、それを埋める為に働いていただけなんだと。
 
今までの経験値がある分、新人から入った会社では約8年かかった時間を僕は短縮することができたのだと思う。
 
これは、転職してみないとわからないし、自分自身としては大きな再現性につながっていて、少し自分を認め、振り返ることができた時間だった。
 
前の会社では、どんなに仕事をしても自分で仕事ができるようになっている感覚がなかった。ただ、目の前にある課題に対して、どうやって解決していくか、そればばかり気にしていて、完璧を求める仕事人間になっていたに違いない。
 
でも、今は違う。
 
ある程度、自分の中で仕事に対する取り組み方が出来上がっているからこそ、無駄な時間をかけることなく、仕事ができるようになっているに違いない。さらに、ある意味、妥協するべき点も見えている。
 
その結果として、土日は家族と一緒に過ごす時間が間違いなく、前の会社の時よりも増えて、人生の充実度も高くなっている。
 
今までは、足りない部分を補い、そのスピードを人より時間を使って早めるだけで、ある程度の仕事ができるようになり、認めてもらうことが出来たのだと思う。
 
ただ、その繰り返しでは、もう限界が見えている。
それを突破する為に、一番大切な要素、それは「今の仕事が心から好きか」である。
ここに大きな壁が存在している。
 
例え、どんなに努力して、ある程度の仕事ができるように、なったとしても、本当に今の自分がやっている仕事が大好きだと思っている人では無かったとしたら、いつか先が見えなくなってしまう。
 
僕が得意先に向かっている途中に自然と涙が溢れてきたように、どんなに自分に暗示を掛けたとしても、暗示は解けてしまう。
 
本当に大好きなことを仕事にしている人は、そもそも暗示をかけることすらしていないし、ゲームを攻略するように楽しみながら、夢中になって仕事をしているのだから、一生かけても勝てるはずがない。
 
それがまさに、色々な分野で一流と呼ばれている人は持っている要素だと思う。
 
「好きこそ、物の上手なれ」と誰が言った言葉か僕はしらないけれど、生きていく上で一つでも良いから見つけることが出来たら、仕事に困ることが無いと僕は思う。
 
あまり転職を進める人はいないかもしれないが、あえて僕は、転職を勧めたいと思う。
本当の意味で自分の実力を知ることができるし、何より、自分が大好きでこれなら自然と続けることができる仕事を知る大きなチャンスを掴めるから。
 
人生100年時代と言われるようになって、今までみたいに最初に勤めた会社で終えることが難しくなったと言われている時代だからこそ、自分で自分の好きなキャリアを選べる、幸せな時代にやっとなったんだと僕は思う。
 
もちろん、最初に勤めた会社で定年退職を迎えるまで勤め続けるのも、初志貫徹でとても素敵なことだと思う。
 
一方で、本当はチャレンジしたいことがあったとしたら、後悔無い人生を送ることができたと、胸を張って家族や友人に言えるだろうか。
 
自分の中にある想いに聞いて、後悔が残るかもしれないと思うなら、転職するという選択しは、少しでも年齢が若い内に経験しておくことの方が僕は良いと思う。
 
僕は30代前半で転職することができて、本当によかったと思っている。
自分のレベルを知ることができ、より選択肢も広がった。
 
転職するタイミングは人それぞれだと思うし、「よし転職するぞ」と決めて転職する人もいるのかもしれないが、僕は仕事も人の縁だと思っているので、良いタイミングで人が運んで来てくれると信じている。
 
今回は自分の身体が悲鳴を上げていたタイミングが重なっただけだったと思っている。
 
もし、転職しようと悩んで、決め兼ねているなら、是非、できる限り悩みながら、今の仕事に全力を尽くしてもらいたいと思う。気がついたら、向こうから転職の話が来るに違いない。
 
よく転職した後に、「転職した会社はどう? 後悔していない?」と聞かれることがある。
中には後悔している、転職して失敗したと言っているのかもしれないが、僕は決して、そう思うことはない。
 
なぜなら、自分が選んだ選択を自分で否定してしまったら、誰が自分を一番信じてくれるのだろと思うから。その方が僕は辛いし、カッコ悪いと思う。
 
自分が選択した道に間違いは一つもない、もし、自分で間違いに気がつけたなら、また違う道を選んで歩めば良い、いつか必ず自分が求めた場所に行けるに違いない。
 
人生は長いようで短い、始まったら後戻りは出来ないけれど、いつだって、行く方向は自分で決めることができる。
 
こんな事を書いている僕も、もしかしたら、本当に好きな仕事を見つけて、また違う会社に転職しているかもしれない……。
 
人生は何が起こるかわからないから楽しいに違いない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の4人暮らし、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事。書くことの楽しみを知り、今に至る。

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2021-01-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol,110

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