週刊READING LIFE vol,118

ウイルスは体内だけでなく、インターネット上にも潜んでいる《READING LIFE週刊テーマ「たまには負けるのもいいもんだ」》


2021/03/09/公開
記事:中川文香(READING LIFE公認ライター)
 
 
“あなたの端末は危険にさらされている可能性があります”
 
「そろそろ寝るか」と画面を閉じようとしたその手が止まった。
赤い背景に「CAUTION」と黒文字で大きく書かれた画像のポップアップが目に入る。
 
いかにも危険そうなその画像を目にした瞬間から
「やってしまった……!」
と気付くまでその間3秒。
さっきネットサーフィンしていた時にコンピューターウイルス踏んだか……
後悔してももう遅い。
やばいやばいやばい。どうしよう。
何だ? 何が原因だ?
とりあえず、ネットワーク切断か?
 
「もしも “ウイルス感染したかも” と思うような怪しい感じを受けたら、ひとまずそのパソコンをネットワークから切り離せ。有線ならLANケーブルを抜く、無線であれば無線接続をOFFにする。そうしたら同じネットワーク上にいる他のパソコンに被害が広がるのを防げる」
 
以前システムエンジニアとして働いていた頃、先輩からそう教わったのを思い出した。
よし、とりあえずネットワーク切断……いやいや、ここ自宅だから同じネットワーク上には自分しかいないんだった!
……落ち着け、自分。
危険を知らせる赤黒の画像に心のざわざわが抑えられない。
ポップアップに表示されている文字を目で追う。
fastcaptchasolver.com……?
コンピューターウイルス感染の通知かと思いきや、なにやら怪しい通知元だ。
ウイルス対策ソフトからの警告と思わせた偽通知かもしれない。
これはクリックするとさらに危険なやつだな。
よし、ちょっと落ち着いて調べてみよう。
念のため別の端末を使って検索してみよう。
 
けれど “fastcaptchasolver” というキーワードでネット検索してみても、全文英語表記のサイトだったり、カタコトの日本語のサイトだったり、「逆にこれをクリックすることで二次被害が広がるのではないか?」という疑問が湧いてくるようなものばかり。
途方に暮れた。
どうしよう。
今のところこの警告ポップアップが出ているだけで特に挙動はおかしくないけれど、裏で何か動いていたら嫌だな。
ウイルス対策ソフトが “安全” と判断してマークを出してくれているサイトを恐る恐る開いて読んでみる。
この長文の英語を読めなければ解決できないのか……
一瞬、無の状態に陥る。
どうしよう……これ以上どうやって調べようか。
パニック状態の脳みそをフル回転させて、ふと思いついてTwitter検索をしてみた。
 
同じように “fastcaptchasolver” で検索をかけてみると、少なくはあったけれど数件ヒットした。
全て日本語。
良かった~、同じように困った人いたんだ。
ツイートを遡る。
「検索しても1件しか出てこなかった……」
「調べても日本向けの情報が無くてまじ困る……」
どうやら皆、情報の少なさに困っているようだ。
ツイートは2月に入ってからの最近の日付のものばかり。
このところ出回り始めた新手のコンピューターウイルスらしい。
その中で、一つ見覚えのある画像が貼ってあるものを見つけた。
 
“≪許可≫をクリックして、ロボットではないことを確認してください!”
 
かわいらしいロボットの画像が吹き出しの中でこう訴えている。
 
これかー! 確かにさっき見た!
 
数十分前の記憶が蘇る。
私は、PCR検査用の簡易的な自宅検査キットについて検索していた。
実際どのくらいの精度なのか、信頼出来そうなものなのか、どのくらいの金額で購入できるのか、興味を持ったので調べてみていたのだった。
いくつかのサイトを渡り歩いて見ているうち、このかわいらしいロボットの画面を見た。
「製品の紹介動画が流れるのかな? 再生許可の画面だろうか?」
紹介動画を見るまでしなくてもいいやと思い『キャンセル』を数度押したけれど画面が切り替わらない。
仕方なしに『許可』を押してみた。
そのまま何も起こらなかったので、疑問に思いつつもそのサイトを離れたのだった。
 
……あれが原因だったのか。
どうやら「キャンセル」を押しても次の画面にはいかないようで、ブラウザの「戻る」ボタンを押すか、画面を閉じてしまう、というのが正解だったらしい。
自分の危機管理能力の低さに愕然とした。
 
ここ最近、偽のAmazonから「クレジットカードの登録をお願いします」「お客様のアカウントを一時的に停止しました」といういかにも怪しいメールが頻繁に届いていた。
フィッシング詐欺にひっかからないように、送られてくる迷惑メールの文面を読んだり送付元のアドレスを確認したりして、自分なりに迷惑メールの見極め方を分析しているところだったのに。
迷惑メールに関してはとにかく、『日本語がおかしいメールは削除』『Amazonが公開している通知用のアドレスでないような、変なアドレスのものは削除』『少しでもおかしいと思ったらメール本文に載っているリンクは絶対に押さない』を徹底していた。
もしもAmazonアカウントが乗っ取られていないか不安に思ったら、メール本文のリンクをクリックせずに自分でGoogleなどから検索してみて、正規のログイン画面を探し出す。
そこからログインしてアカウントを確認する。
すると、偽メールに書かれているような「アカウントを緊急停止しました」なんていうのは噓だったということが分かる。
メールのリンクは出来る限り押さないに限るし、知らないアドレスから送られてきたメールの添付ファイルは開かない一択。
ウイルス対策ソフトも入れていたし、これまでもおかしいなと思うことは無かったのに、こんなことで簡単にひっかかってしまうなんて……。
 
後悔してもしょうがないので対処法を……とさらにツイートを遡ってみると、「これを見て助かった」と、簡単に対処法をまとめたサイトのリンクが貼ってあった。
Google検索では上位に来ていなかっただけで、対処法をまとめてくれている人がいたのだ。
調べてみると、このサイトを運営している方は他にもフィッシング詐欺対策やコンピューターウイルスの感染対策方法をまとめているようで、いくつかそういった関連の記事がヒットした。
すがる思いで読んでみる。
だんだんと敵の正体が分かってきた。
どうやらこの “fastcaptchasolver” は迷惑広告を表示させるコンピューターウイルスのようなものらしく、私が見たかわいらしいロボットは通知の受け取り許可を求めていたようだ。
通知を許可すると、迷惑広告が表示されるようになる。
確かに、Twitterでも「ひたすら通知送ってきて鬱陶しい」というツイートがあった。
私は今のところウイルス対策ソフトを語った偽通知の一件しか来ていないけれど、このまま放っておくときっと他にも迷惑サイトの通知がたくさん届くようになるのだろう。
そしてその通知をクリックしてしまうと……考えるだけでも恐ろしい。
一度許可してしまうと延々と迷惑通知が届くようになるそうで、対処法としては許可した通知をブロックすれば良いようだ。
WEBブラウザの「設定」から「通知」の設定を探し出し、 “fastcaptchasolver” と入っているURLのものをブロック、もしくは削除する。
「通知」の中の許可のリストから “fastcaptchasolver” が無くなっていればOKだ。
ひとまず、これで対処出来た。
それ以降怪しい通知が出ることは無くなったし、端末の挙動がおかしいということも無いので、今のところは問題なさそうだ。
ただ、裏で悪意のあるプログラムが走り、時間差で被害が出るタイプもあると聞くので油断は出来ない。
またどこかで不用意に別のコンピューターウイルスを踏んづけてしまうことも無いとは言えない。
 
今回は新手のものに引っかかってしまったようで、ネット検索しても日本語の情報があまり出回っておらず苦労したけれど、Twitterに助けられた。
私と同じように対応に困った人がつぶやいて、それに応えてまた誰かがつぶやいて、数珠つなぎのように繋がって、対処法をまとめたサイトまでたどり着くことが出来た。
Twitterってこういう時にも役立つんだな、と目から鱗が落ちる思いがした。
玉石混交の情報入り乱れるTwitter上で、信頼できるものなのか真贋を見極めるのはなかなか難しいかもしれない。
正直、こればっかりは数打って経験を増やして自分なりの判断基準を鍛えていくしかないだろう。
痛い思いをして色々試してみて初めて、何が良くて何が悪いのかという、本当に自分の身についた基準が出来ていく。
コンピューターウイルス感染に関してはこれ以上痛い思いはしたくないのだけれど。
 
最近、『日本国内の多数のパソコンが、 “Emotet” というコンピューターウイルスに感染している恐れがある』とのニュースを目にした。
新型コロナウイルスに便乗した迷惑メールを送りつけ、その中にコンピューターウイルスを忍ばせるという事例もあるそうだ。
今も新しいコンピューターウイルスが世界のどこかで生み出され、発見されるとその対処法が模索され流通し、ウイルス対策ソフトなどにも組み込まれていく。
そんないたちごっこが日々繰り返されている。
恐ろしいコンピューターウイルスをばら撒くのもインターネット、そしてその被害から救ってくれる情報もインターネットに転がっているのだ。
捨てる神あれば拾う神あり。
自分の不注意により地獄に叩き落とされた私を拾い出してくれたのは、Twitterの住人たちだった。
おかげでその後はぐっすりと眠ることが出来た。
あまり良い事では無かったけれど、偶然にもTwitterの新しい使い方に気付くことが出来たので、プラスマイナスゼロ、と言って良い出来事だったかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中川 文香(READING LIFE公認ライター)

鹿児島県生まれ。
進学で宮崎県、就職で福岡県に住み、システムエンジニアとして働く間に九州各県を出張してまわる。
2017年Uターン。2020年再度福岡へ。
あたたかい土地柄と各地の方言にほっとする九州好き。

Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。

興味のある分野は まちづくり・心理学。

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2021-03-04 | Posted in 週刊READING LIFE vol,118

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