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週刊READING LIFE vol,120

あなたの中に眠る野生を呼び戻せ!! 《週刊READING LIFE vol.120「後悔と反省」》


2021/03/22/公開
記事:佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
3月上旬、私はある人体実験を行ってみた。
 
5日間一切の食事を採らず、酵素ドリンクという様々な食品を発効させたエキスと、塩分を補給するための具が入っていないコンソメスープのみで過ごした。
 
いわゆる「ファスティング(断食)」と言われる、体の中に溜まった不純物を取り除くために、添加物や固形物を体内に入れず、余計なものを体外に吐き出す取り組みである。
なぜこんなことをしようと思ったかというと、花粉症の改善に効果があると聞いたからだった。
 
私は極度の花粉症で毎年2月下旬から4月の上旬までの2か月間は薬が手放せない人間だった。この症状を少しでも改善できればと思い、これまでも漢方やサプリメントなど試してきたが、一切効果を感じることはできなかった。
 
ある時知人から「ファスティングを行うと花粉症改善に効果がある」という話しを聞いた。
その話しを聞いたのは数年前なのだが、断食を行うことにかなりの抵抗感があり「何も食べないなんて自分には無理だ」「極端な断食なんて逆に体に悪そう」と懐疑的な気持ちが先に浮かんでしまい二の足を踏んでいたのだ。
 
加えて、私は趣味でトレイルランニングという山を走る競技を行っているため、食べないことで、走れなくなるのではないかという懸念があった。またファスティングほどではないが、数年前から「糖質制限」というダイエット手法が話題になり、私も何度か試したことがあった。ところが実際に体重は落ちるが、長時間走るにはやはり糖質も必要なため、トレイルランニングのような長距離を走る競技者に極端な糖質制限は不向きかもしれないと思っていた。
 
しかし、実は糖質制限を始めたときに思わぬ効果を感じていた。
それが花粉症の症状が緩和されるという実感だったのである。
 
特に小麦粉を制限しているときに、その違いを実感することができた。パンやパスタと言った小麦粉が大量に含まれる食事を控えているときは、花粉症の出方が明らかに違うのだ。
 
そしてこれは私だけでなく、周囲のトレイルランナー仲間でも複数人が同じ効果があると話しているのを聞き、何か医学的なエビデンスを知っているわけではないが、体験として効果があると感じていた(もしかしたら探せばエビデンスとなる研究はあるかもしれないが、残念ながら現時点で筆者はそのデータを持っていない)
 
そのため、いつかファスティングをやってみたいと思っていたところに、コロナ禍で在宅の時間が長くなり、思い切ってファスティングを行ってみようと決意し、今回実行に移すことにしたのである。
 
そもそも、私には後悔と反省がある。
それは幼少期からの食事の乱れと、極度の肥満だ。
 
子供のころ私は学校一の肥満児だった。
産まれたときに4,200gあったので、その時から太る素養は既に備わっていたのかもしれない。母親によると、食欲も他の赤ちゃんの1.5倍はあったらしい。病院で看護婦さんがミルクを周りの赤ちゃんの分も含めて用意してくれるのだが、私の分だけ明らかに多かったそうだ。それをほぼ一気飲みし、それでも足りないという顔をしていたというのだから、大きくなるのも無理はない。
 
実際私は小学校6年生の時に体重が70㎏を超え、中学2年生の時には100㎏を超えた。わずか2年間で体重が30㎏も増加したことになる。
この時の食事ははっきり言って酷いものだった。
 
毎日ポテトチップスなどのお菓子を一袋食べ、加えてご飯は毎日一合から二合、そして牛乳は1パック飲んでいた。それにおかずが加わるのだから、今思えば一日4,000kcalくらい摂取していたのではないだろうか。
 
中学2年生で100kgを超えたときには血圧は上が200、下も140を超えていた。間違いなく成人病だろう。しかも親も太っていたので、それが家では通常だった。
 
実際この時に様々な体の不調があった。
その中の一つに花粉症があった。
 
今では花粉症は小さな子供でも発症するらしいが、少なくとも私が子供のころに花粉症を発症している友達の話しは聞いたことが無かった。これはスギ花粉の量が30年前と比べて増加しているので、発症率が昔に比べて格段に上がっているらしい。
 
ところが私は小学校2年生の時に一番初めの症状が現れた。
急に目がかゆくなり、子供だったからずっと目をかいていた。授業中もかゆくて目をこすっていると、突然目が見えなくなった。
 
「あれっ?」と思い、隣の友達にこっそり「目が見えなくなった」と言うと、私の顔を見た友達が悲鳴を上げたので、先生も振り返り大騒動になった。
なんと私の顔が血まみれになっていたのだ。
 
目をこすりすぎて、瞼の淵が切れてしまったのだ。
実際にはほんの少し切れただけなのだが、目の淵を切ると大量の血が出ることはあの時初めて知った。そのまま病院に行って診察してもらうと結膜炎と診断された。
 
その時から症状が出ているので、花粉症歴は30年を超えている。
病院に行って薬をもらったが、結局は症状を抑えるだけで改善されることはなかった。
むしろ大人になるにつれて症状は悪化していき、社会人になったころには春先は地獄でしかなかった。
 
目は真っ赤に充血し、くしゃみと鼻水は止めどもなく流れ、のどの奥の部分が異常に痒くて、そこを舌で何度も擦りつけるので、痒みを通り越して痛みを感じていた。そして鼻をかんだティッシュの山が目の前には積み上げられていた。
 
「何で自然界にある植物がこんなに人間に害を及ぼすんだ」
 
とスギ花粉が体に影響を及ぼすことが不思議でならなかった。
昔の人は山の中に住み、さらにスギ花粉を直接浴びていたはずである。
しかし、昔から花粉症があったのであれば、こんなに杉の木が植林されるはずないから、きっとほとんどなかったのだろう。
 
現代の人間は何かが変わってしまったのではないかと考えるのが自然だという気がしていた。
 
そんな時に友人から面白いから読んでみたらと勧められ、ある1冊の本と出合った。
 
「GO WILD 野生の体を取り戻せ!」
 
著者の一人であるハーバード大学医学部准教授であるジョン・レイティ博士は運動と精神の関係を研究する医学博士だ。
前著「脳を鍛えるには運動しかない」では運動がもたらす精神への影響を多くの研究成果をもって解説していた。
 
特に鬱や統合失調症と言った精神障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症などの発達障害に対して、薬と運動の両方を試した結果、同程度の回復が見られたなど、運動することで脳内ホルモンが活性化し、薬に頼らずとも精神面を回復させる効果があるなど、非常に興味深いデータが書かれており、とても面白い本だった。
 
そのレイティ博士が、人間が本来持っている野生の体を取り戻せは、癌も鬱も高血圧も肥満さえもなくなるというのだ。
 
高血圧や肥満と言えば日本の三大疾患の「癌」「脳梗塞」「心筋梗塞」の原因とも言われている。さらに自殺者の8割は鬱になっているというデータもある。
それを人間が本来持っている野生の力を呼び覚ますことができれば無くすことができるというのだから、興味を惹かれないわけがなかった。
 
そして私は直感的に「もしそれが本当なら花粉症も無くすことができるのではないか」と感じ、さっそく本を購入し読み始めた。
 
この本は単なる健康志向の本ではなかった。
人間の進化の歴史から、本来人間に備わっている脳機能、運動機能、精神のメカニズムなどが数多くの事例をもって解説されていた。
 
私はこの本を読んで元メジャーリーガーのイチローのことを思い出した。
現在の野球界において数十年前と大きく変わったのは「肉体強化」ではないだろうか。ダルビッシュを始め大谷翔平選手などアメリカで活躍している選手は皆筋トレを重視し、外国人選手のようなスピードとパワーを手に入れることが主流になってきている。
 
日本のプロ野球でも筋トレを重視している選手はたくさんいる。これは全てアメリカの科学的なトレーニング理論から導き出された近代ベースボールを象徴する取り組みだろう。
 
しかし、体を大きくしてパワーとスピードをつけていくことが正しいアプローチであるかのように言われている中で、当時40歳を超えて現役を続けるイチローはインタビューの中で真っ向からその考えを否定していた。
 
「人間には本来持って生まれた骨格や筋肉の付き方、関節や腱の強さがあるんです。それを無視して筋肉を大きくしてしまったら、その人本来の体の動きが出来なくなるのは、当たり前じゃないですか」
 
その代わりイチローは、自分の身体のわずかな変化をとらえるようなトレーニングを何度も繰り返し行うことを重視していた。
 
昔イチローと、過去3度の三冠王に輝いた天才バッター落合博満のやり取りの中で、落合が「足の位置をもう3cm狭めたほうが良いんじゃないか?」とイチローにアドバイスした時、彼は「3cm足を広げると体がどういう動きをするのかを確かめているんです」と答えたというエピソードを聞いたことがあった。
 
まず3cmの違いを指摘した落合もすごいと思ったが、その3cmの違いで体の動きにどんな変化があるかを研究しているというイチローの話しに心底驚いた。
つまりイチローは自分の身体の動きを1cm単位で感じ取り、その違いを確かめることができたのである。
 
私は「GO WILD」もこれに通じたものがあると感じた。
 
人間は文明が進化したことで様々なことが効率化され便利さを手に入れた。
特に日本やアメリカ、ヨーロッパ諸国では、自国で栽培されていない穀物を輸入することで、殆どの人が一日3食をなんの不自由もなく食べることができるようになっていった。
 
そして、さらに低コストで大量生産可能な遺伝子組換え食品や、食品添加物を入手することができるようになり、カロリーベースでは地球にいる全ての人間が飢えることが無いほどの食料を手にすることができるようになった。
 
また人々の生活も自然環境から離れ、都市で暮らすように変わっていった。
都市部にはもちろん野生の動物も出なければ、歩くこともままならないような山道も存在しない。全ての人が生活しやすいように設計されている。
 
こうした「利便性」を人間は手に入れたのだが、それと引き換えに好ましくない物も手に入れてしまった。
 
それが癌であり、肥満であり、高血圧、糖尿病、鬱といった現在問題視されている数々の病である。これらは数百年前の人間には存在していなかった病だというのだ。
つまりこれらは「文明病」と言ってもいいものなのだ。
 
「GO WILD」とは、この文明社会において、人間が本来持っている能力をもう一度よみがえらせようということに他ならない。
そうすることで、数々の病が回復する可能性があるということなのだ。
 
それはイチローが自分の身体の1cmの違いに敏感になることに似ている。
自分が食べるもの、運動、睡眠、精神、協調性、生物や自然への愛情、こういったものに敏感な体を取り戻そうという取り組みなのである。
 
「GO WILD」を読み私も野生の体を取り戻したいと強く思うようになった。
そして、私は5日間のファスティングに挑戦したのだ。
 
その結果、私の体には様々な変化が起こった。
 
まず体重は4kg落ち、体脂肪率は20%から16%台にまで減少した。
また肌が驚くほどつるつるし始めた。
そしてファスティング明けに食べたバナナは、これまでに食べたどんなバナナよりも味が濃かった。いつも食べているバナナがこんなに繊細な甘さを持ったものだと初めて気が付いたのだ。
 
そして問題の花粉症だが、いつもなら2月下旬に入ったころからくしゃみと鼻水が止まらなくなり、途中からは薬を飲まなければ外出することができなかったのだが、3月中旬のいま、薬をまだ一度も飲んでいない。
 
もちろん全く症状が出ないわけではないが、日によっては「今日花粉飛んでないんじゃない?」と思うほど症状の改善が見られた。
 
正直これは驚くほどの成果だ。
あくまで私の感想であり、全ての人に同じように起こるのかどうかは分からない。
しかし少なくとも私自身はファスティングをすることで、人間が本来持っている体の能力を取り戻し「GO WILD」に近づいた実感がある。
 
そして、この本の最後にはレイティ博士ともう一人の著者であるリチャード・マイニングのこんな言葉が書いてあった。
 
「私の一歩一歩はもはや問題解決のためではなく、よりよい人生に向かうためのものなのだ。無限とも思われる可能性を探っているのだ」
 
もしあなたが何か体の不調に悩みを持っているのであれば、食事、運動、睡眠、精神の何かを変えてみてほしい。
 
もしかしたらあなたの「野生の体」が目覚める引き金になるかもしれない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2021-03-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol,120

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