週刊READING LIFE vol,120

免停経験者の反省文《週刊READING LIFE vol.120「後悔と反省」》

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2021/03/22/公開
記事:赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「みなさんは、幸運中の幸運なんですよ!」
 
免許センターの教官さんってなんでこうも声が大きくて朗らかなんだろうか。
 
そんなこと言われても、幸運だ、なんて思えるわけがない。
 
だって、今日は違反者講習。
ここに座っている1日限りのクラスメイトたちは、違反者講習を受けなければ免停になりますよ? という内容の通知が届いて、選択肢がほぼ一択しかない状態で集まっているのだから。
 
それを幸運だと、にこやかに力説されたところで、しらけた空気になるのはやむを得ない。
 
周りを見渡すと、それぞれに視線をそらしながら無表情なまま座るクラスメイトが私とほぼ同意見である、ということを物語っていた。
 
「いいですか、皆さんは、1~3点の軽微な違反を積み重ねて6点になってしまいました。本来ならば免停になるところなんですが、重大な違反はしていない方も免停になってしまうのは気の毒だということで救済策として違反者講習という制度ができたんです。4点の違反が入っていたり、軽微な事故の積み重ねでも累計が7点になってしまったら、免停なんです! だから、みなさん、不幸中の幸いなんです」
 
教官はなおも力説し続けた。
 
しかし、こんな表情をした人たちを毎日毎日相手にしなければいけないのに、あれだけ朗らかに講習を進行できる教官のメンタルってすごいな、私は頬杖をつきながら思うのだった。
 
違反者講習は、座学の講習と、社会活動への参加か実車訓練を受ける2部構成で行われる。免許の更新時に流れるような、事故をして加害者になったら大変なことが待ってますよ、的な映像ばかりを延々と見させられるのかと思いきや、シミュレーターを使った安全確認講習や運転時の対応をマークシートでチェックしていくことで運転のクセを診断してくれる運転適性検査など、意外にも充実した内容だ。
 
講習も法律の改正点だけではなく、違反の点数がどのようになると免停になるのか、ということをより具体的に教えてくれる。
 
もちろん、違反しないに越したことはない。だが、夫の趣味で悪目立ちする赤いスポーツカー乗っている割に全く運転に自信のない私だ、ちゃんと聞いてないと合格にできませんよと脅されたことも相まって、結構真剣に聞き入った。
 
「何も違反しないまっさらな状態だと、0点です。これが違反をするとその違反の度合いによって点数が積み重なり6点になったら免許停止、いわゆる免停になります。今回皆さんは救済措置のおかげでこの講習を受けさえすれば、免停にもならず、0点に戻るのです」
 
「え? 全く何もなしになるんですか?」
 
明るい茶髪の女性が驚いたように声をあげた。
 
「正確に言うと何もというわけではなくて、今回の違反者講習の制度は、これから3年間使えません。けれどそれ以外はまっさらの0点になります」
 
ようやく上がった反応に教官は嬉しそうに答える。なんだか、通販番組の司会者みたいに見えてきた。
 
しかし、そんな制度なのか。この講習が終わったらもうドキドキと免停のことを気にしなくてもよくなるのか。なんだか不思議な制度だが、少しやる気がでてきた。
 
「それでは、ここで、社会活動と実車訓練にわかれます。社会活動の方は、こちらに並んでください」
 
今日、社会活動に参加するのは5人だった。あらかじめインターネットで、「社会活動に参加」が何か、というのは調べていた。
 
免許センターの教官のバンに乗り込み、渡された蛍光黄色のジャンパーを着こむ。
 
「いやー、このくらいの時期だとまだいいんですけどね、僕も一緒にやるから、8月とかは暑くて本当に大変なんだよ。すぐに帰ってきたくなるんです」
 
もちろんちゃんとやりますけどね、と続ける教官の声の大きさは、バンの中でも響き渡っていた。ガハハという笑い声に曖昧に笑い返す。寄り添おうと頑張って話しても講習者との距離がなかなか縮まらない教官がちょっと気の毒になった。
 
20分ほど車に揺られて、大きな駅のパーキングに車が停まった。あけ放たれたバンからやる気のない黄色い人々がぞろぞろと降りてくる。アルバイトだとしたら完全に人選を間違えてしまった雰囲気だ。
 
指定された信号機の端に立つ。時々、ポジションを変更するように指示を受ける。違う場所で交通整理をしながら、道路を走る車や歩行者、自転車の流れを見て危ないと思う点を後でレポートにして提出する。
 
私と同じ横断歩道の反対側に立っていたのは20代前半かと思われる金髪に長髪の男性だった。この世で一番交通整理の似合わない男がやる気なさそうに旗を振っているのを見て、不謹慎にもおかしくなってくる。
 
時々この場所で、昼間に旗振り当番をやっているのはこれだったのかと合点がいった。朝の忙しい時でもなく、ボランティアや保護者ではない人達が立っている姿を不思議に思っていたのだ。
 
若い人達にとっては、違反がリセットされるとはいえ旗振り当番はとんださらし者だろう。こうやって恥ずかしい思いをして、もう二度と違反しないように気を付けようと思うのだな。
 
そんなことを思う余裕もありながら、その日は終わり、無事点数はリセットされた。夫に休んでもらい、末っ子の面倒をみてもらうなら、もっと素敵なところに遊びに行きたかったなあと思いながらも、車が使えるということのありがたみを感じ、反省してこれを機にもう、違反はしないぞ! と決意をした。
 
……はずだった。
 
なんで、こんなことになったのだろう。
 
目の前に警官が立っていて、大きな旗を振って私に入れ、と誘導している。待機していてスピード違反を取り締まるネズミ捕りにまんまとひっかかったのである。
 
あれから、1年もたたないうちに、また違反を何度かしてしまったのだ。この頃には、赤いスポーツカーを買い替えて悪目立ちもしなくなっていた。
 
しかし、捕まるのは、車のせいではなかった。派手な車のせいにして反省がおろそかだったのをおてんとさまに見とがめられたのか。
 
性懲りもなく、忘れた頃に捕まったのである。
 
ああ、免停! 後悔しても、もう遅い。遠出していた先で捕まったので、今回も通知が来るまでは乗っていてもいい、ということは不幸中の幸いだった。
 
私は、またも免許センターに出向くことになったのである。
 
桜の花びらが散るのをバスの車窓から眺めていた。
前回の違反者講習とは違い、免停講習は車に乗っていってはいけない。
 
講習を受けテストで優秀な成績だったら、免停の期間が30日間から免停講習当日の1日だけに短縮される。しかし当日は免停期間にあたるため車には乗ってきてはいけない、と連絡ハガキに赤字で記載されていた。
 
またもや、やたらめったら明るい免許センターの教官と顔合わせだ。
 
それだけはなく、私には一抹の不安があった。
違反者講習から3年以内に免停になった場合には、なんらかペナルティみたいなものがあるのではないだろうかと気になっていた。
 
なにせ、この短期間に免停相当を2回やっていることになる。なんだか、ひどく罪人になったような気分だ。私、運転の適性がないんじゃないか、気持ちはミジンコのようだった。
 
最初に書類の確認があり、自分の違反と点数を確認したあとで免許証を取り上げられる。もらった書類を見る限りは、前回についてのペナルティ的なものはないようだ。私はそれで少しホッとした。
 
今回もまた、座学の講習と、前回やったマークシートの運転適性検査、それにシミュレーター、そして、今回は実車訓練がある。
 
「いいですか、今日一日真面目に講習を受けた態度とテストで優秀な成績を収めたら、免停期間は今日の夜中の23時59分までで終わりです。それでリセットで0点に戻ります。でも気を付けなければいけないのは、ここにいる半分の人は、また免停で戻ってきます」
 
明るく朗らかに話す割に、今日の教官は物騒なことを言った。
 
「みなさんは、前歴1というのが付くので、この1年間は累積4点で今度は30日ではなく60日の免停になります。来年の今日を超えたら、前歴も含めてすべてがリセットになるので、それまでは頑張ってください」
 
ただし免停にはならなくても、違反をまたしてしまったら、その違反をした日から一年間たたないとリセットされないから、とにかくこの一年は違反もしないように気をつけなさい、と続ける教官の声を聞きながら、頭がクラクラしてきた。
 
確かに、既に舞い戻ってきている。前回が違反者講習じゃなかったら、今頃もっと大変な講習を受けていたかもしれないのだ。
 
もはや、違反しないで一年間が過ごせるかどうか不安だった。実車訓練で教官から、
 
「あなた、いつも車乗っているんだよね? 乗らなかったら免停にならないもんね? もう少し、いつも通り運転しても大丈夫だから」
 
とからかわれるくらいに慎重にゆっくり運転をしたし、運転適性検査でも、安全運転を心がける模範的な運転者の心理状態だったらしく、教官から、
 
「あなた、なんでここにいるのか不思議なんだけど、このまま安全運転してね」
 
と、励まされて免許証を返してもらい、講習を終えたのだった。
 
帰りのバスの中で、ぼんやりと思いを巡らせていた。人間は、毎日一定の心理状態ではいられない。時間がなくて焦っているときもあれば、子供達の世話に追われてイライラするときもある。当たり前のことだけど、講習の時みたいに常に緊張感を持っていられる時ばかりではない。
 
しばらく時間が立てば、違反で捕まったときの後悔なんてすっかり忘れて気がゆるむし、疲れているときだってある。
 
運転適性検査では、真っ当な感覚を持っていると判断されてもやっぱり運転はナマモノだ。日々、心境も状況も変わる。
 
だから、もう、捕まって後悔をすることがないよう、1日の自分の運転をちゃんと反省しよう、と決めた。
 
車を乗る時には、同乗している子供達と自分に
 
「今日一日、無事故無違反で運転します!」
 
と宣言をする。ちょっと焦って運転をしてしまった時には、すぐに反省する。そういう積み重ねをして、免停から1年過ぎるまで、あと1か月を切った。
 
違反をしてお金を払うくらいですむならいい。でも、本当に大きな事故を起こして取り返しがつかないことになったら後悔しても反省してもしきれない。だから、違反者講習も、免停講習も、安全への大切な投資だったと思えるようになった。1か月が過ぎて前歴がリセットされても、1日の自分の反省はやっていきたいな、と思っている。
 
違反者講習も免停講習も内容も充実していてとてもいい勉強にはなりますのが、時間もお金もかかりますのでおススメはしません。
 
違反はほどほどに、心身ともにゆとりを持って安全運転で過ごしましょうね!
 
私自身に一番言い聞かせながら。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
赤羽かなえ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

広島県在住。慶応義塾大学文学部卒。フリーライター力向上と小説を書くための修行をするべく天狼院のライティング・ゼミを受講。小説とイラストレーターとのコラボレーション作品展を開いたり、小説構想の段階で監修者と一緒にイベントを企画したりするなど、新しい小説創作の在り方も同時に模索中。

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2021-03-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol,120

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