週刊READING LIFE vol.122

アニメ「働く細胞」から学ぶ、新しい働き方〜とりあえず、「breakthrough」をしたいなら、まずは、「break」することから始めようか〜《週刊READING LIFE vol.122「ブレイクスルー」》

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2021/04/05/公開
記事:安堂(READING LIFEライターズ倶楽部)
 
 
皆さんは「働く細胞」というアニメを見たことはあるだろうか。
タイトルだけは、聞いたことはある人も多いと思う。
 
「働く細胞」とは2018年にアニメ放送がスタートされた大人気マンガで基本1話完結なので、読みやすく、いわゆる「マンガライト層」からも人気が高い。
可愛いキャラクターグッズも爆売れしていると聞く。
また、マンガのテーマも誰もが1度は気になったことがあるテーマだ。
そのテーマとは「人間の体の中」。
そう、アニメの舞台は人間の体の中。
登場人物は体内にいる無数の細胞だ。
 
体内で生存する細胞を擬人化して、細胞の働きを紹介するいわゆる擬人化アニメである。
一見するとサイエンスチックなものと想像してしまうが決して、堅苦しいものではない。
キャラも可愛くデフォルメされており、ストーリーも面白い。
ちゃんとエンタメとして楽しく見られるアニメで、見終えた後はちょっと賢くなれる。
まさに一石二鳥なアニメだ。
 
主人公は赤血球。赤血球の仕事は酸素を体の様々な細胞に届けることだが、
アニメでは酸素を運ぶ宅配のお姉さんとして描かれている。
宅配のお姉さんの仕事風景を通して様々な細胞の働きを紹介したり、病気にかかった時の細胞の動きなどを紹介するのが基本的なストーリー展開だ。
体の中の動きがわかりやすく表現されており、アニメを見たあとは、「面白かった!」と思うのと同時に「少し体をいたわらなくてはな」と反省したりする。
 
 
そんな見るだけで健康になれるアニメ「働く細胞」が2021年の冬より、第2期が放送された。
その名も「働く細胞 black」だ。
 
何が変わったのだろうか。
そして何が「Black」なのだろうか。
 
まず変わったのが主人公の赤血球が、可愛い女の子から、好青年に変わっていたという点であろう。
女子に一番モテそうなカッコ可愛い青年が2期の主人公になっていた。
それに伴い、1期ではクールな男性だった白血球が、セクシーな女性となっていた。
はじめはこれくらいの変更かと思ったが、見進めるうちに「black」の意味がわかってきた。
 
まず1期目と2期目の舞台である体内が異なる人物のものであるということ。
そして1期目より遥かに劣悪な環境で「black」だということだ。
1期目もそれなりに、病気しがちな人物の体内が舞台だったが、2期目は比べ物にならないほど病気になる。水虫、円形脱毛症、痛風、アルコール過剰摂取による肝臓の機能低下。
さらには、性病や勃起不全などと、「どんな人物の体内だよ」と思ってしまう環境下での細胞の働きを描いている。
勝手な推測をしていいのなら、1期目は「若い男性」で2期目は「中年のおじさん」の体内と推測する。
赤血球が通る道も脂で汚れて、1期目より若干絵が汚い。
細胞も度重なる病気に疲弊しており、まさに「Black」だ。
 
また、明らかに1期目より、藥や手術に頼る場面が多い。
1期目は、病気を殺す細胞、白血球やキラーT細胞が活躍し、一件落着という話が多かった。
つまり自己治癒が可能だった。
 
Blackの場合、解決策が自己治癒より藥投与の割合が多かった。
まさに「Black」である。
最低な職場環境。
それでも健気に働く赤血球の主人公に私は、とてつもなく親近感を覚えた。
多分それは、私も同じような環境下で働いたことがあるからであろう。
 
前職はまさに2期のような職場環境だった。
会社は急成長に連れて仕事の量も増えていくのに人が足りない。
時に日付を跨ぐほど残業する日もあり、終電を逃すこともしばしば。
 
唯一、救われた点として、「忙しい時間」と、「比較的穏やかな時間」、「忙しい日」と「穏やかな日」が明確に分かれていたことだ。
「ピーク」と「アイドルタイム」、「繁忙期」と「閑散期」が明確化されていたことで本来「休む時間」というものが捻出しやすい環境だった。
当時私の抱えていた業務は朝と夕方にピークを迎えるが、昼間は結構暇であったため上司に昼間の休み時間を増やして残業にならないように調整することを提案した。
しかし、上司はかなり渋った顔をした。
また繁忙期を避けて「休暇」を申し込んだところ受け取ってくれないこともあった。
 
会社的にも「アイドルタイム」に稼働しないことで残業代も防ぐことができるし、「閑散期」に休むことで休暇取得率が上がるので合理的だと思うが、上司はそれを許さなかった。
上司の言い分としては、あまり休むと「暇な部署」というレッテルが貼られ、来年度の予算が取りづらくなるらしい。
 
なんだそれ。
 
だから暇な日があれば仕事をしている振りをしてほしい。だそうだ。
 
なんだそれ。
 
なんだそれ。と思うが、このような不条理で回っている会社も少なくない。
 
結局、暇な時間をリフレッシュに使えず、夕方のピークを迎え、結局2時間ほど残業をする。
残業を積み重ねるから予算を使いきり、人を雇えなくなる。
 
まさに悪循環。
私はまだ良い。
ひどいのは先輩の方で、人事から残業を減らすように再三催促されていた。
 
ならば、先輩を「アイドルタイム」に休憩させて、昼は私だけで回せば良いのに上司は相変わらずの論理を提示するだけ。
 
だから、なんだそれ。
 
この状況は「働く細胞」でも出てきた。
病原菌と戦う細胞として、白血球とKILT細胞が出てくる。
聞き馴染みのある白血球に対してKILT細胞はあまり存在が知られていないと思う。
私も、アニメを見るまで全く知らなかった。
KILT細胞とは白血球より病原菌と戦う能力が長けている細胞だ。
つまり白血球より強い。
 
アニメでは白血球でも戦えそうな弱い病原菌もKILT細胞が殺すことでKILT細胞の業務負荷になり結果、暴走を起こす様子が描かれる回があった。
原因は、KILT細胞に出動命令を出す細胞の業務配分ミス。
つまり上司のマネージメントミスだ。
この回を見た瞬間、胸が苦しくなった。
まさにあの時の「先輩だ」と。
 
やはり時折休まなくては壊れる。
細胞も、人間も。
 
会社というのは
「現状の問題を解決するために働く人」が評価される組織だ。
具体的に言うと「商品が売れないから営業先を歩く回る人」というのが評価される人だ。
逆に「休む」ということについてあまり評価はされない。
むしろ冷ややかに見られる。
 
きっと学生時代に「学校を休むことはいけないこと」という教育が潜在的に残っているからだろう。
学校教育の賜とでもいうべきか。
 
しかし、今回アニメを見て改めて思う。
「休む」って価値がある行為だ、と。
 
確かに売り上げには貢献しないし、生産性が上がるというわけでもない。
 
だが「休憩」を自由に取ったり、「休暇」を取ることで企業の体質が上がると思うのだ。
 
「breakthrough」をしたいなら、まずは、「break」することから。
この一言をつい先日体現した。
 
私は現在勤める会社に転職した翌年、自宅勤務となった。
自宅勤務は、想像以上に快適で、業務進捗も会社にいた時と比べ同等かそれ以上に早い。
自宅勤務当初は、そんな環境に不満もなかった。
 
しかし日が経つに連れ、なんと生産性が落ち始めたのだ。
「なんだ、この現象は!!」
私は焦った。
 
恐らく、集中しすぎて、力が散漫になったのだ。
会社にいた時は無意識に色んなところに気を散らすことができていた。
「コピー機の音」、「人の足音」、「喋る声」、色んなものに気を散らすことで集中しない環境が整っていたのだ。
 
だが、自宅勤務は一人。気を散らすための音も、同僚もいない。
まさに八方塞がりの中、定時だけは何食わぬ顔で迫ってくる。
業績が悪化している中の残業は罪だ。
「やばい、やばい」
焦りが、私を支配する。
 
「もはや限界……」
と思い一縷の望みかけ、上司に
「すみません、30分休憩していいですか」
と聞いた。
前の上司の渋い顔が脳裏をよぎる。
 
批判されることを覚悟した。
が、上司の反応は「いいよ」のひとこと。
なんと容認してくれたのだ。
聞くところによると、集中力が切れて小休憩を取りたいと申し出た人は私以外にもいたらしい。
上司はそのたび容認してきたという。
「休憩で生産性が上がるならむしろ大歓迎」
だそうだ。
普通に考えればその通りだ。
その通りだが、その通りがわからない上司は多い。
しかし、上司も劣悪な会社の一部だ。
アニメでも司令塔の細胞が疲弊して判断能力が鈍くなっていく姿が描かれており、「前職の上司も疲弊していたのかもしれない」と思うと心が苦しくなった。
 
その後、小休憩はチーム内で共有することを条件に取ることが正式にルールとなり、小休憩は正当化された。
のちに私のチームは一番成果を上げたチームと評価された。
まさに「break」が「breakthrough」につながった瞬間だった。
 
 
是非とも「働く細胞」を見て欲しい。
私にも、あなたにも、そして細胞にも、
「休憩する」ということには価値がある。
そんなことを教えてくれたアニメを是非とも
毎日頑張って働いているあなたにこそオススメしたい。
きっと、何か大切なものに気づけるはずだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
すじこ(READING LIFE編集部 ライターズ倶楽部)

28歳。東京出身
読者に寄り添えるライターを目指して修行中。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2021-04-05 | Posted in 週刊READING LIFE vol.122

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