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週刊READING LIFE vol.123

承認欲求に滅ぼされる前に考えてみませんか?《週刊READING LIFE vol.123「怒り・嫉妬・承認欲求」》


2021/04/12/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
映画やドラマを早送りして視聴する人たちが増えているらしい。
「自分が興味のないシーンは早送りして、視聴する時間を短縮したい。話題についていければいいから」のがその理由だそうだ。
 
クリエイターたちが精魂込めて作り上げた数時間、いや数十分のコンテンツでさえも、ロクにディテールを確認もせずに流し見されていくような時代になった。だからたとえWebであっても、自分が書いた文章を最後まで読んでくれる誰かがいてくれること自体、ありがたく思えてくる。
 
今でこそ文章を時々書かせていただいているが、自分も何らかの形でネットから発信をして約15年が経つ。
ブログ、mixi、Facebook、Twitter、Instagram、一応一通りのアカウントは持っている。そしてそれぞれの中で、オンでもオフでも様々な人との出会いがあった。
 
本当にいろいろな人がいた。自分とテイストが合う人とは、ネットで知り合ってから10年を超えてのお付き合いがある。長年にわたってお友達でいてくださる方に共通していることは「ご自身の言葉を持っている人」だ。自分の言葉で考えて、発信できる人。私はそんな人と交流がしたかった。そんな皆さんの言葉はすごく刺激的でもあるし、自分にとっても大きな学びになっている。
 
しかし反対に、最初はお友達になれそうと思って繋がっても、次第に価値観が違うと思って疎遠になっていく人もいる。人の心は変わるもの、だから仕方がないと言えばそれまで。ネット上では様々な出会いや別れはつきものだけど、時々、どうしてそんな解釈をするのか、どうしてそんな離れ方をするのか、印象に残ってしまう別れもあった。承認欲求という言葉を見るにつけ、思い出される関係がある。

 

 

 

人がネットから何かを発信しようと思ってそれを最初に行動に移すまでには、それなりの理由がある。
私が最初に開設したのはブログだった。
当時は子どもが小さくて、家の中と近所にいるだけのすごく退屈な日々だった。家庭にインターネットが普及し始めてきていて、ノートパソコンでネットサーフィンをして、ブログというものがあることを知った。ブログの中ではみんな自分の世界を持って、楽しそうに自由にいろいろなことを書いていた。私もなんか書いてみたいな。何をどう書くのかもわからないけど、とにかく何かしたかった。見よう見まねでブログを開設してみた。
 
最初はとりとめのない身の回りのことを書いていた。そのうち、ライフワークである映画レビューを書き始めると、更にお友達が広がった。
 
前々から「自分の中にある何か」を書きたいと思っていた。映画を観て、そこにあった表現について自分なりに解釈して書いてみる。この作業が私はとても好きになった。単に「この俳優が大好き!」とか「女優のファンです!」みたいなことだけ書いておしまい、ではなくて、この映画のこんな表現がいい、こういうシーンやセリフはこんな心情を表しているのではないか? そういうことを解析するのが好きだった。
 
だから自分から読みに行きたくなる映画ブログは「自分でしっかりと映画を解析し切っている」ものだった。自分も、自分の中で1つずつの作品を言い表したかったし、どうせなら参考になるブログと繋がりたいと思っていた。様々な映画ブログを読みに行っては、これはというブログにコメントを残すと、相手も私のブログにコメントをくれた。そうしてやり取りがあって交流が増えていった。
 
お友達になっていただいた映画ブログのスタンスにはいろんなものがあった。
こと細かく映画をレビューしているもの、通りいっぺんの感想のもの、映画以外に立ち寄ったカフェのことが実はメインだった、みたいなものもあって、みな読んでいてそれなりに面白い。でも私がブログを読みに行っても唯一絶対にしないと決めていたことがあった。それは「ポチっとしない」ことだった。
 
何をポチらないのか? それは「ブログランキングボタン」だ。
ブログ全盛期だったあの頃、ブログランキングを競うサイトがあった。今でもあるとも思うが、当時は本当にどこのブログにもそのボタンが設置してあった。これが私はどうにも好きになれなかった。ブログのPV数を競ってどうするの? 何か得することがあるの? といつも思っていたからだ。とりわけ、ボタンと一緒にアフィリエイトがくっついているブログを見ると「売らんかな」や「金の匂い」しか感じなくなっていたので、自然とそういう所からは足が遠のく。お友達ブログ同士で、義務のようにランキングボタンを押し合いっこみたいにするのも好きじゃなかった私は、自分のブログにはランキングボタンを置いていない。正々堂々と自分の言葉で勝負しようよ。言葉で読みに来てもらえるようなブログを書いたらいいじゃない? そう思っていたので、同じような趣旨を持ったブログとの交流が増えていった。

 

 

 

そんなブログの1つに、自分の本音をざっくりといつも書いているものがあった。
仮に著者をMさんとでもしておこう。
Mさんはいつも、作品についての好き嫌いをハッキリ記載していた。例えば「この映画は好きだけど、主演の俳優が嫌い」のようなことだった。何かに忖度せずに、ネットではっきりと自分の意見を言うことは時々躊躇することがあるけど、Mさんはそれを感じさせない文章だった。私は彼女の文章は勇気があるなと思っていて、相互にコメントすることが多くなっていた。
 
彼女は地方在住だった。ある時、彼女が近々上京することをブログに書いていた。私は思い切ってメッセージしてみた。
「もしお時間があったら、どこかでお茶でもしませんか?」
「ぜひ、お願いします!」
こうして私たちはオフで会うことになった。
 
待ち合わせの日、品川に現れたMさんは色白で、すっと背が高い人だった。
(背が高くていいなあ……)
そんなことを思ったのを記憶している。
私たちは近くのカフェで語り合った。映画のこと、日常のこと、好きな俳優のこと、とてもその日初めてお会いしたとは思えないくらいの長い時間だったし、濃い話だった。互いに互いのブログを読みつくしていたからなのかもしれない。とても楽しかったね、また会いましょうねと再会を誓って、その時は終わった。
 
そこからしばらくはよかった。互いに好きな映画を観に行って、コメントのやりとりができていた。
だが私が本格的に仕事を再開してからは日々のスケジュールが変わってきた。映画を観に行っても、自分のブログを更新するだけで精一杯になった。とても全員のお友達ブログを回って、毎日コメントする時間も余力もなくなっていた。でも仕方がないじゃない、そんなことは普通に社会人をしていれば当たり前のこと。趣味より自分の生活を優先することは当然だと思っていた。
 
ところがそんな中、1つの変化があった。
TwitterでもフォローしていたMさんのつぶやきが少し変だなと思い始めていた。
「せっかく映画ブログを書いても誰もコメントしてくれない」
「反応が薄い」
何を言っているんだろう? 誰に向かって書いているんだろう? と私は思い始めていた。それがはっきりを私に矢印を向けていると思ったのは次の言葉だった。
「同じ映画を観て私がコメントしたのに、こっちにはコメントしに来てくれていないじゃないか」
「なぜスルーするのかがわからない」
そんなつもりもないんだけど、時間がない、書こうと思ったら別の用事が入ってしまった、そんなことでブログを訪問できないことなんて、山ほどあるじゃない。それはお互い様だと思うんだけどな。
 
恐らくだけど、Mさんは頻繁にコメントをやり取りしていた私が忙しくなって、ブログに時間を割けなくなったことに不満を持っていたのだろう。考えてみると、彼女のブログにはそんなにコメントしている人は多くなかった。元々彼女はハッキリと物を言う人だったから、読みに来てはいてもコメントをする人は少なかったのかもしれない。そんな中多めにコメントをしていた私を頼っていたのかもしれない。オフでもお会いしたから余計にそう思うのかも。でも、人にはできることとできないことがあるし、それぞれの都合もある。ことさら冷たくしたつもりもないし、忙しくなることは私も自分のブログに書いているのに、なんか面倒くさいことになってきたな。
 
そう感じると、Mさんのブログを訪問することがなんとなくためらわれてきた。それと同時に、そこまでブログに執着するMさんのことが少し怖くなった。Twitterでも時々ブログ仲間が来てくれないことへの不満を爆発させていたMさんから、私は次第に遠ざかった。変に依存されても困るし、構ってちゃんも好きじゃないし。
 
そんな風に感覚が変わってくると、次第にMさんのブログを見る目も変わってきた。
よくよく見ると彼女は「映画のネタバレあり」のワードや、映画の内容を頻繁に書いていた。それもまた、多くの人を呼び込むためのキーワードだったのかもしれない。あとは私があまり好きじゃないブログランキングボタンも設置していた。「最後にポチっと押してください」というお決まりのワードと一緒に。
 
そんなに誰かに読んでもらいたいのだろうか。自分の思い通りに感想を書いてくれる人がいなくなったことは、そんなに面白くないのだろうか。SNSで、同じ映画ブログさんを対象に石を投げつけるような投稿しかしなくなった彼女を見ていると、非常に残念に思った。いろいろなところから彼女のあざとさが透けて見えてくるようで、何となくそれまでの交流ややり取りが色褪せてしまった。さらにはそれにとどまらず、このことをきっかけとして、馴れ合いのようなお友達的なやり取りそのものに対して私は見方が変わってしまっていたのかもしれない。

 

 

 

誰かに認めてもらいたい気持ちは誰にでもある。でもそれはあくまでも相手に依存しない方法であるべきだと思っている。私も押しますからあなたもここを押してください、読みに来てくださいという関係はすごくお互いに疲れることを知った。読んでほしいのなら、文章の中身で勝負すればいいじゃないか、読みに来てくれる内容が書けないから、共感してくれる人が少ないのではないか。誰かを頼りにする、あてにすることがなく、「客観的に評価されるような文章が書きたい」と思い始めたのはこのころからだったのかもしれない。
 
ブログランキングもまだあるし、近年ではSEO対策をしたブログやSNSもほとんどである。さらには自分のサイトのPV数を増やそうとして、SNSでも片っ端からフォローリクエストを送る輩もいる。だがよく考えてみてほしい。あなたをお友達として承認してくれた人は、本当にあなたの文章を心から評価しているのだろうか。相手にそこまでして自分の文章を読んでもらいたいという執念みたいなものが、私にはよくわからない。「相手に読みに来させる」のではなくて「この人の文章を読みに行きたくなる」ように書くのが先なのでは? と思っている。
 
形だけの、数だけのフォロワーをぶらさげて書くことは、これまでもこの先もたぶん私はしない。それは確実に文章以外のことで労力を使う羽目になるし、なんら自分にとってプラスにもならないと思うから。ボタンだけ押して読まないで帰る、あるいは読み飛ばされるような文なら、書かない方がまだましだ。最後まで読んでいただけるものを書いて初めて「承認された」と言えるのではないだろうか。ああしてほしいこうしてほしいという欲求もほどほどにしておかないと、やがては大切なものを失って己の身を滅ぼす気がしてならない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月READING LIFE編集部公認ライター。神奈川県内の生産者さんを取材した「魂の生産者に訊く!」連載中。http://tenro-in.com/category/manufacturer_soul

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2021-04-12 | Posted in 週刊READING LIFE vol.123

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