週刊READING LIFE vol.123

‘本当の自分’で進めば、輝く世界が見えてくる《週刊READING LIFE vol.123「怒り・嫉妬・承認欲求」》


2021/04/12/公開
記事:後藤 修(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
僕は2年前の春、会社に入社して21年が経っていた。
 
その時の僕は独身で44歳。体が固まるような症状を持つ人間だった。仕事をやり終えたら、体がすぐ疲れて自分のケアで精一杯。奥さんどころか家族なんて持てない状況だった。そして、会社ではあまり昇格ができず、給料も安いヒラ社員の立場だった。
僕はこのような人間だったので、周りがどうしても輝いて見えてしまっていた。
 
同期入社の友達を見れば、相当出世している友達もいた。また、家族を持って幸せに暮らしている友達もいた。だから、‘うらやましい’の嫉妬が沸き上がることは頻繁だった。
また、所属しているグループで一生懸命に働いても、なぜか同僚が褒められ、僕は褒められない。‘なんで僕は認められないんだ’と承認欲求に飢える日も多々あった。同時に‘目立てない僕って情けない’と自分自身に怒りを感じてしまうことも日常的だった…… 。
こんな調子で過ごしていて、‘自分認めて’や‘同期うらやましい’、‘自分情けない’ビームを出していることはしょっちゅうあった。
 
今、僕の社会的な境遇は当時とあまり変わっていない。だから、‘自分ダメ’と自分を責める毎日を送っているとご想像されるではないか?
でも、今の僕はそうじゃない。怒りや嫉妬、承認欲求のような嫌な事を多々感じるが、それよりも強い楽しみを感じながら明るく生きている。一体、僕に何が起こったのか?
 
それは、2年前のあの出来事から始まった。
 
その時、僕は発見したのだ。自分の心に本当の気持ちを持つ僕がいることを。

 

 

 

僕は、2年前のちょうどその頃、会社人生を20年超えていたことから、自分の人生を振り返っていた。働き始めてから、不健康になり、辛い思いをしながら働いてきたこと、そして時には、同僚からいじめを受けたり、仕事を任せられず苦しみながら働いてきたこと、でも、それらを乗り越えて、自分に適していると思われる部署で働いている僕がいた。
所属しているグループのメンバーは仕事で分からないことがあれば、よく僕に尋ねてきていた。また、負担がかかる難しい物事を僕に任せてくれていた。僕はグループで必要な人として貢献していたのだ。だから、僕は‘承認されているんだ’と思いながら仕事をこなしてはいた。
しかし、時々、怒りや嫉妬が波のように襲うことがあった。それは同期が異動して出世していく情報を聞いたり、同僚が重宝がられている様子を見た時だ。その時は、自分の存在がめちゃくちゃ否定されるような気分になっていた。それは負の感情が波のように僕を呑み込み、僕が渦に巻き込まれていきそうな感じだった。
 
そんな状態の中で決まって思うことは(僕のこれからは明るいのだろうか? 将来はどうなるのだろう?)ということだった。
 
でも、そんな後ろ向きに考える自分を嫌がる僕もいた。だから、僕は一念発起した。
「20年以上、働いてきたんだ。これからどんな生き方をしたいか見直そう」

 

 

 

僕は今まで自分が好きだったこと、楽しく思えたこと、今も楽しいと思えること
を考え始めた。しばらく考え続けて、そして思いついた。僕は時代劇を見ることや、歌番組を見ることが好きだ。そして、ギターを弾いたり、歌を歌うことも好きだ。だから、この分野に関わる何かを出来たら、楽しく過ごすことが出来て何かが変わるのではないかと。
 
そのように考えた数日後のある日。
 
僕はSNS上で、ある記事を見つけた。
それは「40歳以上のあなた、憧れの芸能の世界へ歩みませんか?」と載っている
ある芸能会社のオーディション広告だった。
 
僕はその記事に釘付けになった。そして、(これだ!!)と思った。
僕は、なにか人前で歌を歌ったり、ギターを弾いたり表現をしたいと思う自分がいる。だから、芸能の世界で活動するってありじゃないか? これは、自分が心で思っていることに沿っている!と強く感じて、オーディションを受けることを決めた。
 
そのオーディションは書類審査だった。2段階に分かれていて、まず1次審査を受ける必要があった。1次審査は書類選考だったので、僕は定められた電子申込書に自分の情報を入れた後、写真を添付して送った。そうして、その結果が郵送で数日後に届いた。
 
そこには「あなたは合格です」と載っていた。
 
(おお! やった!)僕は嬉しかった!! 続いてその後を見たら、次のような文章があった。
 
「第2次審査を行ないます。4週間後の週末土曜日に我が社のスタジオにお越しください」
 
その審査を受けて合格すれば、晴れて芸能のレッスンを受けられる立場になると記載されている。僕は僕の本心に従い迷いなく受験することを決めて、郵送で届いた履歴書に自分の経歴を早速、書き込んだ。

 

 

 

そして、審査の当日。僕は現場に到着した。到着すると、たくさんの受験者が集まっていた。
僕は順番に後列に並んだ。ある程度、前へ進むと大きな待機専用部屋へ通された。
 
僕は並べられている一つの椅子へ座り、待機していた。僕は何が何だか分からないぐらいに緊張していた。そして、統括するマネージャーらしき人が部屋へ入ってきて、
「みなさん、順番が来たら、思い切り表現してください!!」と言った。
 
その言葉で、僕は気持ちを切り替えた。(僕は自分の意志でここに来たんだ。やるだけやろう)と思い待った。
 
そして、表現する場所へ呼ばれた。レッスンを行なうようなスタジオに入ると、数人の審査する人が座っていた。僕はその人たちの前へ出た。そのうちの1人の審査員が言った。
「では、まず名前をお願いします!」その後、僕は名を名乗った。
 
そして、要望されたことを思い切り表現したのだ!!
 
終わった後、僕は「これから頑張ります! 宜しくお願いします!」と大きな声で言い
スタジオをあとにした。
 
オーディションが終わり、僕は車に乗り、家へ向かった。そして、帰る道中にこんなことを思った。
(今まででこんなに緊張した日はなかったなあ。けど、夢みたいな日で本当に楽しかったな)と。僕は結果がどうなるかより自分がこんな信じられない行動をしたこと、こんなにもワクワクした気分になって過ごしたことにとても満足していた。

 

 

 

その数日後、僕の携帯に着信が入った。それは見慣れぬ番号だった。
僕は少し不安を感じながら電話に出た。すると、
 
「先日のオーディション、お疲れ様でした。あなたは2次オーディションに合格しました! おめでとうございます!」という声が聞こえてきた。
 
「え? 僕が? まじ? 受かっちゃったの? 本当に~」と電話してきた人に尋ね返した!
そして、その人は続けて言った。「そうです! 明日に、あなたのもとに資料が届きます。それを確認した後に、入学金を支払ってください。宜しくお願いします」と言われた。僕は「わかりました」と答えて電話を切った。
 
僕はまだ、半信半疑だった。(この僕が? 芸能のレッスンを受ける? この万年ヒラ社員の。
中年のおっさんで、独身の? ええ~?)頭の中でこんな言葉が連呼されていた。
反面、そんな興奮している間に、ふと頭の中をこんな言葉がよぎった。
 
「このまま、突き進んでいいのか?」
 
僕の心にいる不安が僕に尋ねてきた。
僕は自分がどんなことをしたら、楽しく過ごせるかを考えて、その結果オーディションを受けた。けど、本当に芸能の分野で活動していくことなんて想像がまだできていなかった。確かに、見えない怖さもある。本当に進んでいいのかを僕の本心に確認する必要があると思った。その数分後に芸能会社へ折り返し連絡した。僕はこう言った。
 
「今回、ご連絡していただき本当にありがとうございました。ですが、少し時間をいただけませんか? もう一度、しっかり考えて答えさせていただけませんか?」
 
電話に出られた担当者の方は「わかりました。では、この3日間で決めてください。繰り上がって合格する方をお待たせしてまっているので宜しくお願いします」と答えられた。
 
それから、僕は3日間本当に考えた。自分はどうしたいのか、何をすると心から楽しいと思えるか、自分らしさとは?本心に何度も何度も尋ねるように考えた。
 
その3日後。僕は芸能会社の担当者の方へ電話をした。
出た担当者の方に僕は言った。
 
「お世話になることを決めました! これから宜しくお願いします!」
僕は明るい声で話した。少しの間があった後、担当者の方が僕に問い掛けた。
「どういった理由で考えられたんですか?」
僕は答えた。
「本当に自分はこのまま自分の本心に従っていいのかを確かめました。僕は社会的に見ても大した人でなく、それが原因で自信が持てない生き方をしていました。でも、本当に変わりたい、だから、僕は何をやったら楽しく過ごせるのかを考え抜いて、僕の本心を見つけました。その結果、オーディションを受けたのです。そして、受かった今、本当に進んでいいかをもう一度本心に尋ねたかったのです。そして、答えがでました。それが今日お伝えしたことです」
僕は迷いなくよどみなく話していた。
 
担当者の方は明るくこう言ってくれた。
「わかりました。そういこうことだったんですね。今後できる限りのサポートをしていきますから頑張ってください。宜しくお願いします」と話されて、僕も「改めて宜しくお願いします」と答えた。

 

 

 

それから2年近くにわたって、芸能レッスンを定期的に受け続けて今に至る。
 
僕のことをおさらいしよう。社会的な立場は2年前と比べて変化はない。中年の独身。体は癒えてきたが、まだまだ万全とは言えない状態で、固いことがよくある。そして、疲れやすい。また、定期的に整体へ通っている男。加えて、無位無官のヒラ社員。
相変わらず、社会的にダメな男と思われてしまう状態だ。
 
でも、僕は僕を卑下していない。なぜなら、僕は本当の僕が‘芸能とういう舞台で表現をしたくてたまらない人’だとういこうとに気づき、そこに向かって走っているからだ。
 
会社では、定期的に同期が出世していく様子をみて嫉妬している。そして、同僚が上の人に褒められているのを見ると、(くそ―、僕もこんなにがんばっているのに)と承認欲求していることもある。そして、出来ない自分を責めて怒っていることもある。けれども、そのように思っても、以前とは違う。以前よりも負の感情より正の感情を強く持つ自分でいることが出来る。
 
これは、僕の本心が導いてくれたおかげだ。導いてくれた世界で頑張る機会をくれたのだ。
 
そして、芸能の分野で必要な力も着実についてきた。
この間、僕は芸能会社のマネージャーにこう言われたのだ。
 
「あなたの声、いいですよ!」まだ、改善できると思うから頑張ってください!」
 
いやあ、初めて褒められた! めちゃ嬉しい! 2年近く努力してきた甲斐があった!
プロのマネージャーだよ?僕を良いって言ってくれたよ!泣きそうになった。
これからは、プロのナレーターや朗読家を目指して、きれいな日本語を話せる表現者を目指したいと思っている。
 
僕が向かう芸能の世界でも、これから、幾度となく負の感情に翻弄されるだろう。でも、僕はそれより強い正の感情を持つことが一度できた。それを糧に、これからもきっと乗り越えていける自信がある。

 

 

 

以前の僕のように、毎日、仕事や日常生活で辛さを感じる方々はたくさんおられる。劣等感を感じて生きている方々も同じようにたくさんおられる。
特に、今は感染病が蔓延している状況で、なかなか明るく過ごすなんて難しい。
でも、僕はあえて言いたい。
 
みなさんは自分が本当は何が好きなのか、どんなことに喜びを感じる人かを
感じたことはあるだろうか?「そんなことできるわけないじゃない!」とか「家族がいる身に、そんなことできるか? あんたはひとりものだからできるのだろう!」という声は必ずあるだろう。でも、‘今の自分’が‘全ての自分である’なんて決して思わないで欲しい。
 
‘本当の自分’は心に必ずいる。もし、自分を変えたいと思うなら、明るい日々を過ごしたいと願うのなら、勇気を出して‘本当の自分’を探して見つけてあげよう。そして、見つけたら、その‘本当の自分’が言うことに素直に従おう。あなたが負の思いを抱いても、その思いを弱めてくれる自分が輝ける素敵な素晴らしい世界へ案内してくれる。そして、大いに輝ける自分で過ごすことが出来る、きっと。
だから、自分をぜひ愛して行動してください。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
後藤 修(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。会社員として23年間勤務。2年前に今までの人生を振り返って
自分らしさを持ちながら生きることを決意し、コーチングを取得。
来たるべき時期に会社を退社して、コーチングを使い本来の自分を取り戻し、‘ありたい自分’で生きていきたい人を支援する活動する計画を着々と進めている。

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2021-04-12 | Posted in 週刊READING LIFE vol.123

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