週刊READING LIFE vol.153

子どもたちよ立ち上がれ!クリスマス・レボリューション《週刊READING LIFE Vol.153 虎視眈々》


2021/12/27/公開
記事:緒方愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
12月に外に出ると、眩しくて目と心が痛む。
駅前や商店街などの、人々が集まる場所が特に危険地帯だ。
街路樹に巻きつけられた、綺羅びやかな電飾の波。店の外・店の中の至る所、時には忍者のように潜み、あるいは壁に張り付いている、サンタクロースの人形。そして、大小のクリスマスツリー。
ツリーの下に飾られている、飾りのプレゼントの箱。鮮やかなリボンを纏ったそれ。たったそれだけの物体が、私の心を未だに深くえぐるのだ。
 
ねぇ、子どもの時、クリスマスプレゼント何をもらった?
 
友人の何気ないその一言と、街の華やかなクリスマスームードは、私には眩し過ぎる。愛おしさではなく、切なさで、胸がキュッとなるのだ。
まったく楽しくないわけではなかった。だが、思い出されるのは、甘い思い出より塩っぱい方が勝る。それは、兄と私の聖戦の記録だ。
 
「わぁ、おかしだ!」
「やったー!」
 
幼稚園児までのクリスマスは、とてもうれしい思い出がある。サンタさんの赤いブーツを模した、L字型のケースの中に、ぎゅうぎゅうに詰まった、色とりどりのお菓子たち。豪快な兄はすぐに食べ尽くして、貧乏性の私は一日一個ずつ楽しんで食べていた。
そして、小学校に上がったころ。多少知恵と物欲がついたお年頃だ。毎月買ってもらっていた、漫画雑誌には、ゲームや戦隊モノのおもちゃなど、さまざまな情報が掲載されている。兄と私は、小学校で先生からもらったサンタさんへの手紙に、各々欲しい物を書いて、提出したのだ。
が、クリスマスの朝。ウキウキで起きた兄弟の枕元には、予想外の物がそれぞれ、置いてあった。
 
「え、なに、これ?」
 
二人で、パジャマのまま、もそもそと起き上がり、問題の物に手を伸ばす。包み紙を破り出てきたのは、箱に収まった、銀色の物体。
先端に行くに連れ、末広がりになっており、胴体は筒状になっている。正式名称は不明だが、それは、小型のラッパだった。ただのラッパじゃない、サッカーの試合の時に、応援の時に吹くやつである。兄のは吹口が青色、私のは赤色だった。
兄が恐る恐る一吹き。
 
ファーーーーン!
 
聖夜に似つかわしくない高らかな、ラッパの音がした。
「……ぜったいおとうさんだ」
「うん」
兄弟して、ガックリとうなだれる。
そう、緒方家は、サッカー大好き一家だった。私を除けば、だが。
父、母共に、学生時代の部活動、プロではないが社会人部門でもサッカープレイヤーとして活躍していた過去を持つ。つまり、それが縁で、父と家庭を持ったわけだ。
そして、兄も小学生の時に、地元少年サッカーチームで汗を流していた。
サッカーの試合ならもう何でも、プロアマ問わず大好物。テレビ観戦ですら、自宅の屋根が吹き飛ぶような、三人の歓声と悲鳴の嵐が毎回吹き荒れた。
そのため、私も、家族だけでなく周囲のサッカーピーポーたちから、「サッカーをしよう! 楽しいから」の大合唱を受け育ったのだが。強制されると人というのは、かえって心を貝のように固く閉ざすものである。サッカー好き、どころか、スポーツ観戦嫌いの子どもに順調に育ってしまった。
 
忘れもしない、あの日のクリスマス。
パジャマ姿で、階下の両親の元に兄弟揃って降りていったあの寒い日。
私たちの首には律儀に、ラッパが、色違いの紐でぶら下がっている。
「あらー、良かったわね!」
「おう、良いのもらったやん!」
両親の弾ける笑顔と、表情を無くした兄弟の、この温度差。似合ってるだの、これを持ってサッカーの試合に行こうだの、何やら両親が言っているが、心に届かない。
私は、そっと、ラッパの赤い吹口を唇にあてた。
 
ファーーーーン!
 
こうして、我々兄弟と、両親の聖夜の合戦が幕を開けたのだ。
 
贅沢言ってはいけない。
それは、子ども心にもちゃんとわかっていた。両親が、私たちがよろこぶと信じた上での、プレゼントなのだということも知っていた。
だが、同時に、それに圧力が込められていることにも気がついたのだ。
両親共に、「私たちがしてあげたことを、子どもたちがよろこばないはずがない!」という、謎の信心でもある。
それが、一人の人間としての個性と思考を持ち始めた、思春期の子どもたちには重すぎたのだ。
まず、あまりにも趣味が違いすぎた。
母は、ひらひらスカートにピンクのかわいい物を好む性質で、私は機動性重視のズボンを履き黒や緑が好きだった。例えるなら、母は夢見る乙女のディズニープリンセスが、私はジャパニーズ不思議ストーリーのジブリが好きだった。何もかも、真逆なのである。なので、クリスマスプレゼントだけでなく、母からは、「OH……」と目をシパシパさせてしまうくらいに色鮮やかなファッション小物が、日常的にも贈られていた。
「わぁ、ありがとう!」
無下にすることもできず、私は満面の笑みでよろこんでみせた。
小学校も半ばに来て、あの伝説的電子ゲームが誕生した。携帯ゲーム機・ゲームボーイ版『ポケットモンスター赤・緑』である。お小遣いを使い購入した、そのゲームに私たち兄弟は、もう、夢中だった。アニメ版の記念すべき第一話目は、ビデオテープが擦り切れるほどに、目に焼き付けた。私が大好きなのは、ピカチュウではなく、伝説のポケモンのミュウだった。アニメの主人公ではなく、映画にしか登場しないようなキャラクターが好きなのが、実に私らしくマニアックな選択だと思う。
三角形の耳、長い尻尾、流線型の丸みを帯びたボディ、毛皮は薄いピンク。兎に角、私は、そのミュウのぬいぐるみが欲しくて堪らなかった。
だから、ついに禁じ手を出したのだ。
 
「ねぇ、おかあさん」
「なにー?」
 
私は、台所に立つ母の元へ行った。恐る恐る、漫画雑誌の巻頭ページの、グッズ情報の一箇所を指し、顔を上げる。
「あの、クリスマスね、これが、ほしいの」
母がチラッと視線を雑誌に向けた。心臓がドキリと跳ねる。
「へぇー」
そう一言放って、母はまな板に視線を戻した。
 
へぇー?
 
私は、震えた。勇気を振り絞ったのに。そんな、いかにも興味ありません、みたいなこと、ある?
 
そして、聖夜。枕元には、パステルカラーの何かが置いてあった。ショック過ぎて、思い出せない。
 
そっか、子どもの内は、欲しいものって、手に入らないんだな。
 
それからは、私はすっかり意欲を喪失させてしまった。
「何か欲しい物ある?」
「べつにー」
「なんなの、そのハッキリしない言い方は!」
 
すべてがなんだか、どうでもよくなってしまった。
 
だが、小学校高学年の時、兄によって、革命がもたらされた。
「まなみ、今年のクリスマス、何か欲しいものある?」
「べつに、特にないけど」
「ならさ、これ、一緒にお願いして!」
兄が、漫画雑誌のページを指す。
そこには、私たち兄弟が当時、『ポケットモンスター』と並行して好きだった、とあるカードゲームの特集が掲載されていた。
『大貝獣物語ザ・ミラクルオブザ・ゾーン』。召喚士になり、モンスターを召喚し二者で対戦する、ファンタジーな世界を舞台にしたカードゲームだ。理系の兄は、カードゲームの大会に出場するほどの腕前だった。お兄ちゃん子の私も、遅れて購入し、下手ながら兄と一緒に楽しんで遊んでいた。
年末に、そのカードゲームの世界を舞台にした、ボードゲームが発売されることになったそうだ。
私は、悟ったような顔をして、兄の肩に片手を置いた。
「お兄ちゃん、うちのサンタさんは、頼んだものは届けてくれないよ。知ってるでしょう?」
兄が、キリッと眉を上げて、私の両肩をつかむ。
「だから、兄弟の力を合わせよう! そしたら、なんとかなるから」
「えー、う、うん、わかった」
兄の気迫に負け、私はうなづいた。
 
「お願いします! 勉強がんばるし、家の手伝いもするから」
「お願いします!」
兄弟揃って、深々と頭を下げる。
虚を突かれた母は、私たち兄弟を見つめていた。
「わかりました。頼んどきます」
「や、やったー!!」
降ってきた母のため息交じりの言葉に、顔を上げて、兄弟で手を取り合って飛び上がった。
 
「はい、大事にするのよ?」
「ありがとう!」
畳の上に、茶色の荘厳な雰囲気の大きな箱が置かれた。震える手で兄が、蓋を開ける。そこには、ピッカピカの新品の、ボードゲームのアイテムが一式詰められていた。
無言で、二人でガッツポーズをする。
理系の兄が説明書を解読し、手取り足取りていねいに、文系の私にプレイ方法を指南した。お正月には、従兄弟たちも集まり、ゲーム大会をした。従兄弟たちも、全員、大のゲーム好きだ。何度もみんなで対戦して遊び尽くした。
兄たちに、ゲームで圧勝することはできなかった。
 
だが、クリスマスの革命によって勝ち取った、勝利の味は忘れがたい。
 
あれから、月日が過ぎ、みんな大人になった。
だが、未だに、ボードゲームやテレビゲームを持ち寄って、大騒ぎしている。
「あー! そこで、そんなことするう!?」
「へへー、酒飲みながらやってるからや」
「クソッ、酒が足らんからや!」
みんな離れ離れになったけれど、同じゲーム好きの血が大いに騒ぐ。正月は、ゲームを囲んで、童心に帰る大切な時間だ。生きていると色々あるけれど、それを吹き飛ばすように、あの頃の楽しいみんなにも会える。
ここ数年、日本でもボードゲームカフェ、バーがオープンしている。ボードゲーム大国のドイツでは、一家に一台必ず、マニアックな家だと本棚一面にボードゲームを所有している。家族団らんの中心にゲームがあるのは、一般的なことなのだ。キリスト教圏の欧米では、クリスマスは、日本の正月のように、故郷に帰省して家族との絆を深めるのがスタンダードだ。日本も、昔は、カルタ遊びや福笑いをしていたし。今度は、諸外国の文化を通して、日本の文化を見つめ直してみるのもありかもしれない。
 
クリスマスイルミネーションや、サンタクロースの人形を見ると、塩っぱい気持ちになる。だが、すぐに、口元が綻ぶ。
幼い頃、兄と勝ち取った、クリスマス・レボリューションの誇らしさ。従兄弟たちとのゲームを囲んでの団らん。
今年の正月は、結婚した従兄弟たちが、子どもたちを連れて帰ってくるかもしれない。小さな子と一緒に遊べるゲームはなんだろう。
日本の昔ながらのカルタか、新発売されたばかりのボードゲームか。いや、本場ドイツの、木のかわいいボードゲームがいいかも。
大人になった今、今度は私がプレゼントを贈る立場になった。
クリスマスには会えないけれど、何かとっておきのものを準備しておこう。なるべく一方的ではなく、楽しい思い出として心に残るものになることを祈っている。
子どもたちへの、年末年始のたくらみは、胸が踊るものである。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
緒方 愛実(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

福岡県出身。カメラ、ドイツ語、タロット占い、マヤ暦アドバイザーなどの多彩な特技・資格を持つ「よろず屋フォト・ライター」。貪欲な好奇心とハプニング体質を武器に、笑顔と癒しを届けることをよろこびに活動をしている。

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2021-12-22 | Posted in 週刊READING LIFE vol.153

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