週刊READING LIFE vol.175

新しい趣味をはじめてみたら人の優しさにふれた《週刊READING LIFE Vol.175》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/06/27/公開
記事:izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「やりたいことにチャレンジしていますか?」
そう聞かれると胸を張って、はいと答えられない。
わたしは新しいチャレンジをするまでに、随分と時間がかかるからだ。
趣味が増えると、人生の楽しみが増える。
分かってはいるけど、なかなかできなくて。
時間がない、家族やお金の問題が……。
毎日忙しいので、日々の生活で精一杯になってしまう。
友達とも、なかなか新しいチャレンジができないという話に落ち着く。
時間がたつと、もういいやと思ってしまうのが悪い癖だ。
なにかと理由をつけて、一歩を踏み出せないでいた。
 
そろそろ、重い腰をあげてみよう。
新しい趣味ができたと言ってみたい。
なにがいいかなあと考えながら、ふと思いついた。
お気に入りのお皿がある。
洋服のセレクトショップで購入したお皿だ。
淡路島の陶芸作家が作った作品で、1枚6000円した。
「このお皿、なんにでも使えるから、いいですよ」
お店のスタッフのお勧めで、購入したお皿は大活躍した。
丸くて、直径20cm。
薄い緑色のお皿で、中央に向かってカーブがある。
カレーやパスタを入れるのにぴったりだ。
使ってみると、大きさ、使いごごちがよくて、何を入れてもバッチリ決まる。
どの料理も美味しそうに見えてくる。
ほぼ毎日このお皿を使っている。
お皿を作っている作家さんが、陶芸教室をしていたことを思い出した。
すてきなお皿を作っている人に習ってみたい。
 
購入した作家のホームページを調べると、陶芸教室を開催していると書いてある。
お店は、日本人の奥さんと、イタリア人の旦那さんが経営している。
ご夫婦で、陶芸作家だ。
わたしが毎日使っているお皿は、奥さんの作品だった。
陶芸教室は、月はじめの4日間しか開催されておらず、ちょうどタイミングがよく申し込みができた。
 
わたしが住んでいる地域から淡路島までは、電車、高速バスを乗り継ぎ、2時間半だ。
趣味としては、遠すぎるのではないか……。
あまりの遠さに一瞬ちゅうちょしたが、新しい趣味になるかもしれないと行くのを決意した。
わざわざ淡路島まで行くから、新しいお皿やコップを買って帰ろう。
いつも使っているお皿は、どんな場所で作られているのだろうと興味があった。
淡路島に行く高速バスの中で、寂しい気持ちになっていた。
友達同士の参加が多くて、1人参加はわたしだけかもしれない。
ぽつんとひとりで、陶芸するんだろうな……。
奥さんとの待ち合わせは、高速のサービスエリアだ。
バスを降りた時に、ニコニコした笑顔の奥さんがいた。
彼女の人懐っこい笑顔を見た時、なぜか1人でも大丈夫だと確信した。
 
陶芸教室は、わたしを含めて5人の参加者がいた。
常連と思われる参加者の女性が、慣れた手つきでエプロンをつけていた。
「島外? 島内? どこからきたの?」
一瞬なにを聞かれているのか分からず固まる。
「???」
「島外から来たんです」
奥さんが、固まっているわたしの代わりに答えてくれた。
淡路島内は島内、淡路島より外は島外なのか。
住んでいる場所について、そんな聞かれ方をしたのは初めてで新鮮だった。
 
 
淡路島の人が2人、神戸から来た人が2人、わたしと合計5人。
わたし以外の参加者は、60代位の女性と思われる。
「何を作りたいとか考えている?」
「マグカップを作りたいです」
この夏自宅で飲む、アイスコーヒー専用のマグカップを作りたい。
作品用の土をもらい、奥さんから作り方の説明を受けた。
土はできるだけ空気に触れさせないように、ビニール袋に包んでおく。
手作業で作るマグカップは、地道な作業だった。
マグカップの底を作る。
底の上に、自分で作った丸いわっかを重ねていく。
そのままだと継ぎ目が見えてしまうので、丁寧に指で継ぎ目を消していく。
「自分の好きな形に作れるのが楽しい」
夢中になってマグカップを作った。
 
黙々と作業していると、参加者からわたしにどんどん質問がくる。
「結婚しているの?」
「大阪のどこからきたの?」
グイグイくるなぁ……。
いきなりプライベートな質問をしますか。
わたしは人見知りなので、びっくりした。
心の中では驚いていたが、そんな様子は見せずに、当たり障りのない返事をした。
 
みんなの世間話を聞きながら、作業を進める。
よく話を聞くと淡路島の2人は知り合いのようだ。
お互いの身の上話をしている。
「この人は若い時に旦那さんを亡くしてんで」
「わたしは、3年前に旦那さんが亡くなって1人で暮らしている」
「娘がお皿をもらってくれるから、どんどん作っている」
「1人で暮らしていると、寂しいから友達が必要だと感じるわ」
話している内容に共感した。
1人で暮らしていたら、だれかと話したくなるよな。
うんうん、わかる。
何が美味しいとか、今日の天気についてとか、とりとめのない話が楽しいのだ。
時には相手とけんかしてしまう時もあるだろう。
だけど、1人より2人がいい。
人間は1人で生きてはいけない。
 
作業をしながら、陶芸教室はみんなの交流の場になっているのだと分かった。
1人の女性は、作品を作らずに最後までずっとおしゃべりをしていた。
「また、土を触る時にお金を払ってくれたらいいから」
奥さんは、陶芸教室の代金をもらわずに、あたたかいまなざしで、女性を見守っていた。
コーヒーとお菓子を出してくれ、みんなで美味しくいただく。
神戸から来た女性2組も、楽しそうに淡路島の人と会話している。
黙々と作業していたわたしにも優しい。
「うまいやん。はじめてとは思えないわ」
はじめて作った作品は、大きすぎてコーヒーカップではなく、スープカップになった。
それでも褒めてくれる。
来る前は、1人で寂しいかもと心配していたが、全然平気だった。
奥さんの笑顔や、みんなの優しさが、寂しさを吹き飛ばしてくれたのだ。
 
 
淡路島の奥さんと、イタリア人の旦那さんの陶芸作品。
色合いがきれいで、使っているとウキウキしてしまう食器。
百貨店で催事が出来るほどの名の知れた陶芸作家だ。
敷居が高い、おしゃれな場所ではないかと勘違いしていた。
いつもと違った非日常を感じて、新しい趣味ができるのではないか。
そう思っていたが、実際には違っていた。
 
陶芸教室は、淡路島の人たちと、島外の人を結ぶ、交流の場所だ。
特別な空間を提供する場所ではない。
みんなのオアシスだ。
何気ない会話を通して、1人ではないのだという安心を得る場所になっている。
1人暮らしの参加者は、毎月作品を作る楽しみだけでなく、だれかと交流するのも楽しみの一つになっているはずだ。
ご年配の人は、なかなか淡路島の外に出る機会がないので、誰かと話すだけでも楽しいのだ。
 
毎月通いたいけど、片道2時間半という道のりがネックだ。
たまに来れたらいいかもと思っていた。
「もし同じ日に参加するなら、神戸から車に乗せてあげるから。連絡先教えて」
神戸から来た参加者に声をかけてもらった。
えー! 優しすぎないか。
「いいんですか? 本当に? ありがとうございます」
初めて会った人間に、そこまで優しくできるなんてすごい。
しかも、わたしは黙々と作業していて、愛想よく返事が出来なかったのに。
素敵な場所に集まる人は、優しい。
わたしも誰かに優しくしたくなった。
 
人生経験を積んで、酸いも甘いも知った大人の楽しみは、月1回の陶芸教室でおしゃべりすることなのかもしれない。
 
 
「やりたいことにチャレンジしていますか?」
そう聞かれたら、陶芸をはじめましたと胸を張って答えるだろう。
次は、みんなに圧倒されずに、おしゃべりに参加できるようにしたい。
グイグイくるパワーに負けずに、わたしもみんなに質問してみよう。
奥さんが帰りに教えてくれた。
「おしゃべりを楽しむ人たちもいれば、陶芸だけをしにくる人もいる。数カ月ごとにご褒美として宿泊つきでくる人もいる。いろんな人がいるからね」
人によって楽しみ方は違う。
わたしが作った不格好な食器が増えていくだろう。
陶芸をしにいくだけではなく、人の優しさに触れにいくのだ。
月1回の楽しみが待っている。
次は何を作ろうかと、考えているだけでワクワクしている。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
izumi(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

2021年7月よりライティング・ゼミ超通信コースを受講。2022年1月よりライターズ倶楽部に参加。ランニング、トレイルランニング歴10年。最近山登りにハマってテント泊を実現したい。誰かの応援になる文章を、書けるようになりたいと日々特訓中

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2022-06-27 | Posted in 週刊READING LIFE vol.175

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