週刊READING LIFE vol.190

本を読むのは何のため?《週刊READING LIFE Vol.190 自分だけの本の読み方》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2022/10/24/公開
記事:工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
『バムとケロのにちようび』という絵本がある。
息子がまだ小さい頃にお気に入りだったもので、犬のバムとカエルのケロちゃんが出てくるお話だ。
 
雨の降るつまらない日曜日、バムは本を読もうと思い立つが相棒のケロちゃんは部屋を散らかし放題、雨の中泥んこだらけ。几帳面なバムは部屋を片づけ、泥んこのケロちゃんをお風呂に入れ、いざ本を読む前におやつを作る。山盛りの揚げドーナツだ。
 
片付いた部屋でお気に入りのおやつを準備して、とっておきの本を読む。
これぞまさしく、私の理想の読書だ。
 
小さい頃なら何かの物語を。
『エルマーのぼうけん』や『ぐりとぐら』シリーズ、そんなお話を母の手作りおやつをパクつきながら時間の経つのも忘れて読んでいた。
 
小学校も高学年になると、図書室の『怪盗アルセーヌ・ルパン』シリーズを読み尽くし、中学校ではアガサ・クリスティーのミステリーにはまり、お財布と相談しながら古本屋で買い漁る日々・・・・・・本はいつでもどこでも読んでいたけど、極上のストーリーを真剣に楽しみたいなら、日常から少しでも離れた空間でおやつを完備した上で読むほど至福を感じることはなかった。
 
今でも基本は変わっていない。
新作が出たら即購入する作家さん達の本・・・・・・宮部みゆきや畠中恵、森博嗣に京極夏彦といったミステリー作家から、上橋菜穂子や萩原規子などファンタジー作家も外せない。ファンタジーといえばハリー・ポッターシリーズは英語の原著、日本語の両方を踏破しているし、感化されて他のファンタジー作品にも結構手を出している。
 
それだけではない。
「面白くて没頭できるストーリー」だったら何でもよいので、マンガも読むし、ライトノベルも話がよければ読む。極上のストーリーテラーの作品であれば、媒体問わずに手を出す、という感じだろうか。
 
人はそんな私のことを「読書家」と呼ぶ。
だけど私は分かっている。自分はそんな高尚な存在ではない、と。
 
ただただ、面白いストーリーに没頭することで外界を遮断し、盛大に現実逃避しているだけ、なのだ。どちらかというと針はマイナスに振れている。だって、日常から離れた雰囲気を出すために周りを片づけ、お気に入りのおやつを脇に構えて動かないつもりなんて、自主的に引きこもりする気が満々ではないか。
 
振り返れば、大学時代やその後社会人になった時でもとにかく一人暮らしをしていた時がその傾向が特に顕著だったと思う。何しろ、休みの日には家に食べ物さえあれば外に出なくていいし、日がな一日自分だけで好きなことをしていればいいのだ。それこそ、食料をそろえて物語を読みふけることができる。誰の邪魔も入らない。自分の面倒さえ見ればいいのだ。このときは家族も至福の時を邪魔する存在になってしまう。きっと自分には引きこもりの才能があるのだろうな、と思ったこともあった。
 
だけど、なぜこんなに物語に惹かれるのだろう?
振り返ってみれば他人と比べてもそんなに苦労続きの人生でもないと思うのだが、おそらくそれなりにストレスがかかっていたのだろうか。だから心の回復のため、物語に耽溺する時間が必要だったのか。それとも、ちっとも小説より奇なり、とならない現実がつまらなくて虚構の中に没頭していたのか。
 
その結論はいまだに出ていない。
出てないけど、おそらくだが、頭が煮詰まってしまうようなストレスが地味にかかった後は、まったく違う世界の聞いたこともない話を疑似体験して、感情やその他もろもろをリセットする必要があったのではないか。物語を読むことで息抜きになり、気分転換ができるならそれでまあいいか、と思うようになった。
 
不思議なことに他の媒体、つまり本ではなく、テレビや映画など他にも息抜き、というか、楽しめる娯楽の媒体は存在するけど、とっておきの本以上の楽しみは、私の場合ないようだ。自分のペースで行きつ戻りつ、あれこれ考えながら読み進めるのが性に合っていると思う。完全に受け身になってしまうより、ストーリーなど何を追いかける、という能動的な活動になるし、音は自分の心の中の内的音読しか存在しないから、外部から音が入ってくるより内容に集中することができる。
 
と、ここまでが小説などの物語のことでいわゆる娯楽系の本のことだ。そもそもの読書体験の出発点はお話ではあるのだが、大学生になり、社会人になり、と自分も成長して周りの環境も変わると、実用書と呼ばれるジャンルの本も読むようになる。今、読書で人生変わりました、などという場合は、ほとんどこちらの実用書の話が多いだろう。社会人が読書しよう、といえば、実際に仕事などで役に立つ、この系統の本を指すことになる。
 
教養を身につけ、本から学ぶ、というのが本流であろう実学系の本でも、実は私が思うことはただひとつ。
 
「知りたい」
 
それだけだ。
 
昔、『一休さん』というテレビアニメがあったのだが、その中で「どちて坊や」という何でもかんでも「どちて?」と聞いてくる子どもが出てきた。私が実用書を読む理由は、本当にただただ知りたい、だけなのだ。
 
「え〜? それって何の話なんだろう?」
「なんでそういう話になるんだ?」
 
こんな「知りたい」欲求だけで本を選んで行く。
もちろん、仕事で必要、とか、何らかのニーズがあって選ぶ本もある。だけど、「なんで?」「どうして?」「それ、何?」といった疑問から読みたい本が選ばれていく。
 
細かいことを言えば、前述の物語を読む場合でも、一度世界にはまってしまえば、次は「ストーリーの行き先を知りたい」という思いに突き動かされるだけだ。「この先どうなるの?」という欲求より強い感情は読書する上ではあまり存在しないのではないか、と思う。「なるほど」と思う解決策が示されていない実用書や、広げた話の風呂敷がしっかりたたまれていない物語などがあろうものなら、私は怒り狂ってしまうことだろう。
 
実際にいくつかそういうこともあった。
村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』(新潮文庫)を読んだ。もう内容は忘れてしまったけど、「どうなるんだろう?」という期待感にあまりにも答えてもらえなかったので、もう村上春樹は読まないぞ、とものすごくがっくりきたことを覚えている。どうしても話にはオチが欲しい、と思ってしまうタチだ。実用書では滅多にオチがつかないことはないが、最近読んだ『ダイエットをしたら太ります』(永田和宏・光文社新書)という本では、結局ダイエットをしなくてもいい人が痩せたがっているだけじゃないか、だから痩せるにはどうしたらいいんだ〜という期待した解決策が何も示されていなかったように思ったので、これもまたガッカリしてしまった。
 
ストーリーならオチが付いてできれば伏線までしっかり回収されていること、実用書ではタイトルなどから想像される何らかの答えが本の中で示されていること、この2点は私が本を読む上で外せない点だ。
 
今、世の中ではAIに負けない人間だけが持っている力、思考の力を存分に発揮できるように本を活用すべきだ、と書かれている本が多い。そのなかで『地頭力を鍛える』(細谷功・東洋経済新報社)という本に知的好奇心にも二種類あり、問題解決に関する好奇心はWhy型、知識に対する好奇心はWhat型、とあった。「知りたい」好奇心はココで言うとWhat型に近いものに思える。この本によると、私の実用書を選ぶ基準はまだAI時代に対応していないのかもしれない。だが、手当たり次第に読んでいく「乱読」でも行きたい方向があればおのずと目に付く本のタイトルは変わってくるはずだ。「どちてオバサン」をやり遂げていけば、ただ「知りたい」欲求だけで進んでも何かしら自分を満足させることはできるのではないかと思っている。
 
本は現実から目をそむけさせてくれる(かもしれない)。
本は知りたいことを教えてくれる(かもしれない)。
 
そんなシンプルな考えでいっちょう構えて、これからも手当たり次第に本を読みたい。
もちろん、極上の物語を読むときは手元に極上のおやつを忘れずに準備して。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

20年以上のキャリアを持つ日英同時通訳者。
本を読むことは昔から大好きでマンガから小説、実用書まで何でも読む乱読者。
食にも並々ならぬ興味と好奇心を持ち、日々食養理論に基づいた食事とおやつを家族に作っている。福岡県出身、大分県在住。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325



2022-10-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.190

関連記事