週刊READING LIFE vol.202

綿菓子が飴玉になったとき《週刊READING LIFE Vol.202 結婚》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/1/30/公開
記事:笹尾 和代子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部NEO)
 
 
『結婚』
それは、身近なようで遠くてなかなか手にできないものだった。
私にとっては、まるで晴れた空にふわふわと浮かぶ綿菓子みたいな雲のような存在だ。
子供の頃、ふわふわ浮かぶ雲が美味しそうで目一杯手を伸ばして掴もうとしたように、35歳を過ぎてからは、目一杯頑張って結婚という目標を掴もうとしていた。
 
なぜだろう? なぜなんだろう? 結婚するってこんなに難しいことだったの?
両親も親戚も、周りの大人たちはみんな結婚していた。
だから、私も大人になったら自然と結婚できるものだと思っていた。
元々、結婚願望は強いほうではなかったが、さすがに35歳を過ぎると何だか焦ってしまう。
みんなが当たり前のようにできているのに、私はなぜできないんだろう?
「きっと、今のうちに頑張っておかないと、後々、後悔する気がする。後悔だけはしたくない!」
そう思ってしまうことが増え、婚活をするようになった。
 
婚活をするのは悪くはなかった。
今までになかった出会いがあり、経験から学ぶことも多かったからだ。
男性が苦手だった私にとって、この経験は男性という生き物を知る上でとても役に立ったと思う。
 
以前は、女性も男性もなく、同じ人間なのだから考え方や捉え方もそんなに変わらないのではないかと思っていた。
私がされて嫌なことは、相手もきっと嫌だろうな。
私がしてもらえて嬉しいことは、相手も嬉しいだろうな。
そんな風に思っていた。
そう考えるのは悪いことではないが、必ずしもそうとは限らない。
私にとって嫌なことでも、相手にとってはそんなに嫌なことではなく何とも思っていなかったりすることもある。
逆に、私がしてもらって嬉しかったことを相手にも同じようにしてみるが、相手はそんなに嬉しい様子ではなかったりする。
今まで同性の友人相手では、あまりぶつかってこなかった事態だった。
それは女性同士だったからなのか、女性は場の空気を読んで本心を隠すことも多い。
けれど、男性はそうではないようだ。
男性という生き物がよく分からなかった。
そこで、いろいろなブログやネット記事で男性心理なるものの解説を読み、女性はどうしたらよいのかという解説も読んでみた。
 
男性は自信をつけたいものである
男性は追われるより追いかけたいものである
男性の本気は行動に現れるものだ
男性はシングルタスクである
などなど……
そして、
女性は男性に追われるように恋愛以外に楽しめることを見つけて日々を楽しみましょう
男性の頑張りをみとめてあげて感謝をしながら男性に自信をつけさせてあげましょう
などなど……
 
それを真に受けて実践してみようと思うが、なかなか難しい。
でも、男性は女性とは異なる物事の捉え方や能力を持っているんだなということは分かった。
ということは、男性に私の考えや気持ちを察してほしい、分かってほしいと期待しても、それが叶う確率は極めて低いのではないだろうか。
お互いを理解し合うためには、お互いの気持ちを素直に言葉にして伝え合うことが必要なのである。
私は元々人見知りな面があり、自分の気持ちを素直に表現することが少なかった。
それなのに、心の中では気持ちや考えを察してくれないかなと、すごく相手に期待している所があった。
ここだ!
女性、男性に関わらず、相手を理解するためにはお互いの気持ちや言葉を交換することが必要なのだ。
それは、家族や友達でも同じことだと思う。
 
今更ながらコミュニケーションの基本を理解した時、
「婚活を頑張っているけど、自分とは全く異なる人と結婚して一緒に生活していくのってすごく大変なことなんじゃないかな? 私は本当に結婚したいのかな?」
と、はじめて結婚に対して疑問を持つようになった。
そして、冷静に、両親や親戚の結婚生活が本当に幸せなのか見つめてみた。
 
母親も叔母も従姉も、結婚することによって独身の時にはなかった問題を抱え、大変な思いをしていた。
それでも、両親を見ていると、時々、見えない絆のようなものが見えることがある。
二人の間に思いやりのような信頼のようなものがあり、それは、長い年月のなかでお互いに支え合ってきたからこそのものなのかもしれない。
時には喧嘩しながら、娘の私に愚痴をこぼしながらも、父親を支え続けている母親はすごいなと思う。
結婚は決して幸せな時間ばかりではなく、今までになかった苦労や思いを経験することもある。
自分とは異なる価値観や考え方を持った相手と分かり合うために、たくさんの言葉を交わしていかなければいけない。
自分の言葉がどうやったら相手に伝わるか、相手の言葉はどんな気持ちで発せられたのかたくさん考え、受け止めながら相手を理解していく。
そうしながら、一つの家庭が出来上がっていくような気がする。
とても大変そうだけれど、それでもそんな経験をしてみたいと思った。
頑張って自分たちの家庭を作ってみたいと強く思うようになったのだ。
 
つい最近、ある人から言われた。
「自分の気持ちを伝えるだけではだめ、伝えたときに相手がどう感じるのか考えているのか?」と。
その時はどういうことなのかはっきり分からなかった。
自分の気持ちを伝えることがだめなことなの? 気持ちは言葉にしないとちゃんと伝わらないのに……。
そう思っていたが、今は何となくその人が言いたかったことが分かる気がする。
優しい言葉や素敵な言葉も、相手の状態によっては責められるような言葉や追い込まれるような言葉として受け取られることもある。
相手の状態を思いやって言葉を伝えることも、大切なコミュニケーションの一つだ。
これまであまり自分の言葉を発してこなかった分、自分の気持ちを、言葉を伝えたいという思いが強くなってしまうのかもしれない。
自分の気持ちを伝えたいと思いすぎて、相手がその言葉を受け取れる状態かどうか配慮することまではできていなかったように思う。
結局は、自分の言葉も伝わらず、相手も大切にされていると感じられないことになってしまう。
自分も相手も大切にする、それができるようになりたい。
それが、パートナーシップを築き、家庭を築く大切な要素になるのだ。
 
独り身でいれば、自分の時間を大切にし、好きなこと楽しいことを追求していくことができる。
それも素敵な生き方だと思っている。
でも、今の私は、大切にしたいと思い合える相手と一歩ずつ家庭を築いていきたい。
そして、その経験が得られるならば、結婚という形にはこだわらなくてもいいのかなとも思っている。
 
結婚という制度は、よくよく考えると不思議な制度だなと思う。
婚姻届一枚を提出し、受理されれば夫婦となり、お互いに様々な責任や義務を負うことになる。
なぜ、ヒトは結婚するのだろう?
 
その昔、類人猿からヒトに進化するとき、より安全な子育てをするためのシステムが生まれた。
ヒトに進化する過程で、二足歩行を手に入れたが、その代わりに骨盤が狭くなってしまった。
狭い骨盤では赤ちゃんが通る産道も狭くなってしまう。
そんな狭い産道から、成熟した大きな赤ちゃんを産もうとすると難産となり、命を落とす母親も多かった。
そんな中、未熟な赤ちゃんを産んだ母親は難産とならずに母子ともに元気に過ごすことが増え、ヒトの赤ちゃんは他の動物たちの赤ちゃんに比べて未熟な状態で生まれるようになったのだ。
しかし、未熟な赤ちゃんを抱えた母親は、自分で食料を調達することもままならず、外敵から身を守る力も弱く、母子だけで生き抜くことは困難だった。
そのため、赤ちゃんが無事に育つために、一定期間オスに守ってもらう必要があり、それが結婚というシステムにつながったのだ。
 
そもそも、結婚とは子孫を安全に健やかに育てるために必要とされたものだった。
だからだろうか?
結婚を考えるとき、女性は自分自身が出産できるかどうかを気にすることがある。
無意識に遺伝子レベルで、結婚が子育てのためのシステムだということを知っていて、自分が子供を産むことができなければそのシステムが破綻すると感じているのかもしれない。
私も、40歳までは婚活を頑張ろうと思っていた。
自分の中では、40歳までは何とか無事に子供を産めるのではないかと思っていたからだと思う。
しかし、子孫を無事に育てることができる環境があれば、母親は男性に守ってもらう必要がなくなる。
一夫多妻制や多夫一妻制では、女性は自分自身が生まれた家で過ごし子供を育てることが多い。
それは自身の父母や兄弟に守ってもらえる環境だからだ。
ただ、今の日本は一夫一妻制だ。
しかも、子供がいない夫婦もたくさんあるし、父親または母親だけで子供を育てている場合もたくさんある。
つまり、現代において、結婚は子孫を安全に育てるだけのシステムではなくなっているのだ。
 
では、私たちが理想とする結婚とは何なのだろうか?
もちろん、子供を育てるということは大切だと思う。
しかし、それ以上に、夫婦となりお互いに理解し合いながらパートナーシップを築くことが大切とされているのではないだろうか?
以前のように、離婚したら子供が育てられない環境ではなくなってきている。
お互いを尊重し合うこと、大切にし合うことができなくなったとき、無理に耐え忍ぶ必要はない。
それに、子供は親のことをよく見ていて、親が幸せでなければ子供も幸せな気持ちにはなれない。
親が心から幸せそうに笑うとき、子供の心も安心感で満たされるのである。
今は、自分自身の幸せのために、結婚という一つの選択肢があるに過ぎないのだと思う。
自分たちの力で、お互いを理解し続け、パートナーシップを築く努力をしていけるのであれば、結婚という形があろうがなかろうが、自分を幸せにするひとつの道を歩んでいるのだ。
 
40歳を目前に結婚とはなんなのか深く考え、見つけた答え。
それが、『結婚という形にこだわるのではなく、大切にしたいと思い合える相手と一歩ずつ家庭を築いていきたい』だった。
綿菓子のようにフワフワした思いが、飴玉のようにはっきりと輪郭と重さをもったような気がした。
自分も相手も大切にできるように、今の自分にできることは何だろうか?
やっぱり、自分を表現して、ありのままの自分を大切にすることだろうか?
ライティングを通して、自分の中に眠っていた感情や思いを見つめ直して表現することも、ありのままの自分を見つけ出す一歩かもしれない。
 
さぁ、一歩ずつ、しっかりと飴玉を掴みに行こう!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
笹尾 和代子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部NEO)

福岡県福岡市生まれ
子供時代からの憧れだった看護師となり、病院勤務中である。
その傍ら、2022年天狼院書店とライティング・ゼミに出会い、ライティングの楽しさを知り、現在に至る。

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2023-01-25 | Posted in 週刊READING LIFE vol.202

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