週刊READING LIFE vol.207

仕事にはスリルを求む!《週刊READING LIFE Vol.207 仕事って、楽しい!》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/3/6/公開
記事:工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
仕事、と聞いて、よい印象を持ちますか?
それともあまりいい感じはしませんか?
 
「仕事だからね。しょうがないね」
 
とか
 
「明日は仕事だ、ヤダーっ!」
 
なんて言ってる印象が強いかもしれないが、私にとって「仕事」とはそんなにイヤなものではないようだ。
 
それは昔、私がまだ子どもの頃、母の影響で通訳という仕事に就きたいと思ったときの誤解から始まっている。
 
「通訳者はタダで海外旅行に行けるんだよ」
 
なぜかそう思い込んでいたので、旅費を出さずにしかも海外へ行けるなんてそんな夢のようなことが実現するなら、仕事ってなんてステキなんだろう、と思っていた。
 
ところがどっこい、現実は厳しかった。
自分は日本人で純国産の日本語ネイティブスピーカーだ。
日本国内に訪問してきた外国人の通訳をする機会が圧倒的に多いのだから、海外へまで社員でもないフリーランスの通訳を同行させるようなチャンスがそうそうあるわけない。
 
私が国際会議を専門とする会議通訳者だったら、日本人が出席する海外が会場の会議に行く機会もあるだろうけど、私の場合は圧倒的に企業や大学などがクライアントの仕事が多いため、海外出張のような栄誉に恵まれることは、ほぼない。ただ、一度だけ、マレーシアでの会議に出張する仕事があっただけだ。夕刻の会議以外は観光して食べ歩きをする時間まであった役得な仕事だったな、あれは。現地の料理の美味しさは鮮明に記憶に残っているが、いったい何の会議だったのか、内容はもう忘れてしまっている。
 
ただ、自動車メーカーの社内通訳だった時、そして東京でフリーランス通訳をやっていた頃は国内の出張にはかなり恵まれた。
 
北は北海道から南は九州まで。
自動車メーカーでは販売会社を統括する部署にいたこともあったので、全国の販売会社を訪問したし、東京でフリーの頃は青森や仙台、諏訪や愛知などなど、全国各地に行ってはついでにその土地で観光したり、美味しいもの巡りを堪能したりしていたものだ。
 
私にとって仕事の第一義は、
 
「何かステキなおまけ(美味しければなおよい)が役得で付いてくるもの」
 
と言うことらしい。
 
「その他に自分が仕事で楽しいと感じることは何だろう?」
 
そう問うてみると、あった、あった、ありました!
私が求めているのは、間違いなく「スリル」だ。
 
「スリル? スリルってジェットコースターに乗ったような?」
 
と思われた方、ピンポーン!
その通り!
私はジェットコースターが大好きなのだ。
 
初めて乗るジェットコースターは特にどこの方向に曲がるか、予想できないようにコースが作ってある。先が見えない、そこで右に急旋回、いきなり降下して体が無重力に浮く感じ、どれを取っても楽しすぎて何回乗っても飽きない。
 
それでもジェットコースターはあくまで人工的な建造物だが、現実世界でも圧倒的なプレッシャーに勝つか負けるか、というヒリつくような緊張感が実は結構好きだったりする。
 
本業の通訳でも場合によっては手が震えるぐらいの重い圧力を感じて手が震えることもあった。コロナ禍になってからはあまり機会がなくなったけど、以前はセミナーなど人前でスピーチをする方の通訳をした経験もある。ひと言ひと言を聞き逃してはならない、聴衆に分かるように話を繋げなくてはならない、というプレッシャーはかなりキツいものがある。
 
そのスリルを乗り越えて、よい訳ができた、と思う時、心から
 
「やった!」
 
と思う。自分の仕事上の役目を果たせたことも嬉しいが、スリルをはらんだ勝負に勝った、という達成感も何ものにも代えがたい。仕事を終えて帰る時、ひそかにガッツポーズをしたくなるほどの会心の出来、というのは、私の通訳者人生の中でも数回しか味わったことはないけれども、それはまさに「仕事って楽しい!」と思える瞬間だった。
 
ところが、同じスリルをかけた勝負でもどうにもならないものもある。主に私の記憶に残る「負け」は主にスポーツに関係するものだ。
 
小学生のときから大学生のときまで、バスケットボール、水泳、テニス、と色々なスポーツをやってきたバリバリの体育会系な私だが、実際の試合で、しかも重要な局面で試合に勝った記憶はあまりない。
 
水泳も珍しいバタフライを選んだおかげで県大会まで行くことができたけど、別に記録がよかった訳ではない。バスケットボールも長くやっていたはずだけど、高校ではレギュラーになることもなかった。テニスは大学で弱小テニス部だったから団体戦にも出ていた。しかし、忘れもしない最後の引退試合では、完全に格下の1年生の対戦相手にサーブが入らない、という負け方で自滅した。今思い出してもかなり苦い思い出だ。
 
どうも私の体は、スリルやプレッシャーを感じたとき、それに負けずに動いてくれるのは、口だけらしい。これでは、「口から先に生まれて」と言われても仕方がない。プレッシャーがかかった状態で体を制御する脳の部位と、やりたいという意志を持った部位との接続が悪い、のかもしれない。でもそれはつまり、何回も繰り返して練習する、という量の不足ではなかっただろうか。
 
プロ野球選手も素振りは欠かさない、というし、何かを達成するためには何度も反復することは大切なのに、単調な練習を面白いと思わなかったから練習量が足りていなかったのだろうな。そう思えてきたのはスポーツから離れてずいぶん経ってのことだった。
 
とにかく。
楽しいと思うにはスリルが必要。
でもそのスリルやプレッシャーに負けずに楽しむには、ある程度の量が必要。
 
自分の場合はそれが正解らしい。
 
仕事にすることは何でもいいが、楽しくないとやはり続かないと思う。通訳、という仕事をするために必要な努力はおそらくあっただろうけど、単純作業な部分も含めてやはり楽しんでいた、と言える。もちろん語学、という異文化を学ぶことが含まれているせいか、飽きることはなかった。
 
だからスリルを楽しめるほどには上達したのだろう。
 
先日『ジェームズ・クリアー式複利で伸びる1つの習慣』(ジェームズ・クリアー、パンローリング株式会社、2019)という本を読んだとき、このことを裏付けるような一文を発見した。とあるウェイトリフティングのコーチが話したことがとても印象的だったのだ。そのコーチによると、最高の結果を残す選手とその他の選手との違いは、ある時点までくると、
 
「毎日のトレーニングの退屈さに耐えられるかどうか」
 
にかかっている、と言うのだ。
 
退屈さに負けず、くり返すことができたものだけがスリルを楽しさに変えることができるのだろうか。この「量」をこなす、という山を乗り越えなければ本当の楽しさにたどり着けない……自分の経験と照らし合わせてみても、このことはかなりの真実を含んでいるように感じる。
 
習熟度が楽しさのカギ。
確かに子どもの頃だけでなく、大人になっても楽しく遊ぶための努力は惜しまない人が多いように思う。
 
ゲームクリアのために各階層を紙に書いてマッピングしたという人(ちなみにこれはうちの夫の話だ)、久しぶりの旅行のためにルートマップと食事処の下調べに余念のない人(これはもちろん私のこと)、何かを思いっきり楽しむには一定の熱量を注ぎ込む必要がある。そして、それがたまたま仕事と関係した場合、
 
「仕事って、楽しい!」
 
となるのかもしれない。
 
外に出て会社に勤めてお金を稼ぐ仕事でも、家事のように家の中でする仕事にでも、どうせやらねばならないことなら、楽しんだ方が勝ちではないか。そういう理由で、私はやはり仕事にはスリルと同伴でやって来て欲しい、と思う。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

20年以上のキャリアを持つ日英同時通訳者。
本を読むことは昔から大好きでマンガから小説、実用書まで何でも読む乱読者。
食にも並々ならぬ興味と好奇心を持ち、日々食養理論に基づいた食事とおやつを家族に作っている。福岡県出身、大分県在住。

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2023-03-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol.207

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