動画のパワーが知られざる魅力に光を当てる。フリーランス動画クリエイター誕生への軌跡《週刊READING LIFE Vol.221》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/6/26/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
2023年4月、世界各国の新人デザイナーを発掘するイベント・「バンクーバーファッションウィーク」へ、80歳の着物リメイク服デザイナー・吉田みわ子氏が出品した際のブランドコンセプトムービー撮影を、動画クリエイター・ウエムキ代表の植木真哉氏が担当している。
植木氏は長年メディア関連の組織で勤務され、2年前に独立した。長年会社組織で働いていた人が独立する、そこへ至るまでの決心は一言では言い表せない重みがあるのだろう。独立後、ビジネスが軌道に乗るまでも様々な局面があるが、独立後に思いもよらぬ世界が開ける可能性もある。
本記事では植木氏が動画を始めてから独立後、現在に至るまでのお話を伺った。制作現場での知られざる努力があってこそ成り立つメディアの世界をどう渡ってこられたのだろうか。
バンクーバーファッションウィークで世界デビュー!
——バンクーバーファッションウィークのブランドコンセプトムービーを制作された際のお話をお聞かせください。
植木:カナダのバンクーバーで流すことと、着物リメイク作品動画ということで、日本の良さを出すこと、服の良さとスクリーンのこだわりをアピールすることを重視しました。
着物の柄にも竹やもみじの葉など、日本の自然のものがモチーフに使われています。湘南の海や富士山が見える場所にロケ撮影に行き、日本の風景を冒頭に入れました。ブランド名の「アトリエ蓮(れん)」には「さざなみ」という字が入っていたのでそこを生かしました。加えてアトリエ蓮さんのロゴマークにも、少しデザインに手を加えさせていただいています。
植木真哉 Shinya Ueki / ウエムキ代表取締役 大分県出身、動画クリエイター・フォトグラファー。ソニー・イメージング・プロ・サポート会員。広告代理店でアートディレクターとして勤務後、2021年フリーランスの動画クリエイターとして起業。動画・プロモーションムービーの制作、イベント撮影、アニメーション制作、デザイン等幅広く手掛ける。
この話が来た時、76歳で裁縫をやっている自分の母を思い出しまして、80歳で着物リメイク作品をショーに出して挑戦する吉田さんを心から応援したくなりました。世界的なファッションショーに自分が作った動画が流れることも光栄ですしクリエイター目線が生かせた制作も楽しかったですが、それ以上に誇らしかったのは、ご高齢のため現地に足を運べなかった吉田さんの作品の魅力を、動画を通じて伝えるお手伝いができたことです。
80歳の主婦だった人が着物リメイクを始め、ファッションショーにも出た。そのこと自体の素晴らしさも現地の人に通じて、ショーの終わりには大きな歓声と拍手が起き、「感動しました」という感想も多くいただいていました。皆様にも喜んでいただける仕事に携わることができて本当に良かったです。
大幅な進路変更をしてまで進んだ道は
——大学では工業系ということでしたが、進路変更してデザインへ進んだというのはある意味異色の経歴ですね。
植木:元からデザインは好きで進路の選択肢としてありましたが、得意な科目が化学だったんで応用化学科に進学しました。でも入ってみたら毎日研究と実験で「一生このまま研究か?」というのも何か違うなと思い、半年で大学を辞めてデザイン系の専門学校に入りました。
——大学に入る前からデザイン的なことはされていましたか。
植木:高校以前は特にデザインはしていません。絵もそんなに上手くはない方でした。デザインに目覚めたきっかけは、大学で化学のレポートを書いている時ですね。棒グラフや円グラフを書いて、数字を入れて誌面をどう見やすくするか、レポートをどう綺麗にまとめるかが楽しかった。
レポートを綺麗に書くのが楽しいところからデザインの道に入る人はほぼいませんよね。専門学校の同級生には小さい頃から図工が得意な人、絵が上手い人がいっぱいいました。自分みたいなのは確かに珍しいタイプです。
専門学校の2年間では、デザインの基礎的なところを習いました。自分が通った頃はアナログからデジタルに移行する時で、ロゴマークもインクで画用紙に線を書いて塗るような、手を使って書くことが多かったですね。
専門学校の先生から言われたことで覚えているのは「一生勉強すること」と「デザイナーは絵が上手くなくてもなれる」ことです。「絵が上手い人に絵を発注すればいいので、デザイナー自身が必ずしも絵を書く必要はない」と聞き、絵心がない自分でもできるかもしれないと思ったものでした。
——専門学校を卒業後、最初はグラフィックデザイナーとして就職されました。
植木:新卒で入ったのは印刷会社で、通販のカタログデザイン担当でした。カタログ制作は毎年同じことの繰り返しで、最初は良かったけどマンネリ化してきた。新しいスキルも欲しかったし、刺激を求めたいタイプなので転職しました。
その後いくつかの会社を経て入った広告代理店では、社内デザイナー第1号となり17年間勤めました。
エネルギー業界の仕事をメインでやっていたので金額が大きく大抵コンペ、競合です。毎日あまりにも徹夜が続くので、会社に自分専用のベッドを買ってもらったくらいです。
デザインをしていると「自分はこれが好き、格好いいでしょう?」という気持ちがどうしても出てきがちですが、それではいけません。アートなら好きなことをすればいいけどデザインはお客さんありきで、ビジネスを拡大することがミッションです。クライアントの想いを汲み取りますし、お客さんがそれを使った時にその先のターゲットにどう影響を与えるのか。その表現を会社勤めで教わりました。
独立後も続く、さらなるスキルアップ
——長年勤めた会社を離れて2021年独立に至る経緯を教えてください。
植木:自分の子の動画を撮ったのが動画制作のきっかけでしたが、代理店にいた時も動画の仕事はありました。発注者と制作会社の間に入っていたプロデューサー的なポジションで、当時は会社の紹介動画を作るのに10人くらいのスタッフでチームを組みました。規模が大きいプロジェクトは人数が必要ですが、撮影や音声、照明といった複数のスキルを身につければ個人の力でもできる仕事のため、独立を決意しました。
独立して2年経ちましたが、幸いなことに仕事はコンスタントにいただけています。スケジュール管理は大変ですね。会社だと自分が体調悪くても代わりの人間がカバーしてくれますが、フリーだと難しい。自分しかいないから全ての責任は自分にある。時間の制約がないことと表裏一体ですね。
会社員時代は帰宅が遅かったんですが、フリーの今は、昼はシェアオフィスにいて夜は家にいるパターンです。子どもが小学生なので土日のどちらかは家族と過ごすようにしていて、家族との時間を大事にしています。精神的にも楽になったし、仕事が生活と近くなりました。
——ウエムキの実績としては、動画がメインですか。
植木:動画とデザインとで半々です。デザインの方面では、WEBデザインやパッケージデザイン、イベントポスターなど制作しています。写真の仕事が占める割合は1割くらいで、インタビュー、イベント写真がメインです。
——独立後にもスキルアップの一環として、天狼院書店の動画ゼミやポートレートゼミを受講されていますね。
植木:動画ゼミ第1期生で、当時天狼院書店店主の三浦崇典さんも一緒に受講していました。月に1本の動画を作り提出するのが課題でしたが、三浦さんが「それだとぬるくないですか?」と言い出した結果、週に1本の課題提出になりました。
3ヶ月間、毎週1本、1本あたりの時間は2〜3分ですけど動画を作って出し続けました。他にも受講生の方はいらしたんですけど、皆勤で動画を出したのは自分を含め1〜2名でしたね。このゼミはスキルアップのひとつのきっかけとなりました。難易度は高かったですが、何とか食らいつきました。
——そしてソニー・イメージング・プロ・サポートも取得されました。
植木:取った理由は2つあって、1つは資格を取って周りからの信用を得ること。もう1つはプロサポート所持者はメーカーのメンテナンス等、機材サポートが充実することです。仕事上、入った方がメリットがあります。
人の心を上向きにする動画を作りたい
——植木さんにとって写真や動画はどんな存在ですか。写真は一瞬を切り取りますが動画は連続させます。両者は分けて考えていますか。
植木:その人やものを魅力的に見せる意味では一緒ですが、動画だと連続して繋がっていくので見せ方、考え方は写真とはだいぶ違っています。天狼院書店のポートレートゼミで写真について教わっていまして、光の応用などが動画制作にも生きています。
——独立前に作った動画と、独立後制作の動画とでは違いはありますか。
植木:独立してコンパクトになって動きやすくなりました。代理店からいただく仕事もありますが、今は直接企業とやりとりしているので打ち合わせ、企画、撮影、事務的なことまで全て自分でしていますので、制作単価も抑えられます。広告代理店時代よりも間に入る人が減った分、今の方がクリエイター的な目線は活かせています。
——動画メインにやっていかれると思いますが、今後の方向性をお聞かせください。
植木:写真や動画は、ライフイベントや思い出のように、その瞬間しか撮れないものを記録として残せる手段です。一瞬一瞬の出来事を、最高のカタチで残せます。
世の中にはいい商品・いいサービスはたくさんあるけど、もっといい伝え方があるのにと感じることがあります。ある不動産会社で「お客様の声」インタビュー動画を撮影していた時に、お客様の女性がインタビュー中に感謝の気持ちが高まって、涙を流すハプニングが起こりました。演出ではなく、その人が心から感謝したことで自然に涙が流れていたのを見て、「この瞬間の対象者の心境の動きをより詳しく伝えたい」と思いました。瞬間の気持ちの動きを伝える媒体として、動画は最も適していると思っているので、それをどこまで表現できるか。この出来事は、自分の中で「人の心を動かすことを重視する動画制作」をさらに押し進めた気がしています。
「人を『上向き』にしていきたい」ところから、独立後の自分の組織にはウエムキと名付けました。発信力の点では、動画は一番パワーがありますから、伝え方さえ変えていけばもっと光り輝かせることができます。見る人の感情を動かす動画を作ることで、まだ見ぬ商品・サービスの良さを見せる、価値を上向きにするお手伝いをしたいですね。
《取材・文・撮影 河瀬佳代子》
<ご協力企業>
ウエムキ
https://uemuki.jp/
□ライターズプロフィール
河瀬佳代子 Kayoko Kawase
ライター 東京都出身。2019年8月天狼院書店ライティング・ゼミに参加、2020年3月同ライターズ倶楽部参加。同年9月天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul 、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/ 連載中。他Web記事等実績。
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