週刊READING LIFE vol.222

こじらせます宣言~やっぱり私は元彼が好きだ~《週刊READING LIFE Vol.222》

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/7/3/公開
記事:川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
懲りずに、また元彼と会ってしまった。
彼と会うのは、別れてからこれで2回目で、4月の話である。
 
前回再会したのが2022年9月で、なぜ半年以上の空白期間を経て2回目の再会をすることになったのかというと、ありきたりだが誕生日メッセージのやりとりがきっかけである。
 
私が冬、元彼が春生まれだ。まず冬生まれの私に元彼が「誕生日おめでとう」とメッセージをくれ、春になると私が元彼に「誕生日おめでとう」とメッセージを送った。
送らなくてもいいんじゃないかと、正直思った。でも「誕生日メッセージをくれた人に対しては、その年は絶対におめでとうの連絡をする!」という私ルールが存在するのだ。それに則ると、2023年におめでとうメッセージをくれた人に対しては、私もそこから1年はその人たちの誕生日を死んでも忘れることはせず、その人たちの誕生日当日にはおめでとうメッセージを送るようにしている。
元彼にそのルールを該当させるかどうか非常に悩んだ。悩んだ末「こうやって考えてしまっている時点でめちゃくちゃ気にしているじゃないか。だったらいつものルールに則って送ればいいじゃないか」という結論に至り送った次第である。
 
……と、長々と書いたが、白状しよう。
ぐるっとまとめると「あわよくば」と思っていた。彼と連絡が取りたかった。そのきっかけは正直なんでもよかったのだ。誕生日は私にとっては良い口実だったのだ。
 
そうして4月下旬、再会した。
 
「情熱ホルモン」という色気も何もないお店に入り、たらふくに肉を食べ続けた。食べるのが遅いけれどひたすら喋り続ける私に、元彼は父親のように肉を焼き続けてくれ、私の取り皿に入れてくれた。ああ、付き合っていた頃もこんな感じだったなぁ、と心の中でしんみりした。
 
近況報告や仕事の愚痴など、お店を移動してもたくさん話続けた。元彼云々は一旦横に置いといて、とても楽しかった。
そんな中、彼が私に「お前は絶対に海外行った方がいいと思う」と言ってきた。
 
実は付き合い始める当初から、私はデンマークへワーキングホリデーに行きたいと話していた。当時の私は28歳だったので、ワーホリ規定の年齢制限の基準は満たしていた。
しかし、コロナ第1波が世界で流行している中で渡航する勇気は、私にはなかった。実際にビザの発行は止まっていたし、ビザ発行が再開しても、マスク社会が当たり前になっていた日本にいた私は、精神的に安心して飛び立つこともできなくなってしまっていた。そうしているうちに31歳になり、ワーホリで規定されている年齢制限を超えてしまった。もうワーホリでデンマークに行くことはできない。
 
「やりたいと思ってること、自分で潰さずにちゃんとやった方がいいよ。仕事も役職ついたりしてさ、大変やし頑張ってるのはわかってるけど、もっと自分のやりたいことを尊重した方がいいよ。だって自分の人生なんやから。付き合ってた時もさ、付き合うことになってすぐそれ言ってきたからさ、もうちょっと経ってから言えよってちょっと思ったんやけどさ、でもそれくらいほんまに行きたいんやろなって思ったし、それからも英語勉強し直したりいろいろ現地のこと調べたりさ、頑張ってたやんか。そういうの見てたから、簡単に諦めたわけじゃないと思うけど、諦めんといてほしいなって思う。死ぬときに『あれやっとけばよかったなー』って後悔するのはよくないし、川端にはやりたいことやって、後悔せん人生送ってほしい」
 
俺が言うのもなんやけど、と最後に付け加えて言った。
 
正直、驚いた。自分でも忘れていたことを、元彼が覚えていたことに。
ワーホリでデンマークに行きたいと思っていたことなんて、自分でも忘れていた。オンライン英会話でレッスンを受けていたことも、現地で行きたい学校を調べていたことも、自分ではまったく覚えていなかった。言われて初めて「ああ、そういえばそんなこともしてたなー……」と思い出したくらいだ。それを、元彼は覚えてくれていた。
 
嬉しかった。付き合っていた期間も決して長くはなかったし、だからといって毎日会ったり連絡を取っていたりしたわけではないけれど、そんなに私のことを覚えてくれていたことが嬉しかった。私のことを、こんなに見てくれている人がいたのだ、ということが、とても嬉しかった。
 
元彼の職業は、自動車整備士である。22歳で専門学校を卒業してから今まで、同じ会社で働き続けている。彼は中学生の時から整備士を目指して夢を実現している。私と出会う前、職場で大きな怪我を負ってしまい、整備士として働けなくなってしまうかも……という状態にまでなってしまったそうだが、それでもそれを乗り越えて働いている。
 
元彼は「俺、今死んでも後悔せんと思う。だって、毎日自分の好きなことやって生きてるから。だから絶対後悔せん自信ある」と言う。
 
ああ、いいなぁ、と思った。
その「いいなぁ」は異性としてというのではなく、人として、純粋に羨ましいなぁと思った。
 
というのも、私が今の自分の仕事をあまり楽しめていないからである。
社会人になってからは、ずっと営業として働いている。前職も含めて、その期間は8年だ。営業がしたかったのかと言われると決してそんなことはなく、前職の会社に入社した際に空いているポジションが営業しかなく、仕方なくやっていた。なんなら営業はノルマがあるし、出張にも行かなければならないし、クレームもいっぱい受けるだろうし、一番やりたくなかった職種である。
それに加えて、現在は1つのチームを率いるリーダーという役職までついてしまった。納得の上で受けた話ではあるのだが、やはりしんどい。想像以上にしんどい。「私のやりたい仕事は、私のやりたいことは、こんなんじゃなかったはずなんだけどなー」という思いが、いつもどこかで浮いては消えていた。
 
そうだよな、やりたいこと、やった方がいいよな。
 
元彼に言われて、少し考えが変わった。
私も彼のように、死ぬときに後悔しないように生きたい。少なくとも「あれやっておけばよかったな……」と思うことのないように生きたい。自分で潰せる後悔は、潰して生きていきたい。
 
そう思うと、今まで嫌だった仕事にも前向きになれた。
海外へ行くスケジュールを考えて、それまでに貯めるお金も試算した。退職時期も考え、一番信頼している上司へ相談もした。思い立ったらすぐ行動したかった。後悔したくなかったから。
 
退職時期はまだ先になるので追って話し合うこととなったのだが、上司は私の行動を応援してくれている。あとは私が実行するだけだ。
 
前に付き合っていた人と再会するのってどうなんだ? と、ずっと思っていた。復縁が前提でもないはずなのに、会って何になるんだ? どうするんだ? 虚しくなるだけなんじゃないか? と思っていた。
 
でも結果的に、私はこの元彼と再会して良かったと思っている。
彼は会う度に、私に大切な何かを伝えてくれているような気がする。復縁して以前と同じ関係になることはないかもしれないけれど、それでも、彼は彼なりに私のことを思って言ってくれているのだなと思った。
 
次に会う予定はない。
また再会することがあるかもしれないし、もう一生会わないかもしれない。友達でもないから、私たちの関係ってそういうものだ。
 
でも、私はまた会えたらいいなと思う。
前回会った時のあなたの発言で、私はまた変われたよ、ということを伝えられたらいいなと思う。
そして、そうやって人のことを思ってまっすぐな言葉をかけてくれるあなたが、やっぱりいいなと思う、ということも伝えたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
川端彩香(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

兵庫県生まれ。大阪府在住。
大阪府内のメーカーで営業職として働く。コロナ禍で当時付き合っていた彼氏に振られ、見返すために自分磨きを開始し、その一環で2021年10月開講のライティング・ゼミに参加。2022年1月からライターズ倶楽部に参加。WEB READING LIFEにて『こじらせ女子図鑑』連載中。

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2023-06-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.222

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