週刊READING LIFE vol.224

家族が変わる時と、どう変わるかが大切だと思ったこと《週刊READING LIFE Vol.224 「家族」が変わった瞬間》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/7/24/公開
記事:遠藤美紀(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「家族」が変わる、とはとても曖昧です。
さらに言うと、変わる瞬間はわかるのものなのか。
そして、その「変わる」も色々あるでしょう。
 
家族の「形」が変わるのか。
家族の「誰か」が変わったのか。
家族の「住む場所」、「家」が変わるのか。
家族の「概念」が変わった、という方もいるかもしれません。
 
家族は人が作っていくものです。人が作るということは、感情で何か変わることもあるだろうし、生まれたり、亡くなったりを繰り返して変わっていくことも、もちろんあります。
 
基本的に、「変わる」ということは、時間がかかるものです。そう思っています。ゆっくり、自分たちでは気づかないくらいのペースで変わることがほとんどではないでしょうか。
 
なにより、家族の「変わる」は、ある程度予測ができることだったり、準備が出来ることも多いと思うのです。
 
例えば、家を建てて引っ越しをする、となればその準備をしていきますし、子どもが産まれれば、これから生活が変わっていくことも予想がつきます。
幼稚園に入園して、小学校、中学校、高校、そして大学に入学することも多いでしょう。
さらには独立して家を出て、また戻ってくることだってあります。
 
そのたびに、家族は何かしら変わっていくことも分かっていて、それに合わせて徐々に準備をしていきます。
 
私もこれまで、色々な「家族が変わること」を経験してきたのですが、その変わった瞬間というものを意識したことも、感じたこともありません。
気づいたら何かが変わっているので、始まり、その瞬間なんてわからないのです。
 
ですが、その「変わる」瞬間、というものを考えてみると、ひとつ思い当たるものがありました。

 

 

 

それは、10年ほど前のことです。

 

 
 

「ねぇ、起きて!」
その日仕事が休みだった私はまだ寝ていました。そんな私が寝ているベッドの傍に来た母に突然起こされて、びっくりしてしまいました。
「え? な、なに!?」
なぜ突然、母に起こされたのかさっぱり分からない私は、まだどこかぼんやりとしていて、頭が働きませんでした。
 
「あのね、お父さんの顔が曲がっているの」
少し慌てた母が言っている意味がまだよく分かりません。
「ごめん、なんの話?」
私もなんとか頭をはっきりさせようとしながら、聞き返します。
 
「あのね、お父さんの顔が半分、力が入らないらしいの。それで、顔が曲がって見えてて」
そういうことか! と、やっと少しずつ目が覚めてきた私も、状況が掴めてきました。脳梗塞か?
「歩いたりは一応できるみたい。今救急に連絡したから、病院に連れて行ってくれる?」
 
私はベッドから急いで起き上がると、ざっと着替えて支度をしました。意外とそんな時は冷静な部分が残るものです。
自分が最低限持っていかなくてはいけないもの、免許証やお財布、家の鍵。そんなものをさっと用意しながら、母に保険証を一応持っていくように確認して、2人を車に乗せました。父は、確かに顔半分が力がなく、口角も片方が下がっています。しゃべりにくそうにしています。顔色が悪いのは、この状態に緊張しているせいかもしれません。歩ける、とは言っても、やはりいつもと同じように、とはいきません。
 
そうは言っても、意識がない、歩けないというほどではないことに、少し安心します。
 
病院までは車で10分ほど。
正面玄関に車を横付けすると、すぐに看護師さんが車椅子を押して出てきてくれます。私は父と母を降ろしてから、駐車場に車を停めて、それから病院の中に入っていきました。入ってすぐの、救急の待合室に母はひとりで座っていました。私はそのまま隣に座って周りを見まわしました。早朝の病院は、ひっそりとしていて、初夏なのに、なんだかうっすらと寒かったのを覚えています。
母は、ふぅーと息を吐くと、「ごめんね、お腹空いたでしょう?」と私のことを気にかけてくれています。「大丈夫」ひと言そう言うと、そこから母は少しずつ今朝のことを話し始めました。
 
「朝起きたら、お父さんが変だ、力が入らないって。顔見たら曲がってるし、大変! と思って、すぐに病院に連絡したの。そしたら、状態を聞いて、すぐに連れてきてくださいって。救急車は断ったの。すぐに連れて行けるからって」
「そうか。私が休みの日で良かったね」
母は車が運転できないのです。
 
 
そんな話をしながらしばらくすると、父が診察室から車椅子で出てきました。
看護師さんが、「このまま入院することになります。病室のある4階に移動しますね。上で先生から説明がありますので」
と言いながら移動して、エレベーターに4人で乗り込みます。
 
4階に上がると、ストレッチャーが待ち構えていました。看護師さん3人で支えたりしながら、父をストレッチャーに乗せてくれました。
そして、そのまま別の部屋、処置室へ移動する、とのこと。父は、なんとか職場に連絡する、と言い、電話をかけてもいいか確認して、自分で電話をかけ始めました。
急に入院することになったので、しばらく休むことを伝えるのですが、少し言葉が不明瞭になってしまいます。そして、そんなことに慣れている看護師さんは、せかすように処置室に行きますよ、と言います。
私は電話を変わると、しばらくお休みさせていただくので、ご迷惑をおかけします、詳しいことがわかったら、また改めてご連絡させていただきます、と説明して電話を切りました。
 
 
やはり父は脳梗塞でした。これからまずは、点滴で薬を入れて、血栓を流すとか、そんな説明だったような気がします。幸い、血栓は小さなものだったので、軽く済んでいるようでした。とは言っても、もちろんしばらく入院が必要です。さらに、後遺症がどうなるかは、今の時点では分からないとのこと。とにかく、その心配はまだしないで、まずは治療しましょうということでした。
 
 
私と母は、ひとまず入院の準備と、妹への連絡、そして父の会社への連絡を改めてしてから、もう一度病院へ向かいます。
 
父は定年間近でした。私ももちろん仕事をしていますので、お金に関する生活の不安はほとんど感じませんでした。父も母も、定年間近なので、その後の生活については準備もしていたでしょう。ふたりが生活できればいいのです。
 
ただ、やはり心配なのは、後遺症がどのくらい残るのか。だんだん歩きづらさが増してきているようだった父のことを思い返すと、家は時々聞くように、バリアフリーな家にリフォームしないといけないのか、このまま介護が必要になったらどうするのか。そうなってくると、お金の心配も出てくるでしょう。
考え始めるとそれだけで疲れてきます。
 
「まだ、後遺症が残るとも限らないのだから、今その心配はやめておこう」
そう決めて入院の手続きをしにいきました。

 

 

 

そこから父の入院生活が始まりました。
私の生活は、実はそれほど変わらなかったのです。いつものように仕事へ行く、日常でした。母は病院に行くことも多く、大変だったかもしれません。
 
でも、予想通り、大きな変化は父が退院してからでした。やはり、多少の後遺症があったのです。とは言っても、ほんの少し歩きにくい、しゃべりにくい、と言う程度。リハビリで徐々に戻っていくでしょう、とのことでしたので、家族はホッとしたのですが、本人にとっては、かなりショックだったようです。
それでも、毎日、リハビリがない日もトレーニングをしていたので、ほぼ、元通りになったと思います。
 
ただ、それよりも大きな変化は、家族の健康管理の見直しでした。
私は元々、医療系の仕事をしていることもあり、やや健康オタク的なところがあったのです。それでも、なかなか健康に関する提案をしても、受け入れてもらえないことも多かったのですが。
帰ってきてからの父は健康オタクという名では済まないような徹底ぶりを発揮したのです。
「あれはダメだ」
「もっと薄味にしてくれ」
「こんなには食べない」
「これでは身体が冷える」
 
母の苦労はさぞかし、と思ったのですが、母は母で、
「じゃあ、もっとお味噌を少なくしよう〜」
「お醤油は一滴ずつ出るのにしたの」
「最近、おやつは買わないようにしてるの」
「私も健康になるね」
と、さらり、さらりと食生活を変えていったのです。文句も言わずに偉いなぁと感心してしまいます。
けっか、「遠藤家」は、「健康マニア一家」となったのです。これが大きな変化。私の健康オタクなんて、2人の足元にも及ばなくなりそうです。
 
 
さて、私にとって、「家族の変化」の瞬間は、今考えると、母の「ねぇ、起きて!」のひと言でした。父の瞬間と、母の瞬間はまた違うでしょう。
 
 
その瞬間から、多くのことが変わったのです。
変わったのは、
家族である「父の身体」であり、家族の「健康への意識」です。さらに言うと、父と母にとっては、これからの「生き方」にも考えに変化がきっとあったでしょう。
 
それでも、「遠藤家」は、父の病気をきっかけとした変化を、良い方へと向かわせることができたのではないかと思っています。
 
当初は落ち込みがちだった父と、上手くそれを前向きに乗せていく母。もちろん母も時には私に愚痴をこぼします。それでも、これを機にみんなで健康になろうね、という気持ちが伝わってきて、良い変化にできたのは、本当に母のおかげなのだと今改めてきづき、尊敬します。
 
 
このように、家族は突然、ひとつの出来事をきっかけに、良くも悪くも大きく変化することがあります。
でも実は、家族とは日々変化しているものです。なぜなら人は、そして家族は毎日ほんの少しづつ、きっと成長しているから。分かりにくい変化をしていて、それが数年後に、「あぁ、あの頃とは違っているな、変わったな」と気づくこともあるでしょうし、むしろ、言われるまで気づかないこともあるかもしれません。
そんな変化の積み重ねが、家族の大きな変化をどんな方向に向かわせるのかを左右させるのかもしれないと考えています。
大きな変化は、時に人を悩ませ、苦しませることもあるでしょう。ですが、その後をさらにどう変化させ、生きていくのかは、自分たち次第です。
 
 
ということは、毎日新しく正しい情報を仕入れること。ほんの少しの変化を楽しむこと。ポジティブに考えることを癖づけること。
実はこれが意外と大切なのではないかと思うのです。例えば、いつもいつも、基本的にネガティブな人が、何か大きな変化があった時に、急にポジティブなことを考えられるとは思えないですよね。急な変化は、たぶん、気持ちがネガティブになりやすいものが多いです。ですから、日頃から、なるべくポジティブを癖付けるのは、案外いい習慣なのでは、と思っています。
 
そんなことを意識して暮らしてみると、よりいい方向に変化できる手助けになるのではないか。そんなことを父の病気になった時のことを思い返して、気づいたのです。
 
 
「家族が変わる瞬間」は、その渦中にいる時には絶対に分からないでしょう。
 
それでも、私のように、後から「あそこが家族が変わる瞬間だった!」と気づいた時に、いい方向に変化できたなぁと思えるようにありたいですね。

 

 

 

さて、その数年後。
また、家族に大きな変化がやってきました。今度は、予測できるけど、大きな変化です。
それは、妹に子供が産まれたこと。
出産に関しては、予想もできないことが多く、大変でしたが、それでも、無事に産まれてきてくれたことは、みんなが幸せな気持ちになり、幸せな変化に喜びました。
 
大変な変化もあれば、嬉しい変化もあります。
いつでも変化をいい方向にむけて、そして、後から「あそこが変化の瞬間だったのか」と笑って思い出せるといいと思うし、また、そういう生き方をしたいものだと思っています。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
遠藤 美紀(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

千葉県在住。
歯科衛生士であり、セラピストでもある。
文章も書ける歯科衛生士を目指して奮闘中。

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2023-07-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.224

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