週刊READING LIFE vol.225

「他人」が「神」に変わる瞬間を音楽は教えてくれた《週刊READING LIFE Vol.225 「他人」が変わった瞬間》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

2023/7/31/公開
記事:記事:村人F (READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「他人」が「神」に変わった瞬間を、僕は何度も経験している。
例えば音楽を聴いたとき。
それまで知らなかった人間が、その声ゆえに、音ゆえに、神にまで駆け上がる。
この奇跡に出会った快感は、生涯にわたって残り続ける光を与えてくれる。
 
中でも一番印象に残っているのは、パン屋での出来事だった。
食べログでも上位に入るおしゃれな店にて、いつも通りイヤホンで聴きながら選んでいるとき、シャッフルで流れた曲によって、世界の色すべてが激変したのだ。
『相対性理論』というバンドの『ケルベロス』という曲だった。
イントロのポップなようで、地獄の暗さもほのかに漂わせる雰囲気。
歌詞の気の抜けた擬音が混ざりつつ、番犬の抱える闇と光が独特な哀愁を与える。
正直、曲が流れている間、パンどころではなかった。
ただ、偶然に選ばれた音楽に世界が支配されていた。
 
そこから『相対性理論』に対する見方も変わった。
今までは友達から借りた程度で、そこそこ好きといった形の位置づけだったのに。
貪るように全曲買い漁って聴きまくったし、ライブがあれば東京でも大阪でも必ず行くようになった。
そして、気がつけば『相対性理論』は僕の神になっていた。
 
もしかしたら、この感動を皆が経験したことがあるから、創作の世界では神だと崇める風潮が多いのかもしれない。
SNS上でも神絵師、神曲。
優れた作品に対する褒め言葉としてよく使われている。
普通に考えたら言い過ぎでダサいように見えてしまう表現だ。
だが「他人」であるアーティストが、その創造物によって神の手によるものとしか思えない奇跡を提示してくる。
この瞬間を一度でも経験した人間にとっては、決して行き過ぎた表現ではない。
 
しかし、これらアーティストはなぜ、ここまでインパクトを与える作品を生み出すことができるのか。
一時期、気になって本やインタビュー記事を読み漁ったことがある。
『相対性理論』や『星野源』、『サニーデイ・サービス』
僕が影響を受けた曲を作った方々の言葉は、いずれも固有の表現であった。
 
ただ1点、皆に共通していることがある。
インプットの量が、私達の比ではないのだ。
聴いたことのある曲が数千曲あるのは当たり前。
それどころか歌手でありながら、読書量も異常に多い場合もある。
とにかく彼らが受け入れてきた作品の数は、常軌を逸していた。
 
これは1つの事実を浮かび上がらせる。
神は、多くの神を知っていることだ。
きっとたくさんの曲や物語と出会う中で、僕が『ケルベロス』に感じたような世界が変わる瞬間を経験しているはずである。
そのため神と崇めたくなる対象も、私には想像できない分量になっているのだろう。
 
そしてアーティストは神から与えられた衝動を力に変えて、曲を作り出すのだ。
出力しなければならないほどの感情を、多くの作品群から得ているのだから。
この過程を何度も経験しているからこそ、彼らは神として崇められるほど素晴らしい音楽を生み出せるのだろう。
 
この力は、アーティスト以外にもおよぶ。
もしかしたら自己啓発にのめり込んだ理由も、これによるのかもしれない。
文章講座、カメラ教室、作曲講座。
多くの神に同じく支えられた経験が、アウトプットしたいという要求を強く駆り立てた。
そうして気がつけば、土日休みの両方に何かしらの創作をするような生活になった。
 
ただ学べば学ぶほど、神がどれだけ遠くにいる存在なのかが、肌で実感できるようになった。
私も文章講座で2000字程度の文を週3本の作品を提出している。
しかし書けども書けども一流との差は縮まることはなく、むしろ自分がどれだけ平凡なのか理解できるほどだった。
それくらい、圧倒的な差があった。
 
きっとこれは必然のことなのだろう。
多くの心踊る音楽たちに影響されて曲を作ったのだから。
このパワーがあるからこそ、彼らは神に匹敵するほどの素晴らしい作品を生み出したのだ。
 
それに比べ私の力の弱いこと弱いこと。
伝えるための言葉も少なく、そもそも読んで聴いた量が違いすぎる。
言うまでもなく明らかだ。
この当たり前の事実が見えてくるたびに、なぜ「文章を書こうと思った」のかわからなくなった。
どうせ続けても、プロに匹敵する力は得られない。
この目標ロスに悩む日も多かった。
 
ただ、これは神であるアーティスト達が何をしたいのか、全く把握していないから出た悩みなのだろう。
それは何かを伝えたい。
この一心である。
 
多くの作品に触れる中で抑えられなくなった感情。
街の風景や音。
雨や森といった自然。
そういった美しいものから得た力を届けたいから、彼らは創作するのである。
ある者は曲として、またある者は絵として。
 
そして、神は私達を変えたかったのだ。
自分と同じ感動を味わってもらえる存在に。
そのために彼らは作品を作り出したのだ。
こうして考えてみると表現の持つ目的は「他人」を「仲間」に変えることなのかもしれない。
 
だからアーティストには孤独を感じる人が多いのだろう。
どうしようもなく寂しいから、たくさんの作品を貪るように取り入れる。
しかし誰かと共有するための言葉を、曲や絵といった形式でしか表せない。
この悩みの中で増大した力が乗り移るからこそ、私達に伝わるのだ。
そして受け取った者たちが、いつの間にか神と崇めるようになる。
これこそクリエイティブが起こす奇跡の真髄だ。
 
この点で考えると、私も作り手としての素質を抱えている。
長年の一人暮らしで、ずっと孤独を感じていたからだ。
もちろん、会社に行けば話す相手はいる。
だがプライベートとは一線を引くような態度を取ってしまい、どうしても仕事だけの関係にしてしまう。
その意味で寂しさを紛らわす存在を見つけられなかった。
 
こうして行き着いた先が、天狼院書店の『ライティング・ゼミ』だった。
私には、この鬱屈した感情を伝える術がなかったから。
それを誰かと共有したい。
わかってもらいたい。
この欲望を満たすために、文章講座の力を求めたのだろう。
 
幸運だったのは僕にとってこれが、楽しいことだった点だ。
受講する前は、毎週2000字の文章を提出するなど絶対にできないと思っていた。
しかし実際に書いてみると想像以上に筆が乗り、気がつけば2年以上続けることになった。
 
そして、この量を書いたおかげか、文章を読んでくれる人との出会いも増えてきた。
天狼院書店のゼミ内での交流や、行きつけのバーで書いた文章を披露して酒のつまみにすることで、これまで全くできなかった仲間も増えた。
 
それだけではない。
受け入れられるインプットの量も次第に、増えていった。
文章を書く前は月に1冊読めばよかった本も週1冊は読むようになり、積んでいる本の数も凄まじい量になった。
もちろん音楽も同じくらい購入するし、ライブやフェスなどのイベントに足を運ぶ機会も増えた。
それによって「神」と呼びたくなる素晴らしい方々との出会いに恵まれ、私の世界はより鮮やかになった。
 
こうして気づけば、私の表現にも力が宿っていた。
「他人」を「友達」に変える力が。
そう、私はこの瞬間を求めて学びを求めていたのだ。
自分と同じ悩みを抱える人に勇気を持ってほしい。
得られた感動を同じように分かち合いたい。
書くことを学び続けた理由は、これらを共有できる友達を増やしたかったからだった。
 
だから私は、決して他人から「神」と呼ばれるほど圧倒的な力を欲しているわけではない。
そこまでの表現ができるのも、それはそれで楽しいだろう。
ただ、自分の書いた文章を通じて、もっと仲良くなれればそれでいい。
バーで出会ったときに作ったもので会話が弾めば最高だ。
この過程で「他人」が「友達」に変わっていく瞬間に立ち会うことこそ、私が作り続ける理由なのである。

 

 

 

考えてみれば、人生の中で最も「他人」に触れたのは作品を通してだった。
番組で流れてくる音楽。
カラオケで友達が歌った曲。
教科書や美術館で読んだ絵や文章。
たくさんの「他人」が作った存在と出会ってきた。
 
この中には「神」と崇めたくなる素晴らしい傑作もあっただろう。
『相対性理論』の『ケルベロス』という曲は、まさにそれであった。
これを聴いたときの心情変化は、数年経った今も鮮明に記憶に残っているほどの輝きだ。
こういった奇跡の瞬間を、皆様も感じることがあるだろう。
 
そして溢れ出てきた感情が抑えきれなくなったら、何か生み出してみてはいかがだろうか。
文章や曲に絵、カメラで撮った写真。
その手法は無数にある。
自分にとって最も馴染むやり方で作り出せばいい。
 
こうすることで、あなたは「神」の素晴らしさをより深く理解できる。
優れた音楽を作るために、どれだけの労力を注ぎ込んだのか。
表現の1字1句にいたるまで、徹底的にこだわり抜いた事実も。
自ら創作することは、作品に対する解像度をより一層深めてくれるだろう。
 
しかも、できた作品はまた「他人」を変える力を持つ。
かけがえのない「友達」にだ。
こうして出会った仲間と共に新しい作品達と出会っていく。
これほど楽しい人生はないだろう。
 
だから私は、これからも文章を書き続けていきたいし、多くの作品と出会っていきたい。
なにせ日本には八百万の神がいる。
この世界に生きているのだから、巡り合い続けたほうが楽しいに決まっている。
そして新たな「神」に触れた感動を書くことでまた、「他人」を「友達」に変えていきたい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
村人F(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

名乗る名前などございません。村人のF番目で十分でございます。
秋田出身だが、茨城、立川と数年ごとに居住地が変わり、現在は名古屋在住。
読売巨人軍とSound Horizonをこよなく愛する。
IT企業に勤務。応用情報技術者試験、合格。
2022年1月から、天狼院書店ライターズ倶楽部所属。

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2023-07-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.225

関連記事