世界一のスタジアムを目指して-エスコンフィールド誕生-《週刊READING LIFE Vol.227『〇〇は、どうやって誕生したのか?』》
*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
2023/8/14/公開
記事:山田 隆志(週刊READING LIFEライターズ俱楽部)
2023年3月30日、日本ハムVS楽天、日本のプロ野球界にとって歴史的な一日となるだろう。この日は日本ハムファイターズの新しいホームグラウンドとなるエスコンフィールドで2023年シーズンが開幕した。残念ながら日本ハムファイターズは記念すべき日に勝利を飾ることはできなかったが、これから世界最高峰のスタジアムと共に戦う姿にワクワクが止まらない。
話題のエスコンフィールドは全天候型の開閉式屋根を採用しており、しかも天然芝を採用している。建物一面がガラス張りでスタジアムでは珍しい三角屋根が美しく、北の大地に颯爽と現れる様は世界最高峰のスタジアムといってもいいだろう。
2023年のWBC日本代表の世界一の興奮も冷めやらぬまま、日本ハムVS楽天の開幕戦をテレビにて観戦した。エスコンフィールドの開幕セレモニーから拝見したが、やはり日本ハムファイターズのそしてプロ野球界のこれからを期待せずにはいられなかった。
世界に誇れるスタジアムの誕生は心が躍るが、なんでまたこのタイミングで総工費600億円ものの大金を投じて、新しくスタジアム造る必要があったのか?
日本ハムファイターズは1973年に日拓ホームフライヤーズから日本ハムが買い取ることからスタートし、後楽園球場、東京ドームをフランチャイズとして戦っていた。しかしながら、後楽園球場も東京ドームもやはり読売ジャイアンツのスタジアムというイメージがぬぐえず、長きにわたってパリーグの脇役に甘んじていた。セリーグと比べて明らかに人気も知名度も劣るパリーグも、80~90年代に黄金時代を築いた西武ライオンズやイチローフィーバーに沸いたオリックスブルーウェーブが主役であり、日本ハムファイターズはずっと脇役に甘んじていた。
日本ハムファイターズの潮目が変わったのが、2004年に東京を離れ遠く北海道に移転し、札幌ドームを新たな戦いの場として、北海道日本ハムファイターズとなって再出発した。2006年にメジャーリーグから新庄剛志選手を獲得し、同年の日本シリーズでの中日ドラゴンズとの激闘を制し、悲願の日本一を果たした。新庄選手は北海道日本ハムファイターズを象徴する選手であり、ファンサービスを徹底して札幌ドームを常に満員にした。新庄選手の考えるファンサービスは規格外で、バイクやゴンドラに乗って入場するなどで常にファンを楽しませていた。新庄選手の入団そして日本シリーズ制覇をきっかけに、名実ともにパリーグの強豪チームのひとつとなった。
北海道の地に戦いの地を移し強豪チームの仲間入りを果たした後も、ダルビッシュ有投手や大谷翔平選手といった球界を代表する選手を多数輩出し、日本ハムファイターズは北海道の地に根差した人気チームに変貌を遂げた。
こうしてみると日本ハムファイターズの北海道移転は大成功としか思えないのだが、球団関係者はこのまま札幌ドームにいては日本ハムファイターズの未来はないという。その未来に向けたプロジェクトが秘かに動き出し、2023年のエスコンフィールドでの開幕戦で形にした壮大なストーリーがあった。
日本ハムファイターズのホームスタジアムである札幌ドームというのは、2002年の日韓ワールドカップ開催で札幌に大会を誘致するために作られたスタジアムである。日韓ワールドカップのビッグカードのひとつでもあるイングランドVSアルゼンチン戦をはじめとした3試合を札幌ドームで開催していた。その後はJリーグコンサドーレ札幌のホームグラウンドでサッカーのためのスタジアムである。しかしながら、コンサドーレ札幌の試合だけでは採算が取れない札幌ドームのもとに、タイミングよく日本ハムファイターズが北海道に移転することでホームグラウンドとなった。北海道移転とほぼ同時に日本一を果たし、強豪チームの仲間入りしたため札幌ドームとの関係は良好に見えた。
しかし、日本ハムファイターズが札幌ドームを使用するには年間13億円と決して安くはない使用料を払い続けることになる。もともとサッカーのためのスタジアムなので、プロ野球を行うには決して良い環境ではなく、選手がプレイするたびに悲鳴をあげていた。さらに悪いことに、札幌ドームの運営が札幌市の管轄であるため、何かをファンサービスを行おうにもなかなか議論が進まず、結果として観客用のトイレの増設すらままならない状態であった。
このままでは日本ハムファイターズにとっての未来はないと判断し、サッカーと共用である札幌ドームを出て自前のスタジアムを持ちたいという想いが強くなっていた。日本ハムファイターズの歴史の中で東京にいたときからずっと借り物という意識が強く、自前のスタジアムを持つということは悲願であった。現代のスタジアムというのはただ単に野球をプレイしてお客さんを集める場所ではなく、スタジアムを通じて街をつくり、文化を作り上げる「スポーツコミュニティー」という考え方が根付いている。ずっと危機感を感じていた日本ハムファイターズだからこそ、「スポーツコミュニティー」という考え方が具体的にイメージできて実現に向けて動き出すことができたのかもしれない。
しかし、実際に600億円の大金を投じて自前のスタジアムを持つのは簡単ではなかった。
まず、札幌ドームを出て自前のスタジアムを建設するとして、いったいどこに建設すればいいのか?
候補地は北海道内でいくつか出てきたが、最終的に中心である札幌市と札幌からJRで20分走らせた北広島市の2つに絞られた。
プロ野球のホームタウンとして考えられるのは、やはり人口200万人を抱える北の大都市札幌市が考えられる。日本ハムファイターズのホームグラウンドとしてはスタジアムだけではなく、「スポーツコミュニティー」の実現も譲れないところではあるので、それなりの広さを必要としている。最後に候補地として残ったのは1972年に冬季オリンピックが開催された真駒内公園だった。すんなり候補地が決まるのかと思いきや、その土地の住民の反対や有数の環境である真駒内公園の改築への激しい抵抗があり、なかなか候補地としてまとまらなかった。また、日本ハムファイターズの本拠地移転に対しての意思決定の遅さなど大都市ならではの悩みも抱えていた。
もう一つの候補地である北広島市は半世紀近く眠っていた総合運動公園の立地が、予想に反して良好であるという判断であり、スタジアムを単純に建設するには申し分ない広さを確保することができるというアドバンテージを持っていた。しかしながら、人口200万人を抱える日本有数の大都市札幌に比べて、人口6万人程度の北広島市ではやはり知名度や利便性では太刀打ちできない。北広島は札幌からJRで20分とあるが、一番多く観戦するだろう札幌市民にとっては離れた場所に野球観戦するのはやはり抵抗があるだろう。それでも、日本ハムファイターズが自分たちの町にやってくることが現実的になるにつれて、熱意をもって迎えようとしていたのは北広島市の方だった。
日本ハムファイターズにとって新しいスタジアムが誕生するのは悲願ではあるが、600億円という大金は球団だけではとても賄える金額ではなく、日本ハム本体の支援が不可欠である。日本ハム本体にとっては良くも悪くも日本ハムファイターズとはある程度距離を置いている。日本ハム本体にとっては野球よりもまずはハム・ソーセージをはじめとした食品事業を最優先に考えなくてはならず、600億円の投資ができれば、食肉工場のいくらかを建設することができるぐらいの大きな投資であるので、いくら日本ハム本体はいえ簡単に了承できる案件ではなく、実際に反対の声も数多く上がっていた。
しかし、日本ハムの創業者一族である大社啓二取締役の働きもあり、日本ハム本体は600億円の投資を了承し、新球場の建設予定地も新広島市に決まった。創業者であり父である大社義規が1973年に日拓ホームフライヤーズから買収して日本ハムファイターズの発展に尽力を尽くした。そして、日本ハム本体も球団を持つことによって、他の食肉加工会社とは違う特別な存在となった。プロ野球チームを持つことが創業者の道楽と揶揄されながらも、創業者自らが自分の言葉でプロ野球チームを持つことの意義を語り、日本ハム本体ならびに日本ハムファイターズの貢献に尽力を尽くしてきた。その思いから大社啓二をはじめとして日本ハムファイターズの新スタジアム建設が2018年に実現した。
2020年日本ハムファイターズの新球場が「ES CONFIELD HOKKAIDO」に決定し、翌2021年11月かつて日本ハムファイターズをパリーグの強豪チームに生まれ変わらせた功労者である新庄剛志が監督となって帰ってきた。
2022年12月1日エスコンフィールドが完成し、2023年3月30日楽天イーグルスを迎えて開幕戦が開催された。
テレビで見たエスコンフィールドの美しさは間違いなく世界有数のボールパークと比べてみても遜色ない。この開幕戦をみて日本ハムファイターズにとって、ひいては日本プロ野球界にとって明るい未来を感じさせた。
遠い北の大地に建つエスコンフィールドでの開幕戦を現地で観戦することは叶わなかったが、ぜひとも世界有数のスタジアムに実際に訪れて、野球とスポーツコミュニティーというものを体感してみたいと思っている。
□ライターズプロフィール
山田 隆志(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
2022年10月よりライターズ倶楽部に復帰、早いもので通算4期目の参加となる。
5000文字の射程を手に入れ自分オリジナルの文章を求め、いまだ研鑚の日々をおくる。
今年一年で私はどんなライターになるのか、未知数ではあるが楽しみでもある
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