週刊READING LIFE vol.227

オムツケーキはおめでとうの気持ちとママ友の思いやり《週刊READING LIFE Vol.227『〇〇は、どうやって誕生したのか?』》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/8/14/公開
記事:早藤武(LEADING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
長女のアカリが誕生してから2ヶ月位がたった頃のことです。ようやく親族以外に会えるようになったたくさんの人たちから出産祝いと称して贈り物をもらって、私たち夫婦はとても嬉しい気持ちでいっぱいになっていました。
 
しかし、私は人生で初めて見るお祝い品を見て、頭の中がハテナでいっぱいになってしまいました。
 
「ほら、これとっても素敵なオムツケーキでしょう? ママ友達からおめでとうってさっきお祝いしてもらってきたのよ!」
 
妻のコズエが持ってきたのは、素敵な洋服と靴下のセットだったのです。
そう、どこからどう見てもお洋服のセットなのにオムツケーキってどういうことなのでしょうか?
 
「んんん? オムツケーキって初めて聞くのだけれど、中にオムツとケーキが入っているの?」
 
私のトンチンカンな受け答えにコズエは声を出して笑って、優しい声で説明してくれました。
「あははは、流石にデザートのケーキは洋服の中には入ってないよ。オムツケーキっていうのは、紙オムツを使って、ケーキに見立てた形を作って、可愛いリボンやおもちゃとかのベビー用品で飾ったデコレーションケーキみたいなお祝い品のことなのよ」
 
そんなお祝い品があるなんて自分自身が父親になるまで知らなかったので、どうなっているのか興味が湧いて、そっと取り扱いながら、洋服で飾り立てられたオムツケーキをあちこちから観察してみました。
 
なるほど、紙オムツを1つずつ丁寧に手巻き寿司のように形を整えてラッピングしてから、さらに巻いたオムツを束にしてケーキの台座を作って2段重ねて、その上からヒラヒラの可愛い赤ちゃん用の洋服を着せて形作ってラッピングされていたのです。
相当な手間と時間を使って形にしてくれたのが伝わってくる一品です。
妻から聞いた話では、ママ友達が忙しい時間の合間に作ってくれたそうで、しばらくは部屋に飾って見て楽しんで、アカリが大きくなってお洋服を着れるくらいに大きくなってから使わせてもらうことになりました。
オムツは赤ん坊であれば、いくらあっても足りないくらいなので、もらって嬉しい贈り物です。
 
我が家の場合、アカリが退院してきてから1日8回くらいは毎日オムツ交換をしているので、1ヶ月で240枚はオムツを使っている計算になります。
回数が多い時期だと1日10回を超えるオムツ交換をしていたこともあるので、その場合は1ヶ月で300枚のオムツを使う計算になります。
成長度合いや体調によっては、交換する頻度は少なくなってくるはずなのですが実際にお世話する側にならないと頭に浮かばない数字です。
そんな数値を思い浮かべると、オムツはいくらもらっても助かる品物です。
そのオムツをただ単に贈るだけではなく、飾り付けをして華やかにして、部屋に置くだけでも空間が明るくなる感じがします。
よく考えられた贈り物に興味が湧いた私はオムツケーキにどんなルーツがあるのかを調べてみました。
 
日本でオムツケーキのギフトが流行り始めたのが2006年のことだそうです。
その歴史をさかのぼってみるとアメリカの『ベビーシャワー』という、生まれてくる赤ちゃんの誕生を妊婦さんとお友達でお祝いするパーティイベントが行われており、その『ベビーシャワー』のパーティーで華やかさを演出するアイテムとしてオムツケーキが生まれたと言われています。
とても華やかで、可愛らしく、さらに実用的な出産祝いギフトということで、一気に広まってアメリカでは2000年頃から出産祝いとして広く一般的に用いられるようになったそうです。
その後、アメリカのドラマ『SEX AND THE CITY』のベビーシャワーで登場するオムツケーキが日本でも話題になって、出産祝いのギフトとして広まっていったそうです。
 
最近は産後の入院のお見舞いなどに生花の贈り物は、病院で禁止されているところが増えている背景もオムツケーキが広まった要因になっているようです。
綺麗なお花が部屋に飾ってあると華やかになって、女性にとっては気持ちが明るくなる贈り物にはなりますが、産後で心身が弱っているママには厄介な一面が出てきてしまいます。
その理由は大きく2つあって、1つは生花をお世話する手間が出産後のママや病室をお世話する看護師にとって増えてしまうこと。
ただでさえ、心身が弱っていて子どものお世話もしているママには大変です。
そして2つ目が、生花と花瓶の中の水に含まれる緑膿菌やレジオネラ菌などが免疫力が低くなっている産後のママに悪影響がある可能性があると考えられたからなのだそうです。
この衛生的な理由の方は、感染症学会の方で免疫不全でない限りは感染源になる可能性は低いと回答が出されていますが、不安の種になってしまう側面もあることから代わりになる贈答品の方が喜ばれて、オムツケーキが広まる背景に繋がったようです。
 
実際にもらってわかるのは、オムツケーキは見た目が華やかなので外出がなかなかできない新生児のお世話の時期に部屋を明るくしてくれる素敵なアイテムになってくれます。
さらに、オムツケーキを開封して、紙オムツとして使えるので2度美味しい贈り物になってくれるところ。
そして材料が軽くコンパクトなので持ち運びや保存もしやすいので実用的と言われるだけあります。
ママ友達が出産をお祝いしたい気持ちと出産直後の大変な時期に、本当に喜ばれるように考え抜かれたギフトだと改めて思いました。
 
本物のデザートのケーキで母子ともにお祝いしてあげたい気持ちがあっても、赤ちゃんの時期はまだミルクしか飲むことができません。
生後6ヶ月が過ぎて離乳食が進んでいっても、ケーキやアイスなどのデザートが食べられるのは1歳以降になります。
さらに離乳食の時期には両親とも自分の子どもが食物アレルギーがないか慎重になっている時期でもあるので、擬似ケーキとなるオムツケーキで母子ともに気を使わずに喜んでもらえる一品になってくれたのです。
ここまで調べてみて身にしみるのは、自分が子どもの頃には全く感じてはいませんでしたが、子育てをするのにこんなに気をつけるべきことが多いとは思いませんでした。
 
私がまだ小学生高学年頃に、小さかった弟を両親の手伝いでお世話していた頃には、粉ミルクを作ってあげて、夜泣きする弟をおんぶ紐で背負ってヨシヨシとあやしていた記憶はあったので、赤ん坊を育てる大変さは覚悟していました。
しかし実際に自分が親になった時には予想以上に考えること、やることが多くて困惑する経験をすることになりました。
出産後に市町村の役場にたくさんの書類手続きをしなければいけなかったり、お祝いをしてくれた人たちにお返しを贈る手配をしなければ行かなかったり、さらには産後の負担で心身が不安定な母子のお世話を24時間気を配り続けなければいけません。
それは妻も母親として同じ、いや……それ以上に気を張って過ごしているのだと思います。
ましてや出産直後の女性はホルモンバランスが崩れているので、自分自身でコントロールが難しいくらいに心身が繊細な状態な場合があります。
だからこそ、ちょっとした周りの人たちの気遣いや励ましの気持ちをもらった時には普段なんでもない時には感じないくらいに私たち夫婦は感謝の気持ちでいっぱいになりました。
私たちが子育てを経験する前に、そんな大変な経験をしてきたママ達だからこそオムツケーキという素敵な出産祝いのギフトが発明されて広まってきたのだと思います。
そしてオムツケーキのすごいところは、飾り付けに使うものにバリエーションがつけられるので、他の人と同じものを贈ってしまう可能性を減らしてくれるところなのです。
これはお祝い品を贈る側からしても気をつけたいポイントなので大変助かります。
 
「へぇ、オムツケーキ自体は出産祝いのギフトでよく見かけるから知っていたけれども、そんなに考え抜かれたすごいものだったのね。ママ友達にもらった時にはとっても素敵なものをもらって嬉しかったけれども、貴方が調べてくれた話を聞いて、今度みんなにあったら改めてお礼を伝えたいなと思ったわ」
 
私が調べてきたオムツケーキの誕生背景をコズエに話すと彼女なりの新たな発見があったのか、もらったオムツケーキをじっと見つめていました。
 
「早くアカリちゃんが大きくなって、この素敵なお洋服が着られるようになると私も嬉しいな! あ、でもあんまり早く大きくなるのもなんだかママとしては寂しいかな……」
 
どうやらベッドでスヤスヤと眠るアカリが大きくなった時の姿を思い浮かべて切ない気持ちになっていたようです。私たち夫婦の子育てはまだまだ始まったばかりです。
思い出をたくさん形に残しておけば、あっという間に時が過ぎてしまっても、今感じているちょっぴり寂しい気持ちは、きっと素敵な思いに変わってくれるはずだと私はコズエに言葉をかけました。
オムツケーキを開封する前に思い出作りに、アカリが目覚めた時に一緒にスマホで写真を撮っておくことを夫婦で決めました。
 
自分が大切に思う人がとても素晴らしいことが起きた時に、どんなふうにお祝いしてあげたいですか?
お祝いの贈り物をする時には、相手が本当に喜んでくれるだろうか、迷惑に思われないだろうかとたくさん考えることがあって、大変な思いをすることがあるかと思います。
 
どんな贈り物も、たくさんの願いと真心を込めることで、ただの物が思い出深いギフトに変わってくれることをオムツケーキの贈り物が教えてくれました。
今度は私たちの周りで子どもが生まれた時には、もらった今日という日を思い出しながら、心を込めてオムツケーキを贈りたいと思います。
 
 
 
 
参考)出産祝いギフト販売の株式会社ベルビーべべ
https://bv-baby.jp/smp/list.php?type=class&group=19562

日本感染症学会 病院への花や観葉植物の持ち込みに関する質問
https://www.kansensho.or.jp/sisetunai/2005_10_pdf/14.pdf

□ライターズプロフィール
早藤武(LEADING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

1984年生まれ東京都出身、城西大学薬学部卒業。
北海道函館市在住の薬局薬剤師の会社員。
糖尿病治療へ行動経済学の視点からアプローチをする3☆ファーマシストの認定を持つ。
SDGsアウトサイドイン公認ファシリテーター。
カッコ可愛いを追究する紳士くじらを名乗り「紳士くじらのブログ」を運営。

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2023-08-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.227

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