週刊READING LIFE vol.229

睡眠が最高で最強の投資である件について《週刊READING LIFE 》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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2023/8/28/公開
記事:工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「あなたはよく眠れていますか?」
 
こう聞かれて、自信を持って「はい!」と答えられる日本人は結構少ないのではないだろうか?
 
私もその自信のない日本人のひとりだ。
 
若い頃から寝付きが悪いこともなく、徹夜など無理することもなく、睡眠という意味では平々凡々な人生だった。そのはずだが、やはり歳を取るとどうも疲れがしっかり取れていないような感じがして、どうにもすっきりしない日々が続いていた。
  
そんな時に書店で目に飛び込んできたのが、
 
『働く50代の快眠法則』
(角谷リョウ、フォレスト出版、2023)
 
だった。
 
表紙に書いてある
 
「50代のうちに睡眠改善しないと死亡リスク急増!」
 
という文字が心に突き刺さる。
 
「これはヤバい。実にヤバい、何とかしなくては」
 
そう思った私は即購入して、家に帰って読んでみた。睡眠の大切さはもちろんのこと、かなり実践しやすい対策がまとまっている本だった。
 
その後も、
 
『あなたの人生を変える睡眠の法則2.0』
(菅原洋平、自由国民社、2023)
 

 
『熟睡者』
(クリスティアン・ベネディクト、ミンナ・ベリエル、サンマーク出版、2023)
 
といった新刊タイトルがどんどん目に付く。やはり世の中睡眠に不安を抱えている人が多いのだろう。『熟睡者』によると、「日本の男女の週平均睡眠時間は一晩あたり約6時間35分。国際平均と比べて約45分短い」そうだ。
 
これではアカン。
こんなことではこれからの先行きが危ぶまれる。
 
そういう思いで睡眠に関する本を比較して、なぜ睡眠が大事なのか、またその睡眠を守るためには何をしたらよいか、など気が付いたことをまとめてみた。どれも科学的な裏付けがあるものだ。大学の研究者の本もあるし、実際に相談を受けてクライアントの悩み相談に乗る作業療法士やスリープコーチが書いた本もある。そういう意味ではまさに読書の醍醐味でいいとこ取りができるのではないか、と思っている。
 
最初に気が付いたのは、
 
「睡眠は自分の人生に対する最大の投資である」
 
ということだ。
 
質のよい睡眠を取るだけで、しっかり休息して回復できることは当然として、記憶力ばかりか創造性も刺激することができ、免疫力、ストレス耐性など健康にも大きく寄与するのだ。
 
ひとつひとつ見ていこう。
まずは記憶力についてだ。
 
みなさんは寝ている間に脳が覚えてくれるんだよ、と言われたら、どう思うだろうか? 寝たら記憶力がよくなるよ、と言われたら……
 
「そりゃ授業中に居眠りして睡眠学習するような話かい!」
 
と一笑に付してしまうかもしれない。だけど脳が睡眠中に記憶する、というのはどうやら本当の話らしい。
 
私たちの記憶には、短期記憶と長期記憶の二種類が存在する。短期記憶は最初に何らかの物事が脳に入ってきた時に最初に記憶される場所だが、あくまで一時的な保管場所で記憶としてはまだ固定化されていない状態だ。
 
この一時的な保管庫を「海馬」という。
我々の頭の中にはこのタツノオトシゴが横になったような形の部位が存在しているらしい。そしてそのタツノオトシゴが短期記憶を長期記憶へ送るかどうか決定しているというのだ。長期記憶は大脳皮質というこれまた別のところに保管される。
 
これはちょうどパソコンのシステムに似ている。
普段の作業はRAMというメモリ上で行っているけど、データの保存はちゃんとHDDにしておかないといけない、というその仕組みは人間の脳も同じだ。というより、パソコン自体の設計コンセプトが人間の脳のしくみの再現にあるわけだから、似ているのも当然だろう。
 
この長期記憶への転送作業が行われるのが、人が寝ている時。しかも特に眠りが深い時に行われるのだ、という。
 
こう考えると、徹夜で試験勉強をしても、覚えたつもりの事柄が頭に定着する訳もない。理想は数日前から勉強をスタートして、毎日よく睡眠を取って覚えたことを固着されるのが一番だ、ということになる。
 
コツコツ勉強、コツコツ習慣化、という方法は、よい睡眠と掛け合わせることによって、さらに強力な手段となるようだ。実に耳が痛い話でもある。
ちなみに授業中の居眠りでは眠りが深くないので、まず記憶が促進されることはないという。おまけに睡眠学習は、一度勉強したことの記憶を固定する効果はあっても、新規の事柄を覚えることはできないらしい。
 
あくまで、正統な努力に対して睡眠が報いてくれる、という感じだろうか。
 
さらに記憶には「手続き記憶」と呼ばれる体を動かして覚える記憶も存在する。スポーツやピアノなどの習い事、その他体を動かして覚えることはこちらの記憶になる。面白いことにこの記憶は、浅い睡眠の時に固定化される。先ほどの海馬は関与せず、主に運動を司る脳の部位で適切な神経の接合が行われ、記憶が固定化するという。
 
ただ寝ればいい、というものではない、というのもだんだん分かってきたと思う。
 
そして最後に創造性まで寝たら向上する、というのだから、驚きだ。
 
浅い睡眠、深い睡眠、と来たら、残る睡眠はレム睡眠。
レム睡眠のレムがそもそもRapid Eye Movement(休息眼球運動)の頭文字を取ってREMというのだから、眠りは浅く、しかも脳も活発に動いている状態だ。
 
朝起きる直前ぐらいに何だか変な夢を見ていたという覚えはないだろうか?
 
私はよくある。
しかも、昨日会った人とまったく面識のないはずの昔の友人が一緒になって出てきたり、となんだかとんでも話になっていることが多い。私の中学の時の友人に夢をよく覚えている人がいたが、その夢のハチャメチャなことといったら! どこからそんな話が生まれてくるのか、とても不思議に思ったものだ。
 
夢は潜在意識の表れである、とか、夢占いとか色々話はあるのだが、今回その支離滅裂な夢の謎も解けた。
 
先ほどから記憶を最初に引き受ける「海馬」という部位の話がでてきている。そう頭の中のタツノオトシゴだ。
 
このタツノオトシゴ、外界からの刺激を最初に受け入れる役割を担っているためか、オーケストラでいうところの指揮者、軍でいうところの最高司令官のような存在で、すべての記憶を統合する働きをしているところだ。
 
つまり、我々が深く眠っている時も浅く眠っている時も体は休めど、海馬はフル回転で作業をしている、という訳だ。
 
だが、その海馬もレム睡眠の時にはやっと休憩がもらえる。記憶を制御することをやめてしまう。そこで何が起こるかというと、色々な記憶が支離滅裂な形で現れるという状況、つまり我々が覚醒前に見ているような意味不明の夢、ということになる。
 
整合性はないのだけど、その分タガが外れているのか、何でも関係なさそうなところの記憶が一緒に存在したりするため、思いも寄らぬところから創造性が喚起される結果になることもあるようだ。
 
何か新しいことをやるときにアイディアがうまく出ない。そこで
 
「ひと晩温めてきます」
 
というのは実はかなり正解な行動となる。顕在意識で思いも寄らぬところから、天啓のごとく、新しいアイディアが生まれてくるかもしれない。それも寝ているうちに。
 
世界の有名なビジネスマンなど成功者と呼ばれる人達は、十分な時間の睡眠時間を取っているという。肉体的な休息のためではなく、創造性も眠ることによって高まるのだ、ということを経験的に知っているのかもしれない。
 
このように十分に眠ることで、記憶力に運動能力、それに創造性まで向上してしまうのだ。寝ることにお金は要らない。いや、正確にいうと多少よい寝具に投資する必要があるかもしれないが、それでもべらぼうに高価なマットレスなどが必要な訳ではない。
 
たとえば、最初に紹介した『働く50代の快眠法則』によると、寝る前に体をリセットする方法として、ストレッチポールの上でストレッチをすること、が載っていた。これはすぐできると思って私もポールは購入したが、数十万もするマットレスなどに比較するとそこまで大きな出費ということではない。
 
このように睡眠はお金をかけずに改善することが十分可能な投資なのだ。
 
読んだ本それぞれに睡眠改善の方法が書いてあったが、どの本にも共通しているのが、
 
「よい睡眠を得るにはよい覚醒が必要だ」
 
ということだった。朝、起床した時からその日の睡眠はもう始まっていると言える。
 
そこで何をするべきか。
 
朝から体操をする?
もちろん、朝運動をして体に適度な負荷をかけて覚醒することも大切だ。
 
しかし、もっとも手軽に実行できるのが、
 
「朝日を十分に浴びる」
 
ことだという。
 
なんと安価で手軽にできることだろうか。
安価どころか、日光を浴びることにお金は不要ではないか。
 
朝、目の網膜に光が入ることで、脳内にある体内時計の中の大元締め、マスタークロックと呼ばれるところが目を覚まし、身体中に「起きろ!」と指令を出すというのだ。その指令でいわゆる体内時計のリズムが整う。それにより、その日の夜の睡眠がより容易に確保できるのだ。
 
朝は太陽の光を浴びる。
朝の散歩の習慣には意味があったということか。
 
光を浴びるだけで、記憶力に運動能力、創造性を得ることができるなら、やらない手はない、そう思う。睡眠に困っているみなさま、まずは朝日を浴びてみませんか?
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
工藤洋子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

20年以上のキャリアを持つ日英同時通訳者。
本を読むことは昔から大好きでマンガから小説、実用書まで何でも読む乱読者。
食にも並々ならぬ興味と好奇心を持ち、日々食養理論に基づいた食事とおやつを家族に作っている。福岡県出身、大分県在住。

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2023-08-23 | Posted in 週刊READING LIFE vol.229

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