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週刊READING LIFE Vol,96

仕事に使える特選ツールは、尾崎だ。(《週刊READING LIFE「仕事に使える特選ツール」》


記事:長尾創真(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「聴いてください、『15の夜』」
 
9月11日、藤沢駅前。
ギター片手に、尾崎豊の歌を歌う、汗を流し、マイクに口をぶつけ、全力で熱唱する夢追い人を見た。
 
20歳の青年。黒のタンクトップに、色あせたダメージジーンズ。
細身で、タンクトップの袖からギターまで伸びる腕は、筋肉質だが、どこか頼りない。
髪は短髪で、ヨーロッパ系のハーフかと思うほどに端正な顔立ち。
 
そんな青年が、擦れた青色のギターを強く握って、叫んでいた。
駅が揺れて、歩道橋が揺れて、彼の後ろのネオン街はぼやけて見えた。
 
格好良かった。力強かった。
 
彼の背景は知らない。彼の夢も、これからの展望も知らない。
しかし、その歌声を聞くだけで、音色を聞くだけで、伝わってくる。
彼の覚悟、情熱、世の中への葛藤、抵抗。心臓に訴えかけてくる。
 
共鳴するように自分の鼓動も早くなり、思わず写真を撮っていた。
 
本気で、命を燃やして、歌を歌っている姿が格好良かった。
情熱をそのまま声に乗せて、ぶつけてくる。
 
その姿を、撮らなければ後悔する。絶対に後悔する。
なりふり構わず、写真を撮った。
 
このミュージシャンは、こんなにも、思いっきり人生を生きているんだ。
自分も生きないと。
恥ずかしがっている場合じゃない。彼にできる限り近づいて。
写真を撮った。少しでも自分が感じている感動を写真に収められるように。
 
そして、撮れば撮るほど、悔しくなってきた。
もっと、もっと、おれも頑張らないと。
 
こんなにも、全力で生きて。
こんなにも、全力で叫んでいる。
 
その人生に、憧れた。
 
写真を撮りながら、歌を聞きながら、自分の人生を省みた。
 
「おれは、格好良く生きれているだろうか」
「全力で生きているだろうか」
 
全力で、熱狂している人は格好良い。
誰から何と言われようと、自分の信じた道を、全力で生きている人は格好良い。
 
自分は、こう生きるんだと決めて、全力で生きている人は格好良い。
もう、それは、どうしようもない事実だ。
 
「おれは、格好良く生きれているだろうか」
 
彼の歌が進むたびに、頭の中に、問いが生まれる。
 
中学生のときのことを思い出した。
僕は「格好良いおじさん」になることが夢だった。
 
夢に向かって努力して
夢中になって走り回って
熱狂しながら生きている男になりたかった。
 
目が死んでいて
毎日疲れていて
ため息ばかりの人にはなりたくなかった。
 
「絶対に、おれは熱狂しながら生きるんだ」
 
と決めていた。
 
2013年の東北大震災のときに、僕は中学2年生だった。
その年に行われたサッカーのチャリティーマッチで、キングカズが、途中交代で点を決めていた。間違いなく、あの姿は、日本中に勇気を与えていた。
格好良かった。
 
あんな人になりたいと心から思った。
 
中学生、高校生の時は、サッカーで全国大会を目指した。
大学生のときは、ヨットで全国大会を目指した。
 
全力で生きた。
がむしゃらに、目の前のことに全力で、夢に向かって、全力で走った。
 
あのときの、自分は格好良かった。
美しいと思うほどに、格好良かった。
 
今、後輩たちを見ると、そう思うから。
後輩たちのように、きっと僕も格好良かったんだ。
 
なりふり構わず、目の前のことに全力で。
自分たちの信じた夢を。
一生懸命生きてたんだ。
 
だけど、どうだろう。
今の自分は。
 
会社で、疲れて。
人間関係で、疲れて。
給料がもらえるからと、なんとなく生きて。
 
デスクに付いて、何度も空のメールフォルダを開き、
メールに必要以上の時間をかけて、書いて。営業電話することを恐れて。
 
全く格好良くない。
嫌なら、楽しくなるようにチャレンジすればいいのに。
 
自分の一回きりの人生なのに。
全然、熱狂してない。
 
全然格好良くない。
むしろ、ダサい。
 
あんなに、格好いい人になりたいと思っていたのに。
今の自分は、言い訳と、理由づくりに時間を使って。
 
「自分のせいにすること大事」と周りの人に言っているのに、自分のせいにしきれていなくて。
なんだかんだ、言い訳して。
 
自分の人生の責任も取らず。
言い訳ばかりして。
 
こんな人になりたかったわけじゃないのに。
今のままじゃ、まずい。
 
絶対後悔する。
おれの人生なのに。
 
こんな甘い考えで、こんな妥協ばかりの人生で。
絶対、後悔する。
 
おれ、後悔したくないんだ。
そう。おれ、後悔したくないんだよ。
 
今の姿は、中学生の自分に見せられない。
 
もっと楽しくて
夢中で
辛い時があっても、夢に向かって走って。
 
夢を叶えるために、努力し続ける。
 
そんな人間になりたかった。
 
なのに。
 
おれは、何をしてるんだろう。
 
「先輩の愚痴を聞くのが嫌だ」
という愚痴をこぼし。
 
「もっと認めてほしい」
と傲慢なことを思い。
 
「文章を仕事にしたい」
と思いながら、そんなに文章を書くわけじゃない。
 
言い訳に言い訳を重ねて。
 
自分の熱狂したい心に蓋をして。
 
自分の気持ちに蓋をして。
 
「いつか転機がくる」と漠然とした期待を持って。
 
そんなものが来るはずもないのに、ただ毎日を生きてる。
 
そんな人生を生きたいわけじゃない。
 
自分の人生の舵を持って
自分の人生に覚悟を持って
 
あのストリートミュージシャンのように、全力で生きるんだ。
 
生きる。
生きるんだ。
 
本来、この文章は、「仕事に使える特選ツール」というテーマだ。
しかし、そのテーマを書こうと思っても、何も浮かばなかった。
 
仕事に使える特選ツールなんて、ない。
そんなものは、分からない。
まだ入社して、5ヶ月で、そんなものない。
 
だけど、もう、ただ、唯一必要だとわかるのは。
 
気持ち。
 
もう、気持ちだけだと思う。
 
熱狂して、仕事を愛して、人生の舵を自分で持って。
人生に覚悟を持って。
 
本気で生きること。その気持ちこそが、特選ツール。
変えることのできない、ツールだ。
 
それさえあれば、どんな仕事も感動を与える。
そう思う。
 
そう信じて、今日も生きる。
全力で、生きる。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
長尾創真(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

山口から上京し、ブランディングコンサル一年目。
高校までサッカー部。大学でヨット部。
ヨット部では4年時に主将として、全国5位入賞。
部活生ならではの熱い想いや、日常生活の葛藤を書くことが得意。

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2020-09-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,96

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