週刊READING LIFE Vol,96

故障は一人ではなかなかなおせない《週刊 READING LIFE vol,96 仕事に使える特選ツール》


記事:佐藤純平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「え? あれ? なにこの線? え? うそ‥…」
仕事をしていた。
いつも通り。
別に何か特別なことをしたわけではなく、本当にいつも通りに。
 
ライターの仕事をしている。パソコンに向かってカタカタ文章を打つ。それがぼくの仕事だ。
仕事に絶対必要なものがパソコンだ。
 
それなのに、パソコンが……。
パソコンの画面に線が入った。
なんやらよく知らんが、線が入った。
画面上の白色が黄色になった。
とにかく画面がおかしい。前の画面の残像みたいなものも残る。なんだ、なんなんだ、これは。おいおい、仕事がまだあるんだよ。
 
まぁ、落ち着こう。
パソコンのトラブルなんてなんやかんや再起動したらだいたい元に戻る。
原因なんてわからなくても、とりあえず再起動。
これでだいたい直る。
今回も直るだろう。たぶん。
 
作業中のものをとりあえずいったん保存して、閉じる。
よし、いざ、再起動!!
必殺技でも繰り出すかのような心持ちで、再起動をしてみる。必殺技なんか繰り出したことないけど。
さぁ、さぁさぁ、どうだ。
これまでに数々のトラブルを解決してきたこの再起動を前に、まだ残っていられるのか、変な線よ。もうお前に居場所はないのだよ。
パソコンが立ち上がる。
徐々に画面が明るくなる。
どうだ……
 
あー、やっぱりダメだ。なにこれ、なんなのこの線! もう怖い!! なに? 呪われたの?? 何日後かに寿命を迎えるの?? やめてよ。お願い。助けて。
 
ふー、まぁ、落ち着こう。
調べるのだ。調べたら思いもよらぬ簡単な方法で直ったりする。
ぼくがいつも愛用しているパソコン。ぼくの手で必ず直してあげるからね。
「パソコン 変な線 直す方法」で検索。
おー、出てくる出てくる。
いくつかページを開いてみてザッと読んでみる。
 
わからない!!
嘘だ。嘘でしょ。毎日使うパソコン。これがないと仕事にならんのだ。簡単な方法で直せないものか。うーん、困った。とりあえずパソコンは動く。とはいえ、画面が黄色い。前の画面の残像みたいなものも残る。そして、変な線もある。
このままでいいわけはないけれど、いったん放置して、切羽詰ってる仕事をやることにした。
 
パソコンが詳しい友人に聞いてみたら、たぶん使い過ぎらしい。
電源を落とさずに液晶をつけっぱなしにしてるのが原因で、どこかのパーツが消耗してしまったようだ。
それには心当たりがある。
毎日毎日、文章を書くために、パソコンを朝から晩まで立ち上げっぱなしだった。
電源なんか落とさずに、ずっとつけっぱなし。
パソコンにも休養が必要ということだろう。
なるほど。ごめんなさい。長時間労働させてしまって。
 
長時間使い過ぎてると故障してしまうパソコンと同じように、ぼくらも電源を落とす時間が必要なのかもしれないと思った。
でも、人間は電源を落とすことなんてできる? とふと疑問が浮かぶ。
当たり前だけど、人間は死ぬまでずっと生きている。
途中で電源は落とさずに生きている。
だからぼくらはずっと電源つけっぱなし状態。
いつかどこかが故障してしまうこともきっとあるのだろう。
故障をする前に、少しでもいいから自分のことをきちんとケアしてあげることを忘れてはダメだ。
 
シェアハウスに住んでいるときに、同じくライターの仕事をしている人がいた。
ぼくよりも6つほど年下で、大学を休学して、ライターの仕事をしていた。
真面目な性格で、任された仕事はとことんやるタイプ。
朝から晩までずっと仕事をしていた。
高校生ぐらいまでは陸上の長距離をやっていて、走ることが好きな人だった。
長距離走と同じようにその人は本当にずっと走り続けているイメージがあった。
朝から晩までやるのはもちろん、毎日毎日、休みも取らずに仕事をしていた。
 
「よくあんなに仕事ができるな」
その人を見ていて、正直そう思っていた。
ライターの仕事が好きなのかもしれないし、すごく楽しいのかもしれない。
それでも、朝から晩まで、それも毎日毎日やっていたら飽きるんじゃないか? と疑問に思ったこともある。
ぼくももちろん、朝から晩まで文章を書いている日もあるけれど、その人と比べると適度に休みはとっている方だったと思う。
一緒に住んでいたからかはわからないが、次第にぼくも影響を受けるようになっていた。
あの人があれだけやっているのだから、自分も休んでいてはいけないんではないか?
そんな気がしてならなかった。
そしてぼくも次第に休みを取らなくなっていった。
 
半年ぐらいシェアハウスでの生活をしたときのこと。
いつもと同じように起きて、諸々と準備をして、仕事をしようとしていたのだが、なぜかいつもより体がだるい。風邪っぽくもないし、熱があるわけでもない。
でも何かだるい感じがして、やる気が出なかった。
それでも頑張っている人がいるのだからと思って仕事をそのまますることにした。
不思議と仕事はいつもと同じようにできた。
 
シェアハウスだったこともあって、家には何人か人がいる。
ご飯の時間など一緒に食べるときはいつも話をしながら食べたりしていた。
でもいつもと違って、その日は人と話すことがすごく嫌だった。
話しかけられたくないという気持ちが強かった。
黙ってご飯を食べ、話しかけられても素っ気ない態度をとった。
別に誰かが嫌いなわけでもなかったが、とにかく話しかけられるのが嫌だった。
どうしてそんな風に思っていたのかはわからない。
でもとにかく嫌だった。
その不思議な症状はしばらく続いた。
体はだるい、けど、体調が悪いわけではない。
仕事はする、けど、人と話すことは嫌だった。
ほとんど口を効かずパソコンばかり見て、仕事をしていた。
 
そんなぼくのことを心配して、シェアハウスメンバーの一人が声をかけてくれた。
「大丈夫ですか? 最近元気ないですけど……」
「別に大丈夫です」
心配してくれてるのはわかっていたけれど、それでもやっぱり話しかけられるのが嫌だった。
「それならいいですけど……何かあれば言ってくださいね」
「ありがとうございます」
正直うるせーなと思っていた。
ほっといてくれと思っていた。
とにかく一人になりたかった。
 
時間が解決するかなと思っていたのだが、いつまで経ってもその症状は治らなかった。
それを見かねてかわからないが、別のシェアハウスメンバーがぼくに指摘してきた。
「いつまでもその態度はよくないと思うよ」
自分でもそう思っていた。
でもなにが原因かわからなかった。
だからその気持ちを正直に伝えてみようと思った。
「なんでかわからないけど、こういう態度しちゃうんですよね」
「なんでなんだろうね?」
その人はゆっくりと話を聞いてくれた。
話をしてるうちにスッと心が軽くなったような気がした。
何かはわからないけれど、しょうもないことに何かこだわっていたのかもしれない。
そう思った。
 
自分のことを自分でケアするのは難しいのかもしれない。
何か問題が起こったときに、それが起こっていることにそもそも気づけなかったり、どうして起こっているのかがわからなかったりする。
それをそのまま抱えたままにしてしまうと、きっと故障してしまうんだろう。
ひとつの解決策として挙げるなら、一人で抱えないということが言えると思う。
 
シェアハウスメンバーの一人に話をしたことで、ぼくは自分の現状を俯瞰してみれた気がする。
自分よりずっと年下の子が、仕事を必死に頑張っていて、それと比較して苦しんでいた。
自分より頑張っている人がいるのだからと、休みたいときに休まずに無理をしていた。
苦しんでる姿を見せたくなくて、ずっと我慢していた。
こういうものが積もり積もって、体はだるくなり、人と話すことを拒絶するようになっていた。
それに気づけたのは、自分の力ではなく、話を聞いてくれたシェアハウスメンバーのおかげだ。
 
パソコンもたぶんそう。
自分一人で解決しようとしてもたぶん無理だ。
ぼくの仕事にとってはなくてはならないものだから。
後日、お店に持って行こう。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤 純平(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

現在、Webライターとして活動中。進路指導の仕事3年ほどしていたら、進路に1番悩み始める。転職や副業を5年間色々試したが全て挫折。あきらめず挑戦し続けて、現在は独立。その経験をいかして人の悩み、迷い、葛藤に寄り添えるような文章が書きたい。2020年9月より天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティングを学んでいる。

この記事は、人生を変える天狼院「ライティング・ゼミ」の上級コース「ライターズ倶楽部」をご受講の方が書きました。 ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2020-09-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,96

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