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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第41章 心をも開く、オープンキッチンを喰らう《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


2024/1/22/公開
記事:ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
「オープンキッチンのあるレストランにいかない?」
なんていうセリフで誰かを誘い、ご飯を食べにいくことがあるだろうか。おそらく、よほどのこだわりがないと難しい。人がご飯を食べにいく時に、料理の味やお店の雰囲気、ロケーションなどは重要だけれども、オープンキッチンかどうかは話題のトップには上らないのではないかしら。
しかし、いざ伺った飲食店がオープンキッチンだと、なぜか食事の満足度が大きく変わることがあります。それはつまりその環境が、レストランでの食体験を大きく変えてしまうぐらいにインパクトがあるからです。
 
 

生まれ変わった京都最高峰の和食、祇園さゝ木


本連載の第一回でご紹介した祇園さゝ木さん、2023年に半年間の期間をかけてお店を大幅にリニューアル。これまでになかったオープンキッチンスタイルのお店が完成しました。
2009年にミシュラン二つ星を獲得、さらに2019年には三つ星を獲得と、グルメの国フランスの厳しい評価でも最高峰を獲得し、日本一予約が取れない店として、京都のみならず、日本の食文化を牽引している存在です。
 
これまでの店舗では、カウンター越しに一部調理しているところが見えるものの、料理の大部分は奥のキッチンで行われていました。それが通常は当たり前のことなので、それにはなにも違和感がなかったのですが、改めて調理工程の全てが見渡せるキッチンになると、ますます祇園さゝ木さんでの食体験が豊かになります。
 
オーナーである佐々木浩さん曰く、
「遠方から、会社を休んで、わざわざ時間を作って、今日もお客様がお見えになる。
お客様の「おいしい・・・、いや楽しい。」の言葉が、私が一番望む事であります。
お客様が楽しみ、そして、私ともどもスタッフ全員が楽しみながら料理を出し、店内が一体感のある時間と料理を今日も明日も提供し続けたい・・・それが、祇園 さゝ木。」
(引用:https://gionsasaki.com/)
 
かねてから、楽しく、スタッフともども一体感のある時間と料理を提供し続けたい、という思いは、まさに新生オープンキッチンと共にスケールアップすることとなりました。
 
「あの、日本一の名店の料理が、目の前で見ることができる」
 
そんなふうにワクワクしながら舌鼓をうつお客様で、連日相変わらず満員御礼が続いています。
 
料理が素晴らしく、またその工程が見えるところはもちろん嬉しいことなのですが、特筆すべきは大将、そしてスタッフたちのコミュニケーションの良さでした。
存在感あふれる、圧倒的なエネルギーを持つ大将、スタッフたちには厳しく愛ある指導をされていると伺っています。キッチンという、ある意味戦場のような場所で、どのようなコミュニケーションが大将とスタッフたちの間で行われているのか、また20代そこそこの若いスタッフたち、彼ら同志がどのような関係性を築いているのか、新しいお店ではそれが手に取るようにわかります。
 
なんと、みなさん、本当に楽しそうに、にこにことお仕事をされているのです。もちろん真剣にお仕事をされているのですが、その真剣な表情の中には悲壮感や疲労感、もしくは怠惰なエネルギーなどはまったくなく、ぴりっとした緊張感の上に、にこやかな笑顔があるのでした。兄弟子弟弟子との関係性でも、誰一人弛むことなく、ぴっと姿勢が伸びていて、それでいて、笑顔で厨房にたち、食材に向き合う。これは料理が美味しくならないはずがない、と、改めてさゝ木さんの凄さや奥深さを感じたのでした。
 
ミシュラン三つ星クラスですから、料理の味やサービスがいいのは当たり前。店のなかの整理整頓、清潔さももはや超一流で当たり前のレベルです。しかしそれでいてここでは、大将も、スタッフも、のびのびと仕事をしているのです。こういう場を作り出せるのはまさに師弟の信頼関係が強固なものであることを教えてくれます。
 
若いスタッフをたくさん抱えていたら、その中で一人や二人、不貞腐れてしまうような人も生まれます。人はどうしても他人と自分を比べてしまいますから、みんなの手仕事が見える環境のなかで、劣等感を感じてしまうスタッフがいてもおかしくはありません。
しかしここでは皆が、本当に楽しそうに料理をしています。まさに、オーナーである佐々木さんの想いがしっかりと浸透しきっているのでした。
 
今なおますます進化し続ける京料理の最高峰、さゝ木の今後がますます楽しみになります。
 
 

心が通うイタリアン、KNOCK


いつも満席でなかなか入れない、イタリアンの名店があります。その名はノック(正式名称:KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA)。東京は港区に4店舗を構えています。
 
イタリアンといえば、超高級からカジュアルまで、さまざまなレンジで楽しむことができる料理で、日本のみならず世界中から愛されている料理です。日本には数多くのイタリアンレストランがありますが、それらはイタリア人シェフをも唸らせる味とも言われ、日本のイタリア料理のレベルの高さが窺い知れます。
 
ここKNOCKはその中でも、カジュアルよりの気軽なレストランです。いつも満席なので活気があり、一度訪れると「また行きたい!」になるレストランの一つ。私も2年前に紹介してもらって以来、何度も通うようになりました。
 
通いたくなる理由、それは、料理が美味しいことはもちろんですが、それよりも特筆すべきはこの場所の居心地の良さと言えます。
 
ここには、血の通ったコミュニケーションがあります。
 
ときにレストランは、サービスがマニュアル化されているので、杓子定規のサービスとなり、丁寧なんだけどなんだか冷たい、そんな印象を受けることがあります。これはカジュアル店であろうとも、高級店であろうとも同じです。しかしそんななか、本当に人としての温かなコミュニケーションを感じられる場所が存在します。
 
例えば、お店に入った時にちょっとレジが混んでいるとしたら、さっと気づいて「少々お待ちくださいね」の一言がスムーズに言える、とか、注文したものが品切れの場合、「大変申し訳ございません」というセリフはもちろん、「その代わりと言ってはなんですが、今日仕入れたこちらも大変おすすめになってます」と、こちらの気持ちを汲み取った言葉をかけてくれる。こういうことが自然にできる人は、実はあまり多くはありません。
 
飲食店で、印象的なサービスというものがあります。
それはいかにお客様の心に響く対応ができるかどうか、です。
これは、そつがないサービスとか、間違ってないサービス、というのではなく、心からお客様に寄り添い、お客様の要望を掴んで、かつ、楽しませよう、喜んでもらおうという気持ちが溢れるサービスです。こういうサービスをするところは、絶対に繁盛するし、通いたくなります。
 
なぜなら、お客様が、自分のことを大切にされていると感じることができるからです。自分が大切にされることは誰でも心地よいものです。
お腹が空いて、どうせ何かを食べるなら、人は心地よい空間で食べたいものです。だからここ、ノックにはいつも人が集まります。
 
彼らのサービスの風通しの良さは、このオープンキッチンという環境が大きく影響しています(東京ミッドタウン店)。入り口を入ったところから全てが見渡せるオープンキッチンで、忙しそうに料理に勤しむスタッフが見えます。スタッフからも私たちが見えるし、またスタッフたちはお客様に気配りをしていることがよくわかります。
 
また、ノックの魅力はそれだけではありません。
実は知る人ぞのみ知る、裏メニューです。
メニューには乗っていない秘密の料理が実はたくさん存在しており、常連になればなるほど、秘密の料理が食べられるというシークレットな仕組みがあります。これもまた常連からすると、仲良くなればなるほど自分のことを大切にしてもらえていると感じられるサービスの一つ。それをノックが意図しているのかどうかはわかりませんが、それはさておき、ノックもさゝ木と同様、お客様を楽しませ、喜ばせようとしている様が、ありありと伝わってきます。
 
 

たった二人で切り盛りする北京ダックマニア


2024年にオープンしたばかりの虎ノ門ヒルズステーションタワー、4階のレストランフロアに登場したのはたった2名のスタッフで切り盛りするオープンキッチンスタイルの中華料理、北京ダックマニアです。その名の通り、メインは北京ダック。メニューの品数は多くなく、むしろ北京ダックを存分に楽しんでもらいたいというこだわりのお店です。
 
通常中華料理店でいただく北京ダックは、1枚の鴨の皮を野菜と共に餅(ピン)で包んで食べるもの。1個しか食べられない、とダック好きな人はもやもやするところです。ところがここでは一人前4切れのダックを、皮だけでなく身も一緒にいただくことができる本格的なチャイニーズスタイルなのです。
 
店の入り口にはドアが立ちはばかり、すぐにはその奥が店とはわからない造り。そしてそのドアを開けると右側一面がミラーになっていて、間違えたらそっち側に突進してしまいそうになります。
店内に入ると真ん中にどんと鎮座するオープンキッチン、そしてその周りを取り囲むカウンターに8席ほどのこじんまりした規模感で、アットホームを通り越して隠れ家感が漂います。
キッチンにはローストした鴨がぶら下がっており、見た目にもそそられます。料理はまず目から楽しむものではありますが、ここはまさに一瞬で、ビジュアルからダックの世界に引き込まれてしまいます。
 
2名のスタッフはキッチンの前後に位置して、カウンター側のスタッフが前菜類や鴨を調理しています。そして奥側のスタッフは鍋を降り、チャーハンを作りながら、それぞれにお客様を会話で楽しませてくれます。
 
ダックはもちろん美味しいのですが、特筆すべきはこの、チャーハン。卵とチャーシュー、ネギといった具のシンプルなものですが、シンプルなだけに直球の美味しさがガツンと届いてきます。「ダックの肉を使うこともできたんですが、そうすると余り物を使ったチャーハンだと感じられてしまうでしょ。だからやっぱり本格的に、豚を使いたかったんです」と、料理に対するただならぬ愛情を感じさせてくれるのでした。
「ダックのもも肉だと、スープに雑味が出るんですよね。だから胸肉のほうがいいんです」というように、ちょっとした小ネタを披露しながら、「肉を余らせたらもったいないので、あまりたくさん仕入れないようにしているんです」というフードロスへの配慮もさすが。さらに「余った肉は自分のお腹だけでいいですから」と、ちょっとナイスに出てきた下腹を撫でながら飛ばすジョークは小気味よく、味のこだわり、サービスのこだわり、その両方が気持ちよく溢れている店でした。
 
 

自分を大切にする食べ方を


「また行きたい」と感じさせてくれるお店は、そう多くはありません。日本の食文化はレベルが高く、本当に美味しいものが溢れていますから、ちょっとやそっと美味しいだけでは、もはや感動を産むことは難しいのかもしれません。しかしちょっとしたサービス、ちょっとした気遣い、ちょっとしたおもてなしの気持ちが、その料理に料理以上の価値を加えて、食べるという体験そのものの、奥行きを深めて豊かにしてくれます。
 
オープンキッチンは、その名の通り、全てがオープンな空間です。
キッチンの中が丸見えであるということは、余程の覚悟がないとできないもの。「本当に美味しい物を食べてもらいたい」という、料理を作る人が本来持ち合わせている料理することの源泉を、全力で表現しているのがこのスタイルのキッチンなのかもしれません、
 
嘘偽りなく、まっすぐな心で、料理に向き合い、サービスに向き合う。そういうプロの味を食べさせていただけることで、背筋が伸びるような気がします。
普段なんとなく食べることができるご飯。なんなら、食べないで過ごすこともあったり、ついつい「これでいっか」と手を抜いてしまうものでもありますが、やはりこうやって温かな想いが詰まった食事をいただくことは、人を最高に元気にしてくれます。
 
若いうちならジャンクだろうとなんだろうと、好きに食べたらいいけれど、さすがにそこそこの歳になったのだから、自分を大切にする食べ方をしたい。お腹だけでなく心も体も満たされる。そんな体験をすることこそ、生きる意味なのかもしれません。
 
自分も、オープンでありたいものです。
 
 
《第42章につづく》
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

READING LIFE編集部公認ライター、世界一やさしいSNS軍師、食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の創始者。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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