【第4回:甲斐・甲府】宝石のようなぶどうが実る登美の丘ワイナリーから、渓谷美の昇仙峡・信玄公が愛した湯村温泉へ(山梨県 甲斐市・甲府市)《本当は教えたくない 東京日帰りカメラ旅》
記事:小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)
「まるで、ビシューのようでしょう」
ビシュー。聞き覚えがあります。
フランス語で「宝石」のこと。
確かに、目の前のぶどうはたわわと実り、ひとつひとつの粒は輝く宝石のよう。
みずみずしいマスカット色のもの、グレープジュースのようなパステルパープルのもの、「黒ぶどう」の名のとおり黒褐色に熟しているもの……粒それぞれにも個性を見て取れるのが趣深く、全体の色合いとしても総じて美しい。
「ビジュー」と表現されたのは、我らがワインの先生、天狼院書店ワインゼミの講師であり、READING LIFE公認ライターの先輩でもある松尾英理子さん。
彼女の本職は、サントリーワインインターナショナル(株)国産ブランド部のリーダーさんです。
今回は松尾さんにご紹介いただき、山梨県甲斐市にあるサントリー登美の丘ワイナリーのぶどう畑へ、カメラマンとして伺う機会がありました。
サントリーワイン・ブランドアンバサダーであり、全日本最優秀ソムリエコンクール優勝、世界最優秀ソムリエコンクール準決勝進出などを果たし、いま日本でもっとも注目を浴びているソムリエのおひとり、岩田渉(いわた わたる)さんによる栽培活動、ぶどう収穫に同行撮影させていただいたのです。
ワイナリーで育てられているいく種類ものぶどうを間近で見せていただいたり、醸造所や貯蔵庫も見学させていただきました。
❏100年の歴史・先人の想いを受け継ぐ サントリー登美の丘ワイナリー
南の空に富士山を、眼下には甲府盆地をのぞむ登美の丘。甲府駅からタクシーで30分ほどの、小高い丘の上に広がるぶどう畑が、サントリー登美の丘ワイナリーです。
この日はとてもお天気が良く、気持ち良い青空の下ぶどうの木々がさんさんと陽の光を浴びる様子は、清々しささえ感じられます。
サントリー登美の丘ワイナリーのぶどう畑
この広大な畑で、多種にわたるぶどうが育てられています。
登美の丘ワイナリーの歴史は百年にも及ぶそうで、世界に誇る日本のワインをつくりたいという先人の想いが今に受け継がれ、たゆまぬ努力と研究が続けられています。
収穫のタイミングを決めるために、ぶどうの成熟度合を見るサンプリング活動
ソムリエの岩田さん(左)と、ぶどう畑を案内してくださった登美の丘ワイナリー栽培担当 和田さん(右)
実は私、ワイン用のぶどうを見るのはこれが初めてです。
皆さんにとっても日本でワイン用のぶどうを見る機会は、なかなかないのではないでしょうか。
ご存知でしたか? ワイン用のぶどうは、売っている食用のぶどうよりもひとまわり小さいんです。
ぶどう粒の大きさは、マスカットよりもひとまわりもふたまわりも小さい
ワイン用ぶどうの果実もワインの味のようにタンニンの渋みがしたり、すっきり辛口の味わいなのかと思っていましたがそうではありませんでした。許可をいただいて少し摘んで口にしてみましたが、とても甘い。その甘さは食用ぶどう以上です。
また、同じ房のぶどうであってもそのひと粒ひと粒にも個性があるのだとか。粒の大きいもの、小さいもの、赤紫色のもの、マスカット色のもの。確かに、目の前のぶどうたちには「個性」という言葉がぴったりで、いろいろな「個」がある。愛着さえ湧いて来てしまいます。
そして、たくさんのぶどう品種の中から今回見せてくださったぶどうたちも、見た目も味わいも全然違っていました。マスカットのようにみずみずしい味わい、スパイシーでワイルドな味わい、濃厚で円熟味のある味わい、などなど。
ここでいくつかご紹介。
シャルドネ
メルロー
リースリングイタリコ
色づき始めたカベルネソーヴィニヨン
岩田さんは、リースリングフォルテを収穫されました。
リースリングフォルテ
他にも、聞いたこともないような品種のぶどうも。どのぶどうが日本の気候に適してよく育つか、また最近のワインのトレンドなども踏まえて研究や試作を重ねているそうです。
素人の私など、ついつい大きいぶどう粒にばかり目が行ってしまいますが、食してみたところ、大きい粒は水分がたくさん含まれている分糖度は下がります。小さければ小さいほど水分が少なく味が凝縮されて、より甘いのです。
ぶどうを摘んでひと粒食すごとに味わいの違いをしっかりとキャッチし端的に表現される岩田さん。さすが世界に通ずるソムリエさんです。ソムリエ歴3年で日本一に、そしてアジア・オセアニアの最優秀ソムリエ選手権でも優勝、世界選手権でも準決勝進出という実力者なのです。
収穫を終え笑顔の岩田さん
午前中はこのように広大な畑をめぐり様々な種類のぶどうを見せていただきましたが、午後は貯蔵庫、醸造棟を見せていただきました。
収穫したぶどうは破砕され、発酵タンクで発酵されます。発酵とは、ぶどうの糖分を酵母の働きでアルコールに変えること。
発酵を経てぶどうのジュースはワインになります。発酵期間は、およそ10日から20日間。
白ワインの場合は、ぶどうを破砕→圧搾機で果皮や種子を取り除く→発酵、
赤ワインの場合は、ぶどうを破砕→発酵→圧搾機で果皮や種子を取り除く、の過程を経たのちに貯蔵庫で貯蔵されます。
貯蔵庫は、重厚な扉で守られています。
貯蔵庫
この扉の奥の、さらに重厚な扉を開けて最初に目にしたのが、幾重にも並べられている樽。まさに樽熟成の最中です。
樽熟庫で樽熟成の最中
樽熟庫入り口
樽熟成されたワインを瓶に移し寝かせておくことで味がよりまろやかに
瓶熟庫入り口
さらに棟の奥へと歩みを進めます。
ほの暗い灯の中、熟成に適切な温度が保たれ、年代物のワインが銘柄別、ビンテージ別に並べられています。
重厚な雰囲気。銘柄別ビンテージ別に保管されている
そして貯蔵庫の出口を華やかに飾っていたのは、サントリーワインを代表するワインたち。
貯蔵庫の最後には、サントリーの代表的なワインが美しく並べられています
たっぷりとワイナリー初体験を堪能させていただきましたが、ぶどうの奥深さを肌で知ることができました。
「ワインは人間と同じ」と松尾さんがかつて言っていましたが、本当にその通り、ぶどうはそれぞれに個性豊かで様々な顔を持ち、たくさん手をかけ愛情を注がれて育ちます。それほどに丹精込めて育てられたぶどうから醸造されたワインが、人々を魅了しないはずがありません。
私もここ最近で随分とワインを愛飲するようになりましたが、今回ぶどうが様々に手をつくされ生育している様子を拝見して、いよいよワインに対する愛情が増しました。
登美の丘ワイナリー内にもお土産ショップがあるのですが、甲府駅内にも同じ品揃えを誇るお土産ショップがあるというので、今回はそちらをのぞいて見ることに。
甲府の駅ビルの2階にあるので、電車やバスの待ち時間に立ち寄るのにちょうど良いです。
本当に結構な品揃えです。都内でもここまで国産ワインを揃えているところ、そうそうないのではないでしょうか。
先ほどぶどう畑で見たぶどうが使われているんだと思うと、愛着もひとしおです。
甲府駅ビル「セレオ甲府」2階の「ワインセラー」でもサントリーワインのお土産を購入することができます
登美の丘ワイナリー見学だけで十分に堪能、満足したのでこれで帰京することもできますが……
ここ甲斐・甲府エリアには、国の特別名勝にも指定され「日本一の渓谷美」と称される観光名所、昇仙峡があります。そして1200年前に弘法大師が開湯し、武田信玄が湯治をおこなったことで知られる湯村温泉があります。どちらも甲府駅からバスが出ていて交通の便がいい。午後1時を回って大分時間も押し迫ってはいますが、行けないことはありません。
少しだけでもその様子を見て見たい。お湯を味わって見たい。やはりどちらも立ち寄ることにしました。
❏日本一の渓谷美、勇ましく雄大な景色の昇仙峡
甲府駅バスターミナルから山梨交通バスに乗り30分ほどで、昇仙峡口バス停へ到着します。
昇仙峡は、先ほどもお伝えしたとおり国の特別名勝にも指定されており、「日本一の渓谷美」と言われる観光名所です。長い年月をかけて削り取られたかこう岩の断崖が勇ましく雄々しく、また形が動物や植物に似ていることからその名を名付けられた奇岩・奇石が連続して並んでいます。それらを見つけながら、渓谷沿いの散策を楽しむことができるんです。
昇仙峡口バス停から徒歩数分の長澤橋から、遊歩道が始まります。
昇仙峡案内図。オレンジ色の道路が遊歩道
遊歩道で見上げると、新緑の美しいかえでの葉が。秋の紅葉もさぞ綺麗だろう
清流と岩と緑の渓谷美
清流の音とマイナスイオンの空気に包まれながら、約2時間たっぷりと散策しました。
動物や植物に例えられた岩は、散策ルートの前半に多く現れます。本当にそのように見えてきて、よく思いついたものだなと感心してしまいます。その中から少しだけここでご紹介。
亀石
オットセイ岩
松茸石
散策の後半は、見上げるほどに大きく切り立った断崖が連続する、雄々しい景色に変わって行きます。ゴツゴツとして力強く、雄大で男前な景色とも言いましょうか。
寒山拾得岩
覚円峰(左)と天狗岩(右)
そして遊歩道散策の最後に仙娥滝が。
仙娥滝は日本の滝百選にも名を連ねる、高さが30メートルにもなる滝です。
水量が豊富で、激しく水しぶきを上げながら水が落ちていく様子はやはり雄々しく、こちらも男前な滝です。
仙娥滝
仙娥滝横の階段を上がり滝上のエリアに到着すると、食堂やお土産屋さんが並んでいます。そこを通り過ぎると間も無く、帰りのバスが発車する昇仙峡滝上バス停があります。
毎回のことですが、ここに来るまでに立ち止まったりシャッターを切ったりと景色を満喫したので、発車時刻ギリギリで最終バスに乗り込みました。
でも日帰り旅はまだ終わりません。
このバスの沿線に、湯村温泉があるのです。もちろん途中下車して立ち寄りました。
❏信玄公の湯治、昭和の文豪の宿としても知られる湯村温泉
湯村温泉は、前述したように1200年前に弘法大師が開湯しました。武田信玄が湯治に利用し、葛飾北斎の「勝景奇覧 甲州湯村」に描かれました。さらに昭和の文豪太宰治や井伏鱒二、松本清張らの執筆の宿となったことでも知られています。
今回お世話になった温泉は「湯村ホテルB&B」さんです。
「湯村温泉入口」バス停から徒歩5分以内とアクセスも良いですし、何と言っても源泉掛け流しの露天風呂を有するところが大変魅力的です。
男女合わせて6つの湯があるということですが、その全てが先代が掘り当てたという自家源泉掛け流しの新鮮なお湯。飲用出来る温泉もあるということです。
飲湯源泉(写真は湯村ホテルB&B様 提供)
お湯は全て源泉掛け流しです(写真は湯村ホテルB&B様 提供)
「源泉かけ流し」とは、つまり加温・加水・循環などによる温度調節を一切行っていないということ。湯温は43度と少し熱めですが、お湯につかったり出たりを繰り返して体温調節していれば問題になりません。むしろ露天風呂で43度くらいは私にとってちょうどいい湯加減。
「ナトリウム・カルシウム−塩化物・硫酸塩泉」という、弱アルカリ性のお湯は、肌にかけるとツルッと滑るようななめらかさです。
露天風呂の「若返りしびれの湯」は、風呂の中に弱い電極板があり痛い箇所や疲れている箇所にあてると刺激され楽になるのだとか。私も入りましたが、少しピリッとくる刺激に最初は驚きましたが次第に気持ち良くなり、やみつきになりそうでした。
露天風呂「若返りしびれの湯」(写真は湯村ホテルB&B様 提供)
帰りのバスの時間までは1時間くらいあったので、今回はじっくりゆっくりお湯を楽しみ、久しぶりにサウナも入りました。サウナの中はうだるように暑いのに、なぜか毎回クセになりますね。
湯村温泉から甲府駅行きのバスは本数も多く、21時過ぎまでバスが走っています。10分ほどで甲府駅に到着し、その後無事に中央線特急あずさ号に乗車し、帰京しました。
❏登美の丘ワイナリーでは土日祝日にツアーが行われています
山梨エリアがぶどうの産地であることはよく知らせていますが、国内各地で栽培・醸造を手がけるワイナリーが増えてきているそうです。国産ワインはこれからますます美味しく、ますます身近になって行くことでしょう。
今回訪問した登美の丘ワイナリーでは、土日祝日に3種類の見学ツアーが行われています。
詳細はこちら
ぶどう畑の様子、醸造所、樽熟庫、瓶熟庫が見学できます。また、ワイナリーショップにはテイスティングコーナーがあり、いつも複数の種類のワインの飲み比べができます。
みなさんも、日本におけるワイン造りの様子とその味を体感しに登美の丘ワイナリーへ、その後昇仙峡、湯村温泉へと足を運んでみてはいかがでしょうか。
《今回のルートマップ》
(Google Map より)
新宿駅 7:00発
| JR中央本線特急あずさ1号 松本行き
甲府駅 8:27着
① 甲府駅 8:30
| タクシー 30分
② サントリー登美の丘ワイナリー 9:00−13:45
| タクシー 30分
① 甲府駅(バスターミナル) 14:15−14:45
(③ ワインセラー(ワインのお土産 セレオ甲府2F)14:30−14:40)
| 山梨交通バス 29分
④ 昇仙峡口バス停 15:14
⑤ 昇仙峡(昇仙峡口バス停から昇仙峡滝上バス停の間)15:14−17:32
⑥ 昇仙峡滝上バス停 17:32
| 山梨交通バス 37分
⑦ 湯村温泉入り口バス停 18:09
| 徒歩 5分
⑧ 湯村ホテルB&B (源泉かけ流しの露天風呂) 18:14−19:35
| 徒歩 5分
⑦ 湯村温泉入り口バス停 19:43
| 山梨交通バス 10分
① 甲府駅 19:53
甲府駅 20:04発
| JR中央本線特急かいじ24号 新宿行
新宿駅 21:37着
《東京日帰りカメラ旅のルール》
その1
旅の目的地は、東京から日帰りで行って帰ってこられる場所に限る
その2
移動手段は電車、バスなどの公共交通機関、施設などの無料送迎で。タクシーは最終手段。
その3
東京では決して見られない非日常な景色と非日常な体験(温泉含む)、その地ならではの食を愉しむ
参考文献:
サントリー登美の丘ワイナリーホームページ
昇仙峡観光協会
甲府湯村温泉公式ホームページ
湯村ホテルB&B (温泉)
❏ライタープロフィール
小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)
東京都生まれ。幼少の頃、母の故郷である三島(静岡県)が大好きで、毎年のように母の生家を訪れていた。しかし戦前から長い間守られて来た母の生家が、昨年家主を失いついに壊されてしまった。この事をきっかけに、幼少の頃からの大切な思い出がたくさん詰まった三島の存在が、筆者にとっていかに大きかったかをあらためて気づかされる。昔ながらの三島の良さ、近年さらに盛り上がりを見せる三島の魅力について撮りたい、書きたい願望を持つようになる。
さらに、三島のように魅力的な街でありながら、旅行ガイドで詳細に紹介されていない非日常な場所のことも知りたいと思うようになる。東京から日帰りできる景色のいい所ならどこへでも飛んでいき、非日常を満喫して日常生活の栄養にしている。2017年8月よりイベント撮影カメラマン。
2018年4月より天狼院書店でライティングゼミの受講を始める。
以降、プロフェッショナルゼミ、ライターズ倶楽部に所属し、撮って書けるライターを目指すようになる。
2018年11月、天狼院フォトグランプリ準優勝。
2019年6月よりREADING LIFE公認ライター。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
http://tenro-in.com/zemi/97290
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