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東京日帰りカメラ旅

【第6回:湯河原・幕山梅林】紅白の“梅じゅうたん”と相模湾をのぞむ景色に出会える幕山・南郷山ハイキング (神奈川県 湯河原町)《本当は教えたくない 東京日帰りカメラ旅》


記事:小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)

 

 

 

「おお、想像以上だね! すごいよ……」
 
Sちゃんと私は、目の前の梅の園に圧倒されていました。
 
2月下旬、神奈川県・湯河原町の幕山では、4000本もの梅が満開の見頃を迎え、山のふもとの幕山公園一帯で、紅梅・白梅が“梅のじゅうたん”のごとく咲き誇っている。雲ひとつない青空をバックに紅白がひときわ映えています。
 
「普段私たちが見慣れているものにひとつひとつ感激してくれて、連れてきた甲斐があるわぁ!」
 
地元民のMちゃんは言います。
 
そうです。Mちゃんに幕山界隈を案内してもらっているSちゃんと私は、先ほどから感激しきりなのです。
だって、私たちにとっては普段ではないものばかりで溢れているから。
 
Mちゃん、Sちゃん、私の3人は、共通の趣味である登山をきっかけに知り合い、これまでにも何度か山を登ってきた仲です。
今回は、Mちゃんの住む湯河原の幕山に見応えのある梅林があると聞き、登山も兼ねて案内してもらうことにしました。
 
桜を見るために出かけたことはこれまでに幾度となくあるけれど、梅を見るために出かけるのは人生で初めてです。梅の木は、近所の通り道でたまたま数本見かけるものだと思っていました。
こんなに広大な梅林、みたことありません!
真っ青な空と幕山のふもと、これほど多くの梅の花が紅白入り混じって咲き誇る様子は、本当に圧巻です。
桜の上品な“桜色”も大好きですが、白い梅花とビビッドなピンクの梅花が重なりあう様子にもとても魅かれます。ほんのりと淡く優しい春を思わせる桜とはまた違って、鮮やかな紅白の梅に心もビビッドにはずみ、新鮮で元気をもらえるような気持ちになれます。
 
Sちゃんと私は幕山に向かうまでの道のりでも、
道端に生い茂るあしたばやふきのとうに感動し、
民家の庭先にたわわとなっているみかんの見事っぷりに声をあげ、
そこかしこでいちいち立ち止まってはカメラのシャッターを切っていました。
 
歩道には梅だけでなく桜や椿の木も点在し、見渡せば雄大な山々に囲まれている。こんなに自然に恵まれ景観の素晴らしい街で暮らす毎日はどんなものだろう、と羨ましくなります。
 

道端に生い茂るあしたば
 
 

ふき(ふきのとう)。春を感じさせます。
 
 

梅のとなりにみかんの木
 
 

雄大な山がすぐ目の前に。
 
 
幕山に到着するとすぐ、ふもとの幕山公園で“梅じゅうたん”状態の梅林が出迎えてくれます。
 

幕山公園に着くなり満開の梅じゅうたんがお出迎え
 
 
見頃のこの時期は、公園内に出店が出ていたり、イベントが催されたりしていました。
 

たくさんの出店が。後方で桜も咲いています。
 
 

いろいろな種類のみかん
 
 

初めて聞く名前のものも。
 
 
さすがは湘南地域、大小、色もさまざまなみかんがいく種類も並んでいます。とっても美味しそう!
みかん好きとしてはこの機会にぜひとも買って帰りたかったけれど、このみかんも背負ってこれから幕山山頂へ登るのはきついので、泣く泣くあきらめ写真におさめるにとどめました(泣)。
 
その代わり、名物の梅ソフトを買って味わいました。
ほんのりとした梅味さわやかなソフトクリームです。
 

梅ソフト、300円
 
 
いよいよ梅林の中へ入っていきます。
Mちゃん曰く、「いつもの数倍の人出」で賑わう中、譲り合って梅を背景に石碑前で写真を撮ったり、枝垂れる梅柳に手を添えて愛でたり。
 
間近で見る梅は、桜よりも小ぶりで丸い花びらが愛らしい。一つの枝に対する花のつき具合は桜のそれよりも間隔があいていて、花と花のすき間から空を仰げるのです。
特に、今日この日この晴天の空の色と言ったら、今までに見たことがないくらい深くて澄んだ紺碧色をしています。
この空をバックに紅白の梅の色の織り成しを写真におさめられたこと、本当に嬉しく思います。あとから何度も見返したい写真になりそうです。
 

心なしか枝がたわんでハートの形にみえます
 
 

青空の下、紅白の梅が気持ち良さそうに枝を広げています
 
 


 
しかも、お気づきでしょうか。上の写真の梅の木、なんと一つの木に紅梅と白梅の両方をつけているのです! とても神秘的で、自然のなせる業ってすごいとあらためて感心してしまいます。
 
幕山を登り始めてからも、ふもとから続く梅林はしばらく続きます。
 

登山道でも梅が満開です
 
 
目の前の梅花をじっくり観察したり、遠くの梅景色を俯瞰で眺めたりと、梅を堪能しながら歩いていると、梅並木の向こうに巨大な岩肌、そしてそこにロープを引っ掛けて登っていく人たちの姿が。
 

ロッククライミングの定番スポット、幕岩
 
 
後で調べると、ここは「幕岩」と言うロッククライミングの人気の場所なんだそう。
垂直な岩肌を、ロープのみを頼りに数十メートルにわたって登っています。
ルート数は370と豊富にあるそうですが、梅も見頃で晴天のこの日は、待ち行列ができるほどロッククライマーが集まっていました。
 
登り進めるにつれて梅林よりも高いところに行くわけですが、梅林全体を見下ろして眺められるのもまた素敵です。
 

幕山の梅林最高地点。ここから先はもう梅はありません。
 
 

梅林最高地点からふもとの梅林を見下ろす。
 
 
梅林最高地点を超えたら、あとは幕山山頂に向かってひたすら登ります。
 
幕山の標高は626m。スカイツリーと同じ高さを登ると思うと高いように思えますが、登山で626mは低山の部類で、しかも私のような登山を始めて一年そこそこの初級者でも困難を感じることなく登れる、ハイキングコースに近い山と言えるのではないかと個人的には思います。
 
梅林を見終えて同じようにそのまま幕山頂上へ向かう人たちで、登りの道は行列して時に渋滞するほど、この日はたくさんの人出がありました。
通常だと登山口(幕山公園)から1時間半もあれば山頂に到着しますが、
10時半ごろ登り始めた私たちは、梅林を存分に楽しみゆったりペースで登ったこともあり、幕山頂上に到着したのは2時間半後、13時をまわった頃でした。
 
お昼時の山頂は昼食休憩の人たちでいっぱいです。
そんな中、この日に同じく幕山へ梅鑑賞&登山に来ていた、知り合いの山仲間の一行に偶然出会いました!
せっかくなので、山頂の標識とともに集合写真を撮って差し上げました。私たち3人も満喫していましたが、13人で来たというグループのみんなも相当にぎやかで楽しそうでした。
 
私はこれまで全く知らなかったけれど、登山者たちの間では幕山の梅林はよく知られているのでしょうね。
 
私たちもここでお昼休憩を取りました。
山頂に茶屋や売店があるわけではないので、お昼はそれぞれ持参したものをいただきました。
私は山専用ボトルにいれてきた熱々のお湯で、カップヌードルとドリップパックのコーヒーを。ありふれたものでも、山頂でいただくと格別の美味しさです!
特に寒い冬の登山ならなおさら。温かい食べものは冷えた体を芯から温めてくれて、とてつもなくありがたく美味しく思えるのです。
いずれは携帯用ガスバーナーを持参し山頂でお料理して、その場でアツアツを食べるのが夢です。
 
お昼をいただき、3人で女子トーク(内容はナイショ)を繰り広げたりして1時間ほどの休憩を取ったあと、Mちゃんが計画してくれた南郷山(613m)を経由して下るルートへ向かって出発しました。
 
ここからはほぼ登ることはなく、生い茂る草やぶの中の山道や林道をひたすら進んでいきました。
すると、先頭を歩いていたMちゃんが小さな池の前で立ち止まりました。
 
「あらら、今日は水が濁っているわ。こないだはとても澄んでいたのに」
 
そこには、高木の隙間から射す太陽の光が反射して木々の連なりが水面に映る、何やら神々しささえ感じられる池が。
確かに水は土の色で濁っていたけれど、特別なオーラを感じる池です。
 

木々が水面に映った神々しい池
 
 

自艦水(自害水)看板
 
 
池の前には看板が立っていて、「自艦水(自害水)」と書いてあります。自害水って?!
 
「石鎚山の合戦に敗れた頼朝が敗走してたどり着いたこの池で、池の水を鏡に見立て、自分のやつれた姿を見て自害を決心したんだけれど、
水面に映る自らの姿を見て再び思いとどまり、髪を結い直して気持ちを新たに奮起したそうよ」
 
Mちゃんがそう教えてくれました。看板にも同じ内容が刻まれています。
 
本当に歴史上のあの人物、源頼朝がここでこの水面を見て髪を結い直し、エネルギーを得たのでしょうか。840年もの昔に源頼朝が立った場所に私たちがいると思うと、なんとも不思議な感覚に陥ります。
ファンタジーのようで現実味がありませんが、歴史はおとぎ話なんかではなく、その時代の人が生きた証なのだとも思えました。
 
自艦水の場所からさらに歩くこと20分、視界がひらけ、山の向こうに相模湾、そして小田原方面の街も見えました。南郷山山頂(613m)に到着です。
 

南郷山山頂から小田原方面。
 
 
山頂からさらに数百メートル進んだところの見晴らしの良い場所で立ち止まり、Sちゃんが絶景の正体を確認するべく携帯アプリで場所を特定しています。Mちゃんが詳しく教えてくれました。
 

写真左側、海にうっすらと小さく浮かぶ島が初島。右側奥の陸地は熱海や伊東だそう
 
 

遠くに見える陸地を特定するSちゃんとMちゃん。後方には真鶴半島が。当たり前ですが地図の形そのままです
 
 
山からこんなに間近に海を望めるのも、湯河原の山ならではです。梅も海の眺めも楽しめる贅沢欲張りな登山、なかなかありません。
見頃のこの日に晴れてくれて、こんなに素晴らしい景色に出会えて、感謝しかありません。こういう出会いがあるから、私は登山に惹かれるようになったんだろうなと、心底そう思います。
 
その後無事下山し、街路へ出ました。
帰りの道中でも桜の木々にたくさんのメジロが花と戯れている様子を見ることができました。
メジロを間近で見るのは初めて、もちろん写真におさめるのも初めてで、これまた嬉しい出来事となりました。
 

メジロと桜。人生初でメジロ&桜を撮れました
 
 
この日の最後は、日帰り旅の恒例ともなっている温泉へ。
湯河原は温泉街なので、選ぶのに困るほど温泉がたくさんあります。
今回は、湯河原の勝手知ったるMちゃんオススメの「こごめの湯」を訪れました。
 

こごめの湯入り口
 
 
Mちゃん家のいつもの流儀に習い、到着するとすぐに温泉ではなく、まずは休憩室へ直行して場所を確保しました。
 

休憩室。お湯に入る前に場所を確保します
 
 
そこでおしゃべりしながらゆっくりして、合間に何度となく温泉につかりにいくパターン。
 
日帰り旅では大抵帰りの電車の関係で、素晴らしい温泉でもカラスの行水のように短くしなければならないことが多いのですが……
今回はルートや行く場所などを勝手知ったる方に全ておまかせできたし、何より湯河原の交通の便が良く、神奈川県内という近さもあって、安心してゆっくりまったり、温泉も満喫することができました。
 
【こごめの湯 泉質・効能】 ※こごめの湯ホームページより
泉質:ナトリウム・カルシウム 塩化物・硫酸塩泉
源泉:60〜90度
効能:リュウマチ性疾患・運動障害・創傷・慢性湿疹・更年期障害・痛風・高血圧症 他
 

露天風呂(写真はこごめの湯ホームページより)
 
 
心おきなくゆっくりしたのちにこごめの湯を後にして、湯河原駅に到着したのが19時になろうとしている頃。それでも帰宅してから遅めの夕食を家で食べることが出来ました。

 

 

 

私がこれまでしてきた「日帰り旅」の良さは、日帰りできる可能な限りの遠出をして、普段目にすることのない景色に出会う事でした。
「これは人は誘えないな」っていうくらい遠い場所でも、その日のうちに帰って来られるなら、ひとり絶景を追い求めてどこまでも行くことができます。
それほど日本の各地には訪れたい場所がいくつもあって、その空間にいる幸せを、この空気をこの想いを何とかして写真に込めようと必死にトライする時間は、何ものにも代えられない至福の時間です。
 
けれどここ最近、趣味で知り合った友達が増えてからというもの、複数人で近場の名所を訪れる事が多くなりました。
 
今回の幕山・湯河原梅林のように日帰りで気軽に訪問できる場所にも、これまで見たこともなかった素晴らしい景色があるし、気心知れた仲間とおしゃべりしながら楽しみを共有できる。ひとりでは行動にうつせない事でも、誰かと一緒なら実現できる事だってあります。
 
「今日は楽しかったね、ありがとう」
 
「また行こうね。本当に楽しかった」
 
こんな風に言いあって1日を終えられることもまた、日帰り旅の良さなんだと、あらためて気づかされました。
 
また行こうね—
 
 
湯河原には今回の幕山、南郷山の他にも、富士山を望める岩戸山、パワースポット巡りの城山、紅葉が美しい天照山など、低山のハイキングコースがいくつもあるそう。
季節に応じて様々な自然の姿を見せてくれる湯河原で、また気軽に女子日帰り旅をできる日が楽しみです。
 
 
《今回のルートマップ》
 
・幕山登山ルートマップ
 

(ヤマプラhttps://www.yamareco.com/yamapla/より)
 
 
・湯河原広域マップ


(Google map より)
 
品川駅 7:51発
| JR東海道線 各駅停車 熱海行き 93分(17駅)
湯河原駅 9:24着
 
① 湯河原駅 9:30
| バス18分(13駅)
② 幕山公園(出店・梅ソフト)9:48−10:25
| 徒歩10分
⑤ 幕山登山口(梅林)  10:35−11:15
| 上り徒歩1時間40分
⑥ 幕山(626m)   12:55−13:55
| 徒歩20分
⑦ 自艦水 14:15-14:20
| 徒歩 20分
⑧ 南郷山(613m) 14:40-14:45
| 下り徒歩 1時間2 0分
③ 鍛冶屋バス停 16:05−16:16
| バス 12分(9駅)
① 湯河原駅(バス乗り換え) 16:28−16:45
| バス 10分(12駅)
④ 公園入口バス停(⇄180m・徒歩5分)こごめの湯 17:00−18:30
| バス 16分(12駅)
① 湯河原駅 18:51
 
湯河原駅 18:58発
| JR東海道線 各駅停車 黒磯行き 1時間40分(17駅)
品川駅 20:38着
 

《東京日帰りカメラ旅のルール》
その1
旅の目的地は、東京から日帰りで行って帰ってこられる場所に限る
その2
移動手段は電車、バスなどの公共交通機関、施設などの無料送迎で。タクシーは最終手段。
その3
東京では決して見られない非日常な景色と非日常な体験(温泉含む)、その地ならではの食を愉しむ

参考文献:
湯河原町ホームページ 梅の宴
湯河原温泉公式観光サイト
湯河原温泉 こごめの湯 
 
❏ライタープロフィール
小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)
東京都生まれ。

幼少の頃、母の故郷である三島(静岡県)が大好きで、毎年のように母の生家を訪れていた。しかし戦前から長い間守られて来た母の生家が、昨年家主を失いついに壊されてしまった。この事をきっかけに、幼少の頃からの大切な思い出がたくさん詰まった三島の存在が、筆者にとっていかに大きかったかをあらためて気づかされる。昔ながらの三島の良さ、近年さらに盛り上がりを見せる三島の魅力について撮りたい、書きたい願望を持つようになる。
さらに、三島のように魅力的な街でありながら、旅行ガイドで詳細に紹介されていない非日常な場所のことも知りたいと思うようになる。東京から日帰りできる景色のいい所ならどこへでも飛んでいき、非日常を満喫して日常生活の栄養にしている。

2017年8月よりイベント撮影カメラマン。
2018年4月より天狼院書店でライティングゼミの受講を始める。
以降、プロフェッショナルゼミ、ライターズ倶楽部に所属し、撮って書けるライターを目指すようになる。
2018年11月、天狼院フォトグランプリ準優勝。
2019年6月よりREADING LIFE公認ライター。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

【6月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜


2020-03-03 | Posted in 東京日帰りカメラ旅

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