【第2回:大井川鐵道】 “今しか見られない” 夢のつり橋から、アプト式列車に乗って湖上の駅へ 大井川鐵道(静岡県)《本当は教えたくない 東京日帰りカメラ旅》
記事:小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)
ここは静岡県、南アルプスの、秘境中の秘境。
この地に、湖上に浮かぶ駅があるのをご存知ですか?
湖上に浮かぶ駅
湖上の小さな島の上に、確かに駅が存在しています
幾重もの山々に囲まれ、深い青緑色の湖に朱色の鉄橋が渡っているさまが壮大で美しく、その鉄橋上を列車が走る姿を想像するだけでもワクワクします。
しかも、こんな幻想的な場所に駅があるなんて、驚きです。
湖のど真ん中を列車が通り、湖上の駅に停車する事があるなんて、東京では想像もできません。
この駅は、静岡県を走る大井川鐵道井川線、通称「南アルプスあぷとライン」にあり、接岨湖(せっそこ)の湖上にたつ「奥大井湖上駅(おくおおいこじょうえき)」と言います。
実は私、この駅のことを、訪れた当日まで知りませんでした。
今回の日帰り旅の計画当初は行程になかった場所で、旅をしている真っ最中にこの駅の存在を知ったのです。(そのことについては後ほど詳述しますね)
奥大井湖上駅に来るまでにも、南アルプスあぷとラインはたくさんの絶景をもたらせてくれました。
奥大井湖上駅からの景色
泉大橋(奥泉駅近く)
アプト式列車で急勾配を上る
長島ダム(長島ダム駅)
大井川の先に奥大井湖上駅が見えてくる
恋愛のパワースポットとしても知られる奥大井湖上駅
奥大井湖上駅にはこんな看板も
大井川鐵道には、静岡県の島田市にある金谷駅から、同じく静岡県の榛原郡川根本町にある千頭駅を結ぶ大井川鐵道大井川本線と、千頭駅からさらに北上して静岡市葵区の井川駅まで走る井川線、通称「南アルプスあぷとライン」があります。
Google Mapsより
静岡県内を走る大井川鐵道
大正時代の創立当初は、大井川上流部の電源開発と森林資源輸送のための列車でした。
昭和に入り金谷 – 千頭間が全通すると人の足として利用されるようになり、その後、中部電力所有の専用軌道を移管して井川線を運行開始、さらには全国でいち早くSLの運行を開始するなどして、観光列車へと変遷していきました。
「きかんしゃトーマス」が走っていることで大井川鐵道をご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。この日も千頭駅で「トーマスフェア」が開催されていて、緑色のパーシーと黒色のヒロに会う事ができました。
「きかんしゃトーマス」のキャラクター、パーシー(左)とヒロ(右)
実は今回の日帰りカメラ旅では、初めての大井川鐵道を楽しむことの他に、とある場所へ行くことをとても楽しみにしていました。そこでの絶景をどうしてもこの目で見たくて、東京からの日帰り旅を決行することにしたのです。
でもそこには、実際に行ってこの目で見ないと知り得ない、自然がもたらした姿がありました。
その地とは、エメラルドグリーンの水面に浮かぶ吊り橋が「夢のつり橋」として知られている、「寸又峡」です。
寸又峡の夢のつり橋の存在を、何人かの友人知人のSNS投稿写真を見て昨年初めて知りました。
その写真では、それはそれは美しいミルキーブルーの水面の上を、「これぞ吊り橋!」といった感じの木製の吊り橋が、細い細いワイヤーで吊られていたのです。
森の奥深い秘境に架けられたその心もとなさそうな吊り橋に、なぜか私はとても惹きつけられました。高所恐怖症で吊り橋が大の苦手なはずなのに、この地に実際に行ってこの絶景を堪能し、吊り橋を渡ってみたくなってしまったのです。
初めてSNSで夢のつり橋の写真を目にしたのが約1年前。その時は行きたい!と思っても、そんな山の奥地に車で行く自信のない私がどうやって行けるのか、調べても分かりませんでした。
それでもあきらめず、時折思い出してはあらゆる方法で調べて行くうちに、寸又峡まで電車とバスで行けることを突き止めました。それで今回の日帰り旅が可能となったわけです。
家を7時前に出発し、新幹線ひかり号で静岡駅についたのが8:03。静岡駅から東海道本線で金谷駅に到着したのが、8:51です。静岡県、意外と近いと思いませんか?
金谷駅から、ついに大井川鐵道本線に初乗車です!
SL機関車やトーマス号の運行がない平日だったので、全国の鉄道から譲り受けた電車を使っているという大井川鐵道本線の通常列車に乗車です。とてもレトロで、子供の頃に乗っていた列車を思い出させる懐かしさです。
大井川鐵道本線の普通列車。元は近鉄の特急列車だったそう。
車内。子供の頃こういう列車に乗ったな、と懐かしくなります
年季の入った駅看板
道中、幾つもの川、幾つもの鉄橋を渡り、所要時間75分ほどで終点の千頭駅に到着。千頭駅からは大鉄バス寸又峡線を利用して、45分ほどバスに揺られて「寸又峡温泉第3駐車場」で下車しました。
もう「夢のつり橋」は目前、ついに寸又峡に到着です!
寸又峡の看板
さっそくイラストマップにしたがって、夢のつり橋を渡るコースを散策することにしました。
赤点線のルートで散策することに
昼食を取れそうなお店もいくつか並んでいます。今回はあらかじめ訪問するお店を決めていますが、まずは夢のつり橋を楽しんでから。東京日帰りカメラ旅おきまりの、その地ならではの食や体験(温泉)は、絶景を楽しんだ後のお楽しみにします。
ここで、東京日帰りカメラ旅のルールをおさらい。
<<東京日帰りカメラ旅のルール>>
その1
旅の目的地は、東京から日帰りで行って帰ってこられる場所に限る
その2
移動手段は電車、バスなどの公共交通機関、施設などの無料送迎で。タクシーは最終手段。
その3
東京では決して見られない非日常な景色と非日常な体験(温泉含む)、その地ならではの食を愉しむ
イラストマップの「現在地」から夢のつり橋まで、写真を撮ったり周囲の景色を眺めたりしながら30分ほど歩いてようやく夢のつり橋の入り口にたどり着きました。
実は、大井川鐵道に乗車している時から、不思議に感じている事がありました。
いくつもの鉄橋があり、いくつもの川を渡ってここまで来ましたが、どうも水が澄んでいない。夢のつり橋の写真で見たようなミルキーブルーではなく、どう見てもグレー色。クレイ(粘土)の色とでもいうのでしょうか。
きっと上流に上って行くにつれて、写真のようなミルキーブルーの澄んだ水になって行くのだろうと思っていましたが、夢のつり橋入り口のこの場所になっても……
やはりグレーの水面なのです。
あれ、おかしいな。1年前に写真で見たようなブルーの水はどこへ行ってしまったのか。目の前に見えている橋が夢のつり橋のはずなのに。
本当にここがあの夢のつり橋なのだろうか?
疑念を抱きつつ、つり橋入り口の急な階段を下り、橋の目の前までやってきました。
そこで見たのは、写真通りの木製の吊り橋。けれど、写真で見たのとは明らかに違うグレーの水面でした。
写真で見たいたとおりの、細くて心細そうな橋。
ミルキーブルーではないグレーの水面
がっかりしなかったと言えば嘘になります。写真を見て一目惚れして、あれだけ憧れてやっとこの地に辿りついたのに、あの幻想的なミルキーブルーの水面を目にする事が出来なかったのですから。
でも、逆転の発想で考えたら、このグレーの水面にかかる夢のつり橋はずっと続く訳はありません。今しか見られないのです。もうこんなこと、この先ないかもしれない。そう考えたら、目の前のこの景色を見られることが、貴重な体験のように思えてきます。
吊り橋はと言えば、写真のまんま。細い細いワイヤーで吊られて、木製で、なんとも幅のせまい事! スリル満点で高所恐怖症の克服に一役買いそうな吊り橋です。こわいけど、渡らない手はないでしょう!
ご覧のとおり、せまいし、木製だし、とても負荷に耐えられそうな橋ではありません。
同時に橋を渡れる人数は10人までと決まっています。
木の板2枚を渡らせた橋の幅は、両足を並べたときの幅ほどしかありません。
いざ、橋に足をかけます。つり橋最大の恐怖ポイント、橋から下がまる見えです……
しかも歩みを進めるたびに揺れます。いやはや、本格的に怖くてせまくて揺れる吊り橋です!
でも、よく見たら高度はそれほどでもないし、気合を入れれば渡れなくもありません。
以前の私なら、渡らず即座に引き返していたと思います。でも絶景を求めて出かけた先で、吊り橋に遭遇することは結構あります。もしかすると、渡り慣れてきたかも知れません。このつり橋からの景色をレポートしなければ! という責任感も大きいと思います。
この夢のつり橋も、景色を眺めて撮ったりしながら、気づけばスルスルと渡り切ることが出来ていました。以前の私からは考えられない大進歩です!
吊り橋ひとつでも渡れるようになったことが嬉しい。出来なかったことが出来るようになるって、とても嬉しいことです。
夢のつり橋からの景色
無事渡り切って、つり橋を振り返る。綺麗です。
夢のつり橋の看板
橋を渡った直後には、急な坂が続きます。
高いところから見た夢のつり橋。自然の中に溶け込んでいます。水面の色が違ったとしても、雄大でとても良い景色です。
その後散策ルートに沿って展望台まで上り、飛龍橋を経由して夢のつり橋入り口まで戻りました。
飛龍橋から夢のつり橋入り口まで戻る途中。夢のつり橋が遠くに見えました
森の中にかかる飛龍橋
散策コースをひとまわりして、夢のつり橋入り口に戻ってきました。
夢のつり橋まで戻ってきました
さて、次のお楽しみ、昼食と温泉へ。
今回は、「手造りの店 さとう」さんで昼食をいただくことにしました。
「手造りの店 さとう」さん
「手造り」を感じさせる、温かみある店構えです
「山菜珍味」
「寸又峡名物 はらこめし」
「珍味 鹿刺し」
「そば うどん」
「おでん わらび餅 しるこ」
何でもありそうです。
独特の字体で書かれたそれらの食べ物、どれも魅力的で全部食べたいくらい。
その中から、わさびの葉、茎、根まで全部使ったというわさびそばと、東京ではいただく機会の少ない鹿刺しを注文しました。
今回の昼食は、わさびそばと鹿刺し
お料理が来てしばらく、ああでもないこうでもないと写真を撮り続けていると、
「随分大きなカメラね」
と声をかけてくれたのは、このお店の奥さま。
「そうなんです。早く食べたいけれど、お料理の写真を撮りたくて。実は私、東京の書店でライターをしていまして。お店とお料理の写真を掲載してもいいですか?」
「あら、そうなの。いいわよ」
前回の上高地に続き、今回も昼食のお店で掲載依頼をします。もう毎回お決まりのセリフになりつつあります。日帰りカメラ旅ではこのセリフをきっかけにして、地元の方との交流も楽しめるんだと気づきました。
大好きなわさびの茎と葉がたっぷり。ゴマも好きです。白黒でたっぷり乗っかっています。
根、茎、葉、まるごとわさびを使ったわさびそば
ツンとしたわさびの味が、茎と葉からもしっかりします。冷たいそばと一緒につゆをよく絡ませて口へ運ぶと、口の中から暑さがクールダウンされていく感じ。やっぱりそばにはわさび。美味しい! ここまで暑い中歩いて来たけれど、暑さや疲れが吹き飛びます。
肉の赤い色が美しい、鹿刺し
一方、この赤い肉の色がいかにも美味しそうな鹿刺し。もしかすると、生の鹿肉を口にするのは初めてかもしれません。こちらはおろし生姜で。
生姜も大好きです。いわゆる「薬味」が好きなんです。そばでも生肉でも、薬味があるとないとでは大違いですよね。薬味って素晴らしい。日本の食は本当に豊かです。
そして肝心の鹿刺しは見た目通り新鮮で、ひと噛みごとに肉のエキスが滲み出てくるよう。元気が出てきます。
どちらも大変美味しくいただきました。ご馳走様でした。
さて美味しくいただいて会計を済ませたところで、お店のご主人にもご挨拶させていただきました。
「すみません、ご主人のお写真も掲載していいですか?」
「いいけど、ちゃんと事務所通してる? 闇営業じゃない?」
この日帰り旅をした7月下旬。芸人さん2人が闇営業問題や事務所との見解の相違で記者会見を開いた直後で、世間はその話題で持ちきりの頃でした。お笑い好きの陽気なご主人さまです!
「手造りの店 さとう」店主 佐藤 重治さん
そしてお店には、エメラルドグリーンの水面に浮かぶ、夢のつり橋の写真が。
お店を出る間際に、奥様に聞いてみました。
「今日の夢のつり橋は、この写真とは違って水がグレーでした。どうしてですか?」
「昨年夏(2018年)の台風25号の影響で、この辺の川の水が濁った色になってしまって。寸又川の上流の方が被害にあって、その土砂が流れ込んで来たのかしらね。以来ずっと、あの色のままよ。自然には逆らえないから、こればっかりは仕方ないわね」
そうだったのか。
だから、夢のつり橋だけでなく、大井川鐵道でここまでくる間にいくつも見た水流は全て、このグレーの色だったのか。あれらの川も、その前は澄んだ水の色をしていたのだろうか。
それにしても、夢のつり橋が今そんなことになっているなんて知らなかった。インターネットで見つけたどの写真もどの情報も、あのエメラルドグリーンの川の上に渡された夢のつり橋の写真ばかりだった。
現状を伝える写真も文章も見当たらなかった。
でもこれこそが、その地へ実際に行って、この目で見て肌で味わい初めて知りえることこそが、旅の醍醐味と言えるだろう。
実は食事をしている間に、ある考えが浮かんできました。
寸又峡周辺で時間を過ごして帰途につくつもりだったけれど、寸又峡よりもさらに奥へ、南アルプスあぷとラインのアプト式列車に乗って行ってみようか。
奥さまに再度聞いてみました。
「先ほど調べたら、大井川鐵道では寸又峡のほかにも湖上の駅が有名だそうですけど、あちらの方もグレーの水なのでしょうか?」
「ああ、あちらの方は大丈夫かも知れないわ。綺麗だから行ってみるといいわよ」
この機会にアプト式列車にも是非乗ってみたかった。でもそこまで足を伸ばすのは日帰りでは難しいだろうと、今回はあきらめていました。
でも自然のもたらす姿を知っただけではなく、やはりこの地ならではの美しい水をこの目で見たかった。そのためにはもっと奥へ行かなくては。
食事の後は、ここから歩いて数分の町営温泉、「美女づくりの湯」を堪能して帰るつもりだったけれど、温泉を堪能する時間を短くすれば、寸又峡からバス、南アルプスあぷとラインと乗り継いだ先に、「奥大井湖上駅」という、寸又峡と並ぶ二大観光スポットのもう一箇所へ行って帰ってこられることも確認が取れた。これはもう行くしかない!
「記事が出来上がったら、送ってね!」
奥様にそう言っていただき、住所の書かれたメモを手にお店を後にしました。
足早に「美女づくりの湯」へ。数分で到着しました。
町営なので、入浴料は400円。ありがたいです。
美女づくりの湯 女湯入り口
美女づくりの湯 女湯(出典:寸又峡温泉観光ガイド 寸又峡ほっとステーション)
時間は短かったけれど、しっかりとお湯を味わって来ました。
これがまた、びっくりするほどいいお湯なんです!
夏だけれど、熱すぎずぬるすぎず、本当に絶妙な湯加減。
私好みにヌルッとした感触の硫黄温泉で、いかにも効き目がありそうなお湯。色は透明です。
【町営 美女づくりの湯 泉質・効能】
泉 質: 単純硫黄
泉 温: 43.7度(泉温=摂氏43度)
性 状: ほとんど無色透明の弱硫化水素 水素イオン濃度=P.H8.9(比色法)
効能浴用: 慢性関節リウマチ・慢性筋肉リウマチ
神経痛・神経炎・陳旧性梅毒または変性梅毒殊にせきずい癖・慢性金属中毒性(慢性水銀中毒または慢性鉛中毒症等)・糖尿病・慢性皮膚病・慢性婦人科疾患(慢性子宮まく炎)・創傷
(出典:寸又峡温泉観光ガイド 寸又峡ほっとステーション)
「ここのお湯は、本当にいいお湯ねぇ〜」
「そうですね〜」
とゆるりと語り合っている女性客の会話に入っていきたい気持ちを抑えて風呂から上がり、ささっと身支度をしてバス停へ急ぎます。
急遽予定を変更して奥大井湖上駅へと向かうことにしましたが、バスも列車も、一本逃すともう湖上駅へは行けません(帰りの列車がなくなってしまうから)。
寸又峡からバスで奥泉駅前下車、奥泉駅からいよいよ、南アルプスあぷとラインへ乗車です!
南アルプスあぷとアプトライン(撮影場所は奥大井湖上駅)
アプト式とは、カール・ロマン・アプトさんが発明した、急勾配を上るための鉄道システム(ラック鉄道)の一種です。現在はスイスの観光鉄道が世界的にも有名ですが、日本でこのアプト式列車に乗ることができるのは、この大井川鐵道の南アルプスあぷとラインだけなんです。
2本のレールの真ん中に歯車レール(ラックレール)を敷き、それにアプト式電気機関車の床下に設けられた坂道専用の歯車(ラックホイールピニオン)を噛み合わせ、急こう配の線路を登り降りします。
ラックレール (出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/アプト式)
ラックレールとピニオン(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/アプト式)
南アルプスあぷとラインでは、アプトいちしろ駅から長島ダム駅の間が、日本の鉄道路線では最も急な勾配となっています。この区間で坂を上り下りするため、列車にアプト式機関車を連結させて運転します。
乗車した奥泉駅の次の駅がアプトいちしろ駅。ここで、アプト式機関車がやって来ました。
アプト式機関車
アプト式機関車が連結!
アプト式機関車が最後尾から列車を押し上げ、90パーミル(1000m走る間に90m上る)という急勾配を走ります。
急勾配の線路を、アプト式機関車が列車を押し上げて走ります
次の駅の長島ダム駅へ到着。ここでアプト式機関車のお役目は終わり、また切り離されて行きます。
アプト式機関車が切り離されて行ってしまいました
長島ダム駅、ひらんだ駅と過ぎ、大井川を渡った先は、いよいよ奥大井湖上駅です。景色もさらに良くなって行きます!
湖の上の駅についに到着。
駅が建っているこの橋を「レインボーブリッジ」と言います。
命名は、東京お台場のレインボーブリッジよりも先なんだそう。
このレインボーブリッジと駅を撮影できるスポットがあると言います。もちろんそこへも行く気満々。車掌さんが行き方を教えてくれました。
「線路と並行した歩道を歩いていくと坂を登る階段がありますから、階段を登りきって、そのあとは案内にしたがって進んでください。片道20分くらいで行けます。次の千頭行きは16:36。これが最終列車ですから、間に合うように戻ってきてくださいね」
駅に到着したのが15:48。千頭行き最終列車まで48分しかありません。片道20分だったら往復40分なわけで、撮影スポット滞在時間は10分もありません。
万が一最終列車を逃すことになってしまったら……と思うと、奥大井湖上駅に来られただけで満足することにしようか、という気持ちも少しよぎりました。でも5分もあれば写真を撮るのには十分。やっぱり行かない手はないでしょう!
撮影ポイントまでは、まずは線路となりの歩道を歩きます
線路の隣を歩くなんて、なかなかない経験です。
そしてなんと言っても湖の上の橋を渡っているわけなので、スリル満点なのは吊り橋と一緒です。結構な高度がある橋なので、真下をみるとこわいです!
線路と並行した歩道を渡りきると、今度は急な階段です。
最終列車を逃すわけにはいかないので、ゼイゼイ言いながら階段を登り続けます。もう汗だく、必死です!
そんな必死の甲斐あって、20分と言われていたところを10分ちょっとで撮影ポイントに到着する事ができました(笑)。
そして撮影ポイントから撮った奥大井湖上駅とレインボーブリッジの写真がこちら。
撮影ポイントからの、奥大井湖上駅とレインボーブリッジ
おや、そういえば。
ここ、奥大井湖上駅周辺は、たしかに湖の水が青い。
夢のつり橋や大井川鐵道で目にしていたグレーの水の流れは、どこを境に色が変わったのか。あぷとラインに乗車していたときは、初めてみる景色全体に気を取られていていつの間にか青くなっていた。これは帰りに確認しなくては。
やっぱり、青い湖面に朱色の橋がよく映える。美しい。これが駅だなんて信じられない、現実離れしている。旅ならではの景色だなあ。
当日思い立った行動だったけれど、寸又峡からなんとかバスと電車を乗り継いでここまで来られて、この景色にも出逢えてよかった。予測できなかったことが起きてドキドキワクワクするのも、旅の醍醐味ですね。
写真を撮ったら、また急ぎ足で駅に戻ります。急いだおかげで最終列車発車時刻に20分も余裕を持って駅に戻る事ができました。なので、しばし駅とその周辺を歩いてみることに。
あいあい傘に、ハート型のベンチ!
「風の忘れもの」と刻まれた鐘
「恋鍵」をかけて、恋愛成就を祈願します
「奥大井恋錠駅」
駅のホームには、何やらあいあい傘や、ハート型の鍵がいっぱいかかったスポットが。
そして、駅名をもじって、「恋がかなう駅。奥大井恋錠(こじょう)駅」なる
看板も。
どうやらこの奥大井湖上駅は、恋愛のパワースポットのようです。
恋愛の聖地だそうです!
こんな山奥の秘境の地で鐘を鳴らし、鍵をかけて恋愛成就を祈願するなんてロマンティックですね!
無事に最終列車にも乗車する事ができ、この絶景ともお別れです。
帰りの列車には、一部トロッコ車両がつながれていました。もちろんそちらに乗車です。
トロッコ列車(長島ダム駅で撮影)
窓もなく開放的なトロッコ列車から、今日はこれで見納めとなる景色を名残惜しい気持ちで眺めていました。
青緑色の水もこれで見納め
再び長島ダム駅で繋がれたアプト式機関車が、アプトいちしろ駅までの急勾配の坂を下っていきます
長島ダムも圧巻でした。
旅も終わりに近づいて、ちょっと気持ちをゆるりとさせながら景色をぼんやり眺めていたところに、はたと気づきました。
水の色、長島ダムを境に変わっている!
大井湖上駅を出た直後の大井川(長島ダムへ着く前)
長島ダムを過ぎた後の大井川
地図で見ると、こういうことです↓
(GoogleMapsより)
長島ダムを境に、水の色が変わった。
夢のつり橋がかかる寸又川は、大井川と合流している。
(GoogleMapsより)
寸又川から合流した大井川の流れが、長島ダムでせき止められたか
なるほど、夢のつり橋のある寸又峡を流れる寸又川や、寸又川と合流する大井川のあたりではグレーの水流だったけれど、その流れが長島ダムでせき止めている。だから、長島ダムから先の大井川では、青い水を保てているのだろうか。
という事は、今回は訪問できなかったけれど、おそらく奥大井湖上駅よりも先の井川方面でも、青い川の流れを楽しむ事ができたのだろう。
予想外のことはあったけれど、旅を無事に最後まで楽しめて良かった。予想外でも見方を変えて臨機応変に対応したら、予想していなかった楽しみが生まれる。さらにそこで発見があったり、自然の中に生かされていることを再認識したりと、学びの多い旅となりました。
でもやっぱり、あのミルキーブルーの湖面にかかる夢のつり橋を見に、また必ず訪れたいです。そして、絶妙な湯加減だった「美女づくりの湯」も再訪したい。手作りの店さとうさんで、たくさんあって今回は選べなかった他のメニューを堪能したい。
早くて来年の、雪解け水の豊富な5月あたりか、梅雨明けで水量豊富な7月あたりの晴れの日でしょうか。
でも本当にそれがいつになるのかは、自然のなす事なので誰にもわかりません。
寸又峡のさとうさんに聞いて、湖面が青に戻ったあかつきにはすぐに戻ってきたいと思います。
(今回のルートマップ)
・大井川鐵道観光スポットルート(寸又峡・奥大井湖上駅)
(GoogleMapsより)
① 寸又峡第三駐車場バス停 11:14-11:20
② 夢のつり橋 11:50-12:02
③ 飛龍橋 12:28-12:33
④ 夢のつり橋入口 12:45-12:46
⑤ 手造りの店 さとう(昼食) 13:00-13:25
⑥ 町営 美女づくりの湯 13:30-13:45
① 寸又峡第三駐車場バス停 13:57-14:02
⑦ 奥泉駅 14:30-15:13
⑧ アプトいちしろ駅 15:23-15:27
⑨ 長島ダム駅 15:35-15:40
⑩ 奥大井湖上駅 15:48-15:49
(11)奥大井撮影スポット 16:02-16:07
(12) 奥大井湖上駅 16:24-16:36
・東京都内−寸又峡(夢のつり橋)ルート(往路)
(GoogleMapsより)
品川駅 7:10発
| 東海道新幹線ひかり461号 岡山行
静岡駅 8:03着 8:18発
| 東海道本線 各停 浜松行
金谷駅 8:51着 9:01発
| 大井川鐵道大井川本線 千頭行
千頭駅 10:14着 10:30発
| 大鉄バス 寸又峡線
寸又峡温泉第三駐車場 11:13着
・奥大井湖上駅−東京都内ルート(帰路)
(GoogleMapsより)
奥大井湖上駅 16:36発
| 南アルプスあぷとライン 千頭行
千頭駅 17:38着 18:28発
| 大井川鐵道大井川本線 金谷行
金谷駅 19:39着 19:59発
| 東海道本線 各停 熱海行
静岡駅 20:31着 20:39発
| 東海道新幹線 ひかり480号 東京行
品川駅 21:33着
参考文献
・大井川鐵道ホームページ http://oigawa-railway.co.jp/
・寸又峡温泉観光ガイド 寸又峡ほっとステーション http://sumatakyo-spa.com/spa/
・川根本町ホームページ 観光情報http://www.town.kawanehon.shizuoka.jp/kanko/index.html
・ウィキペディア「アプト式」 https://ja.wikipedia.org/wiki/アプト式
❏ライタープロフィール
小倉 秀子(READING LIFE公認ライター)
東京都生まれ。幼少の頃、母の故郷である三島(静岡県)が大好きで、毎年のように母の生家を訪れていた。しかし戦前から長い間守られて来た母の生家が、昨年家主を失いついに壊されてしまった。この事をきっかけに、幼少の頃からの大切な思い出がたくさん詰まった三島の存在が、筆者にとっていかに大きかったかをあらためて気づかされる。昔ながらの三島の良さ、近年さらに盛り上がりを見せる三島の魅力について撮りたい、書きたい願望を持つようになる。
さらに、三島のように魅力的な街でありながら、旅行ガイドで詳細に紹介されていない非日常な場所のことも知りたいと思うようになる。東京から日帰りできる景色のいい所ならどこへでも飛んでいき、非日常を満喫して日常生活の栄養にしている。2017年8月よりイベント撮影カメラマン。
2018年4月より天狼院書店でライティングゼミの受講を始める。
以降、プロフェッショナルゼミ、ライターズ倶楽部に所属し、撮って書けるライターを目指すようになる。
2018年11月、天狼院フォトグランプリ準優勝。
2019年6月よりREADING LIFE公認ライター。
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
http://tenro-in.com/zemi/82065
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