週刊READING LIFE vol.7

良い朝と「鮒ずし」の関係性は《週刊READING LIFE vol.7「よい朝の迎え方」》


記事:鈴木則子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

ピピピピッピピピピッ
目覚ましのアラームが、起きる時刻を告げている。
いつもだったら、目覚ましを止めた後もダラダラと「起きたくないなー」と布団の中でもぞもぞしているけれど、今日は違う。
目覚ましアラームを止めて、ぱっと布団から起きる。

洗濯機を回し、食洗機の食器を片付け、洗濯物をたたむ。トイレ掃除をして、廊下と階段にぞうきんをかける。麦茶を作り、朝食の準備をし、子ども達の保育園の準備も終わらせる。
……やれば、出来るものなのだな。

いつもは今日よりも1時間も遅く起きているため、全部が後手に回り、子ども達を保育園に送っていく時間までに何とか終わらせている。なのに、早起きして集中したら子どもが起きる前に終わらせられるのだな、と気付く。

「お母さーん、起きたー!」
子どもたちの声で寝室に行く。子どもを起こし、掃除機をかけ、朝食を子ども達に食べさせる。
「こぼしちゃった~」
子どもに、牛乳を机にこぼされても、今日は余裕だ。
「こぼれちゃったね。拭こうね」
と、余裕で言える。いつもだったら、こうはいかない。心の中でため息をつき「何でそんなことするのかな」と心の中で、悪態をついている。いや、心の中だけではなく、口にも出ている。でも今日は大丈夫。子どもにも優しく出来る。

ご飯を食べさせ、片づけをすませ、洗濯物を干し、着替えをさせる。そして、歯磨きをさせて、ようやく出発。
いつもだったら、部屋も汚いままイライラしながら出発するが、今日は違う。時間に余裕があったので、部屋もざっと片付けられたし、きれいだったからイライラもしない。

あぁ、すごい。やれば出来る。

いつもは、朝出来なかった家事を仕事の昼休憩の時にこなしているのだけれど、今日のお昼は出かける。
だから、昼に出来ない分、朝にどうにかしようと、普段はしない早起きをした。

今日のお昼に、私は「鮒ずしのサンドイッチ」を買いに行くのだ。
それが楽しみで、楽しみで、楽しみすぎて、早起きも1つも苦痛ではなかった。むしろ、楽しみすぎて、にやけてしまった。

「鮒ずしのサンドイッチが美味しいらしい」
そう聞いたのは、先週のことだった。ネットで検索していたら、家から20分のところに「鮒ずしのサンドイッチ」が売っているところが判明したのだ。そして、今日だったらお昼に買いに行ける!! と思い、行くことにした。

「鮒ずし」は、滋賀県の郷土料理だ。琵琶湖の固有種であるニゴロブナを塩漬けにし、更に飯で漬けた発酵食品だ。独特な発酵臭があり「気絶するほど臭い」などと言われることもある。そのため、苦手な人も多いけれど、私は大好きだ。鮒ずしをパンで挟む。それって、どんな味なのだろう。私は見たこともない「鮒ずしサンドイッチ」を想像しながら、ワクワクがとまらなかった。

お昼の休憩になると、私は急いで車を走らせて「鮒ずしのサンドイッチ」を買いに走った。琵琶湖の周りを走る「湖岸道路」を進み、1つ路地を曲がった住宅地の中にそのお店はあった。おしゃれな外装だった。

「もしかして、売り切れ!?」
お店の中のショーケースに「鮒ずしサンド」と書かれたポップはあるけれど、実物はなかった。

「すみません。この『鮒ずしサンド』って今日はないのでしょうか?」
お店の人に聞くと、
「ありますよ! 今からお作りしますよ!」
そう言ってくれたので、1つ注文した。お店の方は、鮒ずしとパンを切り分け、その場でサンドイッチを作ってくれた。
お店には、他にも、琵琶湖でとれたビワマス、すじえびの入った「琵琶湖のペスカトーレ」や、鮒ずし、えび豆、うろりなどが並んでいた。鮒ずしの飯の部分を少し入れたジェラートもあるという。えび豆や、うろりは琵琶湖でとれた魚を炊いたもので、よく売っているのを見かけるが、「琵琶湖のペスカトーレ」というものは初めて見た。それに、鮒ずしの飯を入れたジェラーとも初耳だ。

『全国発送OK』というポップがあったので、聞いてみると「琵琶湖のペスカトーレ」も
「鮒ずしサンド」も全国発送できるのだという……! なんと、全国でこの味が食べられるのか。
面白いお店だなぁと思っているうちに「鮒ずしサンド」は完成し、袋に入れて持ち帰り用にしてくれた。

「サンドイッチだと『鮒ずしが苦手でも食べられる』っていう人もいるのですよ。あと、『鮒ずしって食べたことないから、まずはサンドイッチから』って食べてみたら美味しくて、鮒ずしもお買い上げ下さる方もいるのですよ」と、お店の方は答えてくれた。なるほど、鮒ずしよりも、食べやすいようだ。

私は「鮒ずしサンド」を受け取ると、一目散に家に帰った。そして「鮒ずしサンド」を袋から出し、眺める。
見たところ、硬いバゲットに薄くスライスした鮒ずしと、やや厚みのあるチーズがサンドしてある。

4つにカットされたバゲットの1つを手に取り、口に入れる。鮒ずしの塩気が、バゲットとチーズに良くなじんで、その絶妙なバランスがなんとも美味しい……!

……美味しいことは、美味しい。でも、これって焼いたほうが美味しいような気がする。
バゲットがカリカリになったほうが美味しいような。お店にはイートインスペースもあり、オーブントースターもあった。「鮒ずしサンド」を焼くためにあったのか……?

でも、鮒ずしを焼くということに、少し躊躇する。鮒ずしは焼いたら美味しいのだろうか……。臭みが増殖されるようなことは、ないだろうか。いや、そんなことはない。「あぶりサーモン」という寿司ネタもある。このまま、オーブンで焼いてみよう。きっと美味しくなるはず……。

我が家にはトースターがなかったので、グリルに入れて「鮒ずしサンド」を焼いてみた。

バゲットが程よくこんがり焼けた「鮒ずしサンド」を、一切れつまんで、口に入れる。

……美味しい!!!!!

焼いたほうが、絶対に美味しい! 
カリッとしたバゲット、少しだけとろけているチーズ、そこに鮒ずしの塩気が絶妙に溶け出し絡み合う。美味しい!!
それは、想像を超えた美味しさだった。こんなに、チーズとバゲットと合うなんて……!!

素晴らしい!!

私は「鮒ずしサンド」の美味しさを噛みしめた。

あぁ、今日はなんていい日なのだ。こんなに美味しいものが食べられて、朝だって早く起きられたし、穏やかに効率よく過ごせた。

良い朝の迎え方。それは、ワクワクすることを用意すること。「鮒ずしサンド」を食べること。

❏ライタープロフィール
鈴木則子
結婚を機に2010年から滋賀県に住む。市民活動を支援する仕事に携わる中で、まちづくりや市民活動に熱い、面白い人たちと出会い、滋賀県が大好きになる。滋賀のよさを語りすぎて「……観光大使?」と、友達にドン引きされた経験あり。
好きな食べ物は、鮒ずし、近江牛、彦根梨。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/62637


2018-11-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.7

関連記事