週刊READING LIFE vol.7

逆転したらいつだって《週刊READING LIFE vol.7「よい朝の迎え方」》


記事:山田THX将治(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

「おなか空いたなー でも寝る前に食べると太るからなー。そうか! 寝なきゃいいのか」
もう、10数年前のことだろうか、こんなCMがTVで流れていた。語っていたのは、高校生ぐらいの女の子だ。私は何故か、このポジティブな考え方が好きで、一概に聞き流すことが出来なかった。もっとも、私の場合は夜眠くもないのに寝ないといけないという、一種の強迫観念にとらわれていたに過ぎないのだが。

朝なんて嫌いだ。
眠いからだ。

私は、物心付いた頃から典型的“朝寝坊の宵っ張り”だ。毎朝機嫌が悪く、毎晩夜明け近く迄起きている。‘ショートスリーパー’なので、決して寝不足ではない。その証拠に、8時間近く寝てしまっても、起きる時の機嫌は変わらない。むしろ、無駄に寝てしまって時間をロスした気になって後悔するばかりだ。
そればかりか、仮に十分寝たとしても起床時のテンションは上がらない。ならば、無駄に寝てしまうより、遅くまで起きていて時間を無駄にしない方が得策と思えてならない。

世をあげての健康志向の為か、‘早寝早起き’が奨励されている気がする。健康的なばかりでなく、模範的で品行方正で、今風の言葉で表現するなら‘意識高い系’の人間がよく発言する様な気がしてならない。
ここで“大きなお世話だ”と言い切ることが出来ないのが、歯痒くて仕方がない。
これでも、最低限の‘世間体’を気にしなければならない年齢になってしまったからだ。
正直なところこれまで、多量の喫煙と尋常でない夜更かしのおかげで、健康とは正反対の人生を歩んできた。よって多分、それ程の長生きは出来ないだろう。その上、今更健康に気を使ったところで、さしたる効果も望めないだろうと諦めているのも事実だ。

しかし何故に、そこまで早起きが賞賛されるのだろう。

もしかしたら、夜遊びが面白過ぎて世の中の大半が‘夜型人間’になってしまったら都合が悪くなる人が居り、それを体よく誤魔化しているのかもしれないと思ったりするのだ。
それ程までに、朝に調子が上がらない私は、理由にもならない‘陰謀説’まで持ち出したくなるのだ。

そんな夜型人間の私に、まるで救世主のような本が現れた。
1年半ほど前になるが、明治大学の齋藤孝教授が著された『夜型人間のための知的生産術』という新書だ。出版社はポプラ社。編集者は『殺し屋のマーケティング』と同じ、大塩大さんだ。これはもう、‘天狼院書店公認の本’だと信じ込み、それこそ夜更かしして、一晩で読み切った。本の帯には
「静寂が‘知’を育み、‘想像力’を醸成する。」
とあった。その上、齋藤教授自身が夜型と宣言し、湯川秀樹・デカルトなど天才は夜飛躍すると書されていた。
本の中で、齋藤教授自身が、夜型人間であったにもかかわらず、早朝の帯番組(TV)のキャスターを任された苦労と、如何にして対応していったかが、克明に書かれていた。例を挙げると、人間誰でも実力のピークを出すことが出来る時間があって、そのタイミングは人それぞれ違うということだった。そのタイミングを、一方的に強制することは多様性を否定することであるともあった。
ただし、夜型人間は少数派であってしかも褒められた存在でもない。したがって、周りの人に迷惑をかけない範囲での‘ピークのずれ’を留めなければならないともあった。

『夜型人間の知的生産術』によると、夜型人間は少数派であるが、朝にいきなりのピークを持ってくることが出来る人も、決して多数派とはいえないそうだ。
ならば、何を根拠に‘早起き’した・出来た朝に、‘良い朝’の感覚があるのだろう。
これは多分、朝に必要以下しかピークを出せなかった‘夜型人間’の“後ろめたさ”から来るものかもしれない。
実際、ビジネスの世界では、大半のカリスマ経営者が‘朝型人間’として知られている。そればかりか、朝型でないと出世できないかとの風潮もある。しかしこれは、多くの人間が関わるビジネスの世界での話しだ。個人プレイで処理出来る、クリエーターや職人の世界なら問題ないはずだ。

だからここで、一つの提案をしてみたい。
“朝型”を強要することなく、‘せめてピークを迷惑かけない程度’にと言い換えてもらいたい。夜型人間は、どんな朝でも眠いのです。何時間寝ようと、朝は弱いのです。
だからといって、眠く生産性が上がらなくとも決して“悪い朝”ではないのです。朝は毎日、誰にでも平等に訪れます。たとえ眠くとも夜型人間にとって、それが毎日訪れる“良い朝”なのです。

どうか、眠そうにしている夜型人間の朝を、“悪い朝”と決め付けないで下さい。
そうすることが、我々夜型人間にとっての“良い朝の迎え方”なのです。

そのために必ず、一日の内どこかで、朝型人間に負けないピークを持ってきますから。

朝型の人に、夜遅くにピークを求めても苦痛でしょう。
同じ様に、昼夜逆転すればいつだって、夜型人間は毎日“良い朝”を迎えるていると同じことなのですから。

❏ライタープロフィール
山田THX将治( 山田 将治 (Shoji Thx Yamada))
1959年、東京生まれ東京育ち 食品会社代表取締役
幼少の頃からの映画狂 現在までの映画観賞本数15,000余
映画解説者・淀川長治師が開設した「東京映画友の会」の事務局を40年にわたり勤め続けている 自称、淀川最後の直弟子
これまで、雑誌やTVに映画紹介記事を寄稿
ミドルネーム「THX」は、ジョージ・ルーカス(『スター・ウォーズ』)監督の処女作『THX-1138』からきている
本格的ライティングは、天狼院に通いだしてから学ぶ いわば、「50の手習い」
映画の他に、海外スポーツ・車・ファッションに一家言あり

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2018-11-19 | Posted in 週刊READING LIFE vol.7

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