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週刊READING LIFE vol.8

食べること専門の私が、キッチンスタッフになってみた!《週刊READING LIFE vol.8「○○な私が(僕が)、○○してみた!」》


記事:みずさわともみ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

「おらっ! ただで戻ってくるんじゃねぇ!!」
また、怒られた。
社員さんは、常にいらだっていた。
私の要領がわるいのと、次々とやってくるお客さんのせいだ。
私は、ある飲食店でバイトを始めた。中華料理が好きなのと、お店が家から近い場所にあるというのが理由だった。
人手が足りていないらしく、面接に行くとわりと簡単な質問だけで採用になった。
あとで店長に聞くと、
「O型でしょ? ぼくがA型だから、AとOは採用!!」
と言った。
ん? 履歴書に血液型も書いてあったっけ? A型とO型は相性がいいの?
疑問はあったが、とりあえず採用になったのはありがたかった。家からいかに職場が近いか、というのは、とっても重要だった。時間のロスが減るからだ。少しでも長く、眠れるからだ。けれど、飲食店というのはそういうものなのか、社員さんの人数は3人、あとはバイトスタッフでシフトを回すという、なかなかのハードな状況だった。
こういうのって、休みたいときどうするんだろ?
店長に聞くと、
「あっ、誰も都合がつかないときは出るよ、ぼく」
と、当たり前のように言った。だから、お盆とかお正月とか、学生さんが実家に帰りますなんてときは、社員さんはおそろしい時間の残業をしていた。
厨房で汗だくになって、夏は体重がどんどん落ちるという。
そんなところに、私はキッチンスタッフとして入った。

それまでの私は、ほとんど、料理をやろうとしていなかった。
たしかに、大学に通っていた頃は、多少はフライパンやら鍋やらをさわってはいた。けれど、
「学業優先!!」
という、すべての言い訳をも上回る無敵のワードを使って、料理をすることから逃れた。
私には、料理することではなく、食べることが向いている。
そんなことを、堂々と言っていた。
でも仕事を探すとなったとき、どうせ働くなら自分の好きなものに関わるのがいい、と思った。
私は、ラーメンとかぎょうざとか、これは中華料理なんだろうか? という、日本寄りの中華料理? が好きだ。炭水化物の王様はお米だと思うし大好きだけど、麺類ならラーメン、そして中華まんもとっても好きなのだ。
だから、中華料理のお店なら、きっと楽しく働けるんじゃないかな、と思った。
けれど、困ったことがあった。
私にはホールスタッフは無理なんじゃないか? ということだ。人と話すのが、苦手だったからだ。
絶対に緊張して、挙動不審になって、失敗して、イライラされて大変なことになる!!
そう思うと、キッチンスタッフになるしか道は無かった。
「キッチンで!! お願いします!!」
と言うと店長は、
「女子でキッチンも、まぁ前にもいたから大丈夫でしょ?」
と言った。
けれど、ここは、なかなかの戦場だつた。
来店があり、ホールの人が何名の来店か声かけしてくれ、オーダーを受けに行く。注文が入ると、そこからは、カウントダウンが始まるのだ。
商品提供には、時間が決まっていた。リミットがあった。オーダーから、この時間までには商品の提供を終えるように、というのが決まっていた。だから、私たちはそのピピーッとオーダーレシートの出る音を、戦いの開始音のように感じていた。
オーダー開始も提供終了も、フロアスタッフにそのボタンがゆだねられていた。
各場所に置いてあるストップウォッチを押す。それらが私の戦いをサポートしてくれるのだ。そして、商品の提供を終えると、合格・不合格を知らせる音が鳴る。
いかに効率よく、でもていねいに、料理を作っていくかが常に、試されるのだ。

私は、深夜のバイトスタッフだった。
だから、仕事に入ってすぐの時間帯はキッチンは2人、ホール数人ということもあるのだけれど、遅い時間になるにつれて、他のスタッフは帰って行った。
ホールに1人、キッチンに1人。
「4名様ご来店です!」
4名様かぁ~。できれば、簡単な料理にして!! ラーメンとか、チャーハンとか、鶏のからあげとか!!
そう願ったところで、注文はお客様の気分次第。
前菜から何から、1人1人ちがうメニューが選ばれることは当たり前のことだ。
「えっ? お前ラーメン? じゃ、俺も!」
的なやり取りをしてくれ!!
なんて私が思っているとはまさか、誰も思わないだろう。
こうして私は、サラダを作るところ、揚げ物・ぎょうざ・蒸し物を作るところ、鍋で料理を作るところを行ったり来たりしつつ、洗い物が増えればそれもやり、昼間は数人いるはずのスペースを広いなあと感じつつ働いた。
鉄鍋は重かった。腕は痛くなった。
けれどそんなバイトの達成感は、めちゃくちゃあった。
やった。今日もなんとかやりきった!!
と、ぐっすり眠れるのだった。
今日も私の料理を、おいしく食べてくれたかな。
そんな風に、考えながら眠るのだった。

このバイトを通して学んだこと。
それは、料理を作ってもらうよろこびだけでなく、提供したことでお客様に満足してもらうことのよろこび。
食べることが専門なはずの私が、こんなに作ることを楽しめるとは、思ってもみなかった。
「ありがとう」「ごちそうさま」
が、こんなにうれしいとは、思ってもみなかった。だから母は、「ごはん、おいしいね」って言うとあんなにうれしそうだったんだな、と思った。あたえてもらうことだけがうれしいことではない、と知った。
そして、ほかにも勉強になったのが、時間の使い方への意識だ。
バイト先では、無駄に動くことを、とにかく注意された。何も手に持たずに移動する、とか、料理を作る合間にボーッとするとか、あり得ない。
そんなことをしていようものなら、超体育会系の社員さんから
「殺すぞ」
の一言だ。
聞きようによってはパワハラ? とかになるのかもしれないが、それまでいかに自分が時間を無駄に使っていたか、何も考えずに動いていたかがよくわかった。
それは、別の業種である今の職場で働いていても感じることだ。
ついつい昔のくせで、
「これ、何の時間ですか? ほかのこと、やってもいいですか?」
と上司に聞いてしまいそうになる。
目的を持って動かないと、あっという間に時間は過ぎる。だから、これをやりつつあれをやる、って、いろんなことを並行してやっていく。でも、これも練習次第だ。
なにせこの飲食店のバイトで、どんくさい私にすらできたんだから。
意識の問題でしかないんだと思う。

自分が作ったもので、それを手にした人がどんな顔をするか、想像する。そしてそれを、制限された時間の中で行う。
好きなものの近くに、と単純に思った。
けれど、このことから得られたものは、想像以上に大きかった。

1日というものが24時間なことは誰にとっても変わらない。けれど、その1日が、あとどれだけ自分に許されているのか、というのは人によって違う。
だから、時間は大切だ。
なるべくなら好きなことに。
そして、自分が作ったものを手にした人がどんな顔をするか想像したくなるものに。
そういうものに、私は時間を費やしていきたい。

❏ライタープロフィール
みずさわともみ
新潟県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、自分探しのため上京し、現在は音楽スクールで学びつつシンガーソングライターを目指す。
2018年1月よりセルフコーチングのため原田メソッドを学び、同年6月より歌詞を書くヒントを得ようと天狼院書店ライティング・ゼミを受講。同年9月よりライターズ倶楽部に参加。
趣味は邦画・洋楽の観賞と人間観察。おもしろそうなもの・人が好きなため、散財してしまうことが欠点。
好きな言葉は「明日やろうはバカヤロウ」。

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2018-11-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.8

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